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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第38話 使徒襲来

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

「アドラン公かッ!?」


 ヒースは思わず目を見開き、大声で叫んでいた。

 とても信じられる状況ではない。

 


 ――ラディスタ・ド・アドラン


 言わずと知れた12使徒の内の1人。

 グラエキア王国を建国した者の末裔であり、古代竜の血に連なる者。

 黒狼を紋章とし、宝珠を体内に保有しているアドラン公爵の現当主である。

 超巨大な両刃の神斧ガクスドナクスを軽々と振り回す膂力は全ての者を叩き割る。権謀術数には長けていないが、大いなる野心をその身に秘めている天騎士パラディン



 圧倒的なまでの存在感。

 長身であるヒースよりも更に頭2つ以上の巨躯から放たれる威圧感は凄まじいの一言。


「貴様らが〈義國旅団ユリスティオ〉か。ただの平民にしてはよくやったと褒めておこうか」


 余裕なまでの態度で不敵な笑みさえ浮かべているアドラン公に対してヒースは虚勢を張るので精一杯だ。

 軽口を叩くことにすら注意を払うほど。


「アドラン家現当主様がこんな辺鄙な場所まで足を運ぶたーどう言う了見だ?」


「旅団がしぶといと聞いてな。ちと足を運んでみたのよ。貴様がここの指揮官か? 中々良い腕と指揮をしている。俺と一勝負と行こうや……」

「できるならお断りしたいところだな……オレにバケモンと戦う気はねーのよ」


 オレも大概だが、上には上がいるものだ。

 ヒースがそう感じざるを得ないほどの覇気。


「ふむ。残念だ……まぁ後は貴様らの本拠に雪崩れ込めば終了よ。団長のギュスターヴはそこにいるのか? そやつも中々の剛の者と聞いている」


「あいつは強ぇーよ。だがアンタほどじゃねー。オレたちのことは放っておいてくれると助かるんだがな」


「俺も子供の部隊に負け続けた貴様らには、それほど興味はないのだ。俺が求めるのは強者のみ――貴様のようなな……」


 アドラン公はたかが子供の部隊と言っているが、ガイネルやレクスたちが弱いとは言えない。

 むしろ大人顔負けの才能と実力を持っている。

 高位階(レベル)能力ファクタスを使いこなしているのがその証拠だ。

 才能がなければいくら能力ファクタスを習得しても使いこなすことはできない。


「おいおい……オレ如きを強者と言うのか。過ぎた言葉だぜ。だが乗ってやる。一世一代の大立ち回りを見せてやるよ」


 ヒースは残っていた古参兵たちに撤退するように目で合図を出した。

 だが誰も動こうとはしなかった。

 まさかこいつら……。

 その直感が告げている。

 ここで死ぬ気だ、と。


「いいから行けよ。じーさんはよ」


「わしはもう長いこと戦ってきた。そろそろ死んでもいい頃じゃろ」

「死に場所を求めて生き恥を晒してきたが、それも今日で終わる……やっと終わる」

「ラスボスがアドランとは神様も中々粋な計らいをするもんだ」


 けた老人たちが戯言たわごとをほざいているがどうしたものか。

 ヒースは何故か、王都で出会ったレクスとか言う子供のことを思い出していた。

 おもしれーヤツ。

 それが感想。


「オレはまだ死ぬ気はねーのよ。ちょろっと戦ってさっさと逃げるからテメーらもそうしてくれ」


「話はまとまったか? では行くぞ?」


 アドラン公はそう言うとヒースに向かって走る。

 と言っても一生懸命に重い鎧を着てのろのろと走ってくる訳ではない。

 一瞬。そう一瞬である。


「(速ぇ!!)」


 何とか大振りの横薙ぎ払いを回避したヒースであったが、残った者たちには厳しかった。

 如何に老練な兵だったとは言え、使徒の戦闘力は圧倒的。

 そもそも古代竜の血を宿している時点で反則級。


「ウララララララララ!!」


 巨大な神斧を短剣のように軽々と操って攻撃を仕掛けてくる。

 あんなものは一撃でも受け太刀したら終了。

 ヒースは一瞬でそう理解させられる。


 それでも躱しあるいは何とか攻撃の力を逃がしながら体を動かし続ける。

 止まったら脳天をかち割られて左右真っ二つになるか、上半身と下半身が別れを告げるかだろう。


 究極の2択である。

 いやな選択だ。


 あんな巨躯が巨大な神斧を持って回転しただけで、その場にいる者は全滅するだろうと思わされるレベルだ。


「中々やるものよ。こちらも全力でやるとするか」


「(本気で言ってんのかコイツ! 冗談は顔だけにしてくれや!)」


 アドラン公の口角がニヤリと吊り上がる。

