第35話 廃墟の戦い
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各地で蜂起した〈義國旅団〉はガイネルが指揮する部隊や各領の貴族が率いる騎士団に撃破されていた。
貴族たちも最初は日和見していたものの、王都の勢力が掃討されたのを切っ掛けに討伐軍を編成したのだ。
あれだけの規模を誇っていたその威容も失われ、降伏する者も相次ぐ状況である。降伏しても待っているのは死罪なのだが、誰しもが疲れ果てていたのかも知れない。
王国に屈しない者たちは王都付近のギュスターヴ率いる本隊と合流すべく逃亡を始める。しかしその王都戦線でも〈義國旅団〉は苦戦を強いられていた。
打ち捨てられた教会の廃墟――
古き古代神を祀る教会跡地に身を隠す部隊が存在した。
〈義國旅団〉団長の妹であるエレオノール・パンドラが率いる者たちだ。
「コースロー地方とアスツール地方の同胞たちは壊滅したようですね……」
仲間たちの重々しい口から出てくるのは各地の敗報ばかり。
エレオノールたちも追い詰められていた。
ガイネルが指揮する複数の部隊によって包囲されかけている状況だ。
「もう各地とは連絡すら取れない状況です……ここの存在もいずれバレるでしょう」
「本拠地に引くしかないのかしら……」
王都グランネリアの西の森林地帯にある〈義國旅団〉の本拠地ユスティーツァは大森林の奥地にあり、その存在はまだ知られていない。
普段、そのような場所まで入り込む人間などいないため、王都付近にありながらも今まで討伐部隊に知られることはなかった。
「しかし全員が本拠地に籠ってしまうとなると大森林にガサ入れが入るでしょう。後方を攪乱する部隊が必要です」
本拠地が見つからないとなると、ガイネルを始めとした貴族諸侯の軍は周囲を徹底的に洗うだろうことは想像に難くない。エレオノールとしては、他に蜂起した勢力と連携していきたいところだったのだが、渡りを付けられずにいた。
「……我々は各個撃破されているわ。本隊に合流して逆に分散している敵を各個撃破するのがよいのではないかしら?」
「エレオノール様、各地から離散した旅団員たちが合流していると聞きますしそれが良いかと」
「では夜を待って一気に森林地帯に逃げ込みましょう」
ゴツゴツとした岩があちこちに転がり、破壊されて荒れている地面に座って疲れを癒しながらエレオノールは考えていた。
固く冷たい地面と天井に大きな穴が開いてしまっている教会跡。
ここに祀られていたのが何なのか、彼女たち平民は分からない。
それでも神の存在を信じて国のためを想い戦ってきた。
漠然とした何かに縋っているだけのようだが彼女たちの心の中には確かな信仰が存在していた。
「敵だッ!!」
周囲の警戒に当たっていた盗賊の男が静かに声を上げる。
ようやく一息つけたと思ったらこれである。
無意識の内に溜め息が漏れてしまう。
「編成はどう……?」
「あいつは……ガイネルだ。イヴェールの指揮官だ!」
途端に方々から迎撃の声が上がる。
敵指揮官を討ち取れれば戦況は変わるかも知れないと言う希望が生まれたからだ。
「エレオノール様、ここは一戦交えるべきかと……敵は大部隊ではありません」
「そう……そうね。敵本隊に一撃を与えて撤退しましょう」
エレオノールは決断を下すと先制攻撃を仕掛けるべく、魔導士たちに指示を出す。魔法で大ダメージを与え、前衛部隊で強襲を掛ける。
ガイネル部隊に気付かれないように慎重に配置に着く旅団員たち。
「〈義國旅団〉!! 廃墟に隠れているのは分かっているぞ!! 今すぐ抵抗を止めて出てくるんだッ!!」
戦場に鳴り響いたのはガイネルの大音声であった。
隠れていることが知られていたと理解しエレオノール隊に動揺が走る。
レクスの魔力波検知によって隠れていても居所はバレバレなのだが。
「皆、気付かれていてもやることは同じよ。魔法を喰らわせてやりなさい!」
エレオノールの合図により戦いの火蓋が切られた。
ガイネルの本隊にはシグムント、その妹シグニュー、ガストン、バウアー、レクスら30名。
「2ndマジック【雷撃】!」
「2ndマジック【火炎球弾】!」
〈義國旅団〉の暗黒導士の暗黒魔法が放たれる。
ここのところ連戦連勝し油断していたガイネル隊の仲間たちが何人か巻き込まれ火達磨になる者、体が完全に麻痺して動けなくなる者が出る。
「前衛は突撃! 光魔導士は回復を!」
抜剣した両軍が剣を交え始める。
レクスもそこまでやる気はないものの、向かってくる敵に対しては剣で上手くあしらっていた。
ガイネルは指揮官でありながら突貫している。
前に出過ぎだろと思いつつも特に心配するレクスではない。
シグムントが援護に向かうのは分かっているから。
「1stマジック【防守固界】!」
シグムントの双子の妹シグニューの付与魔法が掛けられてガイネルの体が緑色に光る。
これは防御力アップの付与魔法だ。
彼女も討伐戦に志願して〈義國旅団〉討伐戦に参加している。
ガイネルは廃墟に飛び込むと飛んで来た魔法を横薙ぎに払う。
彼の職業は封魔騎士。
その剣に封魔の力を乗せて魔法を無力化することができる。
