決まった事は
中条景泰「と言われますと?」
寺島長資「まず確認しておく。信長横死の件は事実?」
藤丸勝俊「はい。敵陣から戻って来た者の報告より間違いありません。」
寺島長資「ならば確定した事は1つだけ。それは……。」
柴田勝家による越後への侵入。
寺島長資「此度の柴田の作戦は、信濃上野と連動している。目標は我が上杉を滅亡に追い込む事。つまりここ魚津は通過点に過ぎない。正直な話。信長が生きていようがいまいが実現する事は不可能では無い。ただそれでは困る事が1つある。それが……。」
戦後処理。
寺島長資「誰が何処を新たに獲得するのか?国替えはあるのか?これを当事者に納得させる事が出来るのは、織田家中において信長と信忠をおいて他には居ない。その両者は今?」
藤丸勝俊「消息不明であります。」
寺島長資「今から柴田や森。滝川が相手するのは殿自らであり、要害春日山。ここ魚津で3ヶ月掛かってしまうような連中だ。1日2日で落とす事は出来ぬし、被害もここの比では無い。仮に春日山を奪う事が出来たとしてもその後には、森に滝川。そして……。」
柴田勝家自らの家臣との調整が控えている。
寺島長資「柴田の家臣で本当の柴田の家臣は少数。大半は信長の命により付けられた者共。彼らにも妥協をしなければならないとなると……。」
労の割に得る物は少なくなってしまう恐れがある。
寺島長資「そして柴田が管轄する北陸に隣接する畿内は明智光秀の管轄。加えて越中に加賀。そして柴田の本貫地である越前とも境を為す美濃は当主の居なくなった織田信忠の管轄。恐らくであるが……。」
各人の持ち場から離れる事が出来なくなる可能性が高い。
中条景泰「越後に入る余裕は無い?」
寺島長資「そう見て間違いはない。ただそうなると柴田は……。」
明智光秀と決戦を挑むのも難しい。
寺島長資「北陸に留まる公算が高い。そうなるとここ魚津城を置いて退却するのは考え難い。」
中条景泰「……確かに兄上の仰る通りであります。」
羽柴秀吉が本能寺の変に接したのは備中高松城攻めの最中。すぐにでも戻りたいが目の前には毛利の主力。もしここで東に兵を動かしたら追い掛けられるのは必須。ただ幸い毛利は信長の死を知らない。ならばと一計を案じ、毛利と和睦を画策。その時秀吉が提示したのが、城主の切腹。
中条景泰「(これに対し、うちの殿は不在。城も落城寸前。それも備中高松とは違い、力攻めによって。ここまで来ての撤兵はあり得ない。)」
藤丸勝俊「それでありましたら……。」




