海上封鎖
魚津城。
藤丸勝俊「今越中のほぼ全てを織田。正しくは柴田勝家に占拠されています。我らがここ魚津を失った瞬間。組織立って織田に抵抗出来る勢力は皆無となります。ただそれは……。」
陸だけの話。
藤丸勝俊「我が上杉は多数の船を所持しています。尤もこれは軍事目的では無く、京との物資をやり取りするため。商用目的ではありますが。実際、此度のいくさでも魚津城近くにまで船を近付ける事が出来ています。しかし魚津城の二の丸を敵に奪われたため、上陸する事が出来ない状況にありました。殿が兵を退いた要因の1つであります。」
寺島長資「うむ。」
藤丸勝俊「今も変わりはありません。それに……。」
越後から船を回す余裕は上杉にはありません。
城外。
佐々成政「放生津は手付かずであります。」
放生津は今の富山県射水市にあった港で、長く越中における政治経済の中心都市として発展。しかし神保家が拠点を富山に定めて以降、政治都市としての地位は低下。
前田利家「富山への備えは佐々殿の手により万全。ここ魚津の海岸線も我らが押さえ上陸不可。そこで奴らは放生津に狙いを……。」
柴田勝家「あそこを奪われては退路を断たれてしまう……。」
魚津城。
藤丸勝俊「越中西部は、長きに渡り一向宗が支配。今は大人しくしていますが、皆。織田に対し思うところがあります。尤も勝ち目がありませんので、軍事蜂起はしませんが。しかし一泡吹かせたい気持ちに変わりありません。そんな方々にお声掛けさせていただきまして船を編成。近くの放生津に向け、船を動かした次第であります。目的は港の占拠ではありません。それを実現させるだけの武器を持ってはいませんし、それが出来るのであれば……。」
魚津に回します。
城外。
前田利家「景勝が越中に船を動かしたと言う事は、信濃の森並びに上野の滝川は既に越後から兵を退いた?」
佐々成政「それもここ魚津では無く、放生津に回したところを見ると敵は……。」
我らとの戦いを諦めていない。
前田利家「おそらくここ魚津近くにも船が。」
佐々成政「景勝が再び越後に入るのを待っているやもしれません。」
柴田勝家「それまでに片付けるか?」
前田利家「その間に放生津を奪われる恐れがあります。」
柴田勝家「踏み潰すまで。」
前田利家「しかしそれをしてしまいますと……。」
明智光秀討伐の機会を失う事態に陥ってしまいます。
前田利家「今は一刻の猶予も許されません。」
魚津城。
山本寺景長「藤丸。よくぞここまで。感謝する。」
藤丸勝俊「有難き幸せ。」
山本寺景長「しかし……こうなるのであったなら……。」
小島職鎮を残しておくべきだった。




