兵糧不足
海津城。
直江兼続「信幸様をそのまま行かせてしまったのは迂闊であった。申し訳ない。」
中条景泰「いえ、このまま麻績に留まっていたとしても結果は同じでありました。それに……。」
小笠原の進入路を1つ潰す事が出来たのは収穫。
直江兼続「牧之島に芋川殿が戻り次第、島津殿を長沼に戻す予定にしている。」
中条景泰「わかりました。」
直江兼続「ただ今回の件で……。」
小笠原貞慶が攻勢を強める恐れがある。
直江兼続「此度のいくさで深志で武田を裏切った連中に痛撃を浴びせる事に成功した。ただその一方、小笠原貞慶本隊は無傷。加えて貞慶は……。」
真田信幸が上杉の包囲を突破し、中条を麻績から追い払ったと解釈している可能性がある。
中条景泰「『信幸は若干17歳。そんな若造に翻弄されるような上杉等恐れる必要は無い。』」
直江兼続「助けられた徳川に絶縁状を突き付けるような人物だからな。とは言えこちらの戦力も万全ではない。そろそろ……。」
越後に行った北信濃の国衆を戻そうと考えている。
中条景泰「新発田とのいくさで成果が?」
直江兼続「いや成果と言える物は何も無い。それどころか……。」
少なくない損害を被っている。
直江兼続「これまで新発田は織田と連携し、我らに歯向かって来た。その織田と我らは和睦。西の脅威。挟み撃ちにされる恐れが無くなったと判断した殿は信濃川を渡り、新発田城を包囲したのだが……。」
兵糧不足で攻城を断念。
直江兼続「そこを狙われたとの事。幸い主だった方々は無事春日山に戻っている。ただ新たな権益を獲得出来なかった以上、越後に留めるのは無用な不満を高める事になる。出浦殿には申し訳無いが、一度信濃に戻す事になった。」
中条景泰「直江様や私は?」
直江兼続「北信濃の国衆の取次ぎは私の役目。出浦殿は其方が受け持っている。ここを離れるわけにはいかぬ。引き続き留まる事に……。」
中条景泰「異論はありません。ところで新発田については……。」
直江兼続「千曲川を越えてくれば話が変わるが、現状維持を考えている。それよりも今は……。」
信濃の権益拡大の好機を逃してはならない。
直江兼続「真田昌幸様は北条を警戒している。いつまでも信幸様を麻績に留めておくわけにはいかない。かと言って小笠原に渡す気等毛頭無い。」
中条景泰「仰せの通り。」
直江兼続「此度のいくさで元々深志に居た連中が弱り、徳川と絶縁。頼みの北条は甲斐で家康と対峙中。狙うなら今をおいて他には無い。中条殿。出浦殿を呼んでください。」
中条景泰「わかりました。」




