第23話 本拠襲撃
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レクスは夜道を闇に紛れて歩いていた。
向かうはスラム街にある〈義國旅団〉の本拠。
そう。奴らは王都内に堂々と広大な本拠地を構えているのだ。
スラム街と言えど、ここは王都なのである。
絶対に襲われないと言う自信がそうさせているのだろう。
ちなみに本当の拠点――団長のギュスターヴがいる場所は王都グランネリアの西の森林地帯にあるユスティーツァと言う場所である。
本拠である大邸宅の入り口は鉄柵があるが閂が掛かっている訳でもなく夜でも自由に侵入することができた。
少し錆びついて、ギギッと擦れる音がして柵が開く。
特に見張りがいる様子がないが魔力波を飛ばして索敵を行うと反応があった。
暗黒魔法の第1位階魔法である【探知】より精度が良いので使い勝手がいい。邸宅の近くにある防御塔のような場所に反応があるので一応は見張りなのだろう。
サクサクと芝生を踏みしめて堂々と正面から突入するのは特に驕っているからではなく、拠点丸ごと全員潰すため。邸宅までの道が遠いが、よくこれだけの土地を占有できたものだと感心するレベルである。
5分ほど掛けて玄関までたどり着くと鉄らしき金属でできた門があったので開けようとしたがこちらには鍵が掛かっているようだ。身体強化した拳でも開けられるかも知れないが、レクスは普通に魔法を使うことにした。普通に【重弾丸】でも破壊できるだろうが、通常の魔法の威力を試しておくことも必要だ。
「3rdマジック!【轟火撃】!」
生み出された大火球が門へ直撃し轟音を上げる。
見事に爆発炎上し、門はドロドロに融解、壁は破壊されてしまった。
当然、それを聞きつけてあちこちから〈義國旅団〉のメンバーたちが姿を見せる。見張りもいたことだし、侵入者――レクスの存在は把握していただろうが。
「何だ!? 探求者か?」
「テメーここが何処だか知ってんのか!!」
「無事で帰れると思うなよッ!!」
今のレクスは黒装束姿である。
見るからに怪しいので侵入者ですよと自白しているようなものだ。
「お前ら全員潰してやるからかかって来い」
堂々と侵入された上、舐められた発言までされた彼らは皆一様に激昂する。
それぞれが得物を片手に襲い掛かってきた。
レクスも剣を抜き放つと魔法陣を展開する。
暗黒魔法の熟練度が7になったので新たな魔法が試すことができる。
「7thマジック【機関銃弾】!」
その圧倒的な連射により、近づく者皆次々と倒れていく。
【散弾乱舞】よりは弾丸の大きさは小さいが連射性と速射性では勝る。軽装備の者はもちろん金属鎧を纏っていた者ですら貫通され、全身を穴だらけにして物言わぬ屍と化していった。
瞬く間に玄関大ホールが屍山血河となる。
全方向無差別攻撃を行ったレクスであったが、意外と生き残りがいることに感心する。よく見れば身体強化で凌いだようで体が淡く緑色に輝いている。
どうやら死を回避できたのは余程強力な身体強化で体を覆った者、局所的に魔力を集中させ致命傷を避けた者だけのようだ。
「貴様ッ!! やったなぁぁぁ!! よくもやってくれたなぁぁぁぁ!!」
2階のホールにようやく現れたエドガールの激怒の絶叫が木霊する。
「悪いが王都での活動は終了だ。お前らは俺の身内に手を出した。俺はそれを許さない。それにお前らを放っておけばいずれ多くの者が傷つくことになる。故に潰す」
「何を勝手なことをッ!!」
「3rdマジック【凍結球弾】!」
「2ndマジック【雷撃】!!」
魔法発動の瞬間に回避行動に移るレクス。
他はともかく雷系は速過ぎるので低位階でも馬鹿にはできない。
「(やはり第3位階魔法を使える奴くらいはいるか……後は近づいて斬り込む)」
