第5話 王都で待っていたもの
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王都への途上では大変な事件に巻き込まれたが、そんなレクスを待っていたのは理不尽であった。仕方なく寮の室内に入れたは良いが始まったのは文句の嵐。
「アナタぁ……やっと……やっと戻ってきたと思ったら私のところに顔も出さないなんてぇ……」
「そうだよレクス~! いつまで夏休み満喫してるの!」
何故、到着したばかりなのにホーリィに掴まってしまったかと言うと、もちろんミレアが通報したせいである。なんでも食べ歩きの日々を送っていたらしく、2人の仲はかなり深まったようだ。
ちなみにミレアはご喜捨で奢ってもらっていたと言う体たらく。
レクスとしては堕ちた聖者ジャンヌと命のやり取りをして何とか生き延びた結果、ようやく王都に戻れたと言うのに理不尽だと漏らしたくもなる。
「満喫してねーよ! お前らなぁ……こっちは村が襲われたんだぞ? ついでに堕ちた聖者ジャンヌまで出てきたし」
「ええッ! そんなこと全然知らなかったよ~! ってジャンヌって、誰?」
無知は罪とはこのことか。
伝えてないから知る訳がないのは当然なのだがイラッとくるのはどうしてだろうね。一方のホーリィはジャンヌのことを知っていたようで残念そうな声を上げた。
何処か沈んでいるようにさえ思える。
「ジャンヌねぇ……そう……あの娘死んじゃったのねぇ」
「すみませんねぇ生き延びるのに必死で。と言うかお知り合いですか? 彼女は敬虔な古代竜信者ですけど」
「強い神聖力はそれだけ目立つのよぉ。上からはそんな人間が現れたら導くか、不可能なようなら利用するか狩るかするようにって言われてるわぁ。私はどっちもしなかっただけよぉ」
「怖ッ……でも神様方は人間のことなんて何とも思ってないと思ってましたよ。彼女みたいなのは利用するだけしてポイッてとこですか?(もしかして神の想い出を持っていたのは亜神が絡んでたからなのか……?)」
「まぁねぇ……皆の願いを聞いていたら人間は進むのを止めちゃうわぁ。それに独力で道を切り拓いてこその人生でしょう? 私が関わるとしたら強い信念を持った者を見守るだけぇ」
ホーリィの考え方にレクスは共感していた。
他力本願では駄目なのだ。
結局は自身の力で物事は決まるし、そうすべきなのだ
理不尽なことも大いにあるが、その場合は逃げるしかないのだが。
「それに人間だってぇ神を都合良く使ってるだけじゃない。私たちだって利用される者なのよぉ?」
言われて見れば確かにその通りだと言える。
人間が神の存在を都合良く解釈して捻じ曲げ、自分たちのために利用して来たことは歴史を見ても明らかだ。神が実在するこの世界において神は人間を利用して翻弄し、人間も神を利用して利を得る。
「ちょっとちょっと! 私を放置しないでよ~!」
スルーしたまま忘れていた。
涙目になり声を震わせて縋りついてきたミレアを引き剥がすとレクスは彼女の瞳を覗き込む。
「あー悪い。完全に忘れてた。難しい話してごめんな? ミレアには早かったな」
「そんな哀れむような目で見ないで!?」
くっつき虫で独りを嫌うまだまだお子様のミレアには適当に起こったことを説明しておいた。
ちゃんと彼女の家族の無事も伝えておくのを忘れない。
それについては素直に喜んでいた。
良くも悪くも正直なのが彼女の特徴と言える。
「んで俺を待ち受けてたってことは何かご不満でも? あ、魔力の鍛錬はちゃんとやってたかミレア?」
「もう! ちゃんとやってたよ~! ホーリィにも見てもらってたんだ~。ね~」
「まぁねぇ。頑張ってはいたかしらぁ」
戦神ホーリィのことを呼び捨てにする辺り、ミレア半端ねーなと思わないでもないレクス。恐れを知らないと言うか、畏れ多いと言うか……。
「私の方は変な司祭が訪ねて来たわぁ。さり気なくだけど随所に王国への不満が垣間見られたしぃ古代神様の御力を借りたいのかとも思ったんだけど何処か違うのよねぇ」
「(古代神派と古代竜派を争わせでもしたいのか?)力の根源は分かりました?」
「そうねぇ……古代竜のような力の感じがしたわぁ」
「(となると漆黒竜関係か? ガーレの末裔か……まさか亜神にまで接触していたとは思わなかった)」
ガーレの末裔とは漆黒竜を信仰するガーレ神殿の大司教ガルダームが率いる者たちであり、ガーレ帝國の復活を目論み世界中で暗躍している。
これから起こるはずの戦争も彼らの工作によるものだ。
彼らはどこにでもその手を伸ばしている。
古代神の従属神である亜神にまで手が及んでいたとは思わなかったのでレクスの驚きも大きい。それを表面に出すこともなく黙考している彼をホーリィはじっと見つめているのだが、彼はそれに気付かない。
「他に何か変わったこととかありました?」
「うーん。魔物の出没が増えて王国が慌ててるみたいよぉ。後はぁ……スラムが騒がしいみたいねぇ。何処の国も似たようなものだわぁ。ガルディアもだけどぉ」
ホーリィもどうにもならないこの世界に嫌気が差したのか、腰掛けていたベッドに倒れ込んだ。
そりゃ800年以上も生きていればね……と思わないでもない。
魔物の活性化に関しては転生して間もなくテッドたちが話していたのは聞いていたが、やはり事実のようである。こちらは漆黒神関係、もしくは……あっち関係だろうなとレクスは当たりを付けている。
漆黒竜にそこまでの力はない。恐らく。
魔物の宝石箱、不浄の大森林にいる冥王竜ヴァルガンドーラなら影響力はありそうなものだが。
設定にそうあったから覚えている。
後はスラムと言えば、ヤンである。
レクスから財布をスろうとした少年。
もう一度会っておくかと考えたのだが、蜂起に加わらないように釘を刺すのが目的である。
彼は今、ギャング団に籍を置いているから危険が迫る可能性は高い。
1度、縁を持った者なのだからこそ大切にしたい思いがレクスにはあった。
「そう言えば、先生がレクスはいつ戻るんだ?って聞いて来たよ?」
「ええ……何の用だよ……めんどくさい」
思い出したかのように言うミレアにレクスは露骨に嫌そうな顔を作る。
と言うか実際嫌だし嫌な予感がひしひしと感じる。
「レクス何かしたの~?」
「何かも何もねーよ! 休学してたのに心当たりなんてある訳ないわ!」
「そうだよね~。どうでもいいよね~。と~こ~ろ~で~ねぇねぇ聞いてよ! 私、マールって娘と仲良くなったんだよ~。付与術士なんだけどね――」
話題を出しておいてあっさりとどうでもいいよねと言ってのける。
そこに痺れる憧れる。
流石はミレア。
放っておけばいつまででも話し続ける無限地獄に住む女。
レクスはすぐに聞き流すことに決めた。
部屋にはベッドに横たわり白目で寝かかっている亜神と独りマシンガントークを繰り広げるミレアの姿。
レクスは速く帰ってくれとばかりに溜め息をついた。
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