第43話 全てが終わって
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――王立学園・大講堂
〈義國旅団〉は壊滅した。
ただ、その団長、ギュスターヴの行方は知れない。
グラエキア王国全土で指名手配され、捜索が行われているが彼がどうなったのか知る者はいないのだ。レクスの魔法を左肩に喰らって大怪我を負った以上、高位の回復魔法でないと完全に治癒する可能性は低い。
大講堂には対〈義國旅団〉戦線で戦った者たちが一同に会していた。
そこに初陣前にも挨拶をした貴族士官学院の副院長を務めるノルノー・ド・スノーワイトが再び姿を見せる。
「諸君! 此度は〈義國旅団〉を無事、壊滅に追いやったことに祝福と感謝の意を! 指揮官であるガイネル・ド・イヴェールの指揮の下、よく戦ってくれた! 残念なことに団長のギュスターヴには逃げられてしまったが、奴らにもう力はない。頭がいても駒がいなければ組織は動かないのだ! 各地で蜂起した乱も徐々に鎮圧されつつある。王国は平穏を取り戻すことができたのだ! 此度の戦果を表して感状を与える。呼ばれた者は前に来るように!」
壇上でそう演説すると生徒の名前を読み上げる。
「ガイネル・ド・イヴェール! 前へ!」
「はい!」
呼ばれたガイネルがスノーホワイト副院長の前へ進み出た。
姿勢を正し、歩く姿が様になっている。
流石の名門貴族と言うだけはあるようだ。
「〈義國旅団〉を各地で撃破し、その団長であるギュスターヴ・パンドラを追い込んだ功績を讃え、ここに感状を送るものとする! ガイネルよ! この感状を持って誇りとせよ!」
「はい! 有り難く頂戴致します」
ガイネルは感状を受け取るとその場を後にして自分の席へと戻る。
そして次の者の名前が呼ばれた。
「ガストン・アウァールス! 前へ!」
「はッ!」
ガストンはいつも通りの尊大な態度で壇上へ向かう。
その表情は自信と感動に満ち溢れていた。
「〈義國旅団〉の幹部、エレオノール・パンドラを討ち取った功績を讃え、ここに感状を送るものとする! ガストンよ! この感状を持って誇りとせよ!」
「はッ……有り難き幸せにございます」
感状を受け取ったガストンは増々調子に乗って肩で風を切って歩き出す。
お家再興が目的の彼からすれば大きな第一歩と言えるだろう。
「レクス・ガルヴィッシュ! 前へ!」
「はい」
レクスも呼ばれてしまった。
確かにエドガールを倒したが、感状など貰っても迷惑でしかない。
目立つのは極力避けたいところなのだ。
だからこそギュスターヴを追い込んだのは、ガイネルだと言うことにしたのだから。
「〈義國旅団〉の幹部、エドガールを討ち取った功績を讃え、ここに感状を送るものとする! レクスよ! この感状を持って誇りとせよ!」
「ありがとうございます」
目立たぬように微笑を浮かべて、そそくさと壇上から去って自分の席に戻る。
式典はこれを持って終了した。
この後も大ホールにて立食形式のパーティーが行われるのだが、レクスはすぐに学園を出て寮へ行き配達物などがないか確認する。
ガイネルやシグムントは残ったようだが、レクスとしてはとても勝利を祝う気分にはなれない。ギュスターヴがこのまま姿を消し歴史の舞台から降りてしまうのか、それともゲームのように舞い戻るのか。
それは誰にも分からない。
「手紙が来てるな……セリアか。あれ? もう1通か……ローラから? バルバストル侯爵家じゃないか……何の手紙だろ」
そんなことを考えながら学園から出ようとすると校門にテレジアが1人で佇んでいた。誰かを待っているのかと思ったが、話し掛けずに黙礼だけして通り過ぎようとする。
「こらこら。レクス君も冷たい子だなぁ……僕が待っているのは君くらいしかいないでしょ」
「そうですかね。テレジア様は色々お忙しいかと思いまして……」
容易に予想は出来たので、態とスルーしたのにしょうがない。
「釣れないなぁ、秘密を共有する仲じゃないか」
「まさか脅迫めいたアレのことですかね……?」
聞こえはいいが、脅迫だぞ!
