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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第27話 イフェド侯爵への警告

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時と21時の2回更新です。

 〈義國旅団ユリスティオ〉の王都勢力は一掃され、王都グランネリアに平穏が訪れた。


 レクスは戦いの疲れをギルドハウスで癒している状況だ。

 高級娼館でのヒース・イリーガルとの戦いでガストンとの間には埋められない溝ができたように感じる。

 言うまでもなくレクスの関係者はほとんどが平民である。

 それを承知であそこまで平民を馬鹿にすれば反感を買うくらいは理解できるはずなのだ。


「柄にもなく怒ってしまった……少し意固地になってしまったか……?」


「マスター、お疲れのようですが大丈夫でしょうか?です」

「ん? ああ、大丈夫だよシャル。ごめんね」

「とんでもありません。マスター」


 心の乱れは魔力の乱れ。

 レクスと繋がっているシャルはそれを敏感に感じ取っているのだろう。


 そこへヤンが数人の仲間を連れて帰ってきた。

 居室に入りレクスがくつろいでいるのを見るなり近寄ってくる。


「レクス兄ちゃん、今、何個か情報を持ってきたんだけどさ」

「ああ、お疲れ様。座ってくれ。シャルー何か飲み物ちょうだい」

「イエス、マスター」


 珍しくソファでぐでーっとしているレクスの対面にヤンたちが腰を下ろした。

 流石にだらけたままと言う訳にもいかないので居住まいを正す。


「何か掴んだのか?」

「うん。あの教会……ジーク教会なんだけどさ。あそこにすごい支援してるのがイフェド侯爵って貴族らしい」


「ジーク教会? スラムにある教会と修道院のことか?」

「そうそう。礼拝に行って修道女さんと仲良くなったんだけど、そう言ってた」


 シャルが果実水を持って来てテーブルに置いていく。

 ヤンたちはすぐにそれに手を付けると美味しそうに飲み始める。


「ぷはー美味いなぁ! こんなのが飲めるようになるなんて思ってもみなかったよ。なぁ!」


 嬉しそうに語るヤンに他の子供たちも笑顔を見せて頷いた。

 それを見ると少しでも役に立てたようでレクスとしても嬉しくなると言うものだ。


「(イフェド侯爵か……イフェド……? 思い出した。漆黒竜の血脈を持つ貴族じゃないか。確か漆黒竜の血を継ぐ侯爵家が昔に分岐した同族の女性とくっついたんだったか? 血は弱かったはずだけど両親の血を次いで色濃い血を覚醒したはずだ。子息の名は確かヴァハルだったな。接触すべきか……? 漆黒の大司教ガルダームが漆黒の宝珠(ジェット・サフィラス)を手渡すことでその体を憑代よりしろにして漆黒竜ガルムフィーネが復活する。忠告しておくべきなのか……一応会ってみて考えるか)」


 レクスが黙考し出したので誰も声を掛けることはない。

 こうなった時は邪魔しないようにと言う彼らなりの気遣いだ。


「ヤン、侯爵はジーク教会にはよく訪れるのか?」

「うん。よく顔を出して下さるって修道女さんが言ってたよ」

「いつ……時間帯なんかは分かるか?」

「日曜日らしいけど……昼頃に礼拝にくるらしいって」


 日曜日――今日である。

 レクスが知っているヴァハル・ド・イフェドは冷酷で残虐非道、ガルムフィーネに精神を乗っ取られて人が変わったように酷薄な性格になったと言う事実のみ。

 漆黒の宝珠(ジェット・サフィラス)を手にする前のことなど知らないのである。

 気になるのは仕方のないことであった。


「そっか。もう昼だしちょっと行ってくるかな」

「あ、待ってよ兄ちゃん。もう1つあったんだけど、街の騎士様が剣の道場を開いてるらしいんだけど、そこの後継ぎが凄く強いんだって」


「名前は?」

「ええと……ブラマダンテって名乗ってたらしい……そうだったよな?」


 ヤンはうろ覚えだったようで隣の子供に確認するとその子が頷いた。

 彼曰く、街で情報収集中にゴロツキに絡まれて助けてもらったそうだ。

 それを聞いたレクスは子供たちの強化を急がなくてはと考える一方で、ブラマダンテと言う名前にも覚えがあることを思い出す。


 ――剣豪ブラマダンテ


 名高いモントーバン家の女子でその才は騎士である兄たちに勝るとも言われるほどの女傑である。家を出て活躍する兄たちの代わりに女子でありながら家を継ぎ、若干13歳にして騎士爵位を賜る実力を持つ。

