第11話 レクスの誕生日
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本日は13時の1回更新です。
探求者ギルドでの一件も無事落着し、皆で寮のレクスの部屋を訪れていた。
狭い部屋なので4人も入れば少し窮屈に感じられる。
「いや~探求者って大変だね~。最初からとんでもない目に遭っちゃったね~」
「下劣な男ぉ……運が悪かったと思いなさい?」
帰り道、レクスの口数が少なかったことを気にして、ミレアがわざと明るい声で切り出した。ホーリィも何処か励ますかのような口ぶりだ。
「探求者は危ない男が多いのかにゃ? あたし怖ーい!」
珍しくマールが言葉を発している。
今まで無口だったのが嘘のようだ。
と言うか何なんだその口調は。
探求者ギルドでの件が彼女の心に影響を与えたのかも知れないが、こんな話し方をするのかと少し意外であった。
「まぁこれで絡んでくる奴も減るだろ……たぶん」
彼女たち3人が励まそうとしてくれているのは分かるのだが、やっちまったとレクスは感じている。貴族を殴った件に続き、またまた暴走してしまったのでどうしても自嘲気味になってしまうのだ。
「ねぇレクスぅ……アナタ、どうしてそんなに気にしてるのかしらぁ? 私はアナタがしたことが決して悪いことだとは思わないけどぉ? 最初、アナタは自分が貶された時に我慢したでしょう? でもミレアが危なくなったから……それに私たちにもあいつらの魔の手が及びそうになったから怒ったのよねぇ……? それって悪いことなのかしらぁ? 私はそうは思わないわぁ。アレは正当な怒りよぉ? アナタはちゃんと自制心を持っているし、大事な者を護ろうとする気持ちも強いわぁ。それがあんな形になっただけぇ。それにアナタがやらなかったら私が叩き潰してたわぁ。この世は厳しくて簡単に人が死ぬわぁ……優しさを持つことも大事だけど時には暴力と言う手段も必要なのよぉ。そこのところをしっかり理解しなさい?」
ホーリィは心に引っ掛かっていた疑惑が確信に近づいていた。
もちろんレクスについて。ある1つの可能性。
「まぁまぁ難しい話はこれくらいにして~。本番はこれからよ!だよ~」
ミレアはレクスの真似をしつつ、自室から取ってきた箱を小さなテーブルの上に置いた。そして少し勿体ぶると素早く蓋を開けた。
「パンパカパ~ン! レクス、誕生日おめでと~!!」
ミレアの満面の笑みと共に現れたのはホールケーキであった。
小さいながらも凝ったデコレーションが施されており、食べるのが勿体ない気がする。
そう。これを買うためにミレアは探求者登録をしなかったのだ。
お金がなかったから。
ホーリィとマールもレクスに祝いの言葉を掛ける。
誕生日を祝ってもらったことなどいつ以来だろうかと思わず考えてしまう。
「3人共ありがとう。嬉しいよ」
自然と相好が崩れていくのが自分でも分かったレクスは素直にお礼を述べる。
こんな嬉しいと思ったのは本当に久しぶりのような気がする。
「へへ~これでお金はすっからかんだよ~探求者登録だって我慢したんだからね~」
「ははッ……日頃、甘いものばっか食べ歩きばっかしてるからだろ?」
「ぎくぅ……!!」
「まぁミレアからスイーツを取ったらそれはもうミレアじゃないわぁ……」
ホーリィがよく分からないことを言っているがフォローのつもりなのだろう。
彼女もミレアがいないと暇だからな。
ミレアはホールケーキを4等分に切り分けると木製のお皿に乗せて、皆に配った。
綺麗に等分ではないところがミレアのミレアたる所以である。
ちなみに1番大きな物を自らの分にしている辺り抜け目がないと言うか、食い意地が張っていると言うか。
だが、レクスはそれすらも微笑ましい感じがして心が温かくなった気がした。
「む~! う~ま~い~ぞ~!」
「確かに美味いな。流石食べ歩きしてるだけはある」
「はっはっは~! 王都にいる理由……それはスイーツだけよ~!」
何処かの○王のようなリアクションをしているミレアだが褒められたことで調子に乗り出した。
彼女はビッグウェーブが来たら必ず乗る系女子だからな。
そう思って取り敢えず軽く釘を刺しておくレクス。
「お前はもっと勉強しろよ」
「そうよぉ? 私の誘惑に勝てないようじゃ先が思いやられるわねぇ」
「それこそがミレアちゃんだにゃ!」
1人だけミレアを全肯定しているようだが、友達になっただけはある。
元々甘党であるレクスも納得の一品だ。
ひたすら黙々と食べ続ける。