まぁ恨んでなどいないが。
そうレクスが軽口を叩こうとしたが、先にテレジアが口を開いた。
「怖い……レクス君怖い……」
「それでどうしたんですか? 何かあったんですか?」
「いやね? 僕たちの身が危ないって話だったじゃない? その話を聞きたいなぁと思ってさ。時間がある時に顔を出してくれないかな?」
何処か恐る恐ると言った感じがする。
レクスの機嫌を損ねないように気を遣っているのかも知れないが、そこまでしなくてもと思わないこともない。
「ああ、その件ですか……まだまだ余裕があると思いますけど。まぁいいですよ。機会を見て学園長室に行けばいいですか?」
「うん。それで頼むよ。流石に気になるからね。ゴメンね」
「気持ちは分かりますよ。死ぬかも知れないなんて言われたら誰でも気になります」
その後、少し世間話をして彼女と別れた。
それを言うために態々寒い外で待っていたのかと思うと、速く帰宅することにしてよかったなと思う。多少思うところはあったが、彼女の立場で考えればその行動は自然なものだろう。
レクスが異世界人だとバレたのも技能のせいだし、仕方がないと言える。
テレジアとヒナノのことは別に嫌いではないし、袖振り合うも多生の縁だと考えている。
1月の寒風が吹きすさび、乾燥した冷たい風が体温を奪う。
レクスはさっさとギルドハウスに帰るべく足を速めた。
◆ ◆ ◆
「ただいまー」
「マスター、お帰りなさいませ、です!」
レクスがギルドハウスに帰ってくると、シャルが出迎えてくれる。
彼女はレクスの魔力反応を把握しているようで既に玄関ホールで待機しているのだ。
「寒かったでしょう、です。すぐに温かいリビングへお入りください、です!」
「ああ、ありがと、シャル」
彼女に先導されてリビングの扉を開くと温かい空気が漏れ出してきた。
ギルドハウスには常に誰かがいる状態なので温度が下がるのは就寝時くらいのものだろう。
「あ~レクス、お帰り~!」
「あら、意外と早く帰ってきたのねぇ」
ミレアとホーリィが炬燵に入ってくつろいでいる。
いつもは肩まで潜って寝ていることが多いミレアが起きていることに若干の驚きを感じつつ、レクスも取り敢えず凍えた体を温めることにした。
「兄ちゃん、お帰りー!」
「レクス兄ちゃんが帰ってきた!」
「お帰りぃ!」
子供たちは真面目にも魔力練成と操作の修行を行っていたようだ。
彼らも目を輝かせてレクスの方に寄ってくる。
随分と懐かれたようで悪い気はしない。
「お前らもあまり根を入れ過ぎるなよ? ちゃんと休憩は取るんだぞ!」
子供たちから元気の良い返事が返ってくる。
最近、彼らには修行に集中させている。
このクソ寒い中、外で働かせるほどレクスは鬼畜ではない。
風通しの良い労働環境を作るのだ。
今後、どんな道に進むことになるかは分からないが選択肢を多く持たせたいと考えている。
「それで式典はどうだったのぉ? 労いの食事会でもあるのかと思ってたけど?」
ホーリィは興味があるのか、式典の話を振ってくる。
「ああ、立食パーティーがあったけど、いてもやることもないし、意味もないから帰ってきた」
炬燵に入りながらそう答えるとミレアが突っ込んできた。
「レクスに友達がいないから参加しなかったんでしょ~? 言い訳しなくても分かってるんだよ?」
おい、そんな憐れな者を見るような目を向けるな。
こいつは本当に容赦がないな。
そんな天然鬼畜幼馴染に対して平静を装うレクス。
「どうせ大した式じゃない。感状をもらって終わり。ただそれだけだよ」
「へぇ……それは良かったじゃない。平民に感状が出るなんてぇ……王国も案外思い切ったことをしたわねぇ」
「それをどうして〈義國旅団〉にやってやれなかったんだよ……それだけでもかなり違う結果になってたかと思うんだけどな」
そうなのだ。
彼らは誇りを持って戦ってきた。
褒美がないことには不満は出ただろうが、今回のレクスのように感状を与えるなどその精神に報いていれば、彼らも大いに溜飲を下げただろうに。
そう考えるとやりきれないと思うレクスであった。
何ともやるせない気持ちになり、思わず口からは溜め息が漏れる。
「感状!? 感状って何~!?」
レクスの憂鬱な心の内などお構いなしにミレアが喰いついてきた。
そんな状況を察したのか、代わりにホーリィが答える。
「例えば、戦働きなんかで大活躍した者に与えられる賞状をそう呼ぶのよぉ。褒美はないけど大変な名誉になるわぁ。多くの感状を持っていれば士官先にも困らないでしょうね」
「うはぁ! レクスすっごいじゃん! これで皆に自慢できるね~」
「ふふん。まぁな……もっと俺を褒め称え給え」
あんなものは自慢にならないし、する気もない。
今回の戦いは本当に無益であり誰も得をしないものだ。
意味を見い出すならストーリーの主人公ガイネルの成長とシグムントとの確執に繋がることくらいか。元々ゲームのために作られた世界なので仕方のない展開なのだが、いざ自身が絡んでみると色々な感情に振り回されていることに気付かされるものだ。
レクスの懸念点は自分の異質さが、どれほどの者に認知されているのかと言うこと。そして彼らがどんな立場でどんな目的を持った者であるかと言うこと。
恐らくしばらくの間、時間ができるはずである。
その間にもっと力をつけて、情報収集に勤しむ。
その後に待っているの竜神裁判だ。
〈義國旅団〉の討伐に貴重な時間の多くを使ってしまった。
レクスは残されている時間の少なさに頭を痛めながらも何とか動いて行かねばと改めて思った。
ありがとうございました。
また読みにいらしてください。
明日も12時の1回更新です。




