第18話 主人公の登場
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レクスは王立学園の学園長であるヒナノ・プロキオンに呼び出され、彼女の部屋にいた。
まさか停学中に呼び出されるとは思ってもみなかったレクスは不満げな表情を隠そうともしていない。
対するヒナノはにこやかな笑みを浮かべており悪びれる様子もない。
隣に座っているテレジアは申し訳なさそうにしており苦笑いをしている。
「それで話とは?」
時間が惜しいとばかりに切り出したのはレクスの方であった。
それに2人は苦笑いで応える。
「いやね、停学中で悪いんだけどー。ホントにホント、申し訳ないんだけどねー」
「レクス君、ごめんね」
言葉を濁す2人に嫌な予感しかしないのは気のせいではないだろう。
どうせならさっさと言って欲しいものだとばかりに先を促す。
「とにかく教えてくださいよ」
「いやーちょっと盗賊の討伐へキミの参加が決まっちゃった」
ヒナノがテヘッと言わんばかりに軽いノリで爆弾を投下してきた。
「はぁ? 何で俺が? まだ小等部の子供ですよ!? そんなに手が足りてないんですか?」
確かにジャグラート王国との戦争が始まる頃から民衆の一斉蜂起が起こるはずだが、まだ遠征軍を出す前のはずだ。
今なら国内の戦力でも十分に対処可能であるはずなのだ。
「いやね。キミも知ってると思うんだけどージャグラート王国に攻め込むのが来年になりそうなんだよ。各地で不穏な動きがあるみたいなんだけど遠征軍を出しちゃったら国内が空になっちゃうってワケ。それで今の内に優秀な生徒たちを集めて討伐の経験を積ませろって上から命令が来てねー。いやーあーしも反対したんだよ?」
ジャグラート王国が自由都市サマサに侵攻したのは既にグラエキア王国内で噂になっている。
主人公たちが選抜された生徒と共に元義勇軍らと戦うイベントがあるのはもちろん知っているが、それは冬から来春にかけてが1番多かったはず。知らない部分でそんなことがあったのかも知れないが、そこにレクスが参加するとは考えてもみなかったことだ。
「僕もどうして君が?って確認したんだけど、君ってばしっかり普通にまるっと優秀なんだよね。それに加えて停学前のやる気に満ち溢れた君が目に留まったらしくてさ」
「そーそー。貴族だけじゃなく平民からも参加させたいみたいよー。何考えてるか予想はつくけどね」
それはそう。
王国上層部はこれから始まる鎮圧戦が貴族対平民の構図にしたくないと考えているのだ。貴族と平民が手を取り合って王国に仇為す賊軍を討伐すると言う絵を描いていると言う訳である。
「指揮官はガイネルですか……?」
「おーよく分かったね。あーしも意外だったんだけどさー」
「彼も天龍騎士団の団長であるイヴェール伯爵家に連なる者だからね。その辺りの力が働いたんじゃないかな?」
「確かにイヴェール伯爵家の4男なら成功すればそれでいいし、失敗しても4男が死ぬだけですからね」
イヴェール伯爵家当主のグレイテスは天騎士として清廉な人物とされているが、実際はかなりあくどいこともやっている。
来春に行われるジャグラート王国への遠征軍が壊滅に近いダメージを受け、嫡男が戦死するだろうと予想できたのにもかかわらず真実を教えずに送り出したほどの人物だ。
「流石だねー。良く理解しているみたい」
「奴の御守をしろと?」
「いやいや、そこまではしなくてもいいよー。これは上が勝手に決めたことなんだからね。あーしとしてもキミが参加させられるとは思ってもみなかったからねー」
「そこは信じて欲しいかな。本当に予想してなかったんだよ」
この世界を良く理解する異世界人を危険な場所に送り出す理由はない。
2人の言っていることは本当なのだろう。
「そんなワケだから申し訳ないんだけど、今後も参戦依頼が来ると思うけどよろしく頼むねー。あーしもキミに危険が及ぶのは避けたいから」
「良かったらまた話を聞かせてくれないかな? 僕も王国が荒れて国民が苦しむのを見たくないからさ」
「はい。俺もそれは望むところじゃないので……」
レクスもその辺りは異論がないので素直に頷いた。
肯定的な言葉が聞けるとは思ってもみなかったのかテレジアの顔がパァッと明るいものに変わる。レクスとしても別に彼女たちを苦しめたい訳ではないのだ。
「それでー13時から学園の大講堂で顔合わせがあるから参加よろしくね」
両手を合わせて拝むようなポーズを取りながらヒナノが頼み込んでくる。
レクスとしては別に異世界人と認めさせられた時の腹立たしさは消えたとは言わないまでも軽減していたので、そこまでしなくてもとは思うのだが。言ったら言ったで良い様に使われる可能性もまだ捨てきれないので言うつもりもないが。
「分かりました。行ってきますよ」
「無事を祈っているよ」
「あーしたちにできるのはそれくらいだからねー。ゴメンね」
謝る彼女たちに見送られレクスは部屋を辞した。
―――
――学園大講堂
指定された時刻にそこへ向かうと、既に多くの人たちが集まっていた。
