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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第29話 先回りイベント(救出ルート)

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

 刻はカインがスターナ村を発ち、王都へ向かっていた頃へさかのぼる。


 レクスは剣豪の家の後継者たるブラマダンテを救うべく探求者ギルドへと足を運んでいた。冬場にギルドランク昇級試験が行われることが多いためだ。


 救うと言うのは彼女が古代人の遺産、特別変異個体に取り込まれ殺戮人形と化してしまうから。そして最後まで自分を愛してくれなかったと思い込んでいるプラマダンテとすれ違う家族との絆を取り戻すため。

 取り込まれた彼女は家族にひたすら殺してくれと願い続ける。

 最後にはプラマダンテ自身の手で、彼女の討伐に来た家族を皆殺しにしてしまうイベントだ。それを阻止して彼女の心を救い、家族とのすれ違いを無くすことがレクスの目的。


 試験はギルド内にある絶対魔力障壁の魔導具が設置された戦闘部屋でランダムエンカウントバトルが行われる。その部屋には特別変異個体が封印されており、それと戦うことになると言う訳だ。

 ちなみに絶対魔力障壁を張るとされている魔導具は古代人の遺産であり、本当の名は位相中和結界と言う。範囲内にいる者の魔力位相を一瞬で解析し中和することで絶対的は結界となるもので、お陰で部屋が壊れる心配はない。

 これは要はレクスがやっている魔力解析を一瞬で済ませると言う驚愕の魔導具であるが、この世界ではその本質は解明も理解もされていない。

 特別変異個体も同じく古代人が作った物とされており相対する者と同等の強さを持つナニカに変異すると言う物。ゴールド級以上の試験に使われる物だと聞いている。


 3日後に昇級試験が行われることを確認したレクスはその足でモントーバン家へ向かう。


 ブラマダンテを試験に参加させるためだ。

 もう少し後に起こるイベントだが、前倒しで発生させてしまおうと言う思惑がレクスにはあった。

 何故、そうまでして助けようとするのか。

 それは同情であり、憐憫そして若干の怒りがあったから。

 まだ13歳程度の子供が世界に絶望するなんて速過ぎるし、そのような状態に追い込んだ彼女の両親にも問題がある。それにそれはあまりにも悲しいすれ違いから来る誤解でもあった。


 彼女は自尊心が高く、その実力の高さから、なまじ何でもこなせてしまうため周囲に何も期待していない。若くして親にあっさりと認められたこともあるが、彼女が感じているのは物足りなさ。幼くして最強の片鱗を見せた彼女に両親が向けたのは恐れと畏れ、そして心に染み出たどす黒い感情。


 そこに愛情などない。

 それを彼女は敏感に感じ取り、戦うことで認められようとした。

 だが強者と呼ばれし者たちと戦った後に得られた物はいつも失望だけ。

 そして増々高まっていく渇望と衝動、空虚感。


 強者との戦闘に飢えているが、よしんばそれが現実になったとしても、自己評価が高くなってしまった彼女はぎりぎりまで追い詰められない限り覚醒しないだろう。


 本当の強者には出会えずに満たされない日々を送る不幸。

 無知と子供であるが故の傲慢。

 この世界はまだまだ広いことを大人レクス子供ブラマダンテに教えてやるのだ。

 大人が子供に道を示すのは当たり前――その信念は揺るがない。


 故にその興味を引けば簡単に釣り上げられる。


 剣の道場も開いているモントーバン家で彼女は師範代を務めているので、早速面会を申し込む。

 昇級試験の件で面白い話があると言うと直ぐに喰いついて来た。

 計画通り!


 通された部屋は騎士の家らしく無骨な感じであった。

 豪奢ではないものの、質の良い家具類が揃えられている。

 給仕が持ってきたお茶を飲みながらしばらく待っていると、思いの外速くにプラマダンテがやって来た

 ドアを開くにも座るにもいちいち所作が美しい。

 早速、用件を切り出すレクス。


「どうも、お初にお目に掛かります。私は騎士家が嫡男のレクス・ガルヴィッシュと言う者で探求者をやっております」

「はい。よろしくです。本日は何のご用ですか? 探求者の昇格試験がどうとかお聞きましたが」


 その絹糸のように黒くしなやか長髪を揺らして頷くと、レクスを値踏みするかのように凝視する。彼も負けじと見返すが、髪色と同じく黒い瞳は何処か光を湛えていないように感じられた。


「そうです。プラマダンテさんも探求者証を持っているそうですが、どうでしょう。一緒に試験を受けませんか?」

「はい? それで私に何かあります? 探求者の昇級試験なんて大したものじゃないですよ」


 いきなり興味が失せたと言う表情を隠そうともせず淡々と答える。

 せっかく興味を持ったのに聞くだけ無駄だったと言わんばかりだ。


「分かりませんか? 貴女はゴールド級までしか上げませんでしたよね? 強敵と戦ってみませんか?」

「ふう……私に勝てる者なんていませんよ。今まで強者と聞いた方々と勝負してきましたが、強敵なんて出会ったこともないです。……と言うか何故、貴方が私の階級を知っているのですか?」


