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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第21話 白昼の攻防

いつもお読み頂きありがとうございます。

本日は12時の1回更新です。

 曇天の中、レクスは自然体でスラム街を歩く。


 帯剣しており普段のローブ姿から探求者ハンターのようなスタイルに変わっているが、もうすぐ11月になるので少し肌寒い。ヤンたちは季節が変わっても同じ様な格好をしているがたくましいものだと感心してしまう。


 ヤンたちには今日は情報収集はせずギルドハウスにいるように言っておいた。

 人通りはそこまで多くないので不審な態度の者がいれば分かる。

 しばらく様子を見ていただけで何かを探しているような者が何人か確認できた。


 レクスはその中の1人に当たりを付けて話し掛ける。


「ねぇおっさん。何かあったの? 探し物なら手伝うぜ」

「ああ!? 気安く話し掛けんじゃねぇよ! こっちは忙しいんだ」

「それは分かるよ。ずっとウロウロしてるのを見てたからね」

「!?」


 その顔が少しだけ真剣みを帯びる。

 〈義國旅団ユリスティオ〉の者と思われる男はレクスを使えそうな子供だと判断したようだ。


「おい坊主、この辺で女の子供を見なかったか? 金髪の長い髪に碧眼で中々の美形だ」


「その子がどうかしたの?」


 レクスはそう問い掛けながらもビンゴだと確信する。


「別にそこはお前の知ることじゃねぇ。俺の質問にだけ答えてろ」

「見たような気がするけどなー」


「マジか? 何処で見かけた? どんなヤツと一緒にいたか分かるか?」

「何か特徴とかある?」


「ああ、黒髪のたぶん子供なんだが……それにしては背が高い。額に傷……があって……優男……」


 どうやらようやく気が付いたようだ。

 話すにつれて劇的に男の顔が変わっていくのがよく分かる。

 恐らくレクスが倒した者から特徴を聞いていたのだろう。


「気が付いたか? 前の3人は弱かったがお前はどうなんだろうな?」


 言い終わる前に剣を抜いてレクスに向けると迫力のある顔で凄んできた。

 やはり舐められたら終わりの職場なのだろう。


「お前がビアンカを助けたガキか……知っていることを教えろ。死にたくなければな」


「言うことが三下さんした以下だな。流石は〈義國旅団ユリスティオ〉のメンバーと言ったところか?」


 レクスが分かり易い挑発をすると単純にも乗ってくる男。

 明らかに怒り心頭のようでその表情を歪めている。


「お前も一緒に仲間入りだ。特別にボコった後でなッ!」


 そう言うなり剣を袈裟斬りに振り下ろすが、その程度の攻撃が躱せないレクスではない。

 あっさり避けると滑らかに剣を抜き放つ。

 その様子を目撃した人々が巻き込まれないように足早にこの場から去っていく。


「ボコると言うか殺す気じゃねーか。俺から何か聞き出すんじゃなかったのか?」

「殺しはしない……腕の1本くらい置いてけや」


 何を言っても無駄だと理解したので、すぐさま男との距離を一気に詰めると斬り結ぶ。

 まぁ挑発したのはレクスなのだが……。

 昼間のスラム街に剣撃の激しい音が響き渡る。

 〈義國旅団ユリスティオ〉の仲間は集まってくるだろうが、憲兵や他の住人たちは決して近寄ってくることはない。憲兵はスラム街の出来事には基本的に不干渉を貫いているし、態々(わざわざ)巻き込まれに来る住人はいるはずがない。