「これって何処の店かしらぁ? 行ったことあったぁ?」
「ふっふっふ~。あるよ~。そこの新作だよ~」
「じゃあ、今度皆で行ってみよー!」
女子と、かなり大人の女子(年齢的な意味で)が盛り上がっているが、皆で仲良くしており微笑ましい。レクスも少しばかり行ってみたい気にもなるが、きっと場違いだろうと諦めの方が先にくる。
「(俺はこいつらが仲良くしてればいいんだよ……)」
一抹の寂しさを感じながらも彼女たちの会話に耳を傾けていると、不意にミレアがレクスの方へ視線を向け口を開いた。
「それでレクスはいつがいいかな~? 暇な時間教えてね~」
「!?」
ミレアが然も当然と言った感じで聞いてきたことに驚いたのはレクスであった。
彼女はちゃんとレクスのことを勘定に入れていたのだ。
学園では独りでいることがほとんどだし、その他の時間もレイリアとの剣の稽古以外は部屋で魔法や魔力の研究をしているだけ。
停学処分になったせいで今は色々と出歩く機会も増えてはいるが……。
セレンティアの世界に転生し愛情を持って接してくれる存在が多くできたとは思っていたが、何処か疎外感を拭いきれずにいたのも事実だった。
レクス自身はそれほど自覚していた訳ではなかったが。
「(この世界にも俺を受け入れて気に掛けてくれる人たちがいる。セレンティアの住人か……俺もそうなれたのかな?)」
家族や幼馴染、縁があった者――身内を護ろうと考えてきた。
しかしレクスもまた護られていたのだ。
今回の件はそう考えさせられたお陰で自覚するきっかけとなる良い機会となった。
レクスがそんなことを考えていることなど知らず、かなり大きな女子がそっとその身を近づけたきた。
「アナタ、停学になったんですってねぇ……その間は何かするつもりなのぉ? やっぱり探求者活動かしら?」
「いや、実はギルドを立ち上げようと思ってます。探求者としてお金も稼ぎますけどね」
「ギルドぉ? せっかく探求者ギルドに入ったのにギルドを創るのぉ? 何でかしら?」
「まぁそうは言っても正式なギルドじゃないですけどね。あー言ってみれば慈善活動をするような感じですよ……いや違うな……色々なものを護るのが目的で慈善活動はそのついでなのかな」
「ふぅん……それが一体何に繋がる訳ぇ……?」
ホーリィはあまりピンときておらず、首を傾げている。
どう話すべきか。
イベントをクリアして世界の安定に繋げるなどと言える訳もなく、かと言って目の前の鋭い亜神は適当なことを言えばすぐに見透かしてくるだろう。
「そうですね……実はスラム街でギャング団に良い様にこき使われている子供に会ったんですよ。その子が独力で生き抜こうと頑張ってるのを見てちょっと応援したくなってしまったと言う訳です。あーっと……例えば色んな人とのコネクションを構築してみたりなんかして縁を繋げていくのも良いんじゃないかってね。その過程でその子のような人たちを不条理から救える力が得られればいいかなって感じですかね。まぁ俺が出来る範囲のことをやってみたいと言う我がままみたいなもんですね」
はっきり言って何が言いたいのか分からないことを言ってしまった。
少なくとも縁を持った人たち――身内はこの世界で起こる不条理から護りたいと言う考えからくるもの。上手く説明できないもどかしさを覚えるレクスであったが、そう認識しているのは確かだ。
「ふぅん……アナタの言うことにしては漠然としてるけどぉ……? ま、そう言うことにしといてあげるわぁ。でもアナタのやることは面白そうだしぃ……私も暇な時に絡ませなさい?」
レクスはあんたはいつも暇だろと心の中で突っ込みつつも同意はしておいた。
断ってもやると言ったらやるのがホーリィである。
彼女の好奇心を舐めてはいけない。
暇じゃなくても絡んでくるのは必定だ。
食べるものが無くなっても女子たちは、と言うよりミレアがペチャクチャと何かをしゃべっているが楽しそうで何より。
レクスはいつ帰んのかなと考えつつも、こう言う日も悪くないかと思い直す。
ちなみにミレアのお喋りは中々終わらず、寝るから帰ってくれとレクスが頼み込む頃まで続いた。
明日7/21(月曜日)から新連載を開始します。
タイトルは以下の通り。
『異世界に転移させられたんだが、俺のダンジョン攻略が異世界と地球で同時ライブ配信されているようです』
投稿開始は18時からで月曜日は3回更新予定です。
URLは第1話更新の後で貼っておきます。
是非読んでみてもらえると嬉しいです。
よろしくお願い致します。
明日は12時の1回更新です。




