第33話 スラム街の変わり者
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(๑•̀ㅂ•́)و✧
本日は12時、18時の2回更新です。
レクスはヤンと別れた後、孤児院と教会へと足を向けた。
どんな建物かと僅かに期待していたが、見るだけでそれと分かる。
外見は立派に見えるが大きさはそれほどでもなく、子供も30人くらいしかいない。孤児院は一応は貴族が金を出し合って建てられたらしいが、特に決まった後ろ盾がある訳でもなく人材にも資金にも余裕はない。
所詮は王家と6公爵家よりも速く動いたと言う国民へのアピール。
そんな孤児たちは栄養状態が悪く生きる活力もない状況。
外に活路を見い出してギャングになる者、ストリートチルドレント化し抗争に巻き込まれたり嗜虐的な貴族や大人のはけ口になったりする者と様々な末路を迎える。
あったのは過去一瞬だけ見た夢のみ。
レクスはこの惨状を見て孤児院の院長に子供たちの行く末を尋ねたが悲しい目をして首を横に振るのみであった。今や心ある貴族からや商人からの僅かな援助のみで何とか成り立っていると言う話だ。
「(王家や6公爵家は何をしているんだ? これからまた戦争が始まる……放置すれば状況は悪くなる一方だ。この広い王都に孤児院が1軒しかないなんて異常だよ)」
そんなことを考えても力のない今のレクスに出来ることは何もない。
余計に無力さを痛感するだけだ。
次は教会の方も回ってみようと庭園に出ると1人の少年が空を眺めていた。
眺めていると言うより凝視していると言った方が正しい感じがしてレクスはその奇妙な少年に話し掛けてみることに決めた。
「やぁ、何を見てるんだ?」
「……」
「もう暗くなるな……星でも見るのか?」
「……」
「今の季節だと何だろ。6月だから……双子座かな?」
「……!?」
何を話し掛けても反応がなかったので困惑しかけたレクスであったが星座の話題を出した途端に少年は明らかに反応した。
天体に興味があるのだろうか。
学問は世界を変える力を持つ。
世が世なら立派な天文学者になっていたかも知れない。
知識や技術は国民には回ってこないだろうが。
「暗くなれば星が見えるね。それでも地球は回っているってか。はは……」
「地球……?」
「あ、この星は地球じゃなかったな。あーっと……確か……アスガルズ、そうアスガルズだ!」
「アスガルズ……」
「天体に興味があるのかい? えーとそれでもアスガルズは回っている……なんてな」
少年はうんと言って頷くとレクスの言葉を反芻しているようだ。
「もうすぐ星が見えるから。星には力があるから。僕は星を見続けるんだ」
そう。この世界の星々には力が宿っている。
その力は物語にも絡んでくるほどに。
少年は何かを感じる能力か技能でも持っているのかも知れないとレクスは直感する。
「君の名は?」
「……ステラ……僕の名前はステラ」
「そっか。覚えておくよ。俺の名前はレクス、レクス・ガルヴィッシュだ」
レクスが名乗るとステラはもう1度大きく頷いた。
―――
教会は孤児院から30分ほど離れた場所に建てられていた。
本当に小さな教会だが中はしっかり清められている。
古代竜信仰の教会だと思ったら古代神信仰のそれだったので少しばかり驚いた。
「そうか。それでお布施なんかは期待できないし支援もないのか……」
教会を取り仕切るのは年老いた司祭の男であった。
となると派遣元は聖ガルディア市国、通称・西方教会のはずである。
古代竜信仰のアングレス教会とは犬猿の仲なので、さぞかし肩身が狭い思いをしていることだろう。
となるとどうしても気になるのは『何故、敢えて古代神信仰の教会が建てられたのか?』である。疲弊した国家や貴族諸侯が孤児や難民、流民たちのための保護施設を造らなかったからなのか。
権威を大幅に低下させたアングレス教会が動かなかったからなのか。
教会には隣接して修道院も存在したようで、信仰を捧げる者はレクスが考える以上に多いようだ。司祭曰く、助かるなら宗教などどうでも良いと考える者も多いらしく、それなりの人数を受け入れたと言う話だ。
「王国貴族の中にも古代神を崇拝している方々はいるんでしょうか?」
「ええ、いらっしゃいます。有り難いことに運営のための資金を頂いておりますので非常に助かっております」
古代神が存在したとされる時代は古代竜の使徒伝説の時代よりも遥かに昔の話であり神話の領域だ。
果たしてその事実を王国民たちが知っているのか否か。
貴族たちは当然知っているだろう。
「嫌がらせなんかは受けてないんでしょうか?」
「そうですな……決してないとは言い切れますまい。ですが嫌な言い方になりますがここは言わば敵地……覚悟は皆持っております」
「古代神信仰の布教活動はされていないのですか?」
「しておりませんよ。積極的に行えば異端審問にでも掛けられかねませんからな」
「(異端審問か……本編でもあったな。まぁ現実もゲームも気に入らない者を裁くだけの茶番なのは同じみたいだけど)古代神ロギアジーク様の奇跡などを見せれば民は着いて来るのでは? 神星術とか」
「確かに我が主たる古代神ロギアジーク様の御力は強大なものです。ですが神聖術とは……何か勘違いをされているようですな」
この世界アスガルズは結構複雑な事情でできている。
原初の絶対神はガトゥ。
全てを、そして宇宙を創造したのはこの神だが今は存在しないものとして扱われている。と言うか正確に伝えられていないので真実を知る者が少ないのだ。
ガトゥが生み出した光と闇から生まれたのが古代神ロギアジークと漆黒神マーテルディアでありお互いに敵対していると言うのが一般に広がっている知識だ。
その2柱の神が絶対神ガトゥを弑逆した挙句、永遠にも近い刻を相争って現在は動くに動けない状態に陥っている状況である。戦いは激しく神星術と漆黒術がぶつかり合い多くの星々が消滅したと言われている。
ちなみに神聖術ではなく神星術だ。
職業の『教皇』や『聖人』などが扱うのは絶対神が創造した職業制度に基づいた力である神聖力。そしてその配下たる古代神の力の根源――星々の力を参照して扱えるのが神星力である。
それぞれ違う力であり、恐らく理解している者はかなり少ないだろうとレクスは考えている。2柱の神々が動けなくなった後、かなりの刻を経てアスガルズに干渉できるようになったのが現代に伝わる12使徒を生み出した古代竜の存在なのだ。
古代竜信仰と言ってもその歴史は浅い。
古代竜族が住むと言われている世界を虚界ギンヌガプと言い、彼らの力の根源はここにある。
「まぁいいでしょう。今日は私のような若輩に態々お時間を頂きありがとうございました」
「……いえいえ、神の教えをお伝えし導くのが我々の役目ですのでお気になさらず」
別に宗教談義をしに来たのではないのでレクスはこの辺りが引き際だと判断して話を切り上げた。
この世界の住人が知らないことを知っている。
それがアドバンテージになればと考えながらレクスは教会を後にした。
スラム街の状況も見れたし有意義な1日であったと思う。
本編では盗賊団やかつての戦争の義勇兵などと戦うこともあるはずなのだが、歴史が変われば蜂起する者も増えるかも知れない。把握することで国民の動きを予想、推測し止めることができる可能性が高まるだろう。
可能性があるのは王都だけではない。
レクスが心配するのはスターナ村である。
「ま、子供の俺にどこまでできるかは疑問だけどね……」
レクスは家族や大切な人たちのために裏で動いていく。
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