第1話 最終決戦とプロポーズ
「来よったか」
コート地方。
アウサカ湾上空。
空中晩餐要塞シタデル・ビュッフェ最上層、スカイバンケットホール。
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【テラモン図鑑】
テンマオー(炎馬テラモン)
エア・ファイア属性
高さ: 2.4 m 重さ: 480 kg
天翔る炎の馬
戦国で天魔王と呼ばれた
武将が愛したという
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紅蓮の炎を纏って空を駆ける馬形モンスター、テンマオー(レベル150)を駆り乗り込んだ主人公、最内モカを出迎えたのは、コックコートの上に実験用白衣を羽織った、いかにも裏のありそうな風情の糸目の青年だった。
「……たこ焼きのお兄さん?」
モカは目を瞬かせる。
13歳、ピンクに近い赤毛。
深い紫色の瞳は光の具合によって赤いようにも青いようにも見えた。
声の質はダウナー、マイペース寄り。
全体的に見ると不思議系寄りの美少女である。
「うん、そこでボケ挟むのは嫌いやない。そっちは世を忍ぶ仮の姿や。美食結社ブリガード・ド・キュイジーヌ総料理長。コードネームはレギュレーター。世界給食化計画の実行責任者や。御託が必要なら色々滔々と語ったってもええけど聞く気ある?」
「……いい、かな」
モカは小さく首を振る。
「せやろな。ずっと見とったけどそういう子や君は……って、ここは気持ち悪がるとこやでー。まんざらでもない顔されるとこっちも困るでー。ま、ええわ、はじめよか。僕と君との最終決戦や」
レギュレーターはベルトに引っ掛けていた金属ボトルのキャップを外し、前方に向ける。
ボトルから吹き出した光の粒子が3つの頭を持つ白猫型のモンスターに変わった。
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【テラモン図鑑】
シュレベロス(量子猫テラモン)
サイバー属性
高さ: 1.3 m 重さ: 0~95 kg
不定形の情報生命体が
人間の観測によって猫の姿に
安定したもの
観測のたびに頭の数が違って見える
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対するモカもボトルを出し、空飛ぶシャチのモンスターを繰り出した。
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【テラモン図鑑】
オルキャノン(海神テラモン)
アクア・デストロイ属性
全長: 7.2 m 重さ: 2,800 kg
準神話級テラモン
荒ぶる海の闘神。
武装は時代に合わせて変化する
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「〈フルバースト〉」
先手はモカのオルキャノン(レベル130)
全身から軍艦めいた砲塔がいくつも突き出し、砲撃を開始する。
「いきなり派手やな。せやけど、そっちは〈量子残像〉や」
光の弾幕に呑まれたシュレベロス(レベル190)がオルキャノンの頭上に瞬間移動する。
「〈サンダーストラック〉!」
3つの口から3本の稲妻を放ってオルキャノンの背中に叩き込む。
「オルッ!」
「……〈スパイラルファング〉」
苦悶の声をあげたオルキャノンだが、モカの指示に従い、シュレベロスに食らいつく。
猛然と体をひねる。
三つ首猫を振り回し、三つの頭をまとめて周囲のテーブル、そして床に叩きつけてノックアウトする。
「うん、さすがやな。せやけど、初手からダメージ受けすぎと違うか?」
レギュレーターはシュレベロスをボトルに回収した。
新たなボトルからモンスターを解放する。
「出番や、ビーハチ」
「ビビビビビビビ!」
現れたのは背中に8基のエンジンシリンダー、8本のエンジンマフラーを生やしたハチ型モンスター、ビーハチ(レベル180)
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【テラモン図鑑】
ビーハチ(8気筒テラモン)
メタル・スピード属性
全長: 1.9 m 重さ: 210 kg
余裕のパワーを誇る
8気筒のエンジン蜂テラモン。
一部地域で神のように崇められていた。
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「ありがとう。オルキャノン、戻って」
