第33話 レクス、叱られる
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本日は18時の1回更新です。
レクスは何故かまた学園長のヒナノに呼び出されていた。
当然の如くテレジアも一緒だ。
前回と同様にソファに対面に座るとヒナノが単刀直入に話し始めた。
「いやーレクスくん、またやってくれたみたいだねー」
「……?」
そう言われて一瞬固まりかけるが、全く心当たりなどあろうはずもなく。
何言ってんだこいつ?と言った表情をするレクスを見て、何も分かってねーなこいつと察したヒナノが説明し始めた。
「だからね? キミさー探求者ギルドの昇級試験で特別変異個体と戦ったでしょ?」
そう言われてようやく思い当たるレクス。
先日のことだし、強敵だったので忘れるはずもない。
そもそも先回りでイベントを起こしたのはレクスの意志だ。
「……ああ、戦いましたね」
「平然と言うねーキミ。まーそんな人だよねーやっぱり」
ヒナノは何故か溜め息を吐きつつ項垂れる。
当然、それが何か?とレクスは思っていると、彼女が重い口を開いた。
「あれはさー、すっごい貴重な物なんだよねー。それこそ古代の遺物級の超レア物なの」
「まぁ知ってますけど」
「知ってたんかーい! 知ってて破壊したんかーーーー!!」
容赦ない突っ込みがレクスを襲ったが、反応する前にテレジアが悲鳴のような声で絶叫した。
「はぁーーーーーーーーー!? 特別変異個体を倒したぁぁぁ!? 何!? 何やってんの君!? あれを封印して使いこなせるようにするのにどれだけの時間を要したと思ってんのさ!? あれは僕たちが総出で弱体化させて封印したモノなんだよ? 魔法剣士団を投入してまでさーーーーーー!! えええーーーーーそれってマジのマジなの!?」
こんなにテンション上がったテレジアを見たのは初めてだったのでレクスは大いに気圧されてしまった。
ヒナノも何故か若干ビビリ散らかしている。
詳細は何も伝えていなかったのだろう。
「マジのマジなんだな。それが。テレジアっち、諦めなー? もうアレは存在しないんだよ?」
「うぐぅ……アレは研究中で解析中で……」
テレジアが一転してめそめそと泣きだした。
場が一気に湿っぽくなってしまう。
今日の彼女は感情の上下がとても激しい。
「でも、よくもまぁそんな物を昇級試験に使おうと思いましたね。軽く引きましたよ」
「え……封印できたから大丈夫だと判断したんだけど……そんなに?」
「そらそうよ」
そもそも封印したと言うか、たまたま結界士の能力、『結界』の『沈静化』が効いただけなのだが。
不安定なことには変わりなく、特殊な刺激があれば暴走するのだ。
レクスが故意に仕出かしたブラマダンテとの接触のように。
「って言うか何でそんな大切な物を探求者ギルドなんかに渡したんですか?」
レクスの尤も過ぎる疑問にヒナノがテレジアに代わり答えた。
彼女は割と平然としているが大丈夫なのかとレクスは不安になる。
「アレってどうやら戦いで得た経験を吸収してたみたいだからねー。そのデータを取るためにも昇級試験の時期だけ貸し出してたんだー」
「そうですね。アレは古代人が創り出した物で、『特別変異個体』って呼ばれてますけど、正式名称は『思念体兵器』と言います。相対する者と同等かそれ以上の強さを持つナニカに変異する兵器なんですよ」
シレッと言った発言にヒナノは憮然とした面持ちになった。
テレジアも知らない単語が出てきたので興味を持ったのか、塞ぎ込んで俯いていた顔を上げる。
「えッ……そうなのー? あーしすら知らないんだけどー」
「そりゃ誰も知らないでしょうねぇ……」
「そんなこと知ってるのなら教えてよ!!」
いかん。テレジアが完全にお怒りモードだ。
顔を上げたのはキレたからのようである。
とは言え、怒られるのは心外だ。
レクスは彼女の宥めるべく知らないであろう知識を披露することにした。
これで知識欲が満たせられるだろうと信じて。
「いやぁすみません。思念体兵器は対象の思考を読み取り、その技や攻撃パターンなんかを吸収するんですよ。でもアレって実はちゃんと意識を持っていてですね……強敵と相対した場合、直接取り込もうとするんです。危ないでしょ?」
「いやいやいやいや……そんな兵器どうやって倒したのさ!?」
確かに気になるところだろう。
仕方ないのでこの際、全て教えておこうとレクスは考えた。
「えっと……知ってるかどうか……王都にモントーバン家の道場があるんですが……」
「あー聞いたことあるねー。若くして騎士爵位を賜った天才少女がいるってー?」
「その娘が倒したって言うのかい?」
2人は合点がいったと言う表情になるが違う。
「いや、違いますよ。本当なら彼女は思念体兵器に取り込まれて殺人マシーンになって暴走しちゃうんです。でも彼女の心は残ってて、自分を殺して欲しいと願い続けるんですよ。それで彼女の家族が娘を救うべく思念体兵器と戦うんですが、皆殺されてバッドエンドになる運命だったと言う訳です」
「と言う訳です……じゃねぇぇぇぇぇ!! 知ってるならそんな危険なことしちゃ駄目でしょうが!!」
テレジアは立ち上がりはぁはぁと肩で息をしている。
とても興奮しているご様子だ。
血圧の急上昇は危険なんだぞ!