 幼くして才能を開花させた彼女はその若さにして達観しており、何でもやればできてしまうため羨望の視線で見られている。心が凪いでいる一方で、強烈に愛を求めるも心を許せる存在がなく、何にも期待していないため周囲のみならず両親からも腫れものを触るように扱われている。だが彼女は別に家族から粗略な扱いを受けている訳ではなく、自身がそう思い込んでいるだけで実際はちゃんと愛されている。要は出来すぎた娘とその家族がすれ違っているだけ。紙一重。レクスの1つ年上。


 彼女もまた特別なキャラだ。

 探求者ハンター関連のイベントで仲間にできるのだが、それがかなりの高難易度を誇る。

 救いがないと言うべきか、序盤なので高確率で魔神デヴィルに無惨にも殺されてしまい実際に仲間にすることができずに泣いたプレイヤーは多い。

 儚げな美人な上に無類の強さを誇るので人気が高く、殺された後の扱いも酷いので同情を買うキャラである。魔神デヴィルに殺されることで魂を乗っ取られ、人を殺し続けるだけのキラーマシーンと化し殺戮を求めるだけの存在となる。


 そして彼女は自らの死をひたすら望み続ける。

 最後は討伐に来た両親や兄妹たちと相討ちになり、家族が全員死ぬと言うバッドエンドを迎えると言うやるせなさ。

 そんな救いのなさが、また人気に拍車を掛けている。


「取り敢えず教会に行ってみる。その後はプラマダンテだな。ヤンたちはいつ戻り魔力鍛練の後、情報収集を頼む。しばらくは鍛練長めで」


 〈義國旅団ユリスティオ〉の件があったので、何かがあった時でも彼らが少なくとも逃げられるだけの力を付けさせる必要がある。そう言う判断の上の指示であった。


 レクスは果実水を一気に飲み干すと、いつもの探求者スタイルにジャケットを纏い外へ出た。


 ヴァハルの人柄を知り、必要ならガルダームから漆黒の宝珠(ジェット・サフィラス)を受け取らないように釘を刺しておくべきか。

 無理やりに体内に宿らされたら注意など関係ないが、忠告するのはただなのでやっておいて損はない。後はどう説明するかだなとレクスは頭を悩ませる。


 スラム街は依然として活気はないままだが、何処となく張りつめた雰囲気は和らいでいる。〈義國旅団ユリスティオ〉が駆逐されたお陰で、彼らを利用し搾取する者がいなくなったからである。まだ王国からの税があるので負担はかなり大きいだろうが、少しはマシになったはずだ。


