第50話 聖遺物
後1話で第一章終了です。
まもなく本編突入なのでお楽しみに。
いつもお読み頂きありがとうございます。
本日は12時の1回更新です。
正直言って魔力のことに関しては実践してみてようやく分かる!みたいなものなので、レクスは適当に誤魔化しておく道を選んだ。ただ、取ってつけたような説明になったせいで周囲からはジト目で見られていたが。
特にセリアの視線が刺さって痛かった。
「それにしても、あの聖女ジャンヌ相手によくぞ勝って……いや生き残ってくれたものだ」
「そうよね。アングレス教会でも高位の神聖魔法の使い手だったと聞き及んでおりますし……」
ロードス子爵と夫人は実際に見た訳ではないため、やはり何処か実感がないようで、繰り返しジャンヌのことを話題にしてくる。
確かに主人公でさえかなり苦戦を強いられる相手だ。
どこのステージかは忘れたが連戦だったので余計に苦しかった気がする。
「果たして彼女がケルミナス伯爵家の陰謀に加担していたかが問題だな」
「レクス殿を攫ったと言う事実はありますが、繋がっていたかまでは無理でしょう。状況証拠程度に考えておくべきでしょうな」
ドミニクが言ったように証拠がない。
証拠がないならでっち上げるか。
貴族然とした思考に至るディオンであったが物的証拠を作りたくてもその手立てが思いつかない。
「もしかして裁判を起こすおつもりですか?」
テッドは今更ながらにロードス子爵家の面々の考えに思い当たった。
「そのつもりだ。昔から彼奴とは諍いが絶えぬからな。それに今回はケルミナス伯爵家の騎士がセリアを襲ったと言う明確な事実があるし目撃した者も多い。ケルミナス兵すら現場に居たのだからな」
「となると後はスターナ村襲撃の件ですわね……」
村を襲ったのは盗賊であった。
捕縛した本人が自白したのだが、どうやら複数の盗賊団が協力していたようだ。
お互いに素性を知らない者も多くいたと言う。
「奴らは闇ギルドに依頼されたと言っているが、何処まで真実なのか……。ケルミナス伯爵が関わっていたとしても芋づる式に明らかにするのは難しいだろう。彼奴が証拠を残すとは思えん」
闇ギルドが絡んでいるとなると、我々には吐いたとしても裁判になった場合、口を噤む可能性が高い。
下手なことを言えば消されかねないからだ。
ディオンが苦々しい表情で話しているが、裁判所へは訴えるつもりなようだ。
だがレクスにはそれが悪手のように感じられた。
「しかし訴え出るのも悪手ではありませんか? 私たちがケルミナス伯爵領から現れたのは事実ですし逆に訴えられかねないでしょうか?」
「だからと言って襲うのは別じゃないか?」
「こちらが剣を抜いたのは事実です。捕まえる理由にはなるでしょう」
テッドは何処がおかしいのか分からなかったようでレクスに聞いてきたので正直に答えておく。
彼も納得したらしく「ふむ」と言って何やら考え始めた。
レクスたちの立場からすれば、もし掴まっていたらケルミナス伯爵かジャンヌに引き渡されていた可能性があっただけにどうしても捕まる訳にはいかなかった。
その主張が裁判で認められるかと言ったら厳しいところだろう。
場を沈黙が支配する。
今頃、訴えることで得る物、失う物――損得勘定、打算などがディオンたちの脳裏に浮かんでは消えを繰り返しているのだろう。
そんな中、セリアが口を開き沈黙を破る。
「……お父様、もしかしたら証明できるかも知れません」
セリアは皆に自分の考えを伝えた。
その意見に皆は納得した顔を見せる。
ちなみにさり気なく同じ部屋にいるリリスは1人惚けた顔をしていた。
まぁ7歳だからしょうがないね。
「ふむう……それが証明できればケルミナス伯爵が絡んでいることが確実になるな」
「ただ、全員を調べてもらえるかどうか……」
「どうせあちらも盗賊や魔物が我が領から流れていると文句をつけてくるだろう……ならばこちらも文句をつけても問題なかろう」
スターナ村の住民にも被害が出ている以上、レクスも決して許すことなどできない。
下手をすれば家族にも魔の手が及んでいた可能性すらあるのだ。
裁判で勝つのは難しいかも知れないが、協力しないと言う選択肢ない。
レクス自身が当事者であるだけでなく、身内であるスターナ村の住人に被害が出ているのだ。
それにセリアのこともある。
彼女との交流は知らず知らずの内にレクスの心に温かい物を与えていた。
そもそもガルヴィッシュ家はロードス子爵家に恩を受けている。
後はロードス子爵家で判断して動くと言う結論に至り、子爵家の面々は領都ロドスに帰還することになった。騎士の一部はそのままスターナ村に残って警備やテッドに代わり魔物討伐などを行うと言う。それに未だ治療中の騎士がいるため、無理に動かさない方が良いと言う判断もあった。
話が終わったのを見計らい、レクスはディオンに声を掛けた。
まだ話しておくことがある。
「子爵閣下、この度のジャンヌ討伐の折に私が得た物を献上致します」
もう話すことはない。
そう思っていたディオンは何処か訝しげな顔付きになり首を傾げた。
知らないのは当然である。
「得た物? 献上? 一体何を言っているのかね」
「これでございます」