「なる!何とか!の精神ですよ。俺としては彼女に訪れる結末が許せなかったのでそうしたまでです。彼女の心を救ってあげたかったから。それに無策で挑んだ訳じゃなくて勝ち目があると確信したからこそ挑んだんです」
「うーん……それもキミの知識なのかなー?」
「そうですね」
「まぁ気持ちは分からなくもない……? かな?」
ようやく納得してくれたようで何よりである。
落ち着いて話して欲しいものだ。
「でもその娘だけじゃ勝てないんでしょー? どうやって倒したのー? てか倒せるの?」
「俺と彼女で協力して倒しました。トドメを刺したのは俺ですけど」
「どうやったのさ……? 僕たちがどれだけの人数を投入してやっと動きを封じたと思ってるの……?」
ヒナノは疑問が尽きないようだし、テレジアも明らかに呆れている。
その顔には何やったんだよこいつ?と書かれている。
「手持ちに高火力の魔法があったのでそれを使って倒しました」
「簡単に言うけどさー、小等部で習う魔法陣って第3位階まででしょー? 無理じゃない?」
「高火力ってなんだ……?」
困惑気味のヒナノに何処か現実逃避の兆候が見られるテレジア。
レクスはこの2人なら他言・悪用はしないだろうと判断するが、流石に世界の理に関わることなのでボカして教えることにした。
「オリジナル魔法で倒しました」
「……」
「……」
絶句する2人。
固まって動く気配がない。
ただの屍のようだ。
レクスは彼女たちが再起動をするのを出されたお茶を飲みながら待った。
完全に停止してから数分後、ヒナノがハッと我に返ると捲し立てるように聞いてくる。
もの凄い前のめりになって。
「……もしかしてキミが新しく創ったってことー? 魔法をー? どうやって創ったのかなー?」
「それは先生方の師匠にでも聞いて下さい」
「師匠っちのことまで知ってるのね? えーあの人なら知ってるってことー? あーしは驚くことばかりで疲れちゃったよ」
ヒナノが遠い目をする中、一応聞いてみることにした。
「確か魔法陣とかの研究してる人でしたよね? 彼なら分かるんじゃないですか?」
「お師匠様は今、何処にいるのかさえ分からないんだよね……」
テレジアが苦笑いしながら答える。
レクスは居場所を知っているのだが、教えた方がよいのか判断しかねた。
知らないのなら、現時点では接触できないと言うことだ。
我がままにはなってしまうが、なるべくなら歴史を変えたくないと言うのが本音。付喪神は『この世界には貴方の力が必要なのです』とは言っていたが救ってくれとまでは言っていなかった。本編に入って『その刻』が来ればお告げなり姿を現すなりしてくれると考えている。
「はぁー事情は理解したよー。ただ今度は何かやる時は事前に教えてもらいたいかなー。あーしたちとしてもキミをバックアップしたいと思ってるからさ」
「うん。レクス君は信じられないかも知れないけどフォローはするよ」
事前にとは言ってもレクスの知っている通りに物語が進むのか分からない以上、約束はできない。だが家族や身内を、そして自分自身を護る力がない今は彼女たちの力を借りることも必要だろう。
そして彼女たちもレクスの知識を利用したいはず。
打算だけの関係なんて好きではないが、利用する者される者。
今は生き延びるためにそうさせてもらおう。
そう思って素直に頷いておいた。
「では、無茶はしないようにねー? ウチらも盗賊討伐なんかを依頼しちゃって申し訳ないと思ってるからさ。キミはまだ子供なんだからねー」
「細かいことでもいいから僕たちに相談しなよ? いいね?」
レクスはそう言われて見送られた。
はてさて、これから〈義國旅団〉の乱、〈血盟旅団〉の乱、竜神裁判と続くが歴史はどうなっていくのか?
そしてジャグラート王国遠征に端を発する王国内の混乱。
ローグ公とダイダロス公の争い――双龍戦争がどうなるのか?
そんなことに思いを馳せながらレクスは学園を後にした。
ありがとうございました。
また読みにいらしてください。
明日も18時の1回更新です。




