第40話 山賊の根城
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ガイネルは本隊を率いて山賊の根城へ到着、これを包囲していた。
幾つかの部隊を統合して本隊の規模はかなり大きくなっている。
結局、実の兄すらも説得できず、ローグ公の説得などは夢のまた夢であった。
彼は心に未だ葛藤を抱えながらも戦場へと戻ってきたのだ。
「恐らくここが〈義國旅団〉、最後の拠点だ。決して油断するな。ここには団長のギュスターヴに幹部のエドガール、ヒース、エレオノールがいるはずだ」
ガイネルの真剣な表情と言葉に部隊のメンバーは皆、緊張の面持ちになる。
そして理解する。
ここを潰せば〈義國旅団〉は終わりなのだと。
「隊長、敵の情報はあるのですか?」
シグムントの双子の妹であるシグニューが尋ねる。
戦いにおいて情報収集は基本中の基本だ。
特に職業が割れていれば、かなりの対策になる。
「ギュスターヴは守護騎士だ。『豪剣』の能力を使う強敵なので、皆は近づかず魔法攻撃か支援に徹して欲しい。相手は僕がする。エドガールは騎士、ヒースは剣豪、エレオノールは剣闘士だと判明している。皆、近接戦闘タイプだからシグムントとガストン、バウアー、レクスたちで対応して、暗黒導士と弓使いは遠距離攻撃。光魔導士は状況をよく見て臨機応変に回復魔法を掛けていってくれ」
『応ッ!!』
部隊メンバーの気合が伝わってくる返事だ。
ガストンは彼らについては問題ないと判断したが、肝心のガイネルがどのような行動に出るのか疑念を抱いていた。
だから釘を刺す。
現実を見させるために。
「ガイネル、ギュスターヴは強い。殺すのを躊躇わないでくれよ? 戦線崩壊すれば全滅も有り得るんだ。イヴェールの……貴族の役割を果たしてくれ」
「……ああ、分かっている」
何処か迷いが見えるガイネルの返事にガストンは更に不安を抱くが、これ以上言ってもしょうがないかと口を閉ざした。
「(隊長がこのざまか……俺は死ぬ気はない。戦線が崩壊すれば俺だけでも撤退してやる)」
「本当に説得できないのか……? 降伏を呼びかけてみるのはどうだ?」
ガストンの考えていることなど知る由もなく、シグムントはガイネルに説得を薦める。シグニューも同じ考えなのか、不安げにうんうんと頷いていた。
「無理だ……僕たちの言葉に耳を貸すとは思えない……レクス、君はどう思う?」
レクスも意見を求められたので正直に思っていることを話す。
自身は逃がした方が良いと考えているのだが。
「味方に必ず犠牲者が出る。それが嫌なら態と逃がすのも手だろうな。説得は無理だと考えた方がいい。それに旅団の逃げ道を残してやらないと死兵化するぞ?」
ガイネルはもう十分に葛藤したはずだ。
それならギュスターヴやエレオノールが死ぬ必要もないのでは?と思うのだが、ここで逃がしたところで〈血盟旅団〉と合流すると考えられる。
その場合はストーリーから外れることになるが、レクスとしては結末は同じような気がしていた。
ガストンもバウアーも何か言いたげな表情をしているが、何も言って来ない。
レクスを恐れてのことだろうが、貴族が平民如きに怯んでどうするんだよと思っていたりする。
「良し。フォーメーションは確認した通りだ。完全包囲はせず逃げ道は残しておくことにする。それでは覚悟はいいか? これより攻撃を開始するッ!!」
全員が一斉にアジトへと突入を開始した。
西、南、北からの攻撃で東のみ逃げ道を残している。
ガイネル隊の包囲に気付いていた〈義國旅団〉のメンバーたちもすぐに反応し、あちこちで戦いが始まった。
「ガキ共がッ……平民風情と舐めるなよ!! 全員叩き殺してやる!!」
普通の旅団員が襲ってくるが、レクスはそれほど脅威だとは考えてはいない。
一番の脅威はやはりギュスターヴである。
ゲームでは彼は1人で突撃してくるからだ。
かなり防御が堅いので個人で壁役をこなせるキャラなのである。
レクスは正直言ってガイネルがギュスターヴに勝てるか微妙なところだと考えている。
タイマンならまず勝てないだろう。
