第46話 関所の攻防
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ようやく領境の関所に到着したレクスとセリアはすぐに衛兵に助けを求めた。
誰も彼もが困惑している様子で遅々として受け入れが進まないのを見てレクスの苛立ちが募る。
セリアが気さくに軍民共に接していなければ、そして愛されていなければ余計な衝突が起こっていたかも知れないと思うとゾッとする。一刻を争う中、突然の事態にロードス兵たちが事情を飲み込むまで多少の時間を要してしまった。
関所には各領の兵士が駐留している。
つまりこの場所にはロードス子爵家の兵士とケルミナス伯爵家の兵士が両方存在すると言うことだ。
しかしいつもと違うことが1つあった。
ケルミナス伯爵家の正騎士も関所にいたのである。
だが2人はまだ気付いていなかった。
セリアの顔を知っているロードス兵たちが開門し2人の中に招き入れた。
「何故、セリアお嬢様がこんなところへ?」
流石に関所を通ったはずがないのに、何故かケルミナス伯爵領の方角から現れたのだ。兵士たちの頭の中は疑問と不審で溢れ、訝しげな顔をする者も多い。
「事情は後で。水と食料を用意してもらえるかしら? 後、この馬にも餌と水を与えてやって」
いくら不思議な出来事が起こったとしても相手は使えるべき子爵家令嬢である。
すぐに命令通りに動き出した。
たどり着いた2人はようやく一息つけるかと考えたが、ここにはケルミナス兵もいることを思い出し事情を伝えてすぐに出立することに決める。何が起こっているのか事情を知らなくても両家の仲の悪さを考えると妥当な判断であろう。
疲れ果てていた2人は水を勢いよく飲み干し、パンを冷めたスープに浸して貪るように食べた。だが疲労の色は濃い。
「すぐに出立するわ。門を開けて」
馬に乗ろうとすると門の前に立ち塞がるように騎士たちが現れた。
兜は被っていないものの完全武装である。
「申し訳ございませんがここを通す訳には参りませんな」
レクスとセリアはあっと言う間に囲まれてしまった。
ロードス兵もいきなりの出来事に動けず茫然としており、我に返る前にケルミナス兵に進路を塞がれてしまう。
「くッ……ケルミナス伯爵家の紋章ッ!」
「手を回していたとは入念なことで」
「大人しくして頂きましょう。武器を捨てて投降して頂きたい。そうすれば痛い思いをしなくて済む」
隊長格の騎士が一歩前へ進み出ると脅しとも取れる言葉を言い放つ。
その顔は無表情で何を考えているの窺い知ることができない。
ここは強行突破も止む無しか?と考えるレクスだがセリアは言葉による対話を選ぶ。となれば自重するしかない。
「貴方たち、本気で言っているのかしら? 何の落ち度もないロードス子爵家に対して敵対行動を取ると言う意味が分かっているの?」
「現在、我が領では貴領からの魔物や盗賊の流入により被害を被っている。そしてそれは暗黒騎士たる貴女が呼び寄せているものと我が主はお考えだ。今も我が領で工作をしてきたのだろう? 我々は命令として捕らえるまで」
「では証拠を示しなさい。そして王立裁判所へ提訴でもすれば良いでしょう? 何なら竜神裁判で」
「ならば何故、我が領へ不法侵入したのか? それだけで捕らえる理由になる」
単にジャンヌによって捕らえられ知らぬ間に越境していただけなのだが、それこそ証拠などない。暗黒系職業は今尚、偏見が大きく災いをもたらす者と言う考えの持ち主は根強く残っている。
そして了承を得ずケルミナス伯爵領に入っていた現場を目撃された。
裁判になれば不利なのはセリアも理解しているはずであるが、その態度は堂々としたものだ。
「私たちはロードス子爵領のスターナ村で襲撃されて連れ去られたのです。そして何とか逃亡に成功して今ここにいる」
「信じられないな。そんな報告は受けていない。そうであろう、ロードスの兵士たちよ!」
ロードス兵たちからは返事がないが困惑してオロオロしているのが返事代わりだろう。実際、騎士もそう受け取ったようで勝ち誇ったような笑みを浮かべながら近づいてくる。
「そう言うことだ。大人しくお縄につくのだな」
剣を先に抜く。
その意味をレクスも十分に理解していたが、これ以上の対話は不可能だ。
そう判断した彼はスラリと剣を抜いた。
セリアも観念したようで同じく剣を抜いた。
「(殺さずに無力化する)」
ケルミナス伯爵家の騎士たちも抜剣しジリジリと距離を詰めてくる。
これ以上時間を掛けてはいられない。
包囲される前に先手を取る!
レクスは一気に駆け出すと騎士の懐に飛び込み強烈な当身を喰らわせる。
吹っ飛んだ騎士は他の1人を巻き込んで倒れる。
なるべく負傷者を出さないようにするのがベスト。
思い上がりかも知れないが、そうしなければいよいよこちらが不利になりかねない。
次々に剣を交えて一撃離脱しながら立ち回る。
実力差があるかに思われたが騎士たちを圧倒したのはレクスの方だった。
そして騎士の体に触れると暗黒魔法を発動する。
「1stマジック【電撃】」
直接触れた物に弱い電流を流す魔法だが行動不能にするくらいの威力はある。
詠唱して時間を喰うより威力は落ちるが発動のみで事足りる。
レクスは疲れた体に鞭を打って騎士たちを次から次へと無力化していった。
「セリアッ! 離れてッ!」
その言葉を聞いて大きく後ろへ飛ぶセリア。
入れ替わって【電撃】を放つと斬り結んでいた騎士はガクリと膝から崩れ落ちた。意識はあるはずだが、動けない以上何もできまい。
それを見てロードス兵たちがようやく動き出し、ロードス子爵領側の門を開いた。
セリアが馬に跨ろうと手招きする。
そんな時、声が聞こえた気がした。
思わず顔を見合わせる2人。
あの声は――
「お嬢様ッ!! お嬢様はおいでかッ!?」
「ドミニクッ!」
関所に駆け付けたのは白嶺騎士団団長、ドミニク・ミラージその人であった。
外は白み始めたもののまだ少し暗いためその表情はよく見えないが声に焦りと不安が交じっているのが分かる。
蹄の音から騎士たちも複数人が付き従っているようだ。
これで一安心だ。
後は帰るだけと気が抜けかけた瞬間。
――不吉な声がした。
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明日は13時の1回更新です。




