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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第二章 本編開始~正義とは~

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第9話 情報屋クレメンス

いつもお読み頂きありがとうございます。


本日は12時の1回更新です。

 カランコロン♪


 軽快な鈴の音色が人も疎らなバー『エリーゼ』に鳴り響く。

 どこか寂しげで儚さを感じる響きだ。

 レクスはそう思った。


 人があまりいないとは言え、店内には5名の人間がいた。

 カウンター内では女主人らしき人物がグラスを磨いている。

 対面に座っているのが1人、奥のテーブルで固まっているのが3人だ。


 全員の視線が場違いな2人の少年に向けられる。

 その中には明らかな警戒の色が交じっている。

 レクスは目的の人物であるクレメンスをすぐに発見し、ヤンを引っ張りながらズンズンと近づいて行った。何故なら彼がどんな人物であるか知っているから。


「どうもこんにちは。昼間っから酒なんて良い御身分ですね。情報屋のクレメンスさんですよね。お会いできて光栄です」


 突然、年端としはもいかないような少年に上から目線で話掛けられて混乱しないはずがない。

 レクスの目の前の男は目を白黒させて対応に困っているようだ。

 それを面白そうな表情をした女主人が横目で眺めている。


「ああ、すみません。俺の名前はレクスと言います。ちょっとお願いしたいことがありまして――」

「ななな、な、何だ!? 子供が俺に何の用だ! ん? と言うかどうして俺の名を知っているッ!?」


 クレメンスが喰い気味にまくし立てるが、動揺しているのか驚き戸惑っているようだ。

 何とかなだめようとレクスが必死に話し掛けるが逆効果であった。

 流石のレクスも反省する。

 仕方がないので次の一手を打つことにした。


「情報屋クレメンス。キルギアからの流民るみんで王都の平民街4区の16番地に住んでいる。隠れ家は6区にある空き屋で、ここを活動拠点として使用しており、一部の探求者ハンターや貴族の使いのみがそれを知っている。故に探求者やギルド、そして貴族社会にもパイプを持ち、その内情にも詳しい。職業クラス修道僧モンク。その力を生かして裏でのし上がってきたが、表の顔は貿易商でありこちらの経営手腕もあり。家族構成は父、母、嫁、一人娘で娘から最近臭いと避けられているのが悩み。後は――」


「待て待て待て待てぇぇぇぇぇい!! ななななんだ貴様はぁ!? 一体何者なんだ!?」


 またもや喰い気味に捲し立てるクレメンス。

 とにかく落ち着いてもらうべくレクスはできるだけ穏やかな顔を作り、再度話し掛けてみた。


「えっと……クレメンスさんとよしみを結びたいなと思いまして」

「よ、誼? わしと誼を結びたいと……?」


 ようやく落ち着いてきたクレメンスにレクスが依頼内容を口にした。

 それでも彼は何処か納得していない様子だ。


「ええ。王都の情報が欲しいんです。些細なことから一大事まで全ての。更に王国や世界の情報もあれば言うことなしです」

「そ、そうなのか……しかしそれならそうと決められた符号ふごうを見せれば良いものを……」


「いえ、俺は……俺たちは初対面なので符号もなければ合言葉なんかも知りませんよ?」

「む? それでは何故わしのことを知っている? 誰かに教えられたか? それとも何処ぞの使いの者か?」


 なるほど、敵味方の区別をつけるのに符号を用いているのかとレクスは納得し感心したように頷いた。

 そして誤解を解くために交渉に入る。

 ここからが本番。


「いえ、俺は誰の使いでもありませんよ。ただの平民です。」

「平民か……それは良いとしてお前はまだ子供。報酬は払えるのか?」


「払えると思いますよ。それよりただの平民の子供にあなたが見つけられると思うんですか? 驚いたしょ? 実際のところ」

「ぐ……た、確かに簡単にわしを見つけられるくらいだ……だがやはり気になる。何故、わしのことを知っておるのだ? 」


「俺も独自の情報網を持っていると言うことですよ。ですが、情報源はいくつあっても良い」


 レクスはイベントはしっかり覚えているが、ストーリー本編に絡んでこない――名前が出てこない貴族や人物に関しては情報がない。知り様がないのが現状だ。だからその辺りは実際の情報を持つ者に動いてもらって直接聞くしかできない。


「なるほど。お前が情報源を持っているのは本当なんだろう……わしも顧客が増えるのはやぶさかではない。だが少々気に入らんのでな。確かめさせてもらおう。おい! お前ら!」


 クレメンスの大声に応えてカウンターの奥から男が3人現れる。

 どれも強面こわもて如何いかにもな風体をしており腕っぷしも強そうに見える。

 室内で剣を使うのも危ないし、何より相手も素手でくるようなのでレクスは修道僧モンク職業変更クラスチェンジする。


「何だぁクレメンスの旦那。誰が相手かと思えばガキじゃねぇか……」

「そう言うな。案外やるかも知れんぞ」


「チッ……依頼主のご意志とありゃあ無視もできねぇ……おい小僧! 逃げ出すなら今の内だぜ」

「子供相手によくやるもんだ。相手してやるからかかって来い」


 せっかく見逃してやろうとしたのに逆に挑発されたのが気に障ったのか、男たちが一斉に動き出す。レクスも動こうと足を踏み出そうとすると隣で大人しくしていたヤンが腕を掴む。


