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暴漢は私がかつて愛した人だった

作者: 船五郎
掲載日:2025/11/24

 香は帰宅途中だった。今日も会社で残業だった。

 帰る頃には辺りはすっかり暗くなっていた。クタクタに疲れていた。


 早く自宅に戻り、ビールを一気飲みしたい気分だった。


 後ろの方で人の気配を感じた。その足音は徐々に自分に近づきつつあった。香はそこから一目散に走った。するとその足音も走り出すではないか。


 後ろから抱き着かれ、公園の茂みに連れていかれた。

 香は押し倒され、乱暴に服を剥ぎ取られそうになった。


 公園の街灯で男の顔がリアルに見えた。

 「坂田くんなの?」

 すると男は動きを止めた。

 「田栗、田栗なのか?」男は呟いた…



 *****


 田栗香は高校2年生だった。


 彼女は今日こそ告白しようと意気込んでいた。


 同じクラスの坂田明彦に自分の思いを伝えるのだ!


 校舎裏に明彦を呼び出した。


 「坂田君、もし良かったらあたしと付き合ってくれない?よろしくお願いします!」

 香は頭を下げた。


 「ゴメン、今俺好きな人がいるんだ、君とは付き合えない…」


 「そうなの、残念ね」

 香はガッカリした。


 「君の気持は嬉しい、その気持ちだけ受け取っとくよ」


 

 *****


 あれから10年が経った。


 香と明彦は公園のベンチで2人並んで座った


 「俺の会社は倒産した。ちょうどその頃彼女にも振られ、それでつい、あんな事をやってしまったんだ」


 「そうなの…」

 香は俯いたがやがて、名案が思い浮かんだように、目が輝きだした。


 「だったらうちの会社に来ない?営業部に空きがあるわ」


 「エッ、でも大丈夫なのか?」


 「任せといて!あたし人事部だから!」



 その翌週から明彦は香の会社で働くようになった。

 明彦はがむしゃらに働き、その営業実績はグングン右肩上がりに伸びていった。


 その年のクリスマスイブの日、香は明彦とデートすることになった。


 食事後、明彦は言った。

 「何もかも君のお陰だ。お礼と言っては何だけど、これを受け取ってくれないか」

 明彦はカバンから指輪ケースを取り出し、テーブルの上に置いた。


 「こ、これは…」


 「いや、嫌だったら受け取ってくれなくてもいいんだ、君の気持に任せるよ」


 香は一瞬躊躇ったが、ケースを手に取り「有難う、受け取るわ」と微笑んだ。


 「有難う」


 その後2人は華やかな新婚生活を過ごし、仕事も家事も分担した。


 結婚から約1年後、香は子供を宿し、やがて元気な女児を出産した。

 2人はその子に沙也加と名付け、大切に育てた。


 沙也加は小学校に上がった頃、両親に訊いた。

 「パパとママ、てどうやって知り合ったの?」


 「学校が一緒だったんだ、告白してきたのはママの方だったけどね」


 「でもパパの方が強引だったわ!」


 「そう、俺の方が強引過ぎたのかな?」

 2人は娘の前で苦笑するのだった。

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