モカも新しいボトルを出し、モンスターを入れ替える。
「ロンユイロン」
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【テラモン図鑑】
ロンユイロン(龍魚テラモン)
アクア・サンダー属性
全長: 4.8 m 重さ: 620 kg
大瀑布を登りきったハネコイが
龍のような大魚になった。
小さくて激烈な台風と恐れられる。
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「ええで、おもろなってきたやないか」
「〈電撃作戦〉」
電撃、爆炎、暴風、豪雨、催眠音波が閃き、轟き、荒れ狂い、飛び交う激闘。
その果てに――。
「きゅう……」
主人公、最内モカは力尽きた。
「勝ったぁっ!」
「さすが料理長!」
「給食の時来たれり!」
「ヒソ(……勝ってよかったのか?)」
「BDC! BDC! BDC! BDC!」
「ヒソヒソ(予定と違うんじゃ……?)」
ブルブルブル。
どこかからスマホの振動音。
「ヒソヒソヒソ(料理長から指示が来た。プランB。お土産を忘れるな)」
「しまいやな」
レギュレータは白衣を翻す。
「……と思ったけどな。もう少しおもろいデータが取れそうや。地上に帰したり」
「はっ」
調理服姿の悪の組織ブリガード・ド・キュイジーヌの構成員たちが少女に群がり担架に乗せる。
さらに――。
「くくくくくく、敗者のテラモンはオレたちの料理の実験台になってもらうぜぇ」
「かわいそうになぁ、敗北の味が忘れられなくなっちまうなぁ」
「あまりの辛さに毛並みがよくなっちまうかもなぁ」
「ひゃははははは! どうだァ、歯磨き粉の味のするアイスクリームはうめえかァ? うめぇよなァ……」
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【アイテム図鑑】
デラックステラモンサンド
食べるとHPとスキルポイントが
全て回復する。
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【アイテム図鑑】
激辛スパイスカレーパン
食べるとステータスの基礎数値が
2~3アップする。
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【アイテム図鑑】
絶品チョコミント
食べるとテラモンのレベルの上限が
5アップする。
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モカのモンスターたちのボトルを治療ボックスに入れてからリリース。
サンドイッチやカレーパン、アイスクリームなどを与え、再びボトルに戻した構成員たちはモカとボトルをセットで地上へ戻し、空中晩餐要塞シタデル・ビュッフェへと帰還した。
「プランB、実行完了です」
禁断の食材の一つであるパーフェクトアップルを超高級食材のサンゼン豚と合わせてソテーするレギュレーターに、副料理長が報告を入れる。
「おつかれさん。ほな、また明日やな。すまんけど皆、また一日頑張ってもろてええか」
「はっ……ヒソヒソ(そろそろ料理長が直接手をお下しになられてもよいのでは?)」
「ヒソヒソ(主役はあくまでモカちゃんやからなぁ、もうちょっとだけ辛抱してくれへんか)」
「ヒソヒソ(今のモカちゃんでもオーナー相手なら瞬殺なのでは? アバルラウンドのレベルは80でしょう?)」
「ヒソヒソ(最後はきちんと負けてやらんとな。伸びしろはちゃんとあるんやし)」
「ヒソヒソ(この時点でオーナーより遥かに危険な存在になっていると思いますが……?)」
「ヒソヒソ(そこは否定でけんかもなぁ……)」
苦笑したレギュレーターは、脂の音を立てるパーフェクトアップルとサンゼン豚のソテーを皿に盛り、ボトルから出したモンスターたちに振る舞った。
テラリウムモンスター。
その内部に自然環境を縮小し再現したボトルに収められ、人間のパートナーとなったモンスター。
略称はテラモン。
レギュレーターが総料理長を務める美食結社ブリガード・ド・キュイジーヌ。通称ブリキュ団は食による世界支配を企み、各地で希少食材を強奪、独占したり、上流階級の人間たちを美食で洗脳したり、テラモンを勝手に餌付けしたりする悪の組織である。
そして不思議な因縁からブリキュ団の野望に立ち向かうことになった主人公、最内モカがレギュレーターとの決戦に勝利したのは、かれこれ7戦目。
