寝ぼけていたと言う事で
「すみません。今の状況を掴む事が出来ていません。」
「ここ3ヶ月。休む間も無かったから疲れているのであろう?こうして話せるのも今日が最期だ。冥土の土産に話そうではないか。」
「(冥土の土産!?)」
「自己紹介からしよう。俺の名は寺島長資。今は寺島を名乗っているが、実の父は吉江景資。そしてお前の名は中条景泰。」
「……中条景泰。」
「お前の父も俺と同じ吉江景資だ。」
中条景泰「父が同じ。と言う事は……寺島さんは私の兄?」
寺島長資「覚えたか?」
中条景泰「……はい。兄上。」
寺島長資「善し。」
中条景泰「先程。冥土の土産と言っていたように思うのでありますが?」
寺島長資「いやぁ。状況が絶望的でな。」
中条景泰「……絶望的?」
寺島長資「死を目前にして、頭が回り過ぎてしまっているようだな?……まぁその方が良いかもしれないな……。」
中条景泰「いえ。事実を教えて下さい。」
寺島長資「耳をそばだててみろ。」
中条景泰「……これは花火でありますか?」
寺島長資「なら良いんだけどな。残念ながら花火では無い。この音の正体は種子島に大筒。そして外に見える者共は皆。」
敵兵。
中条景泰「すぐ下に居る方々も?」
寺島長資「敵に方々何て言わなくて良い。織田の軍勢だ。これを見て、今我らが置かれている立場がわかったであろう?」
中条景泰「外からの助けは?」
寺島長資「殿がすぐ近くにまでお見えになった。しかしその殿もここには居ない。」
中条景泰「織田に……。」
寺島長資「いや。殿は無事である。ただ殿はここでいくさをする事が出来なかった。何故なら……。」
本国が安全では無くなってしまったから。
寺島長資「ここが何処かわかるか?」
中条景泰「いえ、わかりません。」
寺島長資「魚津だ。殿の名は……。」
上杉景勝。
中条景泰「私は……上杉の家臣?」
寺島長資「俺もな。敵では無いぞ。」
中条景泰「わかっています。殿の本国と言いますと……越後?」
寺島長資「そうだ。尤も殿は越後の全てを掌握する事が出来ていない。国内にも敵が存在する。新発田重家だ。ただ重家だけであれば、変な話。放っておいても問題は無い。奴単独で外に攻め入るのは不可能であるから。問題はそこでは無い。殿が危機感を抱いているのが……。」
同盟者武田勝頼の滅亡。
寺島長資「武田とは信濃上野で境を為していた。我らはこれまでこれら2国を気にする必要が無かった。しかし武田勝頼は、織田信長の侵攻に遭い滅亡。ここに入った森長可と滝川一益が越後に侵入。殿はこれらの対処に追われる羽目にあわれてしまっている。故に殿はここには居ない。」




