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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第28話 カイン、王都へ

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

 カインは以前にレクスから誘われたことを実行に移すと決めた。


 獣人で豹族――亜人であるカインを救ってスターナ村に居場所を作ってくれたテッドには感謝しかない。

 そして匿ってとても良くしてくれたスターナ村の人々。

 彼にとって村は第2の故郷と言っても過言ではない。

 だが、ここで一生を終えるのかと問われると、それはどうなのかと考えてしまう。


 レクスからは王都へ来て探求者ハンターになれと勧められた。

 それから外に出たいと言う想いは徐々に強くなっていき、現在では心がそれで満たされてしまっている。

 最早、その衝動は抑えきれなかった。


「テッドさん、お話があるんですがいいでしょうか?」

「ん? どうしたカイン。そんな思いつめた顔して……」


 テッドは不思議そうな顔をするがカインの話なら村の中のことだろうと考えていた。以前に聞いたライアンが蜂起に加わるべきだと煽動している話かも知れないとも。


「俺決めたんです。村を出て王都で探求者になろうって!」

「探求者!? ……その顔は本気みたいだな」


 思いもよらないその告白にテッドは驚くが何処かでそんな気がしていた自分にも気付く。村に馴染んできたとは言え、カインが亜人であることを気にしている様子なのは彼も気にしていたのだ。


「そうか……お前にはこの村は狭すぎたみたいだな」

「すみません……」

「謝ることなんてないさ。お前の……カインの人生なんだからな」


 俯き加減で項垂れるカインは思いつめた表情をしており、真剣に考えた結果であろうことがテッドには理解できた。彼は恩も返していない状況で自分の理想を追ってもよいのか何度も自問自答してきた。しかし抑えようとしても抑えきれないほどに胸の奥から湧きあがってくる感情。


「レクスも言ってくれたんです。王都で探求者をやれって」

「あいつが? そうか……あいつがそんなことを……」


 まさか息子がそんなことをカインに勧めていたとは知らなかったが、レクスは彼の悩みを見抜いていたのだろう。

 テッドは自分の理解が足りなかったことを恥じた。


「分かった。村のことは心配するな。カインは好きなことをして自由に生きるんだ」

「ありがとう……ございます……」


「だが忘れるなよ? お前はいつまでもこの村の、スターナ村の一員だってことをな」

「はい! テッドさん、救って頂いたご恩は一生忘れません!」

 

 カインは今までのことを思い出して気が付くと目から涙が溢れていた。

 それを見たテッドにも胸にこみ上げてくるものがある。


「頑張れ。今晩は新たな門出を祝ってご馳走だ。カインが主役だから参加するんだぞ?」


 その晩、テッド一家と村長、顔役が招かれてカインの送別会が行われた。

 皆、その別れを惜しんでいる。

 その顔はどれもカインを心配するものばかりであったが、彼は何処かで良い厄介払いができたと彼らが喜んでいるのではないかと邪推してしまう。

 心が読めない以上、そうしてしまうのは仕方のないことであった。

 人間だけでなく同じ豹族であっても同じことが言えるのだ。


 普段そこまで口数が多くないカインであったが、せっかくテッドが開いてくれた送別会だ。

 村長たちにも感謝の言葉を述べ、会話に勤しむ。

 カインを苦手としているリリスも勇気を振り絞って話し掛けている。


「あの……カインさん元気でね」

「ありがとう。リリスも元気でやれよ? 立派な聖騎士になってレクスを倒してしまえ」


 カインがわざとらしく笑顔を見せると、リリスも笑い顔を作って元気に返事をした。避けられていたとは思っていたが、頑張って声を掛けてくれたのだろうと察してぎこちなかった笑顔が自然と綻んだ。