最初のシタデル・ビュッフェ突入から一週間後のことだった。
「ここまでやな。うん、ええデータが取れたわ」
切り札である準神話級人造テラモン、ユークリブリウム(レベル255)をモカのオルキャノン(レベル220)、ワラニン(レベル230)の連続攻撃で撃墜された悪役レギュレーターは満足げに笑い、大の字になって倒れた。
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【テラモン図鑑】
ユークリブリウム(平衡・均衡テラモン)
ライト・ダーク属性
直径: 2.6 m 重さ: 1,200 kg
科学と錬金術をバランス良く
組み合わせて作られた人造テラモン。
それ以外は謎。
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【テラモン図鑑】
ワラニン(呪忍テラモン)
ダーク・カース属性
身長: 1.8 m 重さ: 58 kg
背中に背負った大ワラ手裏剣は
手裏剣としてもワラ人形としても
使えるすぐれもの
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直接攻撃を受けた訳では無いが、使役するテラモンが倒れるたびに意識に負荷がかかる。
超一流のテラモン使いでも、6体やられたら立ってはいられなくなる。
ゆっくりと歩いてきたモカが、レギュレーターの顔の近くでしゃがみこむ。
「あっちのたこ焼きとボトル、持ってってええで。気づいとるかどうか知らへんけど、ブリガード・ド・キュイジーヌにはもうひとり上、オーナーがおる。そいつをなんとかせんと、この騒ぎは終わらへん」
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【アイテム図鑑】
極上のたこ焼き
1パック10個入り。
パーティー内のテラモンのHP、スキルポイントが
全回復する。
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【アイテム図鑑】
マイソロジーボトル
神話級モンスターにも対応する究極のボトル
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「……」
モカは返事をせず、なぜか静かに正座をした。
「……どないした? はよ行きや」
レギュレータが促すと。
モカはまっすぐな目で「お話があります」と告げた。
「何の話や?」
相手が正座をしてしまったのでレギュレータも身を起こす。
モカは曇りのない表情、淡々とした口調で告げる。
「結婚してください」
「なんでやねん!?」
思わず大きな声が出た。
「あなたの作ったおみそ汁が呑みたいです」
モカは瞬きひとつせず続ける。
「何時の時代のプロポーズや!」
「指輪はいりません。イカリングでいいです」
「ええわけあるかい!」
ヒソヒソ……。
構成員たちがささやきあう。
「ヒソ(ここで来たか)」
「ヒソヒソ(今を逃すと接点が無くなるからな)」
「ヒソヒソヒソ(さすがの勝負感)」
「ヒソヒソヒソヒソ(料理長が見込んだだけのことはある)」
「仕事はやめなくていいです」
「いや普通に辞める気満々なんやけど」
「世界の半分なら給食にしていいです」
「軽率に世界を売ったらあかんでー」
モカは真顔のまま、じっと糸目を覗き込む。
「……赤ちゃんができました」
「ヒソ!?(料理長!?)」
「ヒソ!(まさか! そんな!)」
「ヒソ(いくら悪の組織のボスでもそれは……!)」
「ちょ、ちょお待てやっ! なんもしてへん! なんもしとらんで僕はっ!」
悲鳴をあげるレギュレータ。
モカは手持ちのボトルのひとつを操作し、一つの卵を取り出した。
「私のテンマオーが産んだ卵です。テラモンセンターで調べてもらったら、相手はシュレベロスでした。ユニークモンスターですよね、シュレベロス」
「……せやな」
「いつ仲良くなったんでしょうか」
「……そういう時期なんやろ」
「バトル相手同士で卵ができるのは、お互いのテラモンが、自分のリーダーが相手のリーダーと仲がいいと思っているときだけです。つまり、レギュレーターさんは私のことは嫌いじゃありません」
「間違ってへんけど、それはあくまでテラモンリーダーとして面白いって話や。そもそも君まだ13やろ」
「5年後の結婚を前提にお付き合いを」
