01 仕事帰り、最寄り駅前は雨
階段を下りて、傘を開く。ネクタイが、風に揺れる。
夜の駅前は、やけに暗かった。
ドラッグストアは、二軒とも午後十時までで、とっくに閉まっており、それは予想していたが、
(おお、マックも閉まってるぜ)
駅の出口、真っ正面のハンバーガーショップすらも、既に明かりが消えていたのだ。たしか、平日は、十一時まで開いていたはず。
(ってことは、少なくとも、今、十一時は過ぎてるのか)
龍輝は、腕時計を見ようとしたけれど、雨が、背広の袖口をどんどん濡らしてきて、
(うわっ、面倒くさいな。やめた)
早々に、時計を見る努力は放棄した。文字盤は、袖の内側にすっぽり隠れている。
かすかに、焼き鳥の匂い。通りの奥の、居酒屋チェーンであろうか。
(遅くまで、残業し過ぎたな。雨も強まってきたし。やれやれ)
暗さの中、やけに目立つ四角い光。信号機である。数秒後、赤から青に変わる。
傘を差したまま横断歩道を渡ったら、ふと、制服の女子高生が一人、目の前を歩いていることに気付いた。
こんな深夜に、きゃしゃな少女が単独――。
(危ないなあ)
とも思ったが、それより気がかりなことは、
(あれっ、この子、傘、差してないや。大丈夫かよ)
街灯に照らされた後頭部。長い黒髪は雨に濡れていて、セーラー服のカラーに、べったりと海藻みたいに張り付いている。
視線を下げたら、スカートも雨水を吸って固まり、太ももに密着状態で、短パンみたいになっている。
ぼそっと、口の中で、
「風邪、引くぞ」
ひそかな龍輝のつぶやきに、横から強風がかぶさる。
「っと」
よけるために、傘の先を、突風の方へ向けた時、
チリーン
前を行く女子高生の右肩で、鈴の音が響いた。
それを聞いた龍輝は、
「あっ!」
小さく、驚きの声を上げる。風雨がなかったら、この少女の耳にも、届いていたかもしれない。
今のは、少女のカバンに付けられた鈴が鳴ったのだ。大きめの、とがった青い鈴。
「――」
龍輝には、この鈴の外見にも、音にも、見覚え・聞き覚えがあった。平日、毎朝のバスにて。
そう、
(――この女子高生、いつも、朝の出勤の時にバスで会ってる子だ)
無論、話したことなど一切ない。少女も車内では一人でいるため、声すら聞いたことはない。
とはいえ、通りすがりの見知らぬ女子高生よりは、親近感も湧くのが人情というもの。
まいて、かなりの美少女なのである。もし、龍輝の高校時代、この少女がクラスメイトにいたなら、たちまち好きになっていたに違いない。
もっとも、親近感があるからといって、
(こんな路上で、今、声をかけるわけにも、いかんよなあ。悪いけど、やり過ごそう。この子が、どんどん先へ行って、見えなくなるのを待とう)
龍輝は、歩く速度を落とした。黒い革靴の裏で、細かな水滴がピチャッと跳ねた。




