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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第一章 ゲーム世界のモブに転生して

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第39話 セリア来訪

土曜日から更新を1日1回に変更させて頂きます。

もうじき本編突入なのでお楽しみに!


いつもお読み頂きありがとうございます。


本日は12時、18時の2回更新です。

 レクスが帰郷して1週間後――


 セリアとドミニクが騎士団を率いて来訪した。

 出会って開口一番に聞かされたのは謝罪の言葉。

 彼女の真摯な思いが伝わってきてリリアナは感謝のあまり涙を流す。


「遅くなってごめんなさい。魔物が活性化しているのに各村への騎士団派遣が遅れてしまったわ……。領内の安定が子爵家たる者の責務なのに」


 それでもセリアの悔恨かいこんの気持ちは収まらない。

 テッドと面会したことでそれは増々高まるばかりで彼女の心を強く締め付ける。


「謝罪など不要です。不覚を取ったのは私の実力不足が原因ですので」

「いえ、当面スターナ村の治安は我々が維持致しますので心配されず休養されるがよかろう」

「かなりの大怪我をされたと伺いましたが……」


 セリアとドミニクは書簡による内容と実際のテッドの容体の違いに戸惑っていた。余程の大怪我に加え感染症まで併発したと聞いて最悪の事態を想定していたためだ。


「いやぁ、レクスが貴重なアイテムを持って来てくれましてね。何とか助かったと言う訳です。ミドルポーションに抗生剤?と言うものらしいですよ」

「レクス殿が? そんな貴重なアイテムなんてよく入手できましたね!? しかも抗生剤なんて一般の方々にはあまり馴染などないはずですが……(抗生剤を作るとなると薬師か錬金術士でないと……でも)」


 セリアの疑問は最もなもので、同じ思いのドミニクも不思議そうな表情をしている。テッドも不審に思い問い質したのだがレクスは何を言われても口を開かなかった。リリアナもその様子を見ていたので、これ以上聞いても意固地になるだけだと判断し口をつぐんだ。


「まぁ、レクスはさとい子です。私のために何とかしてくれたのだと信じることにしたのです」


 豪快に笑ってそう言うテッドを見てセリアとドミニクが目と目を見合わせる。

 どんな手段を使ったのか気になるが、そこまで言われては追及することは無理だろうし特に意味のないことだと2人は考えたのだ。


「父さーん。ご飯とお薬の時間だよー!」

「父さん、調子はどう?」


 リリスが元気な声でお盆を両手で持ち部屋へ入ってきた。

 レクスも一緒だが何処か心配げな表情をしており、笑顔のリリスとは違って未だ油断は禁物だと感じているのだろうとセリアは察する。

 お盆には牛乳入りオートミールと錠剤が載せられている。


「セリア様、此度こたび態々(わざわざ)足を運んで頂きありがとうございます」

「村存亡の危機ですもの。大したことではありませんし、これが貴族としての責務ですから」


 貴族顔負けの礼を取るレクスにセリアは自分の心が波打つのを感じたが、普段の平然とした笑顔で答える。そんな様子に気付くことなくドミニクはテッドほどの者に大怪我を負わせた魔物について聞きたくてうずうずしているようだ。テッドはそんなセリアたちを前に食事を摂らずに2人のやり取りを見て微笑んでいる。


「父さん、それで肝心の相手はどんな魔物だったん?」

「ああ、そうだったな。魔物は……あれは恐らくミノタウロスだと思う」


 明かされた衝撃の事実に一同の顔色が驚愕に染まる。

 唯一、理解できていないのはリリスだけでポカンとした顔を覗かせている。

 あれはよく分かってない時の顔だ。


「ミノタウロスはCランク級の魔物だ。テッド殿とは言え1人では厳しかったろう」

「ええ、無念ですが太刀打ちできませんでした……」


 レクスが春休みの終わりに王都へ向かう旅路で出会ったのがC+ランク級のメラルガンドだった。

 ベテランのガルガンダ率いる傭兵団がいても大苦戦。

 最悪全滅も有り得た相手と同格の魔物である。

 弱いはずがない。


「では私たちが騎士団総出で当たりますわ。明朝に北の森林地帯に向かおうと思います。ドミニク、皆に通達を出しておいて」

「はッ! そのように」


 テッドは恐縮して頭を何度も下げている。

 レクスとしてもスターナ村の守護騎士の家であるガルヴィッシュ家から誰も出さない訳にはいかないと討伐隊に志願した。貴族の責務と言うのならスターナ村のことはレクスの責務でもあると考えた結果だ。


「私も行きますよ。人数は多い方がいいでしょうし」

「いや、レクス殿は残って村を護って頂きたい。万が一、魔物が村を襲撃する可能性もあるだろう。入れ違いになっては困る」

「その通りです。レクス殿は残るべきですわ」

「そうだぞ。止むを得んがレクスにはまだ早い」


 全員に却下されたレクスは自分の実力を否定されたような感覚がして悔しい気持ちになる。王都では毎日のように剣王レイリアに稽古をつけてもらっており、位階レベル熟練度デグリーも上がっているのだ。

