たまたま
出浦盛清「織田にせよ徳川にせよ北条にせよ対武田については一致団結していました。反武田。正しくは親信長様として。しかし武田が滅亡して僅か3ヶ月で信長様があのような形となられた瞬間。甲斐に上野。そしてここ信濃の3国並びに織田家内部も主導権争いにより分裂してしまいました。主を失った国衆はその日の命を繋ぐため、頼りとなる大木を求め彷徨っている最中にあります。それは真田も木曽様も変わりありません。
そんな中にありまして、私の居る北信濃は恵まれていました。上杉と言う、つい先日まで織田に目を付けられていた。滅亡の淵に立たされていた勢力が織田家の混乱の中、奇跡的に和睦を結び。森長可と言う主を失った北信濃に、森長可の了解を得て入って来た。上杉に従いさえすれば織田に従った事と同義であり、かつ安定した大木を得る事が出来たからであります。
もし上杉が織田と敵対関係にあった中、入って来たら?を想像しますと……少なくとも今、ここに居る事は出来なかったのは確かであります。」
木曽義昌「其方は武田を裏切った私の事を……。」
出浦盛清「私が半年前。木曽様の立場でありましたら……。」
同じ事をしていたでしょう。
出浦盛清「遠江の最前線高天神には領内の精鋭が集まっていました。その城を勝頼様が見捨てられた衝撃は計り知れないものでありました。
『もし自分の城が攻められても勝頼様は助けに来る事は無い。』
次攻められるのは誰なのか?駿河の守備に就かれている方々であり、甲斐南部の穴山様。そして……。」
対織田最前線を守る木曽義昌でありました。
出浦盛清「生き残るためには仕方がありませんでした。事実そうなりました。しかし木曽様の権限を担保する信長様があのような最期を遂げられてしまったのは誤算でありました。ただ……。」
この状況になれたのは、武田を見限ったからであります。
出浦盛清「深志には武田を見限ったばかりでなく、織田から認められた木曽様をも裏切った連中が居ます。彼らを許す事は……。」
木曽義昌「出来るわけがないであろう。」
出浦盛清「上杉は深志を求めていません。深志は織田から木曽様に託された地でありますので。上杉の目的は……。」
織田を裏切った北条を信濃から追い払うため。
出浦盛清「織田大名である徳川の支援で深志に復帰出来たにも関わらず、北条に転身した小笠原貞慶を討伐するためであります。」
木曽義昌「深志を望まない?」
出浦盛清「北信濃も森様より預かっているだけでありますので。」
木曽義昌「本当か?」
出浦盛清「えぇ。その証拠に私は……。」
未だに森長可の家臣として活動しています。