 レクスの重い一撃を男は何とか受け止めるが、予想外の一撃だったようで攻撃に移れない。動作が止まった一瞬の隙をついて懐に飛び込むと男のみぞおちに剣の柄を叩き込む。


 呻き声を上げて膝を折ったところで今度はその顎をかち上げた。

 その一撃で男は体を大きく仰け反らすと仰向けに倒れてピクリとも動かなくなってしまった。


「やべッ……気絶させたか?」


 脳震盪を起こして気絶したことで手を抜くことの難しさを痛感してしまう。

 それにしても想定していたよりも団員が弱い。

 下っ端がそうなだけで、幹部連中は位階レベル職業クラス熟練度デグリーを上げた猛者だとは思うが、このままでは強さの上限が読めない。

 ガイネルたちと共に戦ったロイタール一家には『剣技』や魔法を使う者がいたので、更に大規模なはずの〈義國旅団ユリスティオ〉が弱いとは思えないのだが。

 それともイベントキャラが強いだけなのか。


 このままでも騒ぎを聞きつけた男の仲間が集まって来るとは思うが、やり過ぎたか?と考えていると周囲から人の気配がする。

 どうやら囲まれたようでジリジリと包囲網を狭められているようだ。

 魔力操作の一環で、周囲に特殊な魔力波を飛ばせば、レーダーのように反応が返ってくるのだ。


 その数20ほど。


「その辺にしておくんだな。お前がただの子供ではないことは分かったが、ただでは済ません。俺たちにも面子ってもんがあるからな……」


 次々と姿を現す〈義國旅団ユリスティオ〉の団員たち。

 細い路地裏から。通りの前方から。そして背後から。

 全員が剣か短剣を手にしてにじり寄ってくる。


「お前らは〈義國旅団ユリスティオ〉の下っ端か? 話にならないな。俺の相手をしたいなら団長でも連れて来い」


 周囲の雰囲気が明らかに変わる。

 所謂、殺気と言うヤツだ。

 この世界に来てから感覚には敏感に反応するようになった。


「団長は忙しいんでね。俺たちで満足してもらおうか」


 その言葉を合図に一斉にレクスへ殺到するかと思いきや飛んで来たのは太古の言語(ラング・オリジン)


「2ndマジック!【水弾丸ウォーターバレット】!」


「2nsマジック【雷撃ライトニング】」


「1stマジック【火炎矢フレイムアロー】」


 レクスに向かって吸い寄せられるように魔法が迫る。

 発動の瞬間に彼は動いていた。

 体を投げ出して前回り受け身の要領で回転すると、空から降ってきたいかづちを回避する。雷系の魔法は速度が速いので初動を間違うと躱すことが難しいが、他の魔法はそれなりの速度で真っ直ぐに飛んでくるだけなのでそう難しくもない。


 余程、連携を上手く取るか、不意を突くか、タイミングを考えないと動いている目標に当てるのは困難だ。レクスのように自分で魔法陣をイジっていない限り、不規則な動作を取る魔法が飛んでくることはない。


 その点には自信と確信があるのだ。

 最悪、魔力障壁を展開すれば良いと言う保険の存在も大きい。


 敵にはレクスが扱えるような速度が半端なく速い弾丸系の魔法や、ただの魔力弾を放つことはできない。それどころか普通の魔法を改変するだけでも相手は躱せない。


 それでも鬱陶うっとうしいのには変わりないので速やかに片づけるべく剣を持って駆ける。全ての魔法が不発に終わったことに驚いているところへ一気に斬り込むと早々に1人を片付けた。