 レクスにはCランク級にも負けないと言う自信があった。

 とは言え、それを理解しろと言われても常に戦いの場に身を置いている3人を口で説得するのは難しい。


「ご心配には及びません。私の実力を認めて頂くために……セリア様、お相手頂きたい」

「わ、私が!?」


 セリアにとっては願ったり叶ったりであり、その申し出は渡りに船であった。

 書簡のやり取りでも手合せしたいと猛烈にアピールしていたのだから当然である。


「分かりました。手合せするのはやぶさかではありませんが――」

「お嬢様ッ! 流石にCランクの魔物は危険ですぞ!」

「ドミニク、最後まで聞きなさい。手合せしてレクス殿の実力を計るだけです。ミノタウロス討伐に参加して頂くと言う訳ではありません」


 珍しく強い口調のセリアにドミニクも得心とくしんがいったのか黙って頷くが納得できないのはレクスだ。


「ですが私もガルヴィッシュ家に連なる者としての責務がございます。父さんがやられて黙っている訳にはいかないのです」


 覚悟を決めた男の顔を見たドミニクは内心で感嘆の溜め息を漏らす。

 「ガルヴィッシュ家の嫡男ここにありと言ったところか」と心が湧き立つ思いだ。


「とにかく私と手合せしてください。結論を出すのはそれからでも遅くはありません」


 レクスたちはセリアとドミニクを連れだって稽古で使っていた刃を潰した剣を渡すと自分も握って感触を確かめる。

 ずっと使い続けていた剣に懐かしいと言う思いがレクスの中に広がった。


 庭に戻ると既にセリアが剣を構えて待ち構えており、周囲にはリリスと騎士団の騎士たちが見物しに集まっていた。余程、実力に自負があるのかその顔は自信で満ちており、その体からは覇気が発せられている感覚に捕らわれる。


「(やっとレクス殿と手合せできる! うふふ……やったぁ!)いざ! 勝負!」

「では参ります」


 レクスは剣闘士グラディエイター職業変更クラスチェンジすると半身になって剣を構える。

 『セレンティア・サ・ガ』は職業クラスによって補正がかかるので通常戦闘時は俗に言うステータスが上昇するし、レベルアップ時は職業クラスによって成長値が大きく変わってくるのだ。職業変更クラスチェンジしたのは魔剣士になるための条件を満たすことが理由だ。


「(セリア様の実力は聞いている。大人も勝てる者なしってな……油断はしない。けどここで出し惜しみはしない!)」

「(さぁ来なさい。その腕前を私に見せて!)」


 瞬間――空気が一変した。


 レクスの脚の筋肉がバネのようにしなり溜め込まれた力を解放する。

 一瞬でセリアの目の前まで移動すると刺突が繰り出される。

 凄まじいまでの瞬発力に彼女の反応が遅れた。

 寸でのところで回避するもセリアは背筋が凍るほどの感覚に陥る。

 あれが当たっていたらと思うとゾッとする。

 それほどの一撃であった。


 それでもレクスは止まらない。

 避けられることを想定した動き。

 次々と連撃がセリアを襲うが何とかそれを弾くのが精一杯。


 彼女は何とかして後の先を取ろうとレクスの目を見る。

 怖気おぞけが走るほどの狂気をはらんだ目だ。

 初めて見る目にセリアは思わず怯んでしまう。

 目を見て戦うのは基本だがそれすらも拒否して目を反らしたくなるほど。

 セリアの剣が大きく弾き飛ばされて大地に突き刺さると同時に、彼女の心はあっさり折れた。


「(あんなの初めて……)」


 彼女の首筋にはレクスの剣が突きつけられていた。

 ドミニクが終了を告げると、見物人たちから一斉に驚きと畏怖、感嘆の声が上がる。


「おいおいマジかよ!?」

「ウチのお嬢様に勝つなんて信じられん……」

「レクス殿、すげぇぇぇぇぇぇ!!」


 そんな中、セリアは冷や汗が止まらず膝をついて愕然としていた。

 それほど一方的な敗北。


「(この私が手も足もでないなんて……強い……)」

「(まさかこれほどとはな。私でも厳しいか……?)お嬢様、大丈夫ですかな?」

「セリアさん……」


 茫然と動けないセリアにリリスもかける言葉が見つからない。

 ドミニクに支えられて何とか立ち上がるも膝がガクガクと震えており一向に治まる気配はなかった。


「セリア様。これで私を認めて頂けますか?」

「……貴方は強い。それは理解したわ。でも駄目。何だか嫌な予感がするの……」

「嫌な予感、ですか……?」


 レクスには理解できない。

 ここまで討伐隊への参加を認めないことに違和感しかない。

 普通ならテッドの仇討ちと言う理由で着いて来いと言われてもおかしくないとレクスは考えていた。


「お嬢様、それはもしや……【直感】ですかな?」

「直感?」

「……ええ。私の技能スキル、【直感】がそう告げているの。心がざわめくのよ……」


 レクスはようやく納得する。

 彼女ががんとして受け入れない理由は技能スキルによるものだったのだ。

 信仰心が高いほど当たる確率が上がる技能スキルだったはずだとレクスは思い出す。

 ただ現在は信仰心などと言うパラメータは存在しないため正確には分かるはずもないのだが。


「(残念だけどここは素直に納得しておくか)分かりました。私は村で警戒しておきます」

「ええ、そうしてもらえると助かるわ。必ず討伐して仇を討ってくるから安心して。騎士も何人か残していくから気をつけてね?」


 かたくなだったレクスの態度が軟化したことにセリアはホッと胸を撫で下ろす。

 同時に急に態度が変わったことに不審さを感じざるを得なかったが。


「分かりました。ご武運をお祈りしております」

「ありがとう。帰ったらまた手合せしましょうね? 何度でも挑戦してやるんだから!」


 セリアは折れた心を継ぎ直してレクスとの再戦を期するのであった。

ありがとうございました!

また読みにいらしてください!


明日から12時の1回更新です。

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