ピアス
日本で耳に穴を開ける風習は古く。縄文時代には存在。ただその目的は今の様なお洒落の為では無く、結婚や成人等の式典時の呪術として用いられていた。と言われています。
中条景泰「皆様は既に成人なされ、しかも既婚者であるように見受けられるのでありますが……。」
寺島長資「我が上杉に斯様な儀式は無い。」
仏陀は耳に穴を開け装飾を施していたとされ、仏教で耳飾りは幸運や知恵を呼ぶと言われています。
中条景泰「この苦しい状況を打開するための策を求めて。と言う事でありますか?」
寺島長資「……それで解決出来ていたら苦労はしていないぞ?」
中条景泰「そうでありましたね。」
寺島長資「今、耳に穴を開けようとしている理由。それは……。」
個人の特定を容易にするため。
寺島長資「このいくさは負ける。悔しいがどうする事も出来ない事実である。我らは自害もしくは討ち死にを遂げる事になる。そして我らの首は敵の手に渡る事となる。その際……。」
誰がどのような形で最期を迎える事になったのか?をわかるようにしておく必要がある。
寺島長資「理由は……。」
遺された家族のため。
寺島長資「我らの最期は織田を経て、殿にも伝えられる事になる。これは考えたくは無いが、織田が越後を奪ってしまう恐れもある。そうなった時活きるのが……。」
死に様。
寺島長資「『最期の最期まで忠義を尽くした者の遺族。』
は主家が何処に変わろうとも重宝される。たとえ士官が叶わなかったとしても、それぞれの地元で尊敬され。まとめ役を任される可能性が高い。死に方。と言うのはそれだけ大事な事である。」
中条景泰「それに耳に穴を開ける事が……。」
寺島長資「ここに木の札があるだろ?」
中条景泰「はい。」
寺島長資「何が書かれている?」
中条景泰「……名前でありますか?」
寺島長資「そうだ。ここに籠城している方々の名が記されている。これに縄を通し……。」
開けた耳の穴に括り付けるのだ。
寺島長資「後は敵陣に飛び込むも善し、自害して果てるのも善し。思い思いの最期を遂げれば良い。」
中条景泰「……決行するのはいつでありますか?」
寺島長資「早ければ明日である。」
中条景泰「(……出来る事なら死にたくは無い。それに耳に穴を開けるのは……。)」
専門の医師に委ねた方が良い。
中条景泰「(まぁ……。)」
明日明後日の人間が感染症を気にする必要も無い。
中条景泰「(ただここに来た。と言う事は、何か引っ繰り返せる術があるからだよな……。)」




