第27話 悶々とする日々
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本日は14時、20時の2回更新です。
俺ってこんなにキレやすかった?と自問自答を繰り返すこと既に100回。
レクスは極度の自虐思考に陥っていた。
そうだ。これも全て貴族が悪いんや。
そう思えたならどんなに気が楽になったことだろう。
貴族と平民、奴隷もだが――それぞれの確執は深く重たい。
緩やかな支配関係とは言えたものではなく、そこには搾取する者とされる者、絶対強者と圧倒的弱者、人と家畜など様々な例えがある。
貴族だって平民なしでは税を取ることもできず困るだけではないか?
そう思うかも知れない。
だがそんなことはない。そんなことはないのである。
レクスが日本人の時に持っていた知識ではそれほどまでの対立構造はなかったように思えるのだが、この『セレンティア・サ・ガ』の世界では違うらしい。
まぁどうせゲーム設定に貴族と平民の関係性についての思い込みが反映されただけなのか、はたまた王国が平民に対して過度な知識を与えないような政策を取っているだけなのか。
「まぁ余計な知識や技術を与えて革命でも起こされたら堪らないからな……でも学園を作る辺り少しは国民を育てる気があるってことだ」
レクスは教科書の内容を思いだすが正直、難しいと思ったことは1度もない。
しかしそれは現代日本で教育を受けたからこそ言えることだ。
授業風景を思い起こしてみると、意外と苦戦している生徒が多かった気がしたのは決して気のせいではない。
「となると学園には期待していない? 国民のガス抜きが目的なのか?」
要するに我が国は平民、つまり国民を蔑ろにはしていませんよ!と言う対外アピールとも取れる。地球と同様に既得権益なんかは貴族が抑えている節があるし、特権階級であることに違いはない。
となれば現代日本の価値観で考えても無意味だと言えるだろう。
異なる時代に起きた問題や戦争を現代の価値観で判断するのは簡単だが愚かな行為である。
例えば戦前・戦中の時代は帝国主義が当たり前であり、白人が国土を求めて外征しても問題提起されることもなく黄色人種の国家はほぼ全てが植民地化されていたし黒人も平然と差別されていた。それが当たり前だった時代に肌の色が違うと言う理由だけで未開の猿呼ばわり、遅れて海外に進出した日本だけがいつまでも叩かれる。
「これだろうな。結局どんな時代だろうが現代の価値観では語れない。例えそれがゲームであってもそう言う世界観で作られた以上は、俺が持つ価値観なんて必ず通用する訳じゃないんだ」
ようやく精神の着地点を見い出せたレクスであったが、また違うことを思いだす。
バウアーたちが言っていた名前だ。
ガイネルと言う名前が出ていたが思い出すも何もゲームの主人公じゃねーかとレクスはまた自己嫌悪に陥った。
主人公のことが大嫌いで彼に喧嘩を吹っ掛けて返り討ちに遭うフリーイベントがあったが、肝心なその相手の名前はバウアーだった。つまり本来であれば主人公であるガイネルが体験すべきイベントをレクスが代わりに消化してしまったと言う訳だ。
「ガイネルとオドラン伯爵家のイベントが起こらなくなったって認識でいいのかな? でもネスフェタス子爵の名前は聞いたことがないような……」
ガイネルとバウアーとの一件でイヴェール伯爵家とオドラン伯爵家との間に確執が生まれて家同士がいがみ合う形になり、最終的にオドラン伯爵家は古代竜派から離脱し信仰も捨てて漆黒竜信仰に走ったはず。
かつて漆黒竜の宝珠を得た1人の使徒――皇帝ヴァハが世界を恐怖の渦に叩き込み、古代竜の12使徒に倒されたのが世界史であり、現在のゲーム本編に繋がるはずだ。その本編で漆黒竜を復活させてその力の源である宝珠を手に入れたのが、隠された13番目の使徒である。
古代に存在したガーレ帝國の皇帝ヴァハの血に連なる者だったと記憶している。
ゲームではヴァハル・ド・イェフド侯爵がそれに当たる。
「オドラン伯爵家は古代竜派のままになるのかな?」
分からないことが多過ぎる。
まだ本編は始まっていないはずだが、レクスが絡むことによって物語がしっちゃかめっちゃかになる可能性が高い。
まぁ既に絡んでしまった訳だが……。
とにかくレクスがキレたのは家族を貶められたせいで、ゲーム世界のレクスと言う人格に本来の人格が引っ張られたのかも知れない。
叔母に虐待を受けて家族の愛を求めた帝、家族に恵まれ愛を知ってしまったレクス。1度手に入れた愛情を手放す恐怖に、内なる帝の魂が反応した。ここまで考えてレクスはぶんぶんと頭を振って考えを振り払う。
レクスは考えるのを止め、せっかくの休みが無駄になってしまったことを嘆いていると玄関の郵便受けが音を立てた。普通なら手渡しで書状のやり取りをするのだが、学園は寮生活なので郵便受けが設置されているのだ。
手紙が来るなんて珍しいなと思いつつ確認すると一通の手紙が入っていた。
それも庶民の間で流通しているような物ではなく、封蝋に紋章が印璽された立派な物である。
「家族からも滅多に来ないのに誰だよ。まぁ察しはつくんだけど……」
今日は6月14日。
貴族や商人なんかだと頻繁に手紙のやり取りがあるのだろうが、一般の国民にとっては珍しいことで送られてくるとしても半月に一回程度だろう。
宛名に目をやると知らない名前が記されていた。
正確に言えば家名は分かるのだが名前が分からない。
まぁ予想はできるのだが。
セリア・ド・ロードス。
となると考えられるのはロードス子爵家のご令嬢だろう。
「また厄介なことが起きそうだぞ……セリア嬢か……」
セリアは暗黒騎士で主人公であるガイネルと敵対し殺されるはず。
つまり彼女と絡むと言うことは必然的に主人公とも絡む可能性が出てくると言うことだ。
「なになに……」
『レクス・ガルヴィッシュ様
拝啓、初めてお手紙を差し上げます。
私はロードス子爵家が第1女子、セリアと申します。
突然のこと驚かれていらっしゃると思いますがご無礼をお許し下さい
先日、スターナ村を訪れる機会に恵まれ、レクス様のご家族とお会いすることとなりました。
目的は名代として妹君のリリス様へ祝いの品をお渡しすることです。
幸いにも喜んでいただけたようで安堵しております。
ところでテッド様からレクス様が剣の扱いが上手いとお聞きしましたので興味がわきました。
王都では剣王のオレイル様に剣を習っていると聞き及んでおります。
そこで帰郷の折には是非、私と勝負をして頂けませんか?
楽しみにお待ちしております。
セリア・ド・ロードス』
貴族令嬢なのに何処かの貴族令息たちとはまるで違うようだ。
手紙の書き方が正しいのか正しくないのかはどうでもいいことで丁寧に気持ちを込めて書かれていることは理解できる。確かレクスと同じ11歳……今年で12歳のはずなのだが大したものだと感心する。
「こんなん断れんだろ……」
スターナ村を統治する家の令嬢であり、人気も実力もあるとなると避けてばかりはいられない。
何より理由が思いつかないのでレクスは観念することにした。
自然と諦念のこもった溜め息が漏れる。
「はぁ……もう色々と絡んでいく運命なんだろうな」
これからどうなるのか、どうするべきなのか。
不安の影が心によぎった。
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