第28話 喫茶店の女性給仕
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レクスの楽しみは広すぎる王都の散策、と言うか探検だ。
学園が休みの日やレイリアとの稽古がない日は積極的に街に繰り出している。
もちろんオリジナル魔法の開発と魔力の研究も行っているため、それなりに忙しいのだが。
1人で行動するのが好きだし慣れているので基本的に集団行動はしないのだが、時々ミレアや戦神ホーリィに捕まってしまうことがある。
今日もそんな日だった。特段嫌っているつもりは毛頭ないが困ることがある。
出費がかさむ。それに尽きる。
「で? 今日はどこに行くつもりだったのぉ?」
寮を出たところまでは良かったが何故か校門の前で待ち構える者がいた。
せっかく王都まで着いて来たのにあまりレクスに構ってもらえなくてホーリィは欲求不満であった。彼女もまた悶々とした日々を送っていたようだ。
さらっとミレアまで着いて来るのは何でなんですかね。
「目的地は決めてないですよ。まぁ錬金術士の薬屋に行こうとは考えてましたけど」
授業の一環で凄腕の錬金術士の店に見学へ行ったのだが、色々と質問していたら意気投合したのだ。
それから度々通って錬金の様子を見せてもらえないか頼み込んでいる。
普通に秘匿すべき技術だろうしレクスとしてはあまり期待はしていない。
見れたらめっけもんと言ったところだ。
「薬ぃ? 何でそんなものに興味があるのかしらぁ?」
「右に同じ~! レクス、前は全然興味なんてなかったじゃん」
そりゃ見聞を広めるためだよと言い掛けるも慌てて口を閉じる。
そんなことを言えば中等部に行くのならまだまだ時間はあるだろうと言われることは目に見えている。それでも納得させられそうな理由が思いつかなかったので取り敢えず似たようなことを言ってみよう。
「知識を得るためだよ」
「アナタぁ……中等部まで通うなら時間はまだまだあるわぁ。そんなことよりスイーツ巡りに付き合いなさいぃ」
「右に同じ~!」
ほらね。
何度か王都観光に付き合っているが何となくホーリィの好みを理解したつもり。
彼女は大の甘党であった。
だが甘い。そんじょそこらのスイーツよりも大甘だ。
「んじゃブランチがてら喫茶店にでも入ってから行きましょうか」
「あらぁ。今日は随分と物わかりがいいのねぇ。嬉しいわぁ」
「右に同じ~!」
気に入ってもらえたようで何より。
それよりミレアが同じことばかり言ってるな。
壊れかけのレディオかよ。いやプレイヤーか。
そんなことがレクスの頭を過る。
早速、馴染の喫茶店に向かう。
実はレクスはかなりの甘党でスイーツとコーヒーに楽しみを見い出していた。
前世でも同じなので恐らくそれを引き継いでいるのだろうと考えている。
ホーリィの意見に言われるがままに従ったのはこれが理由。
鈴の音を響かせて店内に入ると元気な声で「いらっしゃいませー」と出迎える溌剌とした声が聞こえてくる。今日もいつもの店員がシフトに入っているようだ。
「あッ……お客さん毎度です! 今日は3名様ですか? こちらへどうぞー!」
今日も元気でテンションがお高いご様子で席まで案内された。
彼女の名前はニナ。
喫茶『ラグナル』でアルバイトとして働いているのだが、かなりの頻度でシフトに入っているご様子。
「なぁに? 知り合いなのかしらぁ? 私を差し置いてこの店の常連客のようねぇ……」
「レクス? 隠し事なんて駄目なんだからね?」
怖い。戦神怖い。
あからさまに不機嫌な態度になるホーリィにお勧めのメニューを教えながら何とか宥める。
ミレアも分かり易くぷんぷんとお怒りの様子なので抜かりなくケアしておいた。
喫茶店で頼むのはコーヒーだけなんだけどね。
お金がないので。
そもそもこの世界にコーヒーがあるなんてと、レクスはびっくりした覚えがある。
「これがこの店の名物ですよ。ふわふわパンケーキ~たっぷり生クリームと季節の果実を添えて~ってヤツ」
硬いパンを作るリラ麦とは違い、品種改良されたグラン麦は柔らかいパンを作るのに適している。それを使ったパンケーキで王都や大都市でしか食べられず小村などでは滅多にお目にかかることはない。
「いいわねぇ。それにするわぁ」
「私も~!」
2人ともメニュー表の魔写を見て歓喜満ちた賛同の声を上げた。
前世なんて海外だと実際の写真と実物の違いにガッカリするレベルなのだが、ここは日本のゲームらしく詐欺のような料理が出てくる心配はない。
治安はいいんだ。この辺りは。
