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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第26話 激怒のレクス

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時と20時の2回更新です。

「逝ったか……大した使い手だったよ。あんたは」


 ヒースが部屋の方を見ながらポツリと呟く。

 別に相棒だった訳でも信念が同じだった訳でもないが、彼の身の上を知っている者からすればどうしてもいたんでしまう。


 王都の拠点が全滅したのが事実なら最早この場所に未練などなかった。

 他の場所には強者と思える者などいなかったから。


「戻るか、ユスティーツァに……」


 チラリと寝ているガイネルを一瞥すると、廊下のガラスを割る。

 大きな音を立ててガラスは砕け、散り白み始めた空の光を浴びてキラキラと煌めく。当然その音に反応したのはシグムントやガストンたちであった。


 特にシグムントはガイネルが倒れているのを見て走り出していた。

 元々大した距離はないので、すぐに駆けつけると倒れているガイネルの様子を窺う。


「心配すんな。気絶してるだけだ」


 あちこちから出血はしているものの重大な傷はなさそうだとシグムントは安堵の溜め息を漏らした。すぐに臨戦態勢を取るがヒースからは全く覇気が感じられない。


「そいつに言っといてくれや。正義を証明したいなら自分の力でそれを示して見せろってな。正義正義正義って今のまんまじゃ、ただの道化だぜ」


 そう言い捨てて窓から退散しようとしたヒースを止めた者がいた。

 ガイネルである。


「まだ勝負は着いていないぞ……逃げるつもりか……?」

「ハッ……言うことだけはいっちょ前なガキが……いい加減にしねーと殺すぞ」


 いきなり至近距離で発せられた殺意の波動に不用意に近づいていた全員が硬直する。誰もが動けずにいる中、その緊張感を打ち破る者がいた。


「おーい。地下室は片付いたぞー!」


 何とも場違いな陽気な声を上げながら近づいてくるのは、レクス・ガルヴィッシュその人であった。とは言っても空気を読める大人なレクスは、すぐに様子がおかしいことに気付く。


「何かあったのか? ってヒースじゃねーか。今から戦うところだったのか?」


 倒れながらも何とかして体を起こそうとしているガイネル。

 それを護るかのように立ちはだかるシグムント。

 何故か茫然とした顔付きをしているその他の面々。


「何だ、お前……? 俺のことを知ってるみてーだが」


 そりゃ知っている。

 〈義國旅団ユリスティオ〉の乱の鎮圧戦ではお世話になったからな。

 団長のギュスターヴと幹部のヒースのコンビには泣かされた者は多い。

 序盤にして最大のハメ場。

 1つのステージにボスが2人とか反則だろと言われるほどひどいのだ。

 セーブポイントを間違えば余裕で詰む。


 そんなことを考えながら目の前の男を観察する。

 茶髪の軽薄そうな長髪をしたワイルドな男。

 右目の眼帯とシルバーのアクセサリに紙装甲の装備。


 当たらなければどうと言うことはないを体現している男である。

 とにかく回避率が半端なく攻撃が当たらない上に、能力ファクタスの『奥義』から繰り出される強力な技の数々。


「まぁ知ってると言えば知ってるんですけど。会うのは初めてですね」

「変わったヤツって言われないか? お前さん……」


 あんまりと言えばあんまりな発言にレクスは少し意外そうな表情になる。

 全く心外だと言った顔だ。


「まぁ、戦うのなら相手になりますよ。それともこんなガキとは戦えませんか?」

「はッ……言うねー。お前さんみたいなのは嫌いじゃないぜ」


 レクスは無造作に剣を抜くとだらりと剣をぶら下げる。

 戦うのか戦わないのと言った問い掛け。


 徹底解説ガイドには、ヒースは強硬派・革命派ではないが、後にギュスターヴの命令に従ったと記述があった。どの時点で心変わりしたのかも気になるのだ。


 そんなレクスの雰囲気を察してか鞘に収めていた刀を抜こうと柄に手に掛けた。

 そこへ予期しないところから声が上がる。


「何を平民だけで話を進めている……貴族のオレを差し置いて勝手に語るなッ!」

「ふーやれやれ本当に構ってちゃんか。貴族ってのは常に自分が中心でないと気が済まないんだろうな」


 ガイネルがまた何か言い出したのかと思いきや、その人物はガストンであった。

 眉間に皺を寄せるほどに険しい顔付きでヒースを睨みつけている。

 ガイネルやガストンがヒースと言い合いをしたことなど地下室にいたレクスは知る由もない。


「はははッ……オレが言いたいのはそんなことじゃない。理解力もない下賤な立場でよく偉そうな口を叩けたものだな」

「分かった分かった。その話、聞いてやるからさっさと言え」


「何だその態度はッ! まだ立場の違いが理解できないのかッ!? オレが言いたいのはこの世界の真理! この世の摂理だッ! そもそも貴族は神から祝福と加護を受けた選ばれた存在であり、貴様ら平民は選ばれなかった哀れな存在なのだ。当然、貴族と平民は平等などではないし命の価値そのものが違う!! 生まれ落ちた時点でオレとお前ら平民の間には越えられない壁が存在するんだよ! 分かるか! オレたち貴族は神の御子みこ、お前ら平民は人間ですらない家畜以下の存在なんだよ! 外見からして違う! 造りから違うのだ! オレたち貴族は神の現身うつしみであり、その眷属である天使に似た特徴を持つ。金髪やそれに準じた美しい髪色と瞳を兼ね備えているが、平民はどうだ……黒髪や茶髪、それはまさに堕天した魔神デヴィル悪魔デーモンを彷彿とさせる暗黒の化身よ! これが本質だ! 根源たる魂……その精神そのものが穢れているのが平民であり、オレたち貴族が導いてやらねばならない理由なのだッ!! 道を示してやるだけ有り難いと思うべきなんだよッ!!」