シグムントとガストンなど複数で攻撃した上で、魔法の支援があってやっと勝てる相手だ。
ギュスターヴには死んで欲しくないが、ガイネルに死なれるのも困る。
何故なら今後のストーリー展開が読めなくなるから。
「見つけたぞッ! レクスッ! お前を殺す。必ず殺してやるッ!」
すぐにガイネルの支援に行こうとしていたレクスの目の前に1人の男が立ち塞がった。顔には痛々しい大火傷の痕が残っているが、面識があったので覚えている。
「エドガールか……生き延びてたんだな。あの状況でよく死ななかったもんだよ」
「あのようなところで死んでたまるかッ! 俺はあの時からお前を殺すと決めていたんだ。瀕死の状態まで追い込んだお前をなぁ!!」
レクスは知らないが、味方の【火炎球弾】に巻き込まれて大火傷を負ったのだが、持っていた回復アイテムのお陰で死を免れていたのだ。
「俺は旅団に必死に尽くしてきた……お前らなんぞに潰させる訳にはいかないんだよ!」
「悪いな。俺はお前が王都でやっていた醜悪な仕事を許すことは出来ないんだ」
「ハッ……ガキだと思って油断はしねぇさ。殺してやるからかかって来い!」
無造作にエドガールに向かって歩き出すレクス。
負けるとは微塵も考えていない。
エドガールはただの騎士。
それ以上でもそれ以下でもない。
何の工夫もなく、歩き出した。
そう思ったのはエドガール。
だが違った。
無造作に見えた足運びでレクスはするりと必殺の間合いに入っていた。
「何ッ……!?」
気付くと脇腹を薙ぎ斬られていた。
エドガールの顔が驚愕で歪む。
レクスの動作は理解の範疇を超えていたのだ。
それでも何とか痛みに耐えて『騎士剣技』を発動する。
レクスは至近距離。
必殺の間合い。
「【粉砕撃】!!」
放たれた『騎士剣技』がレクスに向かうが、平然とした動作で剣を一閃。
全てを砕く一撃を弾く。
「ヌルぃな。お前の罪は重い。苦しんで死ね」
「1stマジック【電撃】」
レクスがエドガールの体に触れると電撃が走る。
第1位階の魔法で直接触れないと発動しないが、麻痺させるくらいの威力はある。一撃で行動不能に陥ってその場に崩れ落ちるエドガールに、レクスはトドメの魔法を放った。
「3rdマジック【轟火撃】」
「ぎゃああああああああああ!!」
灼熱の業火に全身を焼かれ、絶叫を上げるエドガール。
鉄などあっさりと溶かすレベルの超高熱の大火球である。
その苦痛は【火炎球弾】とは比べものにならない。
「後悔するんだな。報いは自分に返ってくるんだ。特に悪い物はな……」
〈義國旅団〉が国のために尽くした行為は報われなかった。
レクスとしては本当は良いことにも報いはあって欲しかったが、自身の力ではどうしようもない。エドガールの気持ちも分からんでもないが、悪事と言うことすらヌルい醜悪な行為の報いは受けるべきだ。
自分如きが人を裁くのは傲慢だとレクスは理解しているが、少しでも彼によって地獄を見た罪なき者への手向けになればと思う。無論、正しいことだけで世の中は回らないし、何事にも清濁併せ呑む必要があると考えている。
「これも言い訳かもな……」
レクスは自嘲気味にそう呟くとガイネルの元へと急いだ。
◆ ◆ ◆
ガイネルとギュスターヴの戦いは、一方的なものとなっていた。
もちろん、圧倒的に押されているのはガイネルの方だ。
味方から回復魔法をもらい、暗黒魔法をギュスターヴに喰らわせてようやく何とか踏み止まっている状況。
「ギュスターヴ! 戦いは無意味だ! 大人しく剣を捨ててくれッ!」
「貴族の狗が何を抜かす。問答無用で攻めてきておいて無意味だと? 厚顔無恥もいいところだな」
「貴様らが蜂起したのが悪いんだッ!! 正義は我らにある! 僕は殺したくないんだ! 頼むから降伏しろッ!」
「正義だと? 降伏だと? 何を阿呆なことをッ……そのようなことをするなら初めから蜂起などしないッ!」
「王国は必ず貴様らに報いてくれるはずだッ! 何故王国に叛逆するッ!? 国あっての民なんだぞッ!」