すり鉢状になっている大講堂は座ってジッとしている者から、立って何かを話し込んでいる者まで様々だ。
説明を受けていない者が多いのか、全体的にざわざわと騒々しい。
取り敢えず空いている席を見つけると座って大人しく待つことにする。
頬杖をついて全体を観察していると中央付近に目的の人物を発見した。
ガイネル・ド・イヴェール――
『セレンティア・サ・ガ』のメイン主人公その人である。
その姿は主人公らしく非常に整ったルックスをしており、少し長めの金髪を後ろで結っている。
濃紺の瞳は人を魅了するような妖艶さを湛えており印象的だ。
背が高くスラッとしている。
現在が聖グローリア暦1328年10月過ぎなので、年齢は14歳。
中等部騎士科の2年生のはずである。
正義感に燃え、悪を断罪することを信条としており融通が利かない面がある。
その隣には腹心となるべくガイネルと共に育てられた平民のシグムントとシグニュー兄妹の姿もあった。
とは言え、ただの平民ではないのだが。
他にも知っているキャラクターがいないかと探していると軍服を着た貫禄のある人物がやってきて、皆に座るように促す。
その迫力に圧されてか、ざわついていた大講堂が一気に静まり返った。
「集合ご苦労である。私は貴族士官学院の副院長を務めるノルノー・ド・スノーワイトと言う。貴君らも聞いているかと思うが一応言っておこう。今日集まってもらったのは他でもない。王都周辺に出没している盗賊団を討伐してもらうためだ。王立学園や士官学院で日々学んでいる貴君らならば必ずや目的は完遂できると信じている。王国は今賊徒共によって荒らされようとしているのだ。奴らは貴族、平民の区別なく危険な存在であり直ちに討伐するべき対象である。賊徒共の暴虐を許すべからず! 貴君らの奮闘に期待する!」
静まり返る中で参加者たちの様子を観察していると、やる気に燃える者、怒りに顔を歪める者、嫌そうな顔を隠そうともしない者、面倒臭そうな顔をしている者など様々だ。
前者は恐らく貴族の連中で後者は平民が多いだろうと考えられる。
特に貴族士官学院の生徒はともかく中等部には平民もいるため、好き好んで戦いたいと思う者は少ないだろう。いるとすれば出世欲に駆られた者くらいか。
「総指揮官はイヴェール伯爵家のガイネル君だ。盗賊団は各地に散っているので彼の指揮の下、幾つかの隊に分かれて戦うことになるだろう。では後はガイネル君の指示に従うように。以上だ!」
ノルノーは言い終えると壇上がら降りて横手にある席に座った。
最後まで見ていくつもりのようだ。
するとガイネルも席を離れると登壇して中央の壇上に立った。
「皆さん! 僕の名前はガイネル。ガイネル・ド・イヴェールです。此度は指揮官の任を拝命し光栄に思います。賊徒は我らに仇為す悪そのもの。討伐は絶対です。皆さんの力を僕に貸して下さい。共に賊徒を討ち滅ぼしましょう!!」
彼の静かな訴えに大講堂の反応は真っ二つに割れる。
意見に同調して盛り上がり威勢を上げる者。
反応に乏しく何処か冷めた目で見ている者だ。
前者はイヴェール伯爵家に近しい勢力だろう。
彼の家は使徒の1人、ローグ公爵家に仕える有力貴族なので繋がりを持つ者も多いのである。つまり王国から見ればイヴェール伯爵はローグ公の家臣であり陪臣に当たる。普通なら直臣に指揮官を務めさせるのに陪臣の家の令息であるガイネルを据える辺り、政治の臭いがぷんぷんする。
後者はイヴェール伯爵家の敵対勢力、もしくはローグ公爵家から距離を置いている貴族たちだ。
だが腐っても12使徒の1人であり、古代竜の血脈に連なる家柄である。
その影響力は大きく表だってガイネルに逆らおうとする者はいないだろう。
ちなみにこの場には以前、レクスがボコったオドラン伯爵家のバウアーの姿もある。どうやら剣の実力があるのは本当らしい。彼の態度は当然の如くあからさまに悪いので、やはり嫌っていると言うことだろう。
「(ガイネルは本当にギャップが凄いからな……『僕』とか言って物静かな癖に、悪だと判断した者に対しては容赦がなくて徹底的だ。どうしてあそこまで豹変できるのか……)」
ストーリー本編では正義を絶対視するガイネルが敵との戦いを進めていく内に正義とは何なのか疑問を持ち始め、同級生であり友人であり腹心でもあるシグムント・ベルトラムとも考えが乖離していくことで生じた彼らの葛藤が描かれていく。
既に壇の前では台の上に地図が広げられ、各隊の隊長たちが決められているようで話し合いが行われていた。どのくらいの数がいて、どの程度の実力を持つのか未知数だが、せいぜい油断しない程度にほどほど頑張ろうとレクスは考えていた。
はてさて、誰の隊に配属されるのか。
それによってはレクス自身の今後にも関わってくる重大事とも言える。
展開によっては身の振り方も考えなければと思いながらレクスは成り行きを見守るのであった。
ありがとうございました。
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