レクスはそう言うと彼の目の前に白く輝く水晶を差し出した。
それを見ても反応はない。
増々首を傾げるだけだ。
セリア以外は理解していないが、その詳細については彼女も知らないはずである。
「これは聖遺物。これこそが古代神の残した聖遺物、神の想い出です」
「古代神様の……!? 聖遺物だって!? これがか!?」
ディオンが急に慌て始め、信じられない物を見るような目を向けて来た。
やはり信じられないのか、ぶつぶつと小声で何か呟いている。
そりゃ、急に古代神の聖遺物とか言われても「何言ってんだこいつ」って感じになるよね。それにこの世界の一般人――ここで言う本編に関わらない者にとっては特に信じられないだろう。
主人公たちや敵キャラの中にも古代神や漆黒神の存在を懐疑的に思っている者が多いのだ。遥かな太古の神よりも比較的新しい古代竜の信仰の方が信じられているのが現状だしそれが普通のことだろう。
レクスはそう考えているし、ディオンが取った態度にも納得がいっている。
「はい。かつて古代神ロギアジークが漆黒神マーテルディアとの争いの後に残された物。古代神の力の欠片とでも言うべき物です」
「ちょっと待って! これを手に入れたのはジャンヌを倒したレクスじゃない! それは貴方のものよ?」
割り込んできたのはセリアだった。
そんなことを言われても正直興味などないと言うのが本音である。
それにこんな物を持っていても碌なことがない。
きっと何かに巻き込まれるような気がする。
こんなレクスの考えは決して間違っていないはずだ。
「これはセリア……様のご協力があって手に入った物。所有権は私にはございません」
「ちょっと! 様はつけない約束でしょ!?」
違う。そうじゃない。
突っ込みどころはそこじゃない。
レクスはそう思ったのだが、同時にセリアも間抜けなことを口走ったと感じたのか頬を赤らめて言い直した。
「じゃなくて! ジャンヌを倒せたのはレクスのお陰なの! 分かるでしょもう……」
「いえ、このような物を持っていても困るだけですし古代神様を信仰されている閣下が持たれるのが一番良いかと存じます」
ロードス子爵家が古代神信仰なのは知らなかったが、様と敬称をつけて呼ぶ辺りそう言うことなのだろう。だからレクスもそれに倣ったまでだ。
「レクス殿。これは何か特殊な効果があるのかね?」
「もちろんございます。神の想い出は神聖力と衝突します。強いのは神聖力なのですが、反発することで神聖力は抑制されます。神星力を取り込んでその力を得ることもできますね」
「古代神様の強大な神星力が手に入ると言うのか……俄かには信じがたいが……」
「とは言え神の力です。安易に取り込むのは避けるべきでしょう(下手をしたら逆に取り込まれて古代神の一部が復活するんだけど、これは言わない方がいいかな)」
古代神を信仰しているのなら、当然古代竜の力を凌駕する物だと理解できるはず。
とは言え、神の想い出はあくまで力の一部。
古代竜の力を持つ者が力を合わせれば脅威にはなるまい。
それにロードス子爵は安易にその力を行使しないと信じられる。
と言うのがレクスの考え。
「と言う訳でこれは私が持つには過ぎたる物。よってこれは閣下に献上致します」
頼むからちゃんと管理してくれよ。
レクスは暗にそう言っている。
「そうか……。レクス殿はどうしてそのような知識を持っているのかね?」
「(やべ。言い過ぎたか?)えーっと、そう。そうです。学園の王立図書館で古代神様に関する本があったもので覚えておりました」
またまた周囲からジト目で見られるレクス。
反省がない。
「分かった……。レクス殿の気持ちを組み聖遺物はロードス子爵家が預かるものとする。大儀である!」
何とか押し付けることができてレクスはようやく重荷を下ろせたような気がした。11歳の男子には荷が重すぎるでしょ?
そうこうしている内に時間は経過し――
「私帰りたくない……」
「あの……セリアさん?」
領都へ戻ろうと言う段階になってセリアが我がままを言い出したのだ。
思わず突っ込んでしまうレクス。
「もう! レクスのバカ! 意地悪!」
「はぁ……?」
テッドのお前は何をやらかしたんだと言う視線を受けても心当たりはない。
レクスが困惑しているとセリアの追撃が飛んでくる。
「手合せするって約束したじゃない! 私帰らないからッ!」
「ああ……(そう言えば言ったな。ヤバい。これじゃ鈍感系主人公だ。俺はモブだぞ!)」
「そんな約束をしておったのか。これから裁判の準備で忙しくなるし構ってやれぬだろう。ならばしばらく滞在させてもらいなさい。テッド殿、よろしいか?」
「私からもお願いしますわ」
子爵家の当主と夫人から頼まれては断れない。
2人は微笑ましい物を見るかのような目でレクスとセリアを見つめている。
それにどこか面白いことになりそうだと閃くものがあったテッドは二つ返事でOKした。
レクスに決定権などないし、何より大事な約束だ。
忘れていた訳だが……。
「セリア、手加減はしないよ?」
「と、当然でしょッ!」
ああ、無情。
レクスは彼女の負けん気の強さを未だ理解していなかった。
ありがとうございました。
また読みにいらしてください。
明日も12時の1回更新です。




