第8話 王都への道程
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本日は12時、18時の2回更新です。
王都までの道のりはロードス子爵領の領都から王都へ戻る商人の馬車に乗せてもらう手はずとなっていた。
隣国のサンダルフォンの鉱山都市から仕入れた魔鋼を積んでロードス子爵領の領都ロドスを通り王都へ戻ると言う。ロードス子爵領でもガルド鋼になる鋼の鉱山が存在するものの、それらで作られる武器や防具はあくまで一般兵や普通の探求者向けだ。とは言え、これも魔鋼ほどではないが中々の値段がつくらしく子爵家の良い資金源となっていると言う。
傭兵ギルド推薦であるA級の傭兵団も護衛としてついており、道中の安全は確保されたようなものである。
ダルムンク傭兵団の団長はガル・ガルガンダと言う壮年の男で大柄で鼻の下の白い髭が印象的だ。
テッドは商人に挨拶した後、ガルガンダに近づいてゆく。
「ガルガンダさん、今回の警護はアンタだったのか。俺も安心して送り出せますよ」
「ガルヴィッシュの兄ちゃんじゃねェか。久しぶりだがどうやら息災なようだな」
2人は既知の仲であった。
年齢こそ倍ほど違うが、ガルガンダはテッドの剣の腕前をそれなりに評価している。話も弾んでおり、その内容から仲の良さが垣間見える。
「まだこんな村に留まっているたァな。昔は騎士団に入ると息巻いていたモンだが」
「あの頃はまだ若かったんですよ」
「おいおい。オレからすりゃあまだまだ若いってモンだぜ。今更だがウチの傭兵団に入ってもいいんだぜ? 金だっていくらでも手に入る」
「有り難い話ですが、俺にはこの村を護るって使命がありますから」
「使命ときたか。オメェさんも変わったようだな」
肌寒い朝の空気のせいでどこか静謐な雰囲気が漂っている。
4月になったと言えど、まだまだ寒い日も多い。
レクスは少し離れた場所から2人の様子を窺っていた。
そこへミレアが小走りでやって来る。
「レクス、おはよ~。遅れちゃった?」
「まだ大丈夫だよ」
ゼーゼーと息を切らして膝に手を置き、息を整えようとしている。
「ミレアは体力つけなきゃだな」
「うう……そうだね~王都で頑張るよ~」
「何度も聞いたぞ。その言葉」
「うぐぅッ……」
ミレアはぐうの音もでないほどに図星を突かれて二の句が継げない。
その表情はどこか引きつっており、中々に面白い。
レクスはそれを傍目に再びガルガンダに注意を向けた。
話していた2人は既に別れており、ガルガンダは傭兵仲間たちに指示を飛ばしている。テッドは合流してきたミレアの家族や村長と話し込んでいる。
――ダルムンク傭兵団団長、ガル・ガルガンダ。
その名前には覚えがあった。
時流を読み、雇い主を何度も替えるやり手の傭兵で、ゲームにも様々な場面で出てくる。ある時には味方として、またある時には敵として。
また、元はイグニス公爵家の天馬騎士団の副団長を務めていたこともある。職業は魔法剣士で【フレイムソード】などの属性攻撃を繰り出して戦う強キャラだ。
「(普段はこんな仕事をやってたのか……)」
ゲームでは明かされていない部分を見るのも新鮮でよいなと考える。
レクスとしても好きなゲームなだけに知られていない要素が知れる機会は嬉しいため、ついつい顔が綻んでしまう。
「何~ニヤニヤしちゃって~」
ミレアがうっしっしと何やら悪そうな笑顔をしている。
思わず張り倒してやりたくなる衝動に駆られるレクスであったが寛大にもほっぺたをつねつねするだけに留めてやった。
やがて出発準備が整った商人一行の馬車にレクスとミレアは乗り込んだ。
ガルガンダの激励の声が飛ぶ。
「よし! 出発だッ! 王都まで8日ほど。気を抜くんじゃねェぞ野郎共ッ!」
『おう!』
傭兵団の元気な声が重なった。
こうしてレクスたちは、家族や村民に見送られてスターナ村を後にしたのである。
スターナ村は大きな街道の近くに位置するため、石畳で整備された街道の恩恵を受けることができる。
揺れの少ない馬車から見る外の風景はどこか牧歌的な雰囲気を醸し出していた。
平和である。
だがもうすぐ戦争が起こる。
そうすれば、現在の平穏も破られるだろう。
スターナ村にもどんな災厄がもたらされるかは分からない。
モブであるレクスがどこまでストーリーにかかわれるかは不明だが、せめて家族くらいは護れるようになりたいと考えている。