「はず? お前はそんな根拠もないことを信じろと言うのか! しかも言うにこと欠いて国あっての民だと!? 思い上がりも甚だしい! 民あっての国の間違いだろうがッ! 戯けたことを抜かすのもいい加減にしろッ! 王国が我々にしたことは決して忘れない!」
「すぐには無理だが必ず王家を説得する! 貴様らのしていることは法を踏みにじる行為なんだッ! 気持ちは分かるが叛逆など許されるはずがないッ! だから降伏してくれッ!」
「俺たちが一体どれほどの覚悟で立ち上がったと思っているッ! お前は理解したつもりになっているだけだ! 百歩譲ってお前は理解したとしよう。だが貴族は何も分かってはいないッ! 分かろうともしないのだからなッ!」
剣で語り合いながら口でも言い争っている。
腕はギュスターヴの方が上。
そしてガイネルはギュスターヴの『豪剣』の間合いに入っている。
「【爆豪撃】」
『豪剣』が唸る。
剣から生み出された爆発の如き重い豪撃がガイネルの体に肉薄する。
何とか防ごうと剣で受けるがその衝撃は決して剣で受けられるものではない。
ガイネルは5mほど吹っ飛ばされ、纏っていた鎧にはヒビが入ってしまっている。
「う……ぐ……」
その口から苦痛の呻き声が漏れ、顔が歪む。
衝撃は彼の体をも貫いたのだ。
「3rdマジック【凍結球弾】!」
追撃をかけようとしていたギュスターヴの足が止まる。
「チッ……魔導士が邪魔だな」
全て凍てつかせる氷の塊がかなりの速度で彼に迫る。
避けられるタイミングではないので無理やり押し通ることにした彼が剣を振るった。
魔剣や聖剣の類でもなければ魔法など斬ることはできない。
レクスのように魔力を剣に纏わせれば可能だが。
ギュスターヴの剣はたちまち氷漬けになり右腕まで巻き込まれてしまった。
「兄さん!」
エレオノールが援護に回ろうとするが、ギュスターヴの声がそれを止める。
「先に後衛の魔導士を殺れ! エレオノール!」
「分かったわ!」
しかし、彼女を止める者がいた。
シグムントである。
「これ以上は行かせない」
その声は震えており、苦悩に満ちた表情をしている。
「あなたに私が斬れると言うの?」
「分からない……でもガイネルや仲間を死なせる訳にはいかない……いかないんだ!」
「なら私を倒してみることね」
シグムントとエレオノールの戦いが始まった。
こちらでもシグムントが説得をしながら剣と剣を交える。
剣が火花を散らし鋭い攻撃が彼女に迫る。
しかし迷いがある剣にやられるようなエレオノールではない。
「【垂直斬り】!!」
剣闘士の能力を使って垂直から振り下ろされる世界の力を乗せた一撃が放たれる。避けるのは不可能だと判断したシグムントは剣を横にして強烈な『剣闘技』を受ける。
柔らかい地面に足がめり込むほどの一撃だ。
剣に腕を添えて何とか防いだが、自らの剣で腕から流血するシグムント。
「攻撃しないと死ぬわよ?」
「くそッ……どうして分かってくれないんだ!」
「お互いが相容れないのだからしょうがないじゃない。あなたは貴族側につく者、あなたが悪くなくても、憎くなくても現状では私は戦うしかないの」
「ッ……」
シグムントは最早、説得する言葉を持ち合わせていなかった。
彼女には何を言っても無駄だと思い知らされた。
だがそれでも彼は攻撃を逡巡してしまう。
両者が睨み合う中、1人の少年が現れる。
2人の元にやってきたのは、勝利を確信して笑みを浮かべるガストンであった。
現在の〈義國旅団〉で強いのは圧倒的な1位がギュスターヴ、次点でヒース、エレオノール、エドガールであった。
しかしギュスターヴはガイネルと一騎討ち、ヒースはおらず、エレオノールはシグムントが押さえている。
エドガールはレクスが殺した。
幹部級が動けない今、旅団員は次々と殺られていったのだ。
中には降伏した者もいる。
自由に動けるようになった者たちは、次第に幹部たちの元へ集まっていく。
ガイネルの元にはレクス、バウアー、シグニューが、そしてシグムントの元にはガストンが。
今、戦況は大きく動こうとしていた。
ありがとうございました。
また読みにいらしてください。
明日も12時の1回更新です。