 この場にいた者全てが一陣の風が吹いたような気がした。


「がはッ……」


 気が付いた時にはもう遅く、ヒースは吹っ飛ばされた後。

 何をされたのかも理解が及ばなかった。

 人間離れした巨躯からくる大質量の体当たり。

 アドラン公としてはヒースの間合いに入っただけのつもり。

 本来ならその瞬間に頭をかち割られていたことは疑い様のない事実。


「久々の戦いだ……手加減が難しいな」


 そんなことを呟きながら神斧を大きく振るう。

 この場に留まっていた老兵たちがバラバラの細切こまぎれとなり、ただの肉片と化す。人間の体とはここまで脆かったのかと錯覚してしまうほど。


「クソがッ……だから速く逃げろとあれほどッ……」


 凄まじい衝撃のせいで膝が笑って立つのも難しかったが、そこは気合でカバーする。

 最早、周囲の聖斧騎士団アドス・リッターはただ戦いの行く末を見守っているのみ。

 近づけば巻き込まれるだけと分かっているから。


 ヒースが走る。

 アドラン公に向かって。


「【勇往邁進ゆうおうまいしん】」


 ただただ勇猛果敢に連撃を喰らわせる『奥義』の1つだ。

 必殺のタイミングで放たれたそれはヒースの体を強制的に操り、繰り出される連撃は果てしなく続き終わりなどない。


「おお、『奥義』か? 貴様は剣豪だったのだな」


「オラオラオラオラァ!!」


 大声を出すことに意味などない。

 ヒースの叫びは自らの魂の力が少しでも愛刀に乗って欲しいと言う願望。


 しかし届かない。

 澄んだ音を響かせてその悉くが弾かれて防がれる。

 そしてアドラン公の首に迫る必殺の一撃。


「(った!)」


 そう思った瞬間斬り落とされて宙を舞ったのはヒースの左腕であった。

 会心の一撃はアドラン公の左手で受け止められ止まっている。


ぅ……」


 痛みは遅れてやって来た。

 勝機がないことなどとうの昔に承知していた。

 だがこれほどとは。

 そこまでのものなのか、古代竜の血に連なると言うことは。


 そんな恐怖に襲われて心を折られたヒースは脇目も振らず逃げ出した。




 ◆ ◆ ◆




 〈義國旅団ユリスティオ〉本拠地ユスティーツァが聖斧騎士団アドス・リッターにより陥落していた頃――


 ギルドハウスには様々な面々が集合していた。


「屋敷が広くて助かったなぁ……」


 ガイネルがイヴァール伯爵家での説得を行うために王都へ帰還したため、レクスは久々にゆっくりしていた。


 それまでは。


「まったく……私を除け者にしてこんな素敵なお屋敷で暮らしてるなんてあんまりだよ~」


「スラムは危ないって言っただろ? ミレアなんて簡単に何処かにさらわれちゃうぞ?」


「それは怖いね~。でも私はもっと怖いんだよ~」


 確かにミレアの恨みは怖い。

 根に持つタイプらしいからな。

 そう思いながらもレクスは普通にスルーした。


「スマンな、レクス。俺まで住まわせてもらって」

「構わんよ。部屋も余ってるし、大人数で住みこめる家にしたんだから」


 カインは来たばかりで謙虚である。

 冬場と言うこともあってか、あまり討伐依頼がないせいもあるのだが。

 お陰でと言うかなんと言うか、彼は現在、第三騎士団の稽古に参加させてもらっている。


「スラムから悪党共が消えちゃったから静かになったわねぇ……まぁ一時的なものでしょうけどぉ」


 当然の如くホーリィもくつろいでいる。

 しかし彼女の言うことも尤もだ。

 悪い奴なんて消えた傍から現れる。

 消えた隙間には必ず同じような者が入り込むのだ。


「シャル、ヤンたちってどっか行ったの?」


「イエス、マスター。情報屋に行くと言っていました。後は平民街の情報収集も、です」


「今は休んでていいって言ったのにな……労働環境を改善する必要がありそうだ」


 ヤンたちは以前より少し強くなった。

 と言ってもそれはレクスから見ればの話であって、過去の彼らからしてみれば相当に強くなっている。


「はわ~でも温かい部屋で冷たいジュースを飲むなんて贅沢だよね~。私もここに住みたいな~」


 ミレアは先程スルーされたのにもかかわらず、気にする素振りさえ見せずにさり気なくお気持ちを表明している。

 だが言いたい。

 停学中だからここにいるのであって……っていいかもう面倒臭い。

 はっきり言ってもうここに住んでいたい。

 レクスは自分に正直になることにした。


「家賃払えよな。あッ……それに探求者ハンター登録もしてねーじゃねーか! カインはすぐにやったんだぞ!」

「そんなご無体な~。皆スイーツが悪いんだよスイーツが~!」


「太るぞ」

「うぐぅ……」


 ぐうの音も出ない容赦なき攻撃がミレアを襲う。


