Mっ気令嬢は断罪される
初投稿です。よろしくお願いします。
かなりゆるふわ設定です。
R15は念の為です。
煌びやかなシャンデリアの輝く王立学園ルーザーの大ホールには多くの貴族の子どもたちが集い、最上級生の卒業の式典を盛り上げていた。
そして今まさに卒業パーティーが始まろうとしていた時だった。それを制止する声に皆一斉に動きを止める。
壇上にはこの学園で二年に在籍している王太子のオリヴァーとクラスメイトで聖女のキャロルが、ホール中央にいる同じくクラスメイトで王太子の婚約者である私に複雑な表情を向けている。
あぁ、これが最近大衆小説や舞台で流行ってる婚約破棄劇場というものなのね。
いよいよ私にも来たのかしら?
何だかちょっと背筋がゾクゾクして胸が痛むようなトキメくような不思議な感覚に陥りながら、後方を向いていた私は二人の方に向き直る。
貴族の令嬢や令息たちが私を遠巻きに取り囲むように立ち、チラリチラリとこちらに視線をおくりながら密やかに噂話に花を咲かせている。
「アシュリー・シェフィールド公爵令嬢!」
オリヴァーの声が高らかにホールに響き渡る。
「君と私の婚約は今日を以て破棄する事となった!」
やっぱりね〜。
そう思いながらも、少し疑問を感じて首を傾げる。
いつも私に「好きだ」とか「愛してる」とか言って抱きしめてくる王太子は、今日はそんな態度を微塵も見せず、私に婚約破棄を突きつけてくる。つい昨日も何だかすごい甘い言葉を吐いていた気がしたけど急にどうしたのかしら?
よくよく二人の話を聞いてみると、私が平民出身の聖女キャロル様を虐げた事が原因らしい。
え?全く心当たりがないけど。
あぁ、でもそういえば一・二回注意した事があったかしら。学園内で婚約者のいる令息に色目を使ったり、待ち伏せしていたりすると相談されて確認と注意をした事があった。
どうやらそれを、虐げられたと感じたようだ。
でもそれを大袈裟に捉えて王太子に泣きつくなんて。
私はそこでため息をついた。
だってこんな事でキャロル様の言っている事を鵜呑みにして、事実確認もせず私に婚約破棄を突きつけてくるなんて。王太子としての資質に欠けているんじゃあありません?
かと言って、私自身この状況を辛いとか悲しいとかも思っていなくて。
昨日までのデロ甘な彼が、意外にもあっさり婚約破棄を突きつけてきた事に少し身震いがした。
ジワジワと胸の熱さを感じてすごく興奮しているのが分かる。
そう言えば、昨日彼はこんな事も言ってたっけ?
「本当の君を私は知ってしまったかも知れない」
私に聞こえるか聞こえないか分からないくらいの小さな声で耳元に囁いてきた。
自室で抱きしめられながらそんなこと言われてしまったら、普通ならキュンってなるところなんだろうけど。
私はそうならない。
でも……本当の私、とは……?
「今は秘密だ。……楽しみにしていて。君がとても悦ぶコト、私がしてあげるから」
彼はそう言って最後までは話してくれなかった。
――で、これが私の悦ぶコトだったのかしら?
思考がそこまでいったところで、王太子の言葉で再び現実に引き戻される。
「聖女は国の宝だ。その聖女を蔑ろにした君の罪は重い。君との婚約を私は破棄し、君を静寂の塔に五年間幽閉する」
パーティーに参加していた学生たちは一層ざわめいた。
それはそうだろう。公爵令嬢である私の有責で婚約が破棄され、しかも王城の敷地内の塔に閉じ込めるというのだから。
……閉じ込めて……どうするのかしら?
ふとした疑問に再び不思議な感覚に襲われる。ジクリジクリと胸が痛むような、でも自然と頬は緩んでしまうこの感じ。
その自分の感覚を一つひとつ丁寧に探っていく。
これは……。
そう思ったところでキャロル様が口を開いた。
「本当に良かったですわね、オリヴァー様。これでオリヴァー様もアシュリー様から自由になれましたし、辛い思いをした私も報われますわ」
キャロル様は勢い良くオリヴァーの腕に抱きつき、大して大きくない胸を無理やり押し付ける。彼女の声色は一際弾んでいた。
オリヴァーはそんな彼女を愛おしそうに見つめ微笑み掛けている、ように私からは見えた。
たぶんこれは……悋気……ね。
私キャロル様に嫉妬しているんだわ。
彼女に微笑み掛けるオリヴァーを見ていると、やはり胸が痛むのだが、辛い訳ではない。
寧ろ…………嬉し……ん?
私……嫉妬しているはずなのに……悦んでる?
え?でもこれの事よね?
オリヴァーが言っていたのは。
動揺に恐れ慄く。
静寂の塔に五年閉じ込められるという事は、塔の外に出る事は勿論、両親や兄に会う事も出来ないという事だ。
この塔は王城の敷地内にある為、出入り出来るのは王族とその護衛官のみだ。
五年もの間、家族に会えないなんて……悲しいけど……虐げられてる感が…………やっぱり心地良い。
私の胸がドキドキし過ぎてキュウゥッと締まる。呼吸すらもしづらくなってハクハクと程よい息苦しさに私は心を躍らせた。
あぁ……終わらないで欲しい。
オリヴァーに責められているこの時間が愛おしい。
ずっと……ずっと続けばいいのに……。
気がつくと私はこの時間が永遠に続く事を願っていた。
だからオリヴァーの言う事を特に否定する事もせず、私は塔に幽閉された。
この断罪劇の顛末を私は詳しく知る事なくこの後五年……ではなく一週間程静寂の塔で送る事となったのだ。
その間に聖女キャロル様は辺境の修道院に送られ、関係した高位貴族や教会関係者は罰せられたらしい。
彼らは聖女を虐げたという私が犯した事になっている罪の捏造に加担していたそうだ。
結局、私は塔から出た後にその事を知ったのだが。
だけど、知らなくても私は良かった。この塔に幽閉されたというその事実だけで、この高揚感から逃れる術が私には無くなってしまったのだから。
あぁ……幸せだなぁ。
幽閉された塔の中で私は胸を押さえながらウットリと微笑みを浮かべていた。