 乱舞は続く。

 流水のように滑らかな足運びと体捌きで、次々と敵を葬り去っていく。

 いちいち止まって次の攻撃対象を決めるなどと言うことはしない。

 一連の流れの中で既に倒すべき目標はロックオンされているのだ。


 剣を交えることすらできずにやられていく味方に業を煮やした男――エドガールが叫ぶ。


 一番初めに姿を見せた男だ。


「お前らッ! そいつを舐めて掛かるなッ! 子供だと思うと痛いしっぺ返しに合うぞ!! 数で押せ!」


 指示を受けて団員たちの動きが変わり徒党を組んでレクスに迫りくる。


 狙い通りッ――


「5thマジック【散弾乱舞ラム・ショット】!」


 よく練られた魔力の弾丸の雨が彼らに容赦なく降り注ぎ、バタバタと倒れ伏す。

 本当に面制圧するのに向いている。


「何ッ!? 魔導士かッ!?」


 目を剥いて驚きを露わにするエドガール。

 お金を稼ぐようになってレクスも探求者のようなスタイルに装備品を変更していた。


 剣を使う魔導士はあまりいないらしいからな。

 さぞかし驚いたことだろう。


「5thマジック【散弾乱舞ラム・ショット】!」


 またも旅団の仲間が倒れていくのを見て、堪らずエドガールが動く。

 レクスが魔法を発動する度に多くの者が大地に屍をさらすのだ。 

 ここに至ってようやく彼は自らが戦わねば全滅すると感じたのであった。


「5thマジック【散弾乱舞ラム・ショット】!」


 既に通りは死屍累々と言った状況。

 大地には血溜まりができ、死ねなかった者は怨嗟えんさと苦痛の呻き声を上げるのみ。


 エドガールの盾が魔法を受けて粉々に砕け散る。

 その強烈なまでの衝撃で吹っ飛ばされるが、何とか踏み止まった。

 同様に未だ耐えている者がいることから、彼らはある程度の強さを持ち、上の立場にいる者たちだとレクスは推測した。


「【斬空破ざんくうは】!!」


 中々近づけないことを理解したエドガールが『騎士剣技』を放つ。

 名前の通り斬撃を飛ばす技だが、放つ者の力次第では軽々と体など両断してしまう威力を持つ。


 だが……甘い――


 レクスは焦ることもなく魔力を乗せた剣で斬撃を斬り飛ばすと衝撃波は無惨にも四散した。斬撃を斬るなど普通では考えられないことをやってのけたことで団員から動揺の気配が発せられる。


 この程度なら剣王レイリアなら余裕でやるだろうが。


「(こいつは騎士ナイトだったか……やはり上にはそれなりの猛者がいると言うこと。そうでなければここまで巨大な組織にはならない……)」


 抵抗の無意味さを悟ったエドガールが構えていた剣を降ろして吐き捨てるように言う。


「クソッ……お前は何者だッ……何故俺たちの邪魔をする……?」

「邪魔? 俺はただ年端としはもいかない子供たちを喰い物にしていることが気に入らないだけさ」


 自覚があるのか、その顔が強張る。

 しかし彼には彼の言い分があるようですぐに反論を返してきた。

 その声にはかなりの苛立ちが含まれている。


「俺たちは貴族をどうにかしたいだけだ。子供たちは次世代の俺たちだ。そのために育てている」


「言っていることとやっていることが全く違うように思えるんだが? あれで育てていると言うのならとんだお笑い草だ。それに無垢な者に過激な思想を教えるのは教育じゃなくて洗脳だろうよ」


 レクスとしては難しい反論など考えることもない。

 ただ当たり前に感じたままを言葉にして伝えるのみ。


「まぁ待て。貴族社会を何とかしたいのは本当のことだ。お前は相当な手練れと見た。その歳で大したもんだよ。どうだ。〈義國旅団ユリスティオ〉に入って共に貴族と戦わないか?」


「お断ります。今のお前たちに義などない」


「チッ……交渉は決裂って訳か」


「交渉したつもりもないけどな」


 別に〈義國旅団ユリスティオ〉の末路を知っているから拒否した訳ではない。

 彼らの目的のためなら手段を選ばないと言った考え方も場合によってはアリかなとは思える。


 貴族が裏でえげつないことをやっていることも知った。

 それが腐りきった一部の者かどうかは分からないが。

 しかし子供を利用すると言うのならレクスは全力でそれを阻止するために動くだろう。


 睨み合いが続くかに思われたが、それはすぐに解消されることとなる。

 女性の剣士が数人の仲間を引き連れて近づいてきたのだ。

 それに気付いたエドガールが舌打ちをする音が風に乗ってレクスの耳に届いた。


「お前ら……白昼堂々と何をしている?」


 通りの惨状を見てその女性剣士――エレオノール・パンドラは何処か怒りを宿した声でそう言い放った。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。

明日も12時の1回更新です。

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