同時に他者を狙った魔法を引き寄せて吸収することができる能力『魔封剣』と言うものも使える。
現在、習得しているかは不明であるが。
必中の魔法を薙ぎ払われて硬直する魔導士の1人がガイネルに一刀の下に斬り伏せられた。動きが良い。流石は主人公と言ったところか、主人公補正と言うものなのか。
「そいつは危険よ! 囲んで倒しなさい!」
エレオノールの叫びが命令となって伝わる。
すぐに実行に移されるが、ガイネルの動きを止めるほどではない。
ゲームなら素早さによって行動順位が変動するところだが、ここは現実である。
素早さが高いのならそれだけ連続で行動できると言うことだ。
「【地獄突き】!!」
修道僧が繰り出した高速の一撃がガイネルの脇腹に突き刺さり、その顔が苦痛に歪む。更に攻撃を繰り出そうとするが、そこにシグムントの『戦技』が決まる。
「【上段斬り】」
大ジャンプからの振りおろしが大剣の重さも相まって強力な破壊力を生み出す。
追撃しようとしていた修道僧は頭からかち割られてシグムントの大剣は上半身を真っ二つにして止まった。連撃を免れたガイネルは同時に攻撃してきた盗賊の短剣を弾くと態勢を整える。
「すまない、シグムント!」
「フォローするから全力で行け!」
そこへ旅団の弓使いから五月雨のように弓の雨が降り注いだ。
避けられる間合いではない。
剣で叩き落とすしかないと覚悟を決めた2人の耳にシグニューの逞しい声が届いた。
「2ndマジック【風魔封界】!」
シグニューの風の結界が2人の体を包み込む。
簡単な魔法防御や弓矢避けの付与魔法だ。
低位階だが、この世界では割と役に立つ。
「貴様らッ! まだ実力の差が分からないのか! 大人しく抵抗を止めるんだ!」
ガイネルのいつもの降伏勧告が聞こえてくるが、今まで成功した試しがない。
降伏しても死罪になるのはほぼ確定なので投降しないのだろうが、恐らくガイネルにも原因があるだろう。
鼻に付くのだ。語る正義が。
レクスは廃墟周囲の〈義國旅団〉を掃討すると廃墟へと足を踏み入れた。
辺鄙な場所にある割りには大きな教会であり、内部は広い。
内部にはまだまだ旅団員がおり、ガイネル、シグムント、シグニュー、ガストンらが戦っていた。
レクスはこの場にエレオノールがいることに気付いて戦意を喪失した。
彼女が殺されるところなど見たくないのである。
バウアーは廃墟の脱出口を押さえるべく、10名ほど連れて探しに向かっておりこの場にはいない。
「実力差だって? 私を倒してから言ってみなさい!」
エレオノールがガイネルに斬り掛かり一騎討ちが開始される。
その邪魔をさせまいとシグムントとガストンの前には決死の表情をした旅団員が立ち塞がる。
「邪魔立てはさせん。お前ら貴族はここで倒す!」
「そうよ! 仲間たちの仇は取らせてもらうわ!」
「神よ……私たちを見守り給え……」
その覚悟をガストンは顔を歪めて笑い飛ばす。
平民の口から神の名が出ること自体が気に喰わないと言った表情だ。
「まーた神か……お前ら平民が祈ったところでどうにもならんと言うのに」
「ガストン、挑発するのは止めろ。俺たちは賊徒を討伐するだけだ」
「チッ……面倒だが身のほどを分からせてやる」
「……」
一騎討ちの一方でシグムントとガストンたちの戦いが幕を開いた。
旅団員は修道僧、盗賊、弓使い、暗黒導士など、まだ戦力は残っている。
シグムントは先手必勝とばかりに一気に間合いを詰め、大剣に全体重を乗せて叩きつける。狙われた修道僧であったが、その渾身の一撃を硬い拳で難なく弾くとカウンターの左ストレートを繰り出してきた。
まさか全力の攻撃が弾かれるとは思ってもみなかったシグムントはそれを腹に受けて大きく吹き飛ばされる。
「【波動拳】!!」
痛みに耐えながらも上半身を起こしかけていたシグムントに青い波動が突き刺さり、その体を貫通した。強烈な衝撃を受けて、またしても弾かれるように吹き飛んで壁に叩きつけられてしまう。
「2ndマジック【聖亜治癒】」
もうずっと共に戦ってきた仲間だけに、すぐさま回復魔法がシグムントを優しく包み込んだ。
手を挙げて無事を伝えるシグムント。
そこへ追撃を掛けるべく突撃してきた男2人の間にガイネル隊の騎士が割って入る。迎え討った彼らの剣が激しく交差し火花を散らす。
ガストンはその隙を見逃さずに後衛の旅団員に襲い掛かった。
暗黒導士の脇腹を一閃して横を通り過ぎると背後に回ってバッサリと斬り捨てる。更に息もつかせぬ速攻で弓使いに『騎士剣技』を発動した。
「【閃烈剣】」
男の視線がぐらりと傾く。
そこに在ったのは首のないモノ。
慌てて前衛職の女が向かうが、援護が遅すぎる。
ガストンは動かなくなった者になど興味はないと言ったような態度で女を迎え討った。その目は異常なほどに冷めていた。
ガイネルとエレオノールの戦いは一進一退の攻防であったが、最初から疲労があった彼女は段々と防御一辺倒に回るようになる。
この場にいる〈義國旅団〉のメンバーは最早、力の限界を迎えようとしていた。
ありがとうございました。
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