「(とは言え、付喪神の言葉を信じるなら深くかかわることになりそうなんだよなぁ……)」
本来ならば主人公に任せておけば全てが上手くいってハッピーエンドなのだが、そんな甘っちょろいことになるはずがないだろう。
だからこのゲームに転生することになったはずなのである。
「(何にせよ、今できることは少ないな。強くなってコネクションを作るくらいか)」
とりとめのないことを考えている内に意外と時間が経っていたらしい。
ガルガンダから小休止の命令が飛び、馬車も止まった。
隣ではミレアがこっくりこっくりと船を漕いでいる。
起こすのも可哀そうなので、乱れていたボロ毛布をミレアにかけて直してやる。
レクスも特にやることもないので、革袋に入った水を少しだけ口に含むとゴロンと横になる。
しばらくしてレクスの意識は薄れていった。
※※※
車輪に石が当たり、馬車がガタンと音を立てて揺れる。
その衝撃でレクスは目を覚ました。
ミレアも起きたようで目を擦りながらきょろきょろしている。
空はもう薄暗くなりつつある。
結構な時間寝てしまったようだ。
「やぁ、起きたようだね」
馬上から声をかけてきたのは傭兵団の副団長であるレスタ・コンスティンであった。レクスが乗っている馬車は最後尾であり、殿役を担っているのがレスタなのだった。
「えっとコンスティンさん?」
「レスタでいいよ。君はガルヴィッシュ家のレクス君だね」
「あ、はい。そうです。隣のはミレアと言います」
ミレアはまだ頭が働いていないようで、薄目でペコリと頭を下げた。
「もうすぐ夜ですね。今、何時頃なんだろ」
「4時過ぎだね。もうしばらく進むかな」
懐から取り出した懐中時計を確認するレスタ。
銀色に輝く美しい一品だが、工芸品のような渋さを併せ持っている。
ゲームでは当然グラフィックなどないので分からなかったがこの世界にも懐中時計は存在していた。
「(そういや、どこかの屋敷で振り子時計見たっけ)」
「ふぉぉぉ……かっこいい!」
村には時計がなかったのでミレアも初めて見て若干興奮気味だ。
「レクス君は魔導士なのに剣の修行もしているんだってね」
唐突な問いにレクスは一瞬質問の意図を量り兼ねたが、深い意味はないと判断する。
「……はい。剣も魔法も極めたいと思っています」
「なるほど……将来は団長みたいに魔法剣士を目指すのかい?」
「いえ……そもそも転職士の伝手がありませんし」
本当は条件さえ満たしていれば自由に職業変更可能なため、早い話が嘘なのだが自分の特異性をわざわざ話す必要もない。
気軽にできるのは貴族くらいのものだ。
平民には無理である。
ハードルが高いとかそのような問題ではなく、国家が平民の職業変更を禁止しているからである。
「レスタさんこそ、他の職業にはならないんですか? 傭兵団だしこの国の法には縛られないですよね?」
「まぁそうだね……できることなら聖騎士になりたい。小さな頃からの夢だからね。でもどうすれば成れるのか分からないんだ」
少し落ち込んだ様子のレスタの表情を見て、頭の中が?で埋め尽くされる。
聖騎士になる条件は騎士レベル8に司教レベル8になれば条件を満たすことになるのだが……。
レクスの思考が加速する。
どうしたら職業変更できるか分からない、つまりそのための条件が分からない。
「(もしかしてこの世界では職業変更の条件が解明されていない!?)」
驚いているのを察したのか察していないのかレスタは溜め息をつきながら愚痴のような言葉を漏らす。それはレクスの考えを肯定するものであった。
「条件を満たした場合になって初めてようやく何に職業変更が可能になったか判明するからね。噂ではどこかに未知の職業や職業変更の条件なんかが記された本が存在するって話は聞いたことがあるから見てみたいものだよ」
そんな話など聞いたことがないので興味を惹かれるレクス。
ゲームとしての裏設定なども反映されているのだろう。
レクスはまだまだ知らないことだらけだと自覚し、情報収集にも力を入れる必要性があるなと顎に手を当てて考える。
常識の中にレクスの非常識が紛れ込んでいる可能性も高い。
その思考を妨げたのはガルガンダの大声だった。
「敵襲だッ! 魔物が9体! 総員戦闘配置ッ! 俺たちに手を出したことを後悔させてやれッ!」
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