 やはり相当な自信に満ち溢れている。

 そこには退屈から来る諦念と常勝無敗から来る驕りが見て取れる。


「ギルドで噂を聞いたんですよ。まぁそんなことはいいじゃないですか。ところでギルドに特別変異個体――思念体兵器と言う物が封じられているのはご存知ですか?」

「特別変異個体……? 思念体兵器? 聞いたことがありませんね」


「それは古代人の遺産で、相対する者と同等以上の力を持つナニカに変異するんですよ。思念体兵器ですから当然人の感情なんかは読み取られますが。それで強者と戦ってみたい貴女にはうってつけだと思ったんです」

「……! では私より強い可能性があると……?」


 恐らく特別変異個体は暴走するはず。

 イベントの発生は彼女がそれと会うことがトリガーとなっている。

 そもそも特別変異個体は相対あいたいする者を喰らい力を取り込んで最強へと至る確たる意志を持つナニカだ。そのナニカとは古代人が創造した思念体兵器なのだが、その辺りは研究などされているのだろうか。


 普段、封印してあるからと言って王都のど真ん中に置いておいて良い物ではない。

 下手をすれば大災害級の損害が出ることは間違いないだろう。

 まぁそれを起こそうとしているのが今のレクスなのだが……。


「その通りです。高火力の攻撃がなければ負ける……いや舐めてかかれば死にますよ?」


 レクスの安い挑発にピクリと肩を震わせるプラマダンテ。

 にこやかな笑顔だが目が笑っていない。

 それどころか体から発せられる圧力が激しさを増している。


「それは楽しみです。私も参加してみようと思います。ですが一緒にとは……?」

「言葉通りの意味ですよ。貴女独りでは倒せないですからね」


「!!」


 断言されたことが彼女の反感を買ったようで凄まじいまでの気迫がレクスを襲う。

 それでいいんだよ。

 無理に感情を抑え込む必要なんてない。

 子供なんだから。


 結局、3日後に探求者ギルドで会う約束をしてレクスはモントーバン家を後にした。




 ―――




「ムカつく! ムカつく! ムカつく! 私が負ける? 有り得ないんだから!」


 珍しくプラマダンテは悪態をつきながら道場への道を歩いていた。

 床を踏みしめる音が意外と煩く感じられて尚更機嫌が悪くなる。

 普段のおしとやかな彼女の姿などここにはない。

 レクスとの会話の中に置いて来たから。


「しかも死ぬとか! 私は残夢疾風流ざんむはやてりゅうの後継者なのよ! 私はッ……正統な後継ぎ!」


 そう。彼女は僅か10歳にして国王から「その腕は天下無双にして並ぶ者おらず」とお褒めの言葉を賜ったほどの剣豪である。

 小さな頃から剣を振るのが大好きだった。

 他の同じ年頃の子供たちが遊びに夢中になる中、ひたすら剣を振り続け学び続けてきた。


 そのたゆまぬ努力の結果、現在の自分がいる。

 そう思っている。


 でも――


 それが正解だったのかは判断できずにいた。

 強者たちとの決闘、盗賊の殲滅、魔物の討伐。

 どれも然して労することもなくやり遂げて見せた。


 初めはただ好きだから修行してきた。

 次は両親に認めてもらいたくて強くなろうとした。

 そして本当に強くなってしまった。それも想像の遥か彼方まで。

 幼くして人外の領域にまで足を踏み入れようとしていた彼女を両親はあっさりと認めた。


 しかしそれは彼女が望んでいた認められ方ではなかった。

 プラマダンテはその時に悟ったのだ。

 両親はもう自分を我が子ではなく化物だと思っていると。

 見つめるその目に宿るのは恐れであり、怯えであり、また畏怖であった。

 もう自分は家族から愛されてはいない。

 もうその温かみを感じることはできない。


 物足りなさを感じ始めたのはその頃からなのだろう。

 更なる刺激を求めるために探求者にもなってみて色々な経験をしてみた。


 夢を見た。

 期待した。

 心が躍った。

 そして微かに抱いた夢と希望は無惨にも砕かれた。


 やはり――満たされない。


 この世界はこんなにも狭く窮屈なものだったのか。

 あの頃のワクワクとドキドキ、高鳴る胸の鼓動は今や感じることはできなくなり、脈動しているのかどうかさえ分からないほどだ。

 心は凪ぎ、漣すら立たない。

 純粋に強くなりたいと願っていた刻も今は昔。


「レクス・ガルヴィッシュとか言ったわね! 一体何者なのかしら。古代人の遺産? どうしてそんなことを知っているの?」


 もうずっと揺るがなかった精神がまるで異常をきたしたかのようにざわめくのは何故?


 今までに大言壮語を吐いた者は数多くいたが、どれも口先だけの相手であった。

 レクスもそんな者の内の1人。

 そう思ったが答えが出るはずもなく。


「まぁいいわ! その特異なんちゃらを倒せばいいのよ! 私独りの力でね そう……簡単な話!」


 心が燃えているようだ。

 こんな感覚はいつ以来だろうか。

 ここに狂戦士バーサーカーの魂を持つ者が起った。


 プラマダンテは雑念を払うかのように一心不乱に剣を振り始めた。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時の1回更新です。

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