【機関銃弾】で一気に少なくなった団員たちとの間合いを一気に縮めると、魔法を放った直後の男を一刀の元に斬り捨てる。
そして魔法を放ちつつ階段を駆け上がった。
「3rdマジック【轟火撃】」
これで階下の敵は全滅だ。
爆音が轟き、灼熱が空気を焦がす。
玄関ホールはまさに地獄絵図のような惨状だ。
すぐさま他の魔法を放とうとした瞬間、エドガールが階段を駆け下りてきてレクスに剣を振り下ろした。
流石に遠距離では分が悪いと悟ったのだろう。
剣に力を乗せて押し込んでくるが踏ん張って耐える。
階段上なので足場が悪いが、そうも言っていられないのでレクスは一旦力を抜いてエドガールのバランスを崩した後に剣を一閃する。
「お前は……貴様はレクスかッ!!」
「だとしたらどうした?」
別にバレたところでどうと言うことはない。
どうせ全員殺すし全拠点を潰すから。
ガイネルのイヴェール伯爵家にはこっそりと情報提供しておいた。
王都の本拠地であるこの場所が壊滅したと分かればイヴェール伯爵家が、いや、その上のローグ公爵家が動く。
「2ndマジック【火炎球弾】!」
2階にいた魔導士が魔法を放つが、それに反応したのはエドガールであった。
その声はもう悲鳴に近い。
「魔法は使うなッ! 間合いが空けば一掃されるのが理解できんのかッ!!」
ただの三下ではないようで、多少頭は回るらしい。
エドガールは迫りくる【火炎球弾】を避けようと一旦離れかけるが、レクスは逃す気はさらさらなかった。
魔力障壁を展開してそのまま彼を袈裟斬りに薙ぎ払う。
エドガールはそれを辛うじて受け流すものの、剣に脇腹を斬り裂かれ、飛んでくる火球からは逃げられない。
轟く爆音――
それに撒き込まれたエドガールは火だるまになりながら階段を転げ落ちて行った。
「て、てめぇ! よくもエドガールさんを殺りやがったなぁぁぁ!!」
レクスはやったのはお前らだろと心の中で突っ込みながらも残る敵に向けて魔法を発動する。
「7thマジック【機関銃弾】!」
まともに喰らった数人がバタバタと倒れ伏す。
残るは辛うじて身体強化に全てを注ぎ込んでいた者のみ。
「(【機関銃弾】は速射性と連射性に優れるから一発の魔力を上げれば長所を殺さずに余裕で貫通できそうだな。そう簡単な訳でもないけど)」
もちろん逃がすつもりなど毛頭ない。
ここに至ってようやく逃げようとその身を翻した者に飛び掛かりバッサリと斬り捨てた。
最早、動く者はいなくなり慣れた血の臭いだけが鼻につく。
後はどうなるのかが見物である。
敵視していた貴族はともかく〈義國旅団〉と懇意にしていた貴族がどう動くのか。
「まぁ普通に切り捨てられるだろうな……自己保身の塊だからな貴族って奴は」
多少疲れたが毎日のようにレイリアにしごかれているレクスは今や体力お化けである。
そうそう倒れるようなことはない。
明日には召集が掛かる可能性が高いので今夜は学生寮に戻るべきだろう。
レクスは外に出ると魔力弾を作り出し邸宅へ向けて撃ち出す。
もっと大規模な魔法が使えれば楽なのだが、肝心な魔法陣がないので習得しても魔法は行使できない。
「魔法陣も探さなきゃな。ゲームでも失われし古代の魔法陣なんかがあったしな」
普通のストーリー展開で見つけることもあれば、フリーシナリオで見つけることもあった。探求者のイベントでも秘境で古代魔法の魔法陣を発見などがあったので期待したいところである。
何度か魔力弾を撃ち出して、邸宅が崩壊、瓦礫に戻ったのを見てレクスはようやくこの場を後にした。
エレオノールと未だ会わぬ団長ギュスターヴのことを考えながら。
ありがとうございました。
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