第25話 イベント潰し? ①
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本日は12時、18時の2回更新です。
王立学園中等部騎士科2年のバウアー・ド・オドランは所謂、お山の大将と言うべき存在であった。
武門の家、オドラン伯爵家の第3男子で今年14歳になる。
長兄、次兄共に優秀ではあったが、それを鼻にかけるところがありそれほどのカリスマ性はない。バウアーは末っ子だったため最も甘やかされて育ったが剣の実力だけは本物で学園でも若手のホープとして期待されていた。
家だけでなく学園でもチヤホヤされるのだから天狗になっても仕方がなかったと言えるが、とどの詰まり貴族の子息にありがちな傲慢に育った阿呆なのだ。
バウアーは放課後もろくに勉強せずに遊び呆けており、市街地でも傍若無人な振る舞いをしていたため一部の王都民からは白眼視されていた。更に年上なのを笠に着て小等部の生徒たちの親分を気取るようになっていた。
ここまでこれば貴族だと言えども抗議や批難の声が上がりそうなものだがこの世界において貴族と平民の差は日本人が想像する以上にひどい。貴族は平民など平気で家畜呼ばわりするし、平民はどんなことがあっても決して逆らおうとはしない。
もちろん、全ての貴族に当てはまることではないし王家を筆頭とする6公爵家はかつて世界を救ったと言う自負から清廉潔白で気高くあろうとしている者も多い。
ノブレス・オブリージュ?
平民が聞けば冗談は口だけにしてくれと怒りに震えるだろう。
「おい。お前らよう。何かおもしれーことはないのか?」
普段、屯する場所として使用している寂れたカフェ内でバウアー一味がアレコレとくだを巻いていた。
バウアーは退屈だと言う理由だけでキレる。
そんな理不尽なと言われればそれまでなのだが、実際そうなのだから仕方ない話だ。一瞬でヤバイと判断した子分たちはある意味優秀ですぐさま彼が興味を引きそうなネタを投下する。
「バウアー様、実はウチの同級生に小生意気な野郎がいるんですよ」
「そ、そうそう。魔導科のヤツなんですがね。そいつがまたスカしたヤツなんス」
一味の中にはレクスと同じクラスのゼラルドの顔もあった。
「何だ? お前と同い年ってこたーまだ11歳ってことか」
そう言ってバウアーが顎をしゃくる。
速く詳細を話せと言う意味だ。
「それがですね。今まで何をやるにも無気力で覇気もない大人しい野郎だったんですが、最近になって急に粋がりだしやがったんです」
「いつも昼行燈とか頓痴気って言われてたんスけど、何かいきなりやる気出したって言うか……」
それを聞いたバウアーにも心当たりがあったようだ。
悪事千里を走ると言うように、本当に悪い噂は広がるのが速いものである。
「昼行燈……? ああ、聞いたことあんな。魔導科の2年で結構有名なヤツだ」
どうやらレクスのよろしくない噂は小等部だけでは留まらなかったようだ。
その名が中等部にまで轟いていたことにゼラルドたちはある意味、畏怖を覚えた。
もしかしたら貴族士官学院にまで広がっているかも知れないとまで思わせられるほどである。
「バウアーさん、やっちまうかぁ?」
バウアー一味には彼と同い年の者もいた。
ゼラルドの金魚のフン、ギンチャックのような存在である。
「レクスって奴でやたら正義感を振りかざしてくるしマジ、いけ好かねぇんです」
レクスとしては特に正義感などと言う殊勝なものは持ち合わせていないのだが、彼らにはそう見えるようだ。
無駄な争いは止めて仲良くしようとしているだけであり決して他意はない。
「クソッ……イヴェール伯爵家のボンボンみてーでウザッたいぜ」
イヴェール伯爵家は6大公爵家の1つであるローグ公爵家に仕える有力な貴族であり天龍騎士団の団長を輩出する名門でもある。
ローグ公の天龍騎士団と言えば、同じく6大公爵家の1つ、ダイダロス公の地竜騎士団と双璧を為すグラエキア王国でも最強戦力を誇る騎士団なのである。
イヴェール伯爵家のボンボンとはバウアーと同じ中等部に通う2年生のガイネル・ド・イヴェールのことで、ガイネルはその4男であり貴族とは正義を行使する者と言う考えを持つ正義感の塊のような男子であった。
「よし。そいつを潰すことにするか。すぐに呼び出せ!」
バウアーのような有力貴族にとって平民など歯牙にもかけない存在だ。
所詮は平民であり教養もない無価値な家畜。
