第8話 停学処分(やってられるか)
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王立学園から正式に停学処分が下された。
当然レクスがそんなものに縛られるような性格であるはずもなく。
やることは山積している。
止まっている時間はないのだ。
まずは新魔法についてだが、聖者ジャンヌとの戦いからレクスは更に高火力のものを開発していた。現時点での暗黒導士の熟練度は6なので彼は第6位階までの魔法しか使うことができない。
一応、既存の魔法理論やレクスのみが知っていると思われる絶対神ガトゥの力の根源を読み解き幾つか創ってみたのだが、如何せん高位の魔法ができてしまい未だ実践が不可能な状況だ。
創ってみたのは以下の魔法である。
・第7位階魔法【機関銃弾】
・第8位階魔法【大砲弾】
・第9位階魔法【誘導弾】
更には超大規模魔法、【弾道弾】まで開発中だが恐らく第10位階の魔法になるだろうと思われるが使えるようになるまでは長い道のりになりそうだ。ちなみに魔法の位階は検証の結果、開発が完了した時に決まるようで自分で決めることはできない。
そう、レクスの想像が当たっているのなら、この世界にはまだ絶対神ガトゥが存在している。今は雌伏しつつ力を貯め、ひたすら刻が来るのを待っているのではないか。古代神と漆黒神が弑逆したとされている絶対神が創造したと思われる職業制度や技術などが機能しているのはシステムとして残っているからだと予想できる。しかし、新しい魔法の開発が可能であること、絶対神の力を根源とする神聖力などが現在でも働いていることからレクスは持論が正しいと考えていた。
しばらく新魔法と剣の修行のみに取り組んでいたレクスであったが、他にもやることはある。
コネクションを作り、より多くの職業に就けるようになり、職業ごとの能力を身に着け、少しずつ力をつけるのだ。
自分自身、家族、友人たち、スターナ村の人々、セリア、ロードス子爵家。
護るべき者は多い。
「はは……何だか最初よりどんどん増えていってるな」
久々に王都を歩いたような気がする。
最近はめっきり寮と第三騎士団駐屯所の往復ばかりだったから。
空は青く澄み渡っており、9月になってもまだまだ暑くて敵わない。
少し汗ばむ陽気の中、レクスは情報収集に乗り出した。
向かうはスラム街。
そこにいる情報屋のクレメンスから王都、そして国内の情勢を聞くのが目的だ。
彼が持っている情報からイベントに発展することも多いので現状を確認しておくべきだと判断した。それにスラム街では面白いイベントに出会える可能性もあるので、自然と歩く速度も上がると言うものである。
まぁそもそも王都自体にイベントが多いと言うのもあるのだが。
もしかしたらヤンにも会えるかも知れないなと思いながら足を踏み入れるが、以前来たときよりも明らかに活気がなくなっている。
往来には人が疎らで行き交う人の数も少ない。
取り敢えず近くに店を開いていた女性に何かあったのか確認してみることにした。
「すみません……何だか閑散としてますね。何かあったんですか?」
「……ふん。知らないのかい? 今年はグラン麦やリラ麦が不作なんだ! 蝗害が広がっちまって大変なんだよ。それも王都だけじゃないって話さね」
「(なるほど蝗害か。それはきついな。貴族は取り立てを減免するなんてことはないだろうし国民の不満が高まるだろうな)そうなんですね。ありがとうございました」
「なんだい……何も買わないのかい」
店主は話してやったんだから何か買って行けと言わんばかりの顔をしているが、特に目ぼしい物もないので礼を言ってお暇する。
蝗が発生したのなら、ちょうど9月から10月が収穫期のグラン麦、リラ麦、ラタ麦は壊滅的打撃を受けるだろう。
レクスも国民の心配の前に自分のことを考えるべきなのだが王国全土で不作なら何もできることはない。
情報屋、クレメンスがいるのは『エリーゼ』と言う寂れかけたバーだ。
正確な場所など流石に知らないので人に聞きながら目的地へと向かう。
「あの角を曲がった先か。本当にいるのか?」
そんな独り言を言いながら足を速めると後ろから誰かがぶつかってきた。
すぐに「またスリかよ」と思いつつ下手人の襟を掴むとそこには見知った顔があった。
「あれ? お前、ヤンじゃんか。まーだスリやってんのか?」
