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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第42話 義國旅団の終焉

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。


 ガイネルは倒れ伏し、回復魔法を受けている。


 バウアーは戦いに着いて行けずに遠巻きに2人を見ているだけだ。


 そしてその2人――レクスとギュスターヴは。


 交えていた剣を止め、声のした方向を見つめていた。


 近づいてきたのはガストン。


「なんだ。まだ決着していなかったのか。あん? レクスが戦ってるのか? ガイネルは……治療中かよ」


 突如として現れた闖入者にギュスターヴは嫌な予感を抱いた。

 敵が増援にやって来たと言うことは、何処かの戦いに決着が付いたことを意味する。


「なんだとはなんだ。お前もお貴族様か?」


「ああ、お貴族様のご来援だ。旅団にトドメを刺しに来た」


「黙って見てろよ、ガストン。テメーに敵う相手じゃねー。お呼びじゃねーんだよ」


 ガストンの余裕の態度にレクスが苛立ちをあらわにする。


「つれないな。どうせ説得してたんだろ? いいからさっさと殺しちまえよ。それで旅団は終了だ」

「はッお前たちに俺は殺せんよ。よって旅団が滅びることはない」


 聞き捨てならない言葉にギュスターヴが断言する。

 こんな子供に負けるはずがないと考えながら。

 しかしガストンは余裕の笑みを浮かべたままだ。


「ギュスターヴ、お前がここに釘づけにされている時点で察しろよ。ご自慢の同胞たちはもういない。全て地獄へ叩き落としてやったからな」

「全てだと……? 全員を倒したとでも言うつもりか? 俺たちだってそこまで弱くはないぞ」


 ガストンのセリフを嘘と決めつけて笑い飛ばすギュスターヴ。

 〈義國旅団ユリスティオ〉の強さを知っているからこその態度だ。


「弱くない? よくもまぁ言えたもんだな。何も知らない団長さんよ。お前は1人で旅団ごっこをするつもりか?」

「ごっこだと!? お前は俺たちの行動をごっこと言うのか!? エレオノールがいる。ヒースもいるはずだ。各地では仲間が貴族と戦い続けている。この戦場にだって仲間はいる! 俺は決して1人ではない!」


 煽りをふんだんに含んだ言葉に、ギュスターヴは怒りを爆発させる。

 対するガストンは相変わらず余裕の態度を見せつけながら、半ば呆れたように言った。


「やれやれ。現実を見れないのはお前も同じか……エレオノールと言ったか……? 確かあれはお前の妹だったか?」


「ああ、自慢の妹だ。お前らなどに殺されるタマではないぞ」


「そうか。俺が殺したのは別人だったのかな? 最期に何か呟いてたぞ? 確か、兄さんごめんなさいとか何とかな」


 ギュスターヴが絶句する。

 目の前で平然と嘘を並べる男が語る言葉に疑念が湧いてきたのだ。


「……!! 貴様……俺を動揺させようとしても無駄だ。俺はそんなことなど信じないし、すぐにお前らを殺して全員の無事を確認する」

「残念でーしたー!! あいつは平民らしく地べたに這いつくばったまま死んだよ。俺が胸に剣を突きつけてやったのさ。散々理想を語った割りには無力過ぎて笑えたぜ」


 大事な妹を侮辱されて黙ってなどいられない。

 殺された?

 この小憎たらしい男如きに?

 その心が乱れる。


「貴様ッ!! 妹を侮辱するなッ!!」


 ギュスターヴは大喝するとガストンに向かって走り出した。

 相対していたレクスを無視して。


「はん! 俺様が兄妹揃って地獄へ叩き落としてやるよ」


 冷静さを欠いたギュスターヴが重い一撃を振り下ろす。

 それを甘く見ていたガストンは特に力を逃がすことなく受け止めた。


「なッ……」


 あまりの威力を持った斬り落としにガストンの足が地面にめり込む。

 剣が圧し折れなかっただけでも幸運だ。


「チッ……平民の分際でッ!!」


 すぐに剣を引いて一旦後方へ飛ぶガストン。

 しかしそれは最悪手。

 ギュスターヴの口元が吊り上がり、太古の言語(ラング・オリジン)が吐き出される。


「【呻れ豪剣! 全てに破壊をもたらすべし。その威力留まるところを知らず。貫け! 豪打豪然ごうだごうぜん!!】」


「!!」


 万物に破壊を与える豪撃が、剣が振り下ろされた瞬間に、ギュスターヴから離れていたはずのガストンの体を打ち穿つ。


「ガハッ……」


 正面からまともに喰らったガストンの脇腹に大穴が開き、口から大量に吐血する。

 『豪剣』の威力を舐め過ぎた結果だ。

 しかも詠唱付きの完全版『豪剣技』である。

 その威力は言葉通り全てを破壊するだろう。


 レクスはこのままガストンを見殺しにしようかと考えていた。

 しかし今後の展開に影響が出る可能性は高い。


 この場にいる全員がその威力に愕然としている中、ギュスターヴが次の目標を定める。ピクリとも動かないガストンは死んだと判断したのか、あるいはいつでもトドメを刺せる存在になったと考えたのか。


