第26話 イベント潰し? ②
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(๑•̀ㅂ•́)و✧
本日は14時、20時の2回更新です。
レクスは失望していた。
いや、分かってた。本当は分かってたんだけどね。
初めての友達ができる!と喜び勇んで着いて行くと、ガラの悪いグループの的になっていただけだったと言うお話。
「おい! バウアーさんがお話してんだ。頭が高ぇんだよ!」
「(バウアー? 聞かない名前だな。帯剣してるしゼラルドの態度からすると年上か……)」
テーブル席に座っている年上らしく2人、そして背後に立っているゼラルドら同級生3人。まさに前門の虎、後門の狼と言ったところだ。
「お前、最近調子に乗ってるらしいな? 俺の舎弟共にも反抗的だとか」
「いや絡まれてるのはこっちですよ。何でか分からないですけど」
「テメーが生意気になったからだろうがッ!」
「お前みたいなのが真面目に授業受けても今更なんだよ!」
「ミレアに付きまといやがって、このクソ野郎が!」
何やら文句を言っているが特に気にする要素はないのでスルー確定だ。
と言うか1つ嫉妬心のようなものが発露していたが……。
憐れなり、ゼラルド。
「ほらこうやってイチャモンつけてくるんですよ。特に眼中にないので無視してますけど」
再び背後から罵詈雑言が飛んでくるが一切気にしない。
別にレクスが気にすることでもないので言いたいなら言わせておけばいい。
こう言う手前は無視しておくのが一番なのだ。
「気に入らねーな。それだそれ。そのスカした態度が気に入らねーんだ。分かれよ」
バウアーは凄みながら威圧するように顔を近づけてくる。
何故ヤンキーは皆、睨みつけつつ顔を近づけてくるのだろう。
俗にいうガンを飛ばすと言うヤツだ。
レクスは冷静にそんなことを考える余裕があった。
勘違いされているようだが、レクスは普通に接してくれれば普通に返すだけの常識がある。難癖付けて絡んでくる者を相手にしていては時間がいくらあっても足りないし疲れるだけだ。転生前は大人だったのだ。社交辞令くらい分かるし生きる上での処世術は身に着けている。
「はぁ……それで俺に一体どうしろと?」
年上だろうとこいつもゼラルドたちと同類か。
そう思うとどうにも冷めた態度になってしまった。
「本当にお前はガイネルのクソッタレみたいに俺をムカつかせるのが上手いようだな……」
バウアーはその言動に苛立ったのか、勢いよく立ち上がるとレクスの襟を掴んで力任せに押し上げる。
まだまだ成長期のレクスの体が浮き上がり少し苦しい。
それを見て少し溜飲が下がったのかゼラルドたちから歓声が上がる。
「ハッ抵抗もできねーか? お前の親父もお前みたいなビビリなのか? 所詮は平民、俺は貴族! 俺に逆らった者の末路を見せてやんよ! まずはお前を一家ごとぶっ潰してやろうか?」
途端――空気が変わる。
チリチリとした肌を焦がすようなそれに当てられたバウアーたちは硬直し、中には顔面が蒼白になっている者もいた。
意外なことにいち早く立ち直ったのはバウアーであった。
普段、強烈な悪意を受けたことがなかったが故の鈍感さからくるものなのか、はたまた本当に強靭な鋼の意志を持っていたのか。
レクスが抵抗しないのをいいことに自分に都合の良い解釈をしたようで、更に掴んでいた右手を絞り上げる。
だがそんなことなどまるで気にする様子もなくレクスはその手をバウアーの右手にそっと添えると握り締めた。
「あ?」
所詮は非力な魔導士如きの無駄な抵抗。
そう思ったバウアーの表情が酷薄な笑みへと変わり、更なる力を右手に込めようとした。
だが――
「うぐッ……」
レクスの握り締める握力がじょじょに強くなりバウアーの右手がじわじわと締め上げられていく。
まるで万力で締め付けられたかのような強力に彼の右手はどんどん血色が悪くなっていき、とうとう紫色に染まるほどにまで変色した。
持ち上げられていた力が失われレクスの足が地面に着く。