 レクスがしてくれたように背中を押してもらえたような気がしてカインは何故か嬉しかった。




 ―――




 翌朝、カインはガルヴィッシュ邸を訪れ、幌馬車が来るのを待っていた。

 周囲にはガルヴィッシュ家の面々村長など送別会の面子が見送りに足を運んでいる。


 カインはこれで村ともお別れかと思うと何処か寂寥感せきりょうかんを覚えて大きく息を吸い込む。


 季節は冬――吸い込んだ空気が冷たく感じられ思わず体が震えた。

 次に村の空気を吸うのがいつになるか分からない。

 だからこそ今の内に味わっておこう。

 もしかしたらレクスの帰省に着いてすぐに戻ってくる可能性もあるのだが。

 世の中、案外そんなものかも知れない。


 やがて幌馬車がやってくるとテッドがカインの傍までやってくる。

 手には何か剣のような物が握られていた。


「ほれ。持って行け」

「?」


 テッドが手にしていたのは一振りの大剣であった。

 戸惑いながらもその手に握られた大剣を両手で受け取るカイン。


「ツヴァイハンダーだ。お前の膂力なら十分使いこなせるだろ」

「あ、ありがとうございます!」


 良い剣は何本あっても困ることはないので有り難い。

 それよりもテッドの気持ちが何より有り難いのだ

 長年に渡り剣を教わってきたと言う事実が認められたようでカインは胸に喜びが込み上げてくるのを感じる。


「では行ってきます! お元気で!」


「そう意気込み過ぎるな。気軽に帰って来い」

「そうよ? あなたも大事な村の一員なんだからね」

「お兄と帰ってくるといいよ」


 テッドだけでなくリリアナとリリスも声を掛けてくるが、まったく寂しさを感じさせない、むしろ心が温かくなる言葉だった。

 カインは深々とお辞儀をするとすぐに踵を返して幌馬車に乗り込んだ。

 涙を見せたくなかったのだ。


「豹族は人間に涙なんか見せないんだ」


 こうしてカインの旅が始まった。




 ―――




 王都への道のりは順調そのもので、魔物が散発的に襲ってきた程度。

 カインも戦ったが染みついた動きが勝手にその体を動かしてくれた。

 餞別のツヴァイハンダーの使い勝手もよく、とても手に馴染む。

 手入れが行き届いておりテッドが大切にしていたことが伝わってくるほどだ。


 結局、王都へは拍子抜けするほどあっさりと到着してしまった。

 冬にしては天候もよく、自前の毛皮もあって全く寒さに関しては問題ない。


 王都にたどり着いたら検問だ。

 皆が城門で引き止められて身分証を提示させられている。

 グラエキア王国は戸籍を登録しているため国民は必ず身分証を持っているのだ。


「身分改めか……ん? 身分? 身分証……? あっ」


 カインは察してしまった。

 流民である彼は当然身分証など持っておらず、就職の儀(リクルゥト)すら受けていない。

 何故こんな簡単なことに気が付かなかったのか馬鹿さ加減に呆れてしまう。


「感動のお別れから8日で感動の再会とはいかんよなぁ……」


 こうなると頼れるのは王都にいるレクスしかいない。

 何とか渡りを付けるべく幌馬車に同乗していた探求者に言伝を頼む。

 確か王立学園小等部魔導科だったか?とうろ覚えの記憶を脳をフル回転させて掘り起こす。こんなに頭を使ったのはいつ以来だろうか。


 カインは何気に脳筋であった。


 幸いなことに探求者は快く応じてくれたので助かった。

 後は待つのみ。


 だがカインの人生はそんなに甘くはなかった。

 レクスがギルドハウスに籠っていたせいでコンタクトが取れなかったのだ。

 停学中だからしょうがないね。


 結局、寮のレクスの部屋を訪れたミレアが溜まっていた手紙などを回収し、それをホーリィに託したことでようやく話が進み始める。

 溜まっていたのは手紙だけでなく、ミレアのストレスもだったのだがレクスが知る由もない。彼女はスラム街には来るなと言う言葉を頑なに守っていたため、幼馴染に会えない症候群を発症していたのだ。


 城門まで迎えに行ったレクスがカインを見つけて在留許可証を発行してもらい、何とか王都へ入ることができた。


 この間4日。


「おう、カイン。久しぶりだな」

「どうして連絡がつかなかったんだよ! ここ2日吹雪で死ぬかと思ったんだぞ!」

「お、おう……流石の豹族の毛皮も耐えられないか。ははは……悪かったよ」


 ここ数日は王都付近を寒波が襲っていたため多くの人々は家に引きこもって内職などに励んでいた。レクスも当然の如く温かい部屋でまったりして過ごしていた。


「ま、まぁ取り敢えず探求者登録に行こう。在留許可証は2週間で切れるからな。早いとこ済ませちまおう」


 レクスは居心地の悪さを誤魔化しながら話題を変える。

 カインが喰いつくネタと言えば探求者しかない。


「頼む。色々教えてくれ。きっちりとな」


 少しばかり棘があるような気がしないでもないレクスであったが、ミレアとホーリィを連れて探求者ギルドへ向かう。

 ミレアも久々の再会が嬉しいのかカインにぺちゃくちゃと話し掛けている。

 家族からの手紙を預かっていたらしく彼女はそれを受け取って目を輝かせていた。


「(ミレアがいると色々助かるな……場を明るくさせる力があるし)」


 そして長かった。とても長かった刻を経て一行はようやく探求者ギルドへ到着したのであった。

 ここ数日の寒さのせいもあり、カウンターに並ぶ人はまばらで、むしろギルド内の飲食スペースに多くの探求者が集まって酒盛りしている。真昼間からだ。


 やがて順番がくるとカインは登録する旨を受付嬢に伝える。

 今回はベテランのジーマが担当者だ。


「では登録に当たり鑑定をさせて頂きますね。すぐに呼んで参りますのでお待ちください」


 お金はレクスが立て替えた。

 カインがお金を持っているはずがないから。

 絶対に吹雪の中待たされたカインの恨みが怖かったからではない。

 断じて違うのだ。


「鑑定までしてもらえるのか! 有り難いな……これで俺の職業クラス技能スキルもやっと分かるって訳だ」

「まぁな。それに身分証代わりになるから失くすなよ? 後、国民になるか聞かれると思うが保留しといた方がいいかもな」


「国民に? そう簡単になれるもんなのか?」

「いや審査がある。素行や思想に限らず、まぁ色々だな。年単位で調べられることもある。それに国に縛られずに生きるって選択肢もあるんだ。良く考えてから決めるんだな」


 レクスのアドバイスを受けてカインも真剣に考え始めたようだ。

 やがてジーマが鑑定士を連れて戻ってきた。

 そしてカイン念願の完全なステータスが彼の眼前に現れる。


名前ネームド:カイン

位階レベル:6

称号インペラトル:豹族、平民

指揮コマンド:☆

所属アフィリエ:グランネリア

職業クラス守護騎士アークナイト

熟練デグリー:3

能力ファクタス:『豪剣』

技能スキル:【獅子咆哮】


 これはあくまでカインと鑑定士にのみ見えている情報であり部外者のレクスたちには見えない。それ故、鑑定士なしだと詐称して悪さをする者が出てくるのだ。


「良かったな。これでお前も晴れて探求者の仲間入りだ。これからもよろしくな」

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

「やった~めでたしめでたしだね~」

「私が鍛えてあげるわぁ……」


 結局、カインはグラエキア王国の国民にならない選択をした。

 見聞を広めてから決めるつもりなのだ。


 後は、力をつけて家族を殺した奴隷商人を殺す。

 これがカインの本懐。

 心の闇。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時の1回更新です。

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