正直、何故グラエキア王国が学園まで作って平民如きに知識を与えるのか理解に苦しむほど。
「喜んでー!」
「サーイエッサー!」
―――
「やっと見つけたぜ。レクス」
「散々探させやがって……どうしてくれやがる!」
出会い頭にそう言われたものだから一瞬思考が停止しかかったレクスである。
「いきなり何なんだお前ら」
丁度、魔導具屋から出てきたところで見つかった。
購入するお金がないので見るだけなのだが、面白い魔導具を見つけることができてレクスはホクホク顔だ。
魔導具で出来ると言うことは魔法でも再現可能と考えられるため、新魔法に生かせるのではないかと考えているから期待せずにはいられない。
「だーかーらー! テメーを探してたって言ってんだろ!」
「ホントだぜ。昼行燈は大人しく寮に引きこもってればいいんだよ!」
「毎日なにやってやがんだお前はよ?」
今日はたまたま午後の授業がなく時間ができたので王都の散策を行っていたのだ。何しろ情報や知識はあれども実際に自分の目で確認しないと分からないことは多い。
「お前ら、そんなに俺と遊びたかったのか。それなら最初からそう言ってくれよ(素直じゃないよな。年頃の男子ってーのは)」
レクスのボケた返事に苛立ったゼラルドたちの心に増々憎悪の火が灯る。
満更でもない顔をしながらウッキウキでそう言うくらいには彼は嬉しかった。
ただの勘違いなのだが……。
日頃、絡むのがミレアしかいない辺り、お察しと言えばお察しである。
「とにかく着いて来いよ」
「どこに行くんだ?」
「ああ!? どこでもいいじゃねぇか!」
「それくらい教えてくれてもいいじゃんか♪」
「カフェだよ! カ・フェ! 黙ってついて来い。楽しみにしてろよ」
カフェでお茶するのか。
意外とかわいいところもあるんだな。
レクスの脳は良い魔導具との出会いのせいもあり、機嫌がよく絶好調お花畑状態であった。せっかく仲良くなるチャンスなので言われた通りに黙ってついていくのだが、先導するゼラルドは大通りから外れ裏道を進んで行く。
「(なるほど……裏道のカフェ……となると隠れ家的な人気店なのか?)」
一切誰も口を開いて会話する気配すらないのだがレクスも周囲の観察に脳のリソースを割いていたため気にならない。
1人で納得してこういうところを探検してみるのもいいななどとお気楽なことを考えていると不意にゼラルドが足を止め言った。
「着いたぞ。入れよレクス」
そこには寂れたカフェが存在した。
どこからどう見てもそう思えるのだが、実は王都の流行りなのでは?と言う考えも頭を過る。なるほどこれが詫び寂びか!(断じて違う!)と自分を納得させつつ周囲の様子も窺うレクス。
王都にしては道幅が狭く閑散としており日本のヤンキーがウンコ座りでもしていそうな雰囲気がある。中央通り周辺や市街地、商業区などは石造りの綺麗な家々が建ち並んでいるがこの辺りは木造平屋が連なっており長屋にも似た感じになっていた。
まぁいいかと思い直しカフェに入ると鈴の音がカランコロンと鳴って来店者を迎えてくれた。心地の良い音だったので悪くないなと一瞬思ったのだが、外と同様に閑散としており人は少なく店の内装もところどころ痛んでいる。
インテリアも古びた感じで傷が多い印象を受けた。
「(いらっしゃいの一言もないのか……)」
店のマスターの顔色もどこか冴えないし経営状況が悪いのだろうかと他人事ながら心配になるくらいだ。
ゼラルドの後に着いて店の奥のテーブル席に向かうとそこには切れ長の目をした目つきの悪い男、いや男子――バウアーとこれまた眉間に皺を寄せたガラの悪そうな男子――リチャードが座っていた。
「バウアーさん、連れてきました。こいつがレクスです」
「ふーん。お前が昼行燈か……(思ってたのとは違うな)」
バウアーが予想していたのはボーっとした凡庸な顔付きの何の特徴もない男であったが、実際に目の前にいるレクスは優男と言った感じで身綺麗な格好をしており姿勢正しくスラッとしている。
所詮、噂は噂なのかとバウアーは思ったが子分に泣きつかれて放置しておいては名門、オドラン伯爵家の名が廃る。
「今からお前と遊んでやんよ。 ショータイムの始まりだ」
バウアーはニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべると鼻を鳴らした。
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