第22話 エレオノールの想い
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――〈義國旅団〉
50年戦争時に結成された国民の有志による義勇兵集団。
当時は〈義國騎士団〉と呼ばれ各地で武功を上げた。
しかし彼らに待っていたのは理不尽な解散命令であり国力を落としていた王国から十分な褒賞は与えられなかった。その後は、解散命令を聞かずに各地で盗賊討伐などに率先して当たるものの待遇は変わらず。
かつての大人たちから代替わりした子供たちが15年前の不浄戦争にも参戦。
再び活躍の機会を得たが、平民の支持を得て勢力が拡大することに危機感を覚えた王国貴族によって反社会的勢力の烙印を押されることとなった。
現在は、その名前を〈義國旅団〉に変え、貴族社会の打破を掲げて裏で活動している。
「白昼堂々何をやっているのかと聞いているッ!!」
声を荒げるのはエレオノール。
〈義國旅団〉の団長ギュスターヴ・パンドラの妹にして理想を追い求める者。
「エレオノール……ちょっとしたトラブルってヤツだ。今すぐ撤退する」
「ちょっとした……か。とてもそうは見えないわ。そこにいる少年は平民でしょ? 平民は救うべき者たちのはずだけど?」
「ッ……!」
エレオノールの言葉にぐうの音もでないエドガール。
確かにこの絵面は圧倒的大多数で1人の少年を襲っている時のそれである。
未だ臨戦態勢を崩さないレクスを落ち着かせるようにエレオノールは優しい口調で語りかける。
「うちのメンバーがすまないわね。すぐに退かせるわ」
「それだけじゃ済まないな。貴女たちの組織から子供たちを抜けさせて欲しい。後、食い物にするのもな」
「子供たちを……どう言うことかしら? エドガール! あなたもしや子供たちに何か強制しているの?」
「いや、何も強制などしていないさ。その少年が言っていることは推測だし、組織にいる子供たちは〈義國旅団〉の理念に共感している。我々はただの反貴族集団なのだからな」
よくもまぁ抜け抜けと言えたものだとレクスは感心する。
〈義國旅団〉は元々国を思って立ち上がった義勇兵的な存在だ。
理想を追い求めるのは現在でも同じらしい。
ただ内部でも確執があり意見が割れているのだ。
理想を抱いたまま滅ぼされるか、汚いことに手を染めても生き残り王国貴族に怒りの鉄槌を喰らわすか。
「エドガール。すぐに怪我人を連れてアジトへ戻りなさい」
「ああ、仲間にそうさせよう。俺はお前を護る必要があるからな」
本当は余計なことを言わせないように監視することなのだが肝心のエレオノール以外の者しか理解していない。彼女は訝しげな顔になってこの場に残ることに固執するエドガールに疑念の籠った視線を向ける。
「まぁいいわ。少年よ……〈義國旅団〉は昔も今も理念は変わらない。国のために戦い裏切られながらも民のために動く組織……」
「とてもそうは思えないな。現在は内部闘争も激しくなっていると聞くが?」
「何処でそんな情報を……? 少年よ。あなたは一体何者なの?」
レクスは知っている。
エレオノール・パンドラその人が清廉で悪を許さない人物であることを。
団長ギュスターヴやエレオノールたちを中心とした一派は対貴族強硬派・革命派であり、あくまで武力と煽動によってその理想に向けて邁進する者たちだ。
他にも派閥があり、対貴族強硬派ではあるが如何なる手段を使っても良いと言う考えの基、貴族から金を奪いドラッグ――竜神の粉をばら撒いて弱体化を図る者たちもいる。上手く立ち回って徐々に社会に変革をもたらそうと言うものだ。エドガールはこの一派に当たる。
後は自己の都合や貧困、欲望を満たすためなどの理由から〈義國旅団〉所属して寄生している何の理念も持たない一派も存在する。
「何者でもないさ。だが〈義國旅団〉のことはよく知っているつもりだよ」
どう見ても12、3歳くらにしか見えない子供が一体何を知っていると言うのか。疑問は尽きないが、恐らく仲間たちを撃退したのはこの少年1人による仕業であるとエレオノールは直感していた。