「せやから早まるんやない! 僕は今年で25や! 5年経ったら30やぞ!」
「守備範囲内です」
モカは動じない。
紫の瞳がやたらと澄んでいる。
「……とりあえず、今は何言うても無駄やってことはわかった」
「ありがとうございます。不束者ですが」
「そこまで理解を示したつもりはあらへん。まぁ、気持ちそのものは嬉しいわ……結婚云々は置いといて、ええ加減たこ焼き食うてボトル持って先に進んでくれへんか? そろそろオーナーが動き出す頃や」
「オーナー?」
「さっき言うたやろ、僕よりもっと上の人間がおるって。ブリガード・ド・キュイジーヌのオーナーや。僕は料理長やけど、雇われや。僕を止めても世界給食化計画はとまらん。僕らの世界給食化計画は世界中の人間とテラモンに給食食わして食料選択の自由を奪うだけやけど、オーナーの真の狙いは世界中の人間とテラモンの食欲をコントロールして世界を完全征服することや。さすがに真面目に止めへんとあかんで」
「そうなんですか」
「あんまりわかってへん顔やな。給食化計画止めに来たんとちゃうんか君は」
「呼ばれただけです。ここにいるテラモンに」
「せやったな。君はそういうキャラやった。まぁ、それでええ。君を呼んどるアバルラウンドは、オーナーの世界給食化計画のキモみたいなもんや。アバルラウンドをオーナーから救うことができれば、世界給食化計画もおしまいや」
「止めてしまっていいんですか? レギュレーターさん的には」
「僕はマッドサイエンティストでマッドシェフや。計画そのものより、計画の過程の副次的なデータのほうが重要やった。神話級の食材使い放題やったし。このまま計画が発動しても、大しておもろいこともなさそうやし、そろそろ潮時や」
「わかりました。レギュレーターさんがいいなら、止めてきます。ここで待っていてください……行こう、みんな」
モカは炎馬テラモンのテンマオー(レベル240)、黒犬テラモンのナイトワンダー(レベル210)、木彫り鶏テラモンのボッケイジン(レベル220)、呪忍テラモンのワラニン(レベル235)、龍魚テラモンのロンユイロン(レベル220)、海神テラモンのオルキャノン(レベル230)にレギュレータのたこ焼きを食べさせ、回復させる。
そして真のラスボスであるブリキュ団のオーナー、マスターグレインと、神話級円卓テラモン、アバルラウンド(レベル80)が待つ空中晩餐要塞シタデル・ビュッフェの中枢部に向かっていった。
「気ぃつけてなー」
手をあげてモカを見送ったレギュレーターは、副料理長に目を向ける。
「ほな、すまんけど、あとのことは任せて退散させてもらうで」
「モカちゃんへの返事はどうするんですか?」
「アカンやろ、普通に犯罪や。縁があったらまたとだけ伝えておいてんか。あと、オーナーの自爆コードをロック……」
そこまで言いかけたところで。
ドゴゥンッ!
強烈な衝撃がシタデル・ビュッフェを揺るがし、不穏なサイレン音が鳴り響いた。
『オーナー権限により、シタデル・ビュッフェ自爆コードが入力されました。本要塞はこれより180秒後に爆散いたします』
「ちょ、ちょおまて! いくらなんでも諦め早すぎやろっ!」
「モカちゃんの平均テラモンレベルをあげすぎたんです! オーナーのアバルラウンドでは一撃です!」
「しゃあない全員退避や! すまんけど指示はまかすで! ボクはモカちゃん拾って離脱する! 心配あらへんとは思うけどさすがに無視でけん!」
「わかりました。お気をつけて、お幸せににっ!」
「そっちの犯罪は守備範囲外や! 行くでシュレベロス!」
「しゅれにゃっ!」
今回は頭一つで姿を現した量子猫の背中に飛び乗り、不穏な振動を繰り返す要塞内を疾駆。シタデル・ビュッフェ中枢部に到達する。
神話級テラモン、アバルラウンドをとらえていた電磁ケージは空。
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【テラモン図鑑】
アバルラウンド(円卓テラモン)
ライト・アース属性
直径: 5.5 m
重さ: 1,100 kg
神話級テラモン。
古の英雄王とその騎士たちが座った円卓。
主に偉大な王国を授けるという。
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神話級テラモンの一角ではあったのだが、一撃で撃沈、捕獲されたのだろう、部屋の損傷は床をえぐったクレーターひとつだけだった。
こじ開けられた隠し通路に飛び込むと、脱出艇用のハッチの前にモカ、それと拘束されたブリキュ団のオーナーの姿があった。