 彼が向かった先――それはシグニュー。


 彼女は殺意を向けられて動けず硬直している。


「くそッ!」


 一瞬でも考えてしまったことにレクスは後悔を禁じ得ない。

 どうしてそんなことを考えてしまったのか。

 この男の強さは尋常ではないのだ。

 その牙が他の者に向けられるのは当然のこと。

 エレオノールが死んだとなれば、止めるためにはるしかない。


「6thマジック【重弾丸マグナム】」


 意識の外からの一撃は、シグニューに攻撃しようとしていたギュスターヴの左肩に直撃した。肩が弾け、肉片が飛び散り、血飛沫ちしぶきが舞う。


「ぐがッ……何だ……!?」


 あまりの出来事に思考が停滞する。

 一瞬の出来事で自分が魔法を喰らったことすら理解できなかったのだ。

 そして痛みは遅れてやってきた。


 ようやく理解する。

 己の左肩が大きく抉れていることを。


「レクス・ガルビッシュゥゥゥーーーー!! お前か! お前の仕業かーーー!!」


 そうなのだ。

 この隊で倒すべきなのはガストンでもシグニューでもない。

 ましてや指揮官であるガイネルでさえもない。

 今、目の前で自分を傷つけた男――レクス・ガルヴィッシュなのだ。

 ギュスターヴは全てを理解した。


 すぐに『豪剣』の体勢に入るが、座して撃たせるレクスではない。

 一気に間合いを詰めると烈光の如き鋭い突きを放つ。

 ギュスターヴもすぐに『豪剣』を諦めて紙一重で躱すと、すぐさま反撃に転じる。

 だが、躱される想定などしていないはずがない。

 レウスはその勢いのままくるりと回転すると体勢を立て直し、更なる斬撃を放った。それを右手1本でいなすと、両者はそのまま斬り合いに突入する。


「貴様だッ! 貴様こそ真っ先にるべきだったのだッ!! この部隊の根幹はガイネルなどではない! 貴様だレクス!!」

「知ったことかよッ! 俺がいなくても旅団は殲滅されていたッ! この事実が変わることはない!!」


「いや、貴様は何者だ!? 平民だと!? 平民などと言う括りで縛ることすらできないッ! 俺には貴様がただの人間とは思えないッ!!」

「お前には何が見えてんだよ! だから言っただろうが! 何度忠告したか分かっているのか!? 何故、態々(わざわざ)説得しようとしたのか理解できないのかッ!?」


 レクスは自らの力を持って自らの正義を証明しようともがく兄妹のことを嫌いになれなかった。

 ゲームの時も嫌いではなかった。

 それが現実になって、直接、魂の籠った叫びを聞いて思った。

 死んで欲しくない。


「ヒースは貴様のことを、おもしれーヤツと評していた! もっと早く貴様に会うべきだった! もっと速く殺しておくべきだったのだッ!!」

「黙れよギュスターヴ。お前の妄執に付き合うつもりなどないッ! お前は俺のせいにしたいだけだ。現実を見ろ! エレオノールはもういないんだ!!」


 レクスの豪撃が、連撃が着々とギュスターヴの体力を奪ってゆく。

 左肩が抉れ、流血量は多く、とても右手1本であしらえる相手ではなかった。


「(俺にはもう何もないのか……エレオノール、済まない……兄さんも後を追おう……)」


 抵抗する力が明らかに弱弱しくなりつつあるのをレクスは敏感に感じ取っていた。

 死ぬ気か。そう簡単に諦めるつもりか。

 違うだろうが!

 心の中から湧きあがってくるのは怒りにも似た何か。


「お前は同胞が、家族が死んで何も思わないのか! お前の役割は何だ!? 力尽きて行った者たちの意志を継ぐことじゃないのか!?」


 その言葉にハッとさせられるギュスターヴ。

 一体、自分は今何を考えていたのか。

 レクスの言う通りなのだ。

 ここで悲劇に浸る役者を演じて退場することは簡単だ。

 可哀そうな自分のまま果てるのは楽だが、それは単なる逃げなのだ。

 ギュスターヴはレクスの斬撃を躱すと距離を取って問うた。

 頭に血が上っていたことにようやく気付かされる。


「何故だ……何故、お前は……俺をどうしたいのだ。お前が理解できない。お前を形作ったものの正体が不気味で堪らない……そうだ、そうなのだ。俺はお前の価値観が理解できない!」


 少しだが、図らずもレクスの本質に触れたギュスターヴは困惑する。

 体からどんどん力が抜けていくのが分かる。

 取り敢えず、ここで死んではならないことは理解した。

 だが、全ての仲間を失ってまで生き延びてどうなるのかと言う疑問もある。

 そんな黙考を遮ったのはレクスではなく、回復したガイネルであった。


「ギュスターヴッ! お前にはお前の正義があることはよく分かった! 頼むッ……剣を収めてくれ!」


「ようやく理解したようだが、今更しゃしゃり出てくるな。ガイネルよ。お前の言葉は響かない!」


「……!?」


 ガイネルはその強い言葉に二の句が継げない。

 自身が否定されたことに失意のどん底に叩き落とされる。


「お前の語る正義は甘かったが、俺もまたそうだったようだ。理想を追い求め過ぎた……今は退くべきだ」


「ギュスターヴ!!」


 レクスが叫ぶ。


「レクスよ、お前のお陰で俺は目が覚めた。後日、再戦を期す……」


 体はボロボロにもかかわらず言葉には力が戻っていた。

 そう言い捨てるとギュスターヴは左腕をダラリとぶら下げたまま、背中を晒して逃げ出した。


 動けないガイネルたちをその場に残して。

 レクスも動かなかった。

 理想に破れ、力に縋るはずの男が今後どのような行動を取るのか興味が湧いた。


 再び、新たな正義を掲げて戦うのか、それとも結局は力の前に理想を捨てるのか。


 ギュスターヴがどうするのか、それは誰にも分からない。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時の1回更新です。

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