「一体何を……若いあなたが知るはずがないもの。少年は何も知らないのよ。あなたはまだ子供だから知らないだろうけど、私たちの祖父、父たちは50年戦争と不浄戦争に義勇軍として参加したわ。それが〈義國旅団〉の始まり。皆が王国のために戦った。それが民衆の幸福に繋がると信じていたから……でもその働きは認められなかった。恩賞が出ないのは仕方がない。王国も疲弊していたから……それでも〈義國旅団〉は活動を止めなかったわ。荒れる国内で跋扈していた盗賊討伐なんかも始めて国民からの支持を集めた……それでいいと皆思っていたはず。でも待っていたのは理不尽。王国は我々に感謝するどころかテロリスト集団のレッテルを貼り反社会勢力に指定したわ。ううん、別に感謝して欲しかった訳じゃない。でもこれが国のために命を散らした者への報いだと言うの!? 貴族は国のために何をしたの? ひたすら権力闘争に明け暮れていただけじゃない! 私たちの目的は現在の体制――貴族社会体制の打倒のみ……あなたも同じ平民ならヤツらの横暴を知っているでしょう? 私たちの邪魔をしないでもらいたい!」
彼女の長い独白が終わる。
その想いや理想はよく分かる。
しかし今の〈義國旅団〉が手に染めていることは貴族と同じこと。
つまり両者は同じ穴の狢。
「貴族に胸糞悪い行為に手を染めている者がいるのは知っている。だがお前たちも同様にえげつないことをやっているだろ?」
「何の話……?」
「知らないのか? それとも知らない振りをしているのか?」
質問をしておいて何だが、彼女が知らないのは当然の話だ。
理想に生きる団長のギュスターヴやエレオノールは活動資金にあまり頓着していない。団長であるギュスターヴはともかく、妹想いの彼はエレオノールには汚いことについては何も教えていない。
彼女は彼の想いから純粋培養で育てられてきた。
故に多くの団員を喰わせるためにも、そして現在の活動を継続するためにも汚れ役を誰かが担う必要があった。
それがエドガールであり、彼らから突き上げを喰らったギュスターヴである。
とは言え、彼は団長として苦悩しているが〈義國旅団〉の悪事について全て把握している訳ではない。
「一体何を言っているの? エドガール! あなたは何か知っているの!? 隠すようなら容赦はしないわ!」
「エレオノールは仲間よりその子供の言うことを信じるんですか? 俺には心当たりなんてありませんね」
あくまでしらばっくれるエドガールにレクスが無慈悲に告げる。
エドガールたちがやっていたことは、どうせ放っておいてもいずれはバレることなのだ。設定を知っているレクスからすれば、遅いか速いかの違いでしかない。
「なら俺が教えてやるよ」
「止めろッ!!」
制止するエドガールの声には明らかに焦りの色が滲んでいた。
目の前の少年がただ者ではないと脳が警告を発している。
露見すればパンドラ兄妹とその一派から責められるのは必然だろう。
「何故止めると言うの? やましいことがないなら言わせればいいじゃない」
「エドガールたちの一派は人身売買から竜神の粉の密売、更には他種族の人間や亜人種の密漁とでも言うべき行為をして貴族と闇取引しているぞ。そしてスラム街の子供たちを使ってスリやドラッグの密売をさせているだけではなく、彼ら自身を奴隷商に売り払ったり、臓器売買をしたりなんかしているな。ついでにテロリストとして戦えるように洗脳、育成している」
これはギルドハウスで得た情報だけではなく設定として存在する厳然たる事実。
「それは本当のことなの……? とても信じられない……まさか兄さんがッ!?」
「エレオノール! 子供がそんなことを知っているはずがないだろッ! 少し考えれば分かることだ!」
エドガールも必死だ。
流石に理由までは分からないが、団長ギュスターヴの知らないことにまで手を広げていると言ったところか。バレれば粛清されかねないと判断した可能性もある。
「……でもそんな具体的なことまで?」
「ハッタリだッ! そもそも証拠がない! 全てはでっち上げなんだよ! こいつは俺たちが"保護"している子供たちを攫おうとした! だから取り戻すべく動いただけだ!」
一度湧いた疑念は中々払拭することはできない。
彼女は今後も囚われ続けるだろう。
「兄さんに確認してみるわ……少年、あなたの名はなんと言うの?」
「レクスだ。レクス・ガルヴィッシュと言う」
名前を教えるのは愚行だが、レクスは彼女の純粋に理想を追い求める姿勢自体は嫌いではない。
彼女の行く末を考えても生きていて欲しいとも思っている。
ただ考え方が急進的過ぎるのが難点なのだ。
ギュスターヴが過保護でなければな。
それが彼女をそうさせている。
動揺した様子のエレオノールが仲間と共に慌てて去っていくのを見て、レクスもこの場から消えた。
後にはレクスにやられた仲間を助けるべく動くエドガールたちの姿のみが残った。
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