第34話 混迷するアングレス教会
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(๑•̀ㅂ•́)و✧
本日は12時、18時の2回更新です。
聖地リベラを本拠地としグラエキア王国全土に影響力を持つ。
それがアングレス教会。
黄金竜アウラナーガを筆頭に古代竜たちを信仰する宗教であり聖地リベラはその総本山とされている。もちろん王都内にも大聖堂と神殿が建設されており、権威の象徴として国民からも親しまれていた。
15年前に『不浄戦争』と呼ばれている戦争が勃発した。
それはグラエキア王国対ジオーニア王国、キルギア、ヴァリス王国連合軍との戦いで、王国は三方から攻め込まれたにもかかわらず善戦。
ジーオニア王国、キルギアの戦線ではカルディア公爵家の奮闘で戦いは膠着し時間ばかりが過ぎて行った。
国民の疲弊を見かねた国王のヘルヴォルはアングレス教会に魔物の巣窟であり、冥王竜ヴァルガンドーラの棲むとされる不浄の大森林の浄化を依頼。浄化後はそこからキルギアの東に出て強襲を掛けることで状況を打開しようと試みた。
アングレス教会はその依頼を快く受諾し、すぐに浄化の儀式に取り掛かる。
しかしことはそんなに上手く進むはずがなかった。
神官から大司教、そして神殿騎士団まで投入されて浄化の術式が張り巡らされ大規模浄化魔法を行使したはいいが、教皇グリンジャⅦ世の失態もあり浄化作戦は大失敗に終わる。
それだけならば、まだ良かった。
儀式は徒に大森林の魔物たちを刺激し、弱体化どころか魔物を活性化させる結果となる。暴走した魔物たちは大森林から出て周辺国家へと襲い掛かった。
グラエキア王国では不浄の大森林の護り手とされる、ザビ侯爵家、バルバストル侯爵家、更に最悪なことに単独でジオーニア王国とキルギア連合軍を抑えていたカルディア公爵家の領内に魔物の大軍が進入し大打撃を被ったのである。
特にカルディア公爵領は魔物の群れに背後を突かれ、前線も崩壊。
公爵家当主のクレイオス自らが戦場に立ち、殿を務めることで損害を最小限に留めることに成功したが、この一件で王国自体が弱体化し戦争は何とか講和を結ぶことで終結した。
しかしカルナック王家やカルディア公爵家から王女と公女を嫁がせる結果となり、事実上の敗北となってしまう。
グラエキア王国の王家や公爵家から妻を娶ると言うことは、古代竜の血が流出することを意味する。普通は薄く血が混じるだけなのだが、先祖返りを起こしてその血脈が奪われてしまう可能性すら孕んでいる重要な問題であったのだ。
特にカルディア公爵家の『カルディアの血狂い』とまで称されるクレイオスの怒りは凄まじく、アングレス教会との確執が残ることとなる。
そのためアングレス教会は大きく信頼を損ない、権威と権力は失墜した。
教皇グリンジャⅦ世はこの失態で地位を追われることを恐れ、稀代の聖女と呼ばれていたジャンヌを陥れて失脚させ責任を転嫁した。
彼女は両手に神聖力抑制のための金色のブレスレットを填められて、教会を追放され行方不明となる。
更にアングレス教会内部で対立が起こり、幾つかの宗派に分裂することとなった。正統派(親使徒家)、黄金竜アウラナーガ一神派(親カルナック王家)、そして厄介なのが漆黒竜ガルムフィーネ派である。
最後の漆黒竜派は流石に異端審問に掛けられかねないため地下に潜っての活動となるが、これがアングレス教会に付け入る隙を与えてしまうこととなる。
現在もその対立は続いている。
このように各所に火種をばら撒くだけの結果になりながらも、教皇グリンジャⅦ世は責任も取らずにのうのうとその地位に座っている。
アングレス教会の絶対者として。
―――
「ククク……まさかわしが聖地リベラに来ることになろうとはな……」
