取引
半月後。
上杉景勝「越中での働き。この景勝。生涯忘れる事は無い。感謝する。」
春日山城で越中から無事撤退した者共を労う上杉景勝の姿があった。
直江兼続「生きて帰る事すら困難な状況にあった皆様が、無事に戻られただけでなく。このような取引を認めさせるとは、正直驚いています。」
その取引とは?少し前。越前北ノ庄城。
不破光治「殿。佐々より書状が届いています。」
柴田勝家「内容は?」
不破光治「上杉が越中を撤退する事に同意したとの事であります。」
柴田勝家「これで殿の敵討ちに専念出来るな?」
不破光治「御意。ただ上杉が1つ条件を付けて来ました。」
柴田勝家「ん!?申してみよ。」
春日山城。
上条政繁「我が上杉家における富の源泉は、港の使用料と京における青苧もしくは上布の販売にあります。しかし現状、京は織田が支配。その織田と我らは対立。商売が出来ない状況にあります。加えて港に付きましても我が上杉領の港は避けられています。
今後もいくさが続く事が考えた場合、銭は必要不可欠。そのためには京との取引を再開させる必要があります。好き嫌いを言っている余裕はありません。」
北ノ庄城。
柴田勝家「京での青苧及び越後上布の取引を再開したい。そのために敦賀の港を使いたい……か?」
不破光治「京は今、明智が押さえています。その京での商売再開を上杉は殿に委ねています。」
と言う事は?
柴田勝家「上杉は私を織田の後継者を補佐する一番手と位置付け。その私に上杉が同盟。厳密には従属する事を示唆した?」
不破光治「越中から撤退する者共への居場所を確保するためもあるのでありましょう。」
柴田勝家「うちとしては明智との戦いに専念したいのが本音。それに青苧の中継交易を一手に引き受ける事が出来るのは悪い話ではない。そして何より……。」
決定権を握っていた織田信長がこの世に居ない。
春日山城。
直江兼続「これを受け入れざるを得ないぐらい柴田は困っている?」
山本寺景長「魚津は本丸しか残っていなかった事は?」
直江兼続「私もこの目で見ています。」
山本寺景長「上条殿の決断もあり、脱出を試みましたが正直生き残れるとは考えていませんでした。」
直江兼続「追って来なかった?」
山本寺景長「武勇を語れるような話はありません。魚津の者は皆。ただひたすらに逃げただけであります。」
直江兼続「また越後に兵を動かす恐れがある?」
上条政繁「織田家が落ち着き次第その可能性は十分に考える事が出来ます。西への備えを怠ってはなりません。」