第13話 イベントギルド設立(非公式)
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しばらく魔物討伐依頼をこなして収入を得たレクスはスラム街にのとある一軒屋を購入していた。
魔物討伐と言っても所謂、間引きである。
王都周辺は既に人の手が入っている場所が多いので探求者の人気がないスポットだ。魔物を狩っているのは主に駆け出しや王都に定住している中級者くらいのもので、上級者は秘境を求めて、未知を求めて遠方へと旅立つ。
セレンティアの世界の探求者たちの任務は夢と希望に満ちている。
他のラノベや漫画に出てくるようなものばかりが仕事ではないからだ。
もちろん地味な仕事もあるが、それは初心者でも行えるもので言わば日雇い労働のようなものである。
探求者たちは薬草採取や素材採取、魔物討伐に護衛のような単純な仕事を決して馬鹿にしている訳ではないし、それらをこなすこともあるが一番の魅力は前人未到の領域が未だに溢れている世界を開拓していくことなのだ。
その野望は果てしない。
レクスも正直、転生する前の付喪神からの言葉やリアルな夢のことがなければ、好きなようにこの世界を満喫していただろう。
さてそんなギルドハウス――そう命名した――は中々広く80坪以上はある大きな屋敷だ。2階建てで1階には居室に台所、他にも部屋がいくつか、2階にも4部屋ある。スラムの物件だったお陰で大した価格ではなかったのですぐに購入を決めた。
それでも治安が悪い場所であることには変わりはないので、いつ輩共やギャング団などが踏み込んでくるか分からない。
どうせ停学中で暇なので、しばらくここで過ごすのもいいし、ホーリィも絡ませろと言っていたので利用してやるのもいいとレクスは考えていた。
「まずは掃除だな。何故か知らんが小奇麗ではあるんだけど一応はやっとこう」
「掃除すんの!? 誰か仲間呼んでこようか?」
今日はお披露目のためにヤンも連れて来ていた。
新たな拠点だと教えたら凄く喜んでいたのでレクスも嬉しくなったくらいだ。
「いや、そっちはもっと大変だろ。そんな暇があったら金策させといた方がいい」
人手がいないと少し手間だなと思いつつ、こんな時に生活魔法があれば……などと考えていたりする。
内見のために訪れた際は、何処からともなくガタピシだのドーンだの変な音がしていたのは気になったが、アレは何だったのか。
そう言えば担当者の態度もおかしかった気もするのだが。
広い玄関ホールから中に入り居室を確認するが、やはり綺麗でホコリが溜まっている様子もない。
あまり手を掛けないで済むと安堵していると唐突に高い声が掛けられた。
何処か怒気の孕んだ声だ。
思わずビクッと体を震わせるレクス。
誰もいないはずなのに、と恐る恐る振り返るとヤツがいた。
いや、女の子だったんだけど。
「またやってきましたね? この愚かな侵入者よ! この屋敷は私たちの物……一昨日来やがれ、です!」
レクスの目の前には淡い青色の髪短く切り揃えた侍女風の女の子が宙に浮かんでいた。
予想だにしていなかった事態に混乱する。
ついでにヤンも驚いたようで動けずにいる。
死霊の類は人の体を恐怖で縛る力を持つ者もいるから抵抗力のない彼が動けないのも仕方のない話だ。
むしろ動かないでくれた方が都合が良いだろう。
「えッ……何? ここは君んちなの?」
「その通り! 如何に没落しようともこの屋敷だけは護ってみせる、です!」
思い起こせば不動産業者がこの屋敷にはかつて没落貴族が住んでいたと言っていた。没落したとは言っても才能ある錬金術士であった彼は平民に落ちた後もお金には左程困らなかったと言う。
かつての生活が忘れられず貴族のような生活をしていたらしいとも。
ここに至ってようやくレクスは思い出す。
「ああああ! そうだ! そうやんけ! あったわ。あったあったそんなイベントが……」
「何を突然、意味不明なことを言ってやがるです! 邪魔者は排除する、です!」
そう。
スラムの屋敷に出没する幽霊を何とかして欲しいと言う依頼があったのだ。
その幽霊こそが目の前にいる女の子。
確かにフレーバーテキストに書いてあった。
不動産業者の言葉とも一致するし間違いないだろうとレクスは確信した。
問答無用で魔力弾を放ってくるが、すぐに魔力障壁を展開してそれを防ぐ。
滅ぼすのも解決の手段だが、話し合いでも何とかなったはずだ。
それを必死で思い出すべく頭の中を検索する。
確か解決策は――
「俺は別に君を排除しに来た訳じゃない! 取り敢えず話せば分かる!!(確か……この家は……)」
「問答無用!! です!」
どこぞの総理大臣と海軍将校の会話を再現しつつ思い出そうと粘るレクス。
彼女の攻撃手段もそれほどバリエーションがある訳ではないらしく単調な攻撃が繰り返されるのみ。
【鬼火】
自分の攻撃が通用しないと理解した彼女はその体を蒼白く発光させると、ボッボッボと蒼い焔が生み出されていく。彼女はそれを周囲に纏うと、まるで幽体に蒼く燃え盛る焔がいくつもレクスに降り注いだ。
威力が分からないので魔力障壁を更に強化する。
「そうだ! 俺はこの屋敷を君から奪いたい訳じゃないッ! むしろ護りたいと考えている!」
「そんなはずがない、です! この略奪者め、です!」
【鬼火】が何故か魔力障壁をすり抜けてレクスに迫る。
予想外であったが、対処法は考えられる。
すぐに抜剣すると練成した魔力を剣に付与し、薙ぎ払う。
霧散した様子を見て目を大きく見開いた女の子の幽霊。