「レクス兄ちゃん! 危ねぇよ! 止めとけって!」


 流石にガタイの良い男が3人もいるとなっては不利だと判断したのだろうがレクスに負ける気はない。

 この世界で剣の修行をして分かったことだが、恐らく位階レベルが上がる以外にもステータスは上昇する。位階レベルが上がっていないのに剣王レイリアや騎士たちの剣を躱したり、動きに対応できたりしていることが証拠だ。


 当たらなければどうと言うことはない。

 それに魔力による身体強化やスキルの効果、修行の成果の確認にもなるので試しておいて損はない。


「心配すんな。ヤンは離れて見てろよ」


 その言葉に反応したのは用心棒たちの方であった。

 舐めプはせずにやられても良いくらいの覚悟でやる。


「言いやがる。ガキが……家に帰ってママにでも言いつけるんだな」

「スマンがこれも仕事でな」

「チッ……気が進まねーのよ俺は……」


 そう言いながらも拳を振り上げレクスへ迫るが、その手が振り下ろされることはない。

 その前に男の顔面を殴り飛ばすと衝撃で大きく吹っ飛んだ。

 いきなり1人がやられたことで他の2人が目の色を変える。

 最初は魔力の身体強化なしの技能スキルのパッシブ効果のみの【神魔装甲Ⅱ】で試す。


「(しかし俺が帯剣してんのが見えないのかね……剣を抜けば死ぬのはお前らだぞ?)」


「てめぇ!」


 2人同時に襲い掛かってくるが動きは緩慢でレクスでも十分対応できる範囲だ。

 これも修行の賜物だろう。


 レクスはストレートを半歩動いて躱すと相手の土手っ腹に拳を叩き込む。

 流石に一発では倒れなかったものの、効いてはいるようで一瞬体がくの字になるが、もう1人が割り込んでそれをフォローする。


「喰らいやがれッ!」


 一発で沈まないと判断したレクスは魔力を調整して拳に込め、まずは相手の右蹴りを敢えて左手と左脚で受けるると、その顎をカチ上げる。

 これまた盛大に吹っ飛ばされて奥のテーブルを巻き込んで動かなくなった。

 それを見て焦った最後の男であったが恐怖を和らげるためか、自分を鼓舞するためか大声を出して殴りかかる。


「このガキィィィィ!!」

「そう言う時は声を上げるなよ」


 大振りな右のパンチを屈んで躱し男の左脇に鉤突きを入れる。

 呻き声を上げて硬直したところに能力ファクタス、『格闘』を使用した。


「【波動拳はどうけん】!」


修道僧モンクかッ!?」


 ようやく気付いたクレメンスが驚きの声を上げるももう遅い。

 レクスの右ストレートから出た波動が直接、男の体に衝撃を伝える。

 遠距離からでも拳の波動が出るのだが、今回は直接叩き込んだと言う訳だ。

 一番大きく吹っ飛ばされて壁を破って外で動かなくなった。


「お前……魔導士かと思ったら修道僧モンクだったのか……」

「いや? 暗黒導士だけど?」

「何ッ!?」

「これで満足して頂けました? それともまだやります?」


 確かに今は修道僧モンクだが、元は非力な暗黒導士だ。

 嘘は言っていない。


「(この感じなら職業変更クラスチェンジなしでも戦えるな)」

「くッ……わ、分かった。お前の……お主の依頼を受けよう」

「はい! ありがとうございます! これからよろしくお願いしますね」


 クレメンスの表情は何処か苦々しい。

 それでも何とか割り切ったようで、すぐに平静な状態に戻ったようだ。

 そこへ第3者から思いがけない言葉が飛んで来た。


「どうでもいいけどさ。壁とテーブルの修理代よこしな」


 マスターが顔色1つ変えずに空気を読まずに言ってのける。

 と言うか読むつもりもないようだ。

 たくましい……。


「ではクレメンスさん、それも含めてお願いしますね」


 それはもう憎たらしいほどの笑顔だ

 レクスは巻き込まれた側なので支払う気など毛頭ない。

 ないったらないのだ。


 満面の笑みを浮かべてはっきりと言い切ったレクスにクレメンスが鼻白む。


「ぐへぁ……マスター、金は少し待ってくれ……」

「嫌に決まってんだろ!? アンタが金持ってんのはよーく分かってんだよ! しっかりと補修して欲しいもんだねぇ」


 厭らしい笑みを浮かべた女主人とクレメンスの応酬が始まる。

 レクスは全く興味がなかったのでさっさと符号を受け取ると「また接触する」と伝えてバー『エリーゼ』を後にした。


 心なしかヤンの見る目が少し変わったような気がするがきっと気のせいだろう。

 気のせいだよね?

 き、気のせいと言ってくれ!


 レクスがそう動揺する中、ヤンの恐れをはらんだ視線がずっと突き刺さるのであった。

ありがとうございました。

また読みにいらしてください。


明日は13時の1回更新です。

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