漆黒の大司教は大胆にも聖地リベラに入り込み、漆黒竜派の司教や司祭たちと密会していた。
「このような場所までお越し頂き恐縮でございます……」
「ふん。それで捜索は進んでおるのか?」
「いえ……それが……」
司教たちが言葉を濁しその体を震わせた。
怖いのだ。目の前の男が。
「ククク……そう怯えることはない。だが急務であることは確かだ。それを努々忘れぬことだ」
男はただただ不敵に笑うのみ。
「この場所は元々ガーレ神殿があった場所。漆黒の宝珠が眠っている可能性が高い」
「それはもう……」
漆黒竜派の面々もそれは重々理解している。
そして王都がかつてのガーレ帝國帝都ガレであったことも。
「王都も捜索しておろうな? その刻は近いのだぞ?」
「は、はッ……」
詰められている司祭たちの顔色は蒼白になっていた。
彼らは目の前の男が悠久の刻を生きてきたことを知っている。
そしてその執着心もだ。
「ところで正統派の動きがおかしいようだな」
「そ、それは……その……」
言い淀む司祭の顔が増々悪くなっていく。
「何故、すぐに報告せぬ? まぁお主らがせずとも我が手の者が既に入り込んでおるがな……」
「ッ……!! も、申し訳ございません……」
「ククク……別に怒ってなどおらん。わしが態々ここに来たのは懐かしさを覚えたからよ。それに血脈を継ぐ者も王国にいる可能性があろうしな」
「そちらの方は……何の手がかりもございません」
もう何度目になろうかと言う謝罪の言葉。
この場にいる全員に失態を繰り返すことはできないと言う強い精神的負荷がかかる。
「なに。期待しておらぬよ。お主らにその血脈を知る力はないからな。それよりもお主らは知っておるのか? 教皇は12宝珠を使って何か企んでおるようだぞ?」
「12宝珠で……でございますか? しかしそれは使徒の体内に宿っているはずでは……?」
「戯けが。そもそも古代竜が何故、アスガルズに現れて聖イドラが宝珠を手に入れたのか、その理由を知らぬとは言わせんぞ?」
聖イドラとは大昔に漆黒竜を崇め大陸の大部分を支配したガーレ帝國を滅亡させた聖者。しかし恨みを持ったガーレ神殿の策謀により古代神を祀る聖ガルディア市国〈西方教会〉に捕らえられ処刑される。
古代神を否定し神聖アングレス帝國を建国しようとしていたとも伝えられている。それほど謎の多い人物である。
「禁書指定される古代の書物が増えております。若い者たちの中には知らぬ者も多いのです……お許しを……」
初老の司教が一同を代表して頭を下げた。
彼も教皇グリンジャⅦ世が神殿騎士団を使って何かをしていることは把握していたのだ。その何かが判明していなかったため報告を先送りにしていたと言う訳である。
確度の低い情報を上げる訳にはいかないと判断したから。
「ククク……グリンジャめが……慎重に動いているようだな。あ奴の願いは単純だ。教会の権威と権力を復活させること。それを頭に入れて周辺を洗え。まぁ予想はできるがな……」
「ははぁッ!! 全ては漆黒竜のために!」
『全ては漆黒竜のために!!』
その言動に満足したのか、漆黒なる大司教はニヤリと笑むと転移の魔法でその場から消え去った。
残された漆黒竜派の者たちから安堵の溜め息が漏れる。
凄まじい圧力から解放されたのだ。
無理もない話。
「お前たち、とにかく全力を尽くすのだ。そして種を蒔け。その種はいずれ芽吹き必ずや大きな樹木となろう。その刻が訪れれば我々の栄達は約束されるッ!」
期待に応えるだけでなく自らで考えて将来に繋がる行動を起こさなければならない。彼らは司教の言葉に強い共感を覚えた。
その刻は近い。
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