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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第25話 義國旅団・王都戦 ②

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時と20時の2回更新です。

 ガイネルはシグムントとガストンらを連れて階段を駆け上っていた。


 出会う者は全て攻撃してくるお陰で、ガイネルも躊躇なく反撃できる。

 問答無用で襲ってくる者になど慈悲はない。


 相手は大人だが、彼らが苦戦することはほとんどなかった。

 日々、中等部や貴族士官学院で鍛練を積んでいる者と、持っている力を己の権力と勘違いして遊び呆けている者。


 その差は歴然だ。

 位階レベルに差があれば子供でも大人に普通に勝つことができるのである。


 ガイネルとシグムントはもちろん、ガストンもしっかり戦えていた。

 

「平民如きがオレたちの邪魔をするなッ! 道を空けろッ!」


「ガキが何を抜かす! お前らに何ができる!」


 ガストンと男による剣撃の応酬が始まった。

 ここまでくると〈義國旅団ユリスティオ〉であることを隠そうともせずに攻撃を仕掛けてくる。


 ガイネルとしては貴族の敵として楽に断罪できる。

 こちらには正統な大義名分があると言う訳だ。


「【斬撃必殺ざんげきひっさつ】」


 ガストンの『騎士剣技』が放たれる。

 剣に宿った斬撃の力が大きく膨らみ、その大きさを大剣ほどにまで変化させる。

 男は振り下ろされた攻撃を受けるが、普通の一撃ではない、必殺の一撃に剣は圧し折れ、そのまま体を斬り裂かれてしまった。


「【叩き割り】」


 シグムントも『戦技』を発動して文字通り、相対していた男との頭蓋を叩き割る。脳天をかち割られた男は脳漿のうしょうを飛び散らせながら倒れ伏した。


「行こう! 恐らくヒースは最上階だ」


 ガイネルの叱咤が飛び、その命令に皆が頷く。

 騎士もいるため2階は瞬く間に制圧された。


 再び階段を駆け上がり3階に到達するも人影は見えない。

 周囲を警戒しながら進んで行くが廊下を挟んだ両隣からは人の気配はしない。


「ガイネル、逃げたんじゃないか?」

「どうかな。確か3階に4人だったっけ。レクスが言ってたのは……」


 そしてとうとう突き当りの大部屋までやってきた。

 中からは人の気配がする。

 流石に逃げられないと思い、集まったのだろう。


 ガイネルはシグムントと目を合わせて頷くと、意思を確認し合った。

 そしてシグムントが扉を蹴り破る。


「3rdマジック【空破斬刃エアロカッター】!!」


 部屋の中から力ある言葉が響いたかと思うと凄まじい速度で全てを薙ぎ斬る疾風の刃が飛び出して来た。


 攻撃を予想していたシグムントは前転して躱しつつ室内に入り、ガイネルも余裕で回避する。シグニューは離れていたため、慌ててはいるが平気であった。

 ガストンは慌てて床に伏せて無事だったが最後尾に陣取っていた騎士が魔法を喰らって上半身と下半身が別れを告げた。

 光魔導士がすぐに治癒魔法を掛けようとするが、すでに事切れているようで諦める。


「今のをよく躱したな。中々やりおる」


 魔導士然とした男が不気味な声でガイネルたちを褒めるが、全く心が籠っていない。

 部屋にいるのは4人。

 攻撃魔法を放った男、そして左右に女をはべらせてベッドに上半身を起こして余裕ぶっている男だ。


「一体どう言う了見だ? 貴族さん方とは上手く付き合ってたと思ってたんだかなぁ……」


 未だにベッドから動こうとしない男――ヒースが不思議そうな声で尋ねる。

 その興味深そうな視線は先頭にいたガイネルに向けられていた。


「貴様がヒースか……? 貴族と上手くやっていた? 何のことだ? 僕は正義から逸脱する者を許すことはない」


「あー、まだガキじゃねーか。いるんだよなぁ……正義感に燃える馬鹿貴族。それに正義の味方に憧れる年頃ってーのは誰にでもあるもんだ」


 あくまでも余裕の態度を崩そうとしないヒースにガイネルが強い言葉を吐きかける。揺さぶりをかけるつもりもあったが、苛立つ言葉を投げ掛けてくる彼の態度を崩したいと思ったのだ。