だが農奴が多く住む地区を中心にスラム化の波が押し寄せているのが現状らしく身よりのない子供たちがストリートチルドレンと化したりギャングの便利な手駒としていいように使われている現実があると言う。
それも15年前から5年間に渡って勃発した不浄戦争で親を失った戦争孤児が大量に発生し隣国から難民や流民が押し寄せたせいだと言うから哀惜の念に堪えない。何でもアングレス教会が色々とやらかした戦争らしいが、この辺はあまり記憶にない部分なので後日、調べてみる必要がありそうだ。
「(確か教会の威信と求心力が著しく低下したらしいしな。本編が始まったらまた戦争だけど大丈夫かこの国……)」
そんなことを思索していると頼んだ料理がきたようでミレアによって思考は無理やり中断させられる。
まぁいいか。せっかくの贅沢だし今は考えるのを止めよう。
そんなことを思いながらレクスはホクホク顔でパンケーキを頬張る。
「そう言えばぁ……カルナック王家のヘルヴォルももうかなり老いたようねぇ。少し見舞おうかしらぁ」
「古代神の従属神たるホーリィ聖下がそんなこと、可能なんですか?」
「大丈夫よぉ。グラエキア王国には貸しがあるし問題ないわぁ」
「貸しねぇ……12使徒の筆頭になんて変な話……でもないか」
ホーリィが悪戯っ子のような意地悪げな表情を作ると、レクスの瞳を覗き込む。
それはまるで心の奥底まで見透かそうとする視線だ。
「アナタ……どこまで分かってるのかしらぁ?」
「何のことだか分からないんですけど」
否定しながらもこのまま見つめられると看破されてしまいそうで、できるだけさり気なく目線を反らした。
その先のミレアはひたすらパンケーキを口一杯に含んでモグモグと咀嚼している。
クリームを口の回りにつけたままで。
幸せそうで何よりだ。
「うぇぇ……やっぱりコーヒーって苦~い!」
泣いたカラスがもう笑った。
ではなく笑ったカラスがもう泣いた状況をレクスが微笑ましい物を見るかのような目で眺める。
この辺はまだまだお子ちゃまだな。
レクスの口元が無意識の内に緩んだ。
「ミレア、口の回りに生クリームがついてるぞ」
「ええッ……ホントに? やだも~!」
ミレアが女子の嗜みが……云々と何やら言っているが気にしない。
ここはレクスが生クリームを指で取ってやるシュチュエーションなのかも知れないが、そんなベタなことをするつもりもなかった。
「お待たせしました!」
いつの間にかホーリィが呼んだようでニナが笑顔を湛えて追加の注文を聞いてメモしている。
亜神なのに金持ってんだよね。
お布施でガッポリってヤツなのだろうか。
「畏まりー!」
「(そう言えばニナさんっていつもシフト入れてるって言ってたな……何か欲しいもんでもあんのかな? 忙しいならバイトの空きがあるかも知れんし俺もやってみるか? お金もカツカツだし。ただ時間がな……)」
せっかくなので去って行こうとするニナを呼び止めて聞いてみることにした。
「ニナさーん」
「はいー? 追加承りー!」
「じゃなくてですね。ちょっとお聞きしたいんですが、ニナさんって何でいつもバイトしてるんですか? もし忙しくて空きがあるようなら俺もバイトしてみたいんですけど……」
「うーん。……私は欲しい物があってね。古いペンダントなんだけどちょっと高くて……じゃなくて! 君はまだ10歳くらいでしょ? バイトは12歳からしかできないよ? それまで大人しくしてなさーい!」
忘れていたがレクスは現在11歳で9月でやっと12歳。
致命的な欠点を失念するとはレクス一生の不覚である。
滅多なことで動揺しないレクスが顔を赤くしているのを見て隣ではミレアとホーリィが爆笑している。
ホーリィはまぁしょうがないとして、問題はミレアなのだが彼女は喜怒哀楽が激しくて自分の感情に正直なのである。幼馴染なのだから今更感があるものの、いつか目に物を見せてやろうとレクスは心に誓うのであった。
結局、イラッとしたこともあったが美味しくスイーツを頂いて店を出た。
しかしミレアには年齢のことで威張られるわ(ミレアは数か月年上)、些細なことに突っ込まれるわで距離が近すぎるのも問題かも知れない。とは言えその分、天真爛漫で優しいところも多いので救われている部分もあるのでどっこいどっこいか。
教訓。人間、距離感には注意が必要。
「さて、お次は錬金術士のお店へ行くぞ!」
ちょくちょく顔を出して仲良くなったのだ。
錬金しているところを是非見せてもらいたいし実際どんな挙動になるのか楽しみである。錬金術士は魔導具士の職業熟練者でないと職業変更ができない稀少な職業なのだから。
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