「え、やっぱりレクス兄ちゃんか! 何処かで見た感じがした訳だよ。今のはついだよ、ワザとだよ。スリからは手を引いたんだ」
どうやらヤンはレクスではないかと思ってぶつかってきたようだ。
久々の再会の上、元気そうにしているのを見て嬉しくなる。
「おお、そうなのか? 今は何やってんだ?」
「今は薬物の密売かな」
「スリより悪いじゃねーか!」
容赦のないツッコミがヤンを襲う。
確か、薬物売買の組織を潰すフリーイベントがあったはずだ。
ついでに言うとその組織は王国に対して蜂起する。
「分かってるんだけどさ……」
「仕方ないのは理解できる。今どれだけの子供が組織にいるんだ?」
レクスはその悲しそうな声に少し強く言い過ぎたかと思い直し、現状を確認するべく口を開いた。
「え……理解してくれんの? てっきり怒られるかと思ったのに……前にいたギャング団は潰されちゃったから今は〈義國旅団〉ってとこにいるんだけどさ。子供は20人くらいはいるかな」
「理解はするが、賛同はできないな。大体そんなところにお前の命運を賭けていいのか? 確かに正しいだけでは駄目で清濁併せ呑む心が必要だが、使い潰されるだけだぞ?」
「……うん」
ヤンはしょんぼりと項垂れてしまったが、この〈義國旅団〉は王国で蜂起する組織の1つだ。
このまま放っておくのは縁を持ったレクスとしても寝覚めが悪い。
ストーリー開始後には同じような民衆の一斉蜂起が起こるのは確定事項。
だからこそ王立学園中等部や貴族士官学院からも生徒が選抜されて討伐に赴くことになるはずである。彼らを率いて名もなき盗賊団を討伐するのが主人公であるガイネルの処女戦となる。
「ヤン、お前幾つだっけ?」
「え? 10歳だけど……」
10歳となると家業以外では働けないし、探求者も無理だ。
家で何かを経営しているのなら後継者になるための修行として認められているのだが。他の家業へ奉公人として修行に出させると言った仕組みでも作れば良いのにとレクスは思う。身寄りや後ろ盾がない子供たちの受け皿がない状況なのが現在の王国なのだ。
「お前ら、俺とギルドを立ち上げないか? まぁそうは言っても俺が12歳になってからだけどな」
「ギルド……? ギルドって何?」
「あー平たく言えばだな……ある目的に対して相互扶助……お互いに助け合いを行う組織って感じか?」
レクスの大して上手くもない説明にヤンは突っ込むもどうにか理解したようだ。
「何で疑問形? 何となく分かったような気がするけどさ。それでどんなギルドを作るんだ?」
興味は持ってくれたようで乗り気な感じで質問を投げ掛けてくるヤン。
レクスが考えていたのは王都で起こるイベントを大小問わず調べること。
もちろん危ない橋を渡らせるつもりはないが。
当面は探求者の仕事の報酬で子供たちを雇う形だ。
「ふふふ……聞いて驚け! イベントギルドだ!」
「イベント? イベントって何?」
「この国はなぁ……ってかこの世界も同じだけど色々なことが日々起こるんだよ。例えば『何処かの屋敷で幽霊が出る』とか『農奴の中から剣聖が生まれた』とか後は『情報屋を探して情報を得る』とかかな」
「ふーん。よく分からんけど分かったような気がする。王都の中で色んな噂話とか情報を集めればいいんだよね?」
理解が速くて助かる。
ヤンはレクスが思っていた以上に頭が回るのかも知れない。
「ま、そう言うこったな。お前らが危険に晒されないように俺が魔力操作を叩き込む。それで身体強化なんかができる様になれば身の安全も確保できるだろ。仕事はそうなってからだな。特に情報屋とかは危ない奴もいるし」
「〈義國旅団〉のヤツらが見せしめに殺しに来るかも……」
「そしたら俺が潰す」
レクスはあたかも「それがどうした」と言った顔であっさりと、そして平然と言い切った。にこやかな笑みまで湛えているので、流石にこれにはびっくりしたのかヤンが固まっている。
「もうちょい先のことだから、それまでは生き延びろよ? もうすぐ12歳だから俺が探求者になってからの話だからな? あ、ちょうどその情報屋のところに行くんだよ。ヤンも来いよ」
レクスは強引にヤンの腕を引っ張るとバー『エリーゼ』へと足を向けた。
と言うか、非公式にギルドを作ってそこに12歳未満の子供を雇い入れるのは王国法的にどうなのだと言う話だが……。
そこら辺は何も考えてはいなかったりする。
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