それでもレクスは握るのを止めない。
遂にはバウアーの膝が折れ、レクスの前に屈する形となる。
「おいおい、何寝てやがんだ? さっきなんつったよお前?」
家族を馬鹿にされてレクスは一気に頭に血が上っていた。
レクスにとって既に護るべき大切な存在である家族を侮辱した以上、大人しくしている理由などない。
目の前で起きたこと――あの傍若無人なバウアーがたかが11歳の魔導士に膝を屈して顔色と右手を青くしていることが信じられず、リチャードがレクスに右腕を振りかざして飛び掛かる。
腕力に任せて殴りつけ、どっちが上か分からせようとしたのだろうが世の中はそんなに甘くない。右手でバウアーの手を握ったまま、レクスの左手が唸りを上げてリチャードのみぞおちに突き刺さる。
1発で沈み、バウアー同様に膝を屈するリチャード。
先輩の2人がレクスを前にして屈している状況に、背後にいたゼラルドたちは言葉を発することすらできず表情を引きつらせていた。
ようやくバウアーを解放すると未だ動けずにいる貴族共に言い放つ。
「お貴族様はやられた振りが上手いなぁ。で、なんだっけ? 家を潰す? お前ら程度にできるとでも?」
キレているので全く止まる素振りを見せないレクス。
罵倒は未だ終わる気配がない。
「今後、気をつけるんだな。俺のことを話題にすれば殺す。見かけても殺す。俺がイライラした時は八つ当たりで殺す。とにかく殺す」
レクスの恫喝に余程プライドが傷つけられたのか、バウアーとリチャードが呻き声を上げながらも立ち上がる。
流石に貴族が平民如きにやられるとなると沽券に関わると言ったところか、目を血走らせており心は未だ折れていないようだ。
「クソがッ……武門の家、オドラン伯爵家の俺に何をしたぁ! 何をしたのか分かってるのかぁ! 貴様ただでは済まさんぞッ!」
「俺が貴様如きに負ける訳がなぁい! ネスフェタス子爵家がこの喧嘩を買ってやるッ! 震えて眠れッ!」
そんなことはどうでもいい。
まだ力の差に気付いていないようではグラエキア王国の王都のような伏魔殿で老獪に生き残ることなどできないだろう。
所詮は貴族と言ってもこの程度かと思いたくもなる。
「(大丈夫。俺は冷静だ)」
頭の中ではそう考えながらも、レクスは一切の感情を捨ててバウアーの襟を取って引き寄せると有無を言わさず殴りつけた。
後はルーチンワークだ。
ゴッゴッゴッと硬いモノを殴る音だけが店内に響く。
機械のように動くレクスが冷静なはずはなく本人がそうであると思いたいだけ。
バウアーが黙ると次はリチャードだ。
レクスは無表情のまま淡々と同じ作業を繰り返す。
「あ……が……」
「や……やめ……」
顔中をボコボコに腫らして気を失いかけている2人に最後の鉄槌を。
それぞれの手に2人の頭を握ると目の前にあるテーブルに叩きつけた。
家具がゴミへ。
残るは変わり果てたゴミたちのみ。
やることが終わったので帰ろうと振り向くとゼラルドたちが恐怖で戦慄していた。
さっき前門の虎、後門の狼と言ったがあれは間違いだった。
目の前の憐れな存在はそんな大層なモンじゃない。
子猫だってもっと爪や牙を隠しているしやる時はやる野性的な本能を持っているだろう。
レクスは興味を失い、3人にぶつかりながらカフェを後にした。
出がけに店長らしき人物が泣きそうになっていたので、「お金はオドラン伯爵家とネスフェタス子爵家にツケといて下さい」と言い残してクールに去った。
あれから噂を耳にした。
どうやらバウアーが腑抜けてしまったようだ。
理由を聞いても何も答えないらしくただただ怯えているらしい。
レクスのしたことが話題に上らないことを考えるとゼラルドたちは何も漏らしていないらしい。
しかし寮に帰って冷静になるとやらかしたことが嫌でも理解できる。
「ああああああああ! 貴族相手にやっちまったあああああああ!」
レクスはベッドの中で1人悶えるのであった。
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