「貴様ら〈義國旅団ユリスティオ〉は王都から全員叩き出すことが決まった。そこに慈悲などない」


「いやに急な方向転換だな。俺たちを捕らえれば困る貴族だっているだろーになぁ。それに本拠には腐るほど団員がいるぜ? 余程の戦力を投入でもしたのか?」


「スラム街の本拠のことか? あそこは昨晩、何者かの襲撃で壊滅したぞ。今頃は他の拠点も同時に襲撃を仕掛けている。後は貴様らだけだ」


 それを聞いてようやくヒースの表情に変化が表れた。

 意外な事実に驚きと感心が交じった感情が声色に混じっている。


「ほー本拠が? やるじゃねーか。まっさかあそこが落ちるなんてなぁ。んでエドガールはどうなった?」


「エドガール……? ああ、当然捕らえたさ。まさに一網打尽って奴さ」


 ガイネルは何も知らなかったので敢えて嘘を吐いた。

 エドガールと言う者が強者である可能性を考えた時、態々(わざわざ)話して希望を持たせるのはよくないと判断したから。


「はッ……あいつも人生終了かー。どうせ〈義國旅団ユリスティオ〉は全員死罪なんだろ?」


「当然だ。王国に仇為す者たちには相応の報いを受けてもらう」


 当然の如くガイネルは断言する。

 彼にとっては王国が正義。

 竜神たる古代竜の血脈を受け継ぐ者たちの行動に疑問を挟む余地などない。


「報いねぇ……俺らの先代が王国のために戦った時には何の報いもなかったって話だがなぁ。貴族ってーのは勝手なもんなんだな」


「王国は疲弊していた。国民なら国のために我慢すべきなんだ」


「ふーん……王国が困った時は上から命令しておきながら、こっちが困った時は死ねと言うのか?」


「国あっての民だ。是非もない」


「まー。お前さんが正義を語るのは構わんが、もうこの国は末期だろ? 各地で蜂起が起きているようだしな。あーあ、俺たちを厚遇しておけば未来は変わっていたかも知れんなぁ」


 黙って聞いているシグムントの表情は冴えない。

 自分が平民出身なだけに彼が持つ貴族に対する劣等感と敗北感がどうしても頭をもたげてくる。


「(ガイネルは……イヴェール伯爵家は平民である俺たち兄妹によくしてくれた。他の貴族とは違う……だがガイネルの言う正義は平民には当てはまるのか? それとも貴族の貴族による貴族のためだけの社会、正義なのか……?)」


 シグムントは臨戦態勢を取りながらも湧いて出る疑問を打ち消すことができずにいた。それに気付くはずもなくガイネルとヒースの舌戦は続く。


「ほざけ! 王国は古代竜の加護に護られている。世界を漆黒竜の危機から救い出した古代竜の力があるッ!!」


「どうかな? 貴族たちも随分と堕落したようだしそろそろ限界も近いんじゃねーの?」


「誇り高き貴族が平民のように堕落するはずがないッ!!」


 ガストンが聞きづてならないとばかりに口を割り込ませる。

 余程頭にきたのか顔を紅潮させて今にも飛び掛からんばかりの体勢だ。


「そっちのガキも同じ感じかよ。これはもう救いようのない馬鹿ばっかだな」


「馬鹿だと!? 貴様らの理念は知っているッ! 貴族を打倒して自由で平等な社会を実現するだとッ!? 平民に何ができるッ! 学も教養もない何も持たない愚か者たちが!」


「知識を独占してんのはそっちだろーが。まぁ俺も貴族を打倒するなんてことは本気で考えちゃいねーが、平民が願ってるのは平和に安心して暮らしたいってとこだろ? そんなささやかな願いすらも傲慢だと言うつもりか?」