「私はぁ太らないから別にいいわぁ……」

「亜神の体は便利だなぁ」


 亜神と言っても2種類存在する。

 最初から亜神として生まれ落ちる者、そして人間や精霊族の身に降霊し亜神に昇神する者だ。ホーリィは後者なので、昇神した当時の姿で成長が止まっている。


 ちなみにこの場にはブラダマンテもいたりする。

 炬燵に入ってぬくぬくしながら船を漕いでいるところだ。


 そんな時、屋敷の玄関が騒がしくなった。

 ヤンたちが帰って来たのだ。


「はーただいまー。滅茶苦茶寒かった!」

「凍え死ぬかと思ったわね……」

「しぬ」


 それはそう。季節は冬――1月なのだから当然である。

 寒風吹き荒ぶ中、レクスたちは討伐戦を行っていたのだ。


「お帰り。無理しなくてもいいんだぞ? ほらこっち来て炬燵にでも入れよ」


 ヤンたちはすぐに炬燵に入ると肩までずんぼこしている。

 表情がとろけてニヤついている。

 もう皆炬燵にメロメロだ。


「(計画通り……!)」


 ちなみに炬燵はレクスが自作した物だ。

 熱を発する魔法陣を開発し、その術式を組み込んだのである。

 後は布団を被せればOK。


「それでヤン、何か収穫はあったのか?」


「え……ああ、なんかねぇ、アングレス教会の司祭様たちが平民区を回ってるって話だよ。よく分かんないけど変な魔導具みたいな物で皆が調べられるらしい」


「魔導具で調べる……? あーなるほどね」


 それを聞いてレクスは思い出す。

 十中八九、古代竜関連だろう。

 アングレス教会は権威を取り戻し、更には権力を握ることすら考えている。

 それは彼らの最終目標が神聖アングレス帝國の建国だからだ。

 そのために新しい使徒となる人物を探しているのだろう。

 今春にも起こるジャグラート懲罰戦争そして、その後、勃発する双龍戦争ドラグニク・ウォーの裏で暗躍するのが彼らなのだから。


「後は何かあったっけ?」


「うん。あれよあれ。ろーぐ公がなんとかってやつね」


「ああ、情報屋のおっさんに何か情報クレメンスって言ったら渋い顔されたヤツか! えっと、確かローグ公爵家でお家騒動の兆しがあるって言ってた。お家騒動って何?」


 他の子供の言葉で思い出したのか、ヤンが聞いて来たことをレクスに話す。


「ほーん。マジか。(ローグ公爵家でお家騒動? そんなことあったっけ? イヴェール伯爵家の間違いじゃなくて?)」


「ねーねーお家騒動ってナニ?」


 レクスが黙考を始めてしまったのでヤンの質問は無視を決め込まれている。

 なのでミレアがニコニコ顔で教えてやっていた。


「アレだよ~家で大騒ぎするやつね」

「お祭りみたいなの?」


「まぁね~」

「姉ちゃん物知りだなぁ」


 ミレアが何故かドヤ顔をしている。

 突っ込むべきか迷っていたカインが訂正すべく渋々口を開いた。


「違うぞ……? 後継ぎを巡って争いが起きそうって話だ。ミレアも適当なこと言うなよ……」

「ええッ!! そうなの!?」


 子供たちが全員驚いていたが一番驚いていたのは当のミレアであった。

 カインは思わず溜め息をついている。


「お家騒動とかやってらんないよね! あはははは!」


 薄目で寝かけていたブラダマンテが何故か嬉しそうに話に入ってきた。

 何故、満面の笑顔なのか。

 君の家は円満家族だろとツッコミつつレクスは更に尋ねる。


「他にある?」

「あとはー探求者ギルドで期待の新人が現れたって聞いたよ」

「へぇ……誰だろ。了解。行ってみるか……」


 今のところはこれ以上の情報はないようなのでヤンたちをお礼を言いつつ労っておく。

 皆頑張ってくれているので十分に報いてやりたいところだ。

 今は休んでいても良いと言っているのだが聞いてくれないのが悩みどころなので、シャルからもよく言い聞かせてもらおう。

 そう考えながらもレクスは、ヤンたちから聞いた内容を早速吟味する。


 どうせ今日か明日辺りはまだ出撃命令は来ないだろうと予想して、レクスは束の間の休みを楽しむことに決めた。楽しむと言っても遊ぶつもりはなく、情報内容を確かめたり日常のルーチンをこなしたりするくらいか。

 少しはミレアとホーリィに絡むのも良いかも知れない。


 もちろん剣の稽古には顔を出すのだが。

 この世界の最大位階(レベル)は99。

 レクスがそれに当てはまるのかは分からないが、当面はそこを目指して頑張ろう。


 強くなる努力は惜しまないレクスはそんなことを考えつつ、残っていたジュースを飲みほした。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時の1回更新です。

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