「聞いてくれッ! 君はこの屋敷の維持のために魔力をつぎ込んでいるんだろ!?」
「!?」
動揺めいた感情が彼女から発せられる。
幽霊が動揺するのかは疑問だが、それは置いておく。
「そして君の魔力は尽きようとしている! でも安心して欲しい! 俺が君に魔力を供給するッ! することができるッ!」
「嘘だッ!! です!!」
「本当だってッ! 君が俺に憑りつけば何とかなるッ! 俺は君を拒まないからやってみてくれ!」
彼女も自分の攻撃が効かないことは理解したようで攻撃が止んだ。
そしてこの男――レクスが信用できるのか必死で考えているのだ。
となれば、後はその背中を軽く押してやればいい。
「この屋敷が誰も住まなくなった今でも清潔さを保っているのは君が管理してたからなんだろ? そのための魔力も必要なはずだ。俺にはその魔力がある。それに君が仕えていた主を蔑ろにするつもりもない」
「……本当ですか?です……ご主人は罠に嵌められたらしい、です。没落したのは仕方ないけど名誉が傷つけられたことだけが無念だとおっしゃられていた、です」
「そうか……誇り高い方だったんだな。俺は君の主に敬意を表するよ」
「ありがとう……です。力をお借りしたい、です……」
レクスが魔力障壁を解くと彼女はその身を重ねるようにして体の中に入ってくる。
幽体離脱した幽体が自分の体に戻る時のような感じ。
その瞬間――何かが繋がったような感覚に襲われる。
「(でも、なーんか繋がりが弱いな。細い糸で繋がってる感じだ。もっと太くした方が魔力供給がスムースに行くのでは?)」
思い立ったが吉日。
何事もやってみろの精神だ。
レクスは瞑目すると集中してマギアをいつも以上に強く練成し、流れ込んでくる彼女の思念体に強化した魔力を注ぎ込む。
繋がる細い糸を強く太くする感覚で。
「(よし! 上手くいった気がする。たぶんこれで彼女自体もこの世界に強く顕現できるはず)」
そう確信して目を見開くと、いつの間にかレクスの体から出てきていた彼女が目の前で目を閉じたまま浮遊していた。
途端に周囲が色づく。
灰色だったその空間が色を取り戻したかのように明るく色とりどりに屋敷を染め上げていった。同時に彼女自身の存在感が増して、まるで人間であるかのようだ。
「ありがとう、です! マイマスター。申し遅れました、です。私の名はシャル。よろしくお願い致します、です! これから私がこの屋敷の守護者となりましょう、です!」
「ああ、よろしくシャル。俺はレクス。レクス・ガルヴィッシュね」
「レクス兄ちゃんすげぇ……幽霊を仲間にしちまった……」
ヤンも体の自由を取り戻して傍に寄ってくると呆けた様子で驚きを隠せないでいる。シャルがレクスの支配下に入ったお陰で束縛が解かれたようだ。
「こいつはヤンな。他にも来ると思うから優しくしてあげて欲しい」
「イエス、マスター」
無機質なような声だが、明らかに言葉の角が取れている。ちなみに無表情である。
戦いの時とはあまりに違うので少し戸惑うレベルだ。
この後、部屋の案内がてらシャルのことを聞いてみたのだが、こんなに力がみなぎってくる経験などしたことがないと驚いていた。
レクスの魔力を借りて肉体を顕現させることもできるようだ。
「よし。じゃあ、今後の予定を話していくぞ?」
「分かったぜ!」
「イエス、マスター」
レクスは考えていた構想をヤンたちに語って聞かせた。
取り敢えずは王都で今何が起こっているか、探求者ギルド、商業ギルドなど各種ギルドの動向、流行っている噂話を調べる。
他国の情報があればそれも良し。
情報屋を探し出して接触できればそうする。
クレメンスにはレクスの持つ情報と力を見せつけたので彼辺りから切り崩していけば良い。フリーイベントやキャライベント、そしてシナリオイベントは些細なことから連鎖的に繋がっていくことも多い。
まさに芋づる式にイベントが進む場合があるので、その辺りにも注目だ。
「まぁそんなとこだな。キャパオーバーするのもアレだし、ヤンたちはまず身を護れるように鍛えるから覚悟しとけよ?」
「お、おう……ギャング団の下にいるよりよっぽどマシだよ!」
「力を付ければ、危ない橋を渡る必要がなくなるからな。頑張れよ?(ギャング団と言っても職業の熟練度が高い訳でもないし能力を使いこなして強い訳じゃない。単に腕っぷしが強いだけだ。それなら何とかなる)」
ヤンもやる気が出たようだし、一安心である。
子供は好奇心旺盛だから何にでも興味を示すし頑張ってくるだろう。
これで上手く回せればいいなとレクスが今後の行く末を描いているとヤンが思い出したようで
「そう言えば〈義國旅団〉がドラッグを各地に流すって話が出てるみたいだ」
「ドラッグ? 王都以外にもバラ撒く気か……」
「うん。お前らは引き続き王都で売りまくれって言われた。竜神の粉ってドラッグだよ」
竜の名を騙るとは烏滸がましい。
いくら竜神信仰が厚い王国とは言え、舐めたことをするものだ。
「マスター、私はどうすればよろしいですか?です」
「シャルは今まで通りに屋敷を管理してて。後は変な奴が来るかも知れないからヤンたちを護ってやって欲しい」
「イエス、マスター」
以前より強化されたシャルはギャング団程度なら楽に撃退できる力を持つだろう。信頼して任せるのが吉。
「ヤン、お前が言ってた程度のお金ならギルドの依頼で得られる。時間を見つけて仲間を連れてくるんだ。鍛練するぞ」
レクスの言葉にヤンはこれからのことを期待して大きく頷いた。
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