 ヒースはギュスターヴのような貴族打倒・革命派ではないし、エドガールのような立ち回りで徐々に社会を変革しようなどとも考えていない。

 彼は理想に共感しているのではなく、単に〈義國旅団ユリスティオ〉が持つ力を背景に好き勝手したいだけなのだ。

 だが平民を差別する貴族に対して思うところがない訳ではない。


「とにかく大義名分は我らにあり。故に正義はこちらにある。僕は貴様らの悪事を放置することなどできない! できるはずがないッ!」


「悪事だと? ではその貴族様方が悪事に手を染めてないとでも言うのか? 無知とは罪……至言だな」


「平民の護り手であるはずの貴族が悪事を行っていると? 僕を騙そうとしても無駄だ。僕は揺るがない」


「かー! 本当に話が通じねーのな。仕方ねー。となればこれ以上の話し合いは無意味――力で決着をつけるのみ――」


 ヒースははべらせていた女に「続きは後でやってやんよ」と言って起き上がると台に立てかけてあった刀を手に取る。

 女たちからはなまめかしい声が漏れる。

 表情にも恐れの色がないことからヒースの実力を知っているのだろう。

 ベッドの前までくると美しい所作で鞘から刀を抜き放つ。

 その動作は何処か洗練されたものを感じさせた。


「ヒース・イリーガル、推して参る!」


「相手は僕がする! 来い!」


 先程までとは打って変わって真剣な表情になったヒースがガイネルに飛び掛かる。

 いや、その言葉ではヌルい。ヌル過ぎる。

 動いたと思ったら既にガイネルの目の前にいたと言うのが正確だ。

 反応しきれなかったものの、反射的に体が動いたことで致命傷は避けられたが、右脇腹から左肩まで斬り払われて大きく傷つくガイネル。


「くッ……」


 想定外の速度に驚いて思わず焦りの声が漏れる。

 何とか後方へ飛んで体勢を立て直そうとするが、ヒースの追撃は留まるところを知らない。考える余裕すら与えられず、ガイネルは直感的に躱すのみ。


「1stマジック【斬打攻戟ガルム・エッジ】」


 シグニューから支援の付与魔法が飛び、ガイネルの体が橙色に輝く。

 攻撃力強化の魔法だ。


「(まともに打ち合うこともできないだって!?)」


 破れかぶれで剣を出しても当たるはずもない。

 闇雲に剣を振り回しても当たるはずもない。

 体術を絡めてみてもバランスを崩すことすらできない。

 どうにかできたのは無理にでもヒースから体を離さないこと。

 少しでも間合いが開いた瞬間、斬られる――ガイネルの直感がそう告げていた。


「(悔しい悔しい悔しいッ! 僕は自らの正義を証明し続ける必要があるのにッ!)」


「イキってた割りには大したことねーな。お坊ちゃま。教えてやる。正義ってのには力が必要だってな」


「くそッ!! くそッ!! くそッ!!」


 ヒースの動きが明らかに悪くなる。

 ガイネルをいたぶるように斬りつけ弄ぶ。


「理解できりゅ? これが翻弄される立場ってーヤツだ。実際、そうなってやっと分かることがあるのさ」


 ガイネルは一方的に玩具として遊び倒される。

 ヒースの斬撃は止まらない。




 一方のシグムントとガストンは魔導士と戦っていた。


 しかし接近しようにも男の魔法によってそれも叶わない。


「【真空破しんくうは】!!」

「3rdマジック【空破斬刃エアロカッター】!」


 鋭利な風の衝撃が空中で激突し双方共に砕け散る。

 男は体術にも明るくシグムントたちの先を読み、優れた体捌きで翻弄してくるため、まともな攻撃をすることができないのだ。

 更に次々と間断なく魔法を放ってくるのだから苦戦どころの話ではない。


「3rdマジック【凍結球弾フリーズショット】」


 魔法は騎士2人を巻き込んで氷漬けにする。

 こちらは男の体術で体力を奪われ、魔法によって戦力を削られる一方、あちらは疲れた様子すら見せない。


 そもそも第3位階から魔法の難易度は跳ね上がる。

 能力ファクタスの項目から習得することは可能だが、実際に行使できるようになるためには魔法陣を覚え、虚空に描き、魔力を込めて解放しなければならない。

 例え魔導科に通っていても第2位階魔法すら使えない生徒も多くいるのが現状なのである。


「ほれほれ、休んでいる暇はないぞ! 3rdマジック【轟火撃ファラ】!!」


 男がかざした手の平の前に大火球が形成されると目標に向かって飛んで行く。

 火球自体は躱せるが、厄介なのは着弾時の大爆発や舐めるように伸びてくる炎だ。

 狭い屋内――大部屋と廊下の間ではどうしても巻き込まれる。

 それぞれが武器に魔力を乗せて迫る炎を斬る。

 この程度の魔力操作なら騎士科の生徒でもできるのだ。


 そしてまた騎士が数人巻き込まれ全身を極炎に焼かれながら死んでいく。

 しかし流石の天龍騎士団ドラゴニク・スフィア

 強者共は多い。

 裏手に回っていたバウアーと共に騎士が数人現れたのだ。


 彼らはすぐに状況を把握したらしく、一気に魔導士との距離を詰めると有無を言わさず叩き斬った。素早い動きのお陰で致命傷には至らなかったが肩からばっさりと斬り落とされて左腕が宙を舞う。

 更に腹を薙ぎ斬られる魔導士の男。

 おびただしい出血をしながら騎士から間合いをとると彼は愉快そうに笑い出した。追撃しようとしていた騎士たちの動きが止まる。


「くっくっく……はーっはっは! これも時代の流れよな……国のためにと50年戦争と不浄戦争トゥレイ・ウォーに参加して、生き延びてしまったことがわしの心残りよ……かつての仲間たちよ。今こそお主たちの元へゆこうぞ!」


 叫び終えた魔導士は満足したのかその身を捧げるかのように立ち尽くす。

 トドメを刺せと言わんばかりに。


 そこに覚悟を見た騎士の1人が剣を振り上げる。

 それに待ったを掛けた者がいた。


「待てッ! 待ってくれないか。オレがる。らせてくれ……勘違いした平民にはオレが裁きを下してやる」


 流石に天龍騎士団ドラゴニク・スフィアの騎士に命令するのは憚られたガストンであったが、返事も聞かずに騎士たちを押しのけると死を待つ者の前に立つ。

 そしてガストンは剣を構えると気合と共に迷うことなく魔導士の首を落とした。


「勘違いするなよ……平民如きが名誉ある死に方を選べると思うな」


 ここにまた1人の名も知れぬ英雄が命を散らした。

 皆、彼の最期の言葉を聞いて何らかの感情を抱いたが、何の感慨も持たなかった者もいた。


 ガストンとバウアーである。


「(国のために働いた者に敬意を向けることすらできないのか……これが貴族か……貴族とは……?)」


 シグムントは1人、不信を募らせ男のために黙想した。

 そしてそんな兄を悲しそうに見守るシグニュー。


「兄さん……」


 彼女のそんな呟きは誰にも届かない。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時と20時の2回更新です。

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カマセ犬としてアッサリ死にそうな脇役系主人公やなぁ……
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