「レギュレーターさん!」
モカは顔をほころばせ、オーナーはもがいている。
ブリガード・デ・キュイジーヌの創設者にしてオーナー、マスターグレイン。
白いスーツの胸元に黄金の麦穂のエンブレムを付けた、風格のある大男だ。
それを捕まえているのは呪術忍者ワラニンのワラ手裏剣である。
直径一メートルの星型のワラ細工だが、ワラニンの呪力でブーメランや操り人形のようにコントロールできる。
マスターグレインをガッチリ組み伏せ、抵抗を許さなかった。
「ごめんなさい。なにか、失敗しちゃったみたいで」
「いや、完全にこっちのミスや。君とオーナーのバトルが始まるまえに自爆コードの受付ブロックしとくつもりやったんやけど、タイミングの見積もりを盛大にミスっとった。まぁ、カバーできんこともない。まずは脱出するで」
取り急ぎマスターグレインを脱出艇に放り込み、手動操作で要塞外に出す。脱出艇が出ると脱出用のハッチも開くので、飛行・騎乗可能テラモンのテンマオー、カグツチノコ(レベル230)に騎乗してシタデル・ビュッフェを脱出する。
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【テラモン図鑑】
カグツチノコ(炎毒蛇テラモン)
ファイア・ポイズン属性
直径: 5.0 m
重さ: 666kg
わざわいの炎を放つ大蛇の末裔。
良く飛び、良くはね、良く転がる。
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『ブリガード・ド・キュイジーヌ全構成員、シタデル・ビュッフェからの脱出完了』
スマホに副料理長からのメッセージが入る。
「ほな、後始末といこか。もうひとしごとや、ユークリブリウム」
カグツチノコの背中から、準神話級人造テラモン、ユークリブリウムをリリースする。
天文台のドームを思わせる白と黒の半球型構造物を二つ組み合わせた、無機質な球形テラモン。
周囲には天体のリングを思わせる金属のリングが3本、回転しながら浮いている。
そのうち1本のリングが飛んで、モノクルのような形でレギュレーターの目元に収まった。
「〈分析〉」
ユークリブリウム各部のハッチが展開、古典的な光学望遠鏡、パラボラ式の電波望遠鏡に似た観測装置が突き出し、カウントダウンの進むシタデル・ビュッフェ内のエネルギーの動きを読み取り、そのデータをモノクルリングに投影していく。
残りのカウントは約10秒。
シタデル・ビュッフェが浮かぶのはアウサカ湾上空。
さすがに船舶は航行していないが、爆砕させ墜落させるとあとの始末が厄介だ。
「粒子転移核〈投射〉」
観測装置が収納され、ユークリブリウムは白と黒の半球へと分離する。
二つの半球の間に小さなブラックホールを思わせる漆黒の球体が生じた。
漆黒の球体はそのまま音もなく消え失せる。
正確にいえば音より速く、人やテラモンに認識できない速度で移動。
シタデル・ビュッフェの外壁、隔壁を透過し、暴走状態となり、大爆発を起こそうとしていた16基の光子エネルギー炉を全て通り抜けていた。
カウント・ゼロ。
しかし、何も起こらない。
「あれ……?」
「ユークリブリウムの能力で光子エネルギー炉内の光子の位置をずらして内圧を落とした。風船が破裂する前に空気をワープさせて抜いた感じやな」
「光子って外に出してもいいんだっけ……?」
「あんまり濃いとあかんな。せやけど、大爆発させて壊れた炉心が海に落っこちるよりはましや。オーナーもいなくなったし、あとはどうとでもなる。シュレベロス」
「しゅれにゃ」
ハッキング、クラッキング能力に優れた量子猫テラモン、シュレベロスを放ってシステムに侵入。
光子自爆コードを解除し、不時着用の緊急停止モードに移行。
シタデル・ビュッフェを降下、着水させた後、全ての炉心を停止させた。
かくして悪の組織ブリキュ団こと美食結社ブリガード・ド・キュイジーヌの野望は潰え、オーナーのマスターグレイン、料理長レギュレーターをはじめとする構成員は国際テラモン保護及び犯罪捜査機関エアロによって拘束された。
そして5年後。
料理長レギュレーターと呼ばれたその男は【最内ショウ】と名前を変えていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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