 言い切った、完全に論破してやったと言う顔をしているガストンにレクスはドン引きしていた。貴族至上主義者である過激な思想を持った人物であるとは理解していたが、まさかここまでとは思ってもみなかったのだ。


 設定を読んだだけでは分からない部分も多いのだと強く認識させられる。

 ヒースも額を押さえて俯いている。

 頭が痛いのだろうことは想像に難くない。


「(貴族はこんな考え方をしているのか……それともガストンが特別なのか……? ガイネル、君は……)」


 シグムントも一応は平民と言う身分扱いなので思うところがあるのだろう。

 目を伏せて無表情なのだが、何処か悲しげな感情が垣間見える。


「(貴族と平民の確執はこれほどまでに深いのか……平民は確かに愚かだが、シグムントのように話せば分かる者たちもいる。僕はガストンとは考え方が違うはずだ……)」


 シグニューが心配するのは兄のシグムントの心境とガイネルとの関係性である。


「(兄さんが考えていることは分かるわ……ただガイネルさんは……? 2人共今までの関係でいられるといいんだけど……)」


 これには流石の正義馬鹿のガイネルも感じ入るところがあったのか、無言を貫いている。表情にも何処か影が差している。


「(何をごちゃごちゃと言ってんだ。当たり前のことだろうが。態々(わざわざ)説明してやるほどのことじゃねぇだろ)」


 バウアーは憮然とした顔を隠そうともしない。

 彼は彼で平民などただの玩具だと考えており、壊れても替えの利く程度の物と言う認識である。


 誰もが無言になる中、レクスが口を開く。

 呆れて物も言えないところだが、今は呆れを通り越して怒りすら感じる。

 元々ネタキャラとしか見ていなかったが、この程度の奴だったか。


「あのなぁガストン。お前はそんなに違いを強調して何が言いたいんだ? 結局は神に選ばれたか選ばれてないかってことか? それなら答えは簡単だ。神などいない。よって選ぶ奴もいない。と言うことは人間は全員が平等でありそこに上下はなく貴賤もない」


「神がいない? 神がいないのは平民だけだ。つまり人間かそうでないか。そこには大きな違いが存在する。言っただろうが。越えられない壁が存在するとな」


「確かにこの世界には存在するが、それはあくまでも設定上の話だ。つまり作り話なんだよ。お前が持っている信仰心も所詮見せ掛けだけのパラメータに過ぎない。偽りの信仰って奴だな。それを知らずにこの世の真理? この世の摂理? 笑えない冗談だぜ。そんなものを語る資格なんざお前にはないッ!!」


「設定だと……? パラメータ? 一体何の話だ? それとも何か? 平民の世迷い事か?」


 このゲームには信仰心と言うパラメータがある。

 信仰している神への信仰心が強いほど、その神の力を根源として魔法の効力が高い。つまり回復魔法なら回復量が多くなり、攻撃魔法なら受けるダメージが大きくなる。


 ちなみにレクスはこの世界の神など信仰していない――信仰心0なので魔法は効きにくい。


 本人はまだ自覚していないことだが。


 何故か家族や故郷の人たち、そして今まで絡んできた者のことが思い出されて苛立ちが止まらないレクス。

 ここまでキレそうなのは元から好感度が低かったからと言う訳もなさそうだ。


「平民が言ったことは全て無価値な戯言たわごとってどうしても言いたいらしいな。何をそんなに怯えているんだ? 俺にはお前が必死に虚勢を張っているだけに見えるぜ? ああ、そうだったな……お前は確かに貴族だった。ははッ今は没落しちまったけどな!! 何だ? これも神様に選ばれなかったからなのかもなぁ!! 無価値な家畜野郎がッ!!」


「き、貴様……平民風情が何を言っているか理解しているのかッ!!」


「はッ! 図星を突かれて怒ったか!? 没落貴族なんざー言ってみりゃ平民じゃねーか! この元貴族様がよぉ! 弱い犬ほどキャンキャン吠えるもんだぜ? 今のお前がまさにそうじゃねーか! これも神の御心って訳か!?」


「口だけは上手いようだな。だがオレは強い信仰心を持っている。神の御心だと? 神がそのようなことをお許しになるはずがない! オレは神を疑わない!!」


「お前に神はいないッ!!」

「!!!!」


 絶句して固まるガストン。

 平民にここまで言われて心が壊れたのかも知れない。

 それとも脳のキャパオーバーか。


「くっくっく……ふー。結論が出たな。お前さんも中々おもしれーヤツだな。縁が有ったらまた会おうぜ」


 じっと会話に耳を傾けていたヒースだったがガストンが閉口したのを見て愉快そうに嗤う。

 そして一方的に別れを告げると割れた窓から外へと飛び降りた。

 ここは3階なのだが……。


 微妙な空気になったものの、拠点を潰すことは成功した。

 幹部のヒースは逃したがこれで王都内から〈義國旅団ユリスティオ〉の勢力は駆逐されたはずだ。


 本来なら凱旋となるはずの帰路であったが、何とも言えない最悪の雰囲気が一行を取り巻いていた。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日は12時の1回更新です。


面白い!興味がある!続きが読みたい!と思われた方は是非、

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モチベーションのアップにも繋がりますのでよろしくお願い致します。

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