 ちなみに探求者ハンターも報酬から税を取られており王都での探求者稼業は収入が少ない。

 そのため王都の探求者は質が低いと言われているし、実際その通りであった。

 対して不浄の大森林の盾であるザビ侯爵領やバルバストス侯爵領では屈強な探求者を集めるために税を軽くしているため、優秀な者が集まると言う。


 やがてヤンが言っていたジーク教会が見えてきた。

 久しぶりに訪れるが変わりがないか心配なところだ。

 なにせ王都で古代神信仰なのだから。


 修道女に礼拝に来たことを告げ教会に入ると、かなりの数の礼拝者が椅子に座り古代神とされる像に向かって拝んでいる。

 古代神と漆黒神は絶対神とは異なり偶像崇拝されている。

 とは言っても絶対神の存在を知る者はほんの僅かであり国家レベルではカルディア公爵領にある小島国――ティア聖教国だけである。


 レクスが内部をぐるりと見回すと質素な服装をした者ばかりだが、一際目立つ服装をした若者が1人。

 徹底解説ガイドのグラフィック通り、銀灰色ぎんかいしょくの長髪に漆黒のトレンチコートのようなものを着ている。明らかに異色な存在であることが分かる。


 礼拝が終わるのを根気よく待ってレクスはイフェド侯爵と話している司祭に頭を下げると話し掛けた。


「司祭様、お久しぶりです。お話中に申し訳ございません」

「おや……確か貴方は以前いらした……」


「申し遅れました。レクス・ガルヴィッシュと申します」

「おお、礼拝にいらしてくださったのですな。古代神ロギアジーク様のご加護があらんことを」


 司祭が丁寧にレクスに黙礼すると、レクスはそのやり取りを黙って見ていたイフェド侯爵に臆することなく話し掛けた。


「もしや貴方様はイフェド侯爵閣下ではございませんか?」

「ああ、如何いかにも私はイフェド侯爵家の者だよ」


「レクス殿もご存知でしたか」

「はい。ご縁があると伺いまして。貴方様はご当主でいらっしゃるのですか?」

「まだまだ若輩さ。18歳のね。侯爵と言っても継いだばかりの名ばかりな未熟者なんだ」


 その漆黒の瞳がはにかんだ笑みによって見えなくなる。

 元々切れ長の目は増々細くなっていた。

 謙遜するイフェド侯爵であったが、司祭は大口の支援者である彼を持ち上げることを忘れない。


「いえいえ、そうご謙遜なされますな。貴方様の莫大な支援金のお陰で我がジーク教会は成り立っております故」

「そう言ってもらえると悪い気はしないが、全ては信じる神のため……それを護りし人々に支援するのは当然のことさ」


 どう見てもその言動は18歳らしい好青年に映る。

 柔和な表情で物腰も柔らかいので話しやすい。

 礼拝を終えて帰宅する人々からも親しまれているらしく、平民から挨拶をされて手を振ったりもしている。しばらく何気ない話に終始していたが、レクスはようやく本題を切り出すことにした。


「そう言えば私の知り合いに古代神の従属神である戦神ホーリィ・エカルラート聖下がいらっしゃるのですが……」

「エカルラート聖下が? 凄いな。貴方は一体何者なんだい?」


 イフェド侯爵が驚いたようでスッと目を細めて問い掛けてくるが、ここは正直に答えるだけだ。そもそもレクスも何故、ホーリィが着いて来たのかなど聞いていないし想像もつかない。


「たまたま知り合っただけの単なる平民ですよ。彼女が言っていたことが気になりまして今日ここに足を運んだんです」


「言っていたこととは?」

「まさか聖下のご神託でしょうか?」


 流石は古代神を信仰してるだけあって興味津々な様子を見せる2人。

 旧世界と違って本当に神が実在しているのだから会ってみたいと思うのが人情かも知れない。


「ええ、予言めいたことをおっしゃっていました。漆黒の宝珠(ジェット・サフィラス)には近づくな。触れてはならぬ、と」


漆黒の宝珠(ジェット・サフィラス)ですか……? それは一体……? 司祭殿は知っておられるか?」


「私も存じ上げませんな」


「漆黒竜の話はご存知ですね?」


 レクスの問いに2人は揃って頷いた。

 使徒が治める国なのだ。 

 知らない方がおかしい。


「それを体内に宿すと漆黒竜が復活する可能性があります。誰が血を受け継いでいるか分からないですからね……復活を許せば世界は再び混沌とした時代に戻るでしょう」


「なるほど、それで宝珠サフィラスの名がでてきた訳ですね……他ならぬ聖下のお言葉なれば疑うことなどできましょうか」


 心の内など読めるはずはないが、どうやら納得はしてもらえたようだと安心するレクス。どうせ彼にもその内、漆黒司祭の手が伸びるだろうが、イフェド侯爵が漆黒竜の血脈に連なる者だと断言すれば疑われるだけだ。

 力のないレクスでは少し足掻いてみたところでゲームのストーリーを大きく変えるのは難しいだろう。しかし本来ならストーリーに絡まないモブでも予期せぬ動きをすれば少しばかりは運命が変わる者もでてくるはずである。


 護るべき身内は最大限努力して護るのだ。


「十分ご注意なされませ。注意してもし過ぎることはありませんから」


 レクスはそう言って別れを告げるとジーク教会を後にした。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日は12時の1回更新です。

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