第23話 ロードス子爵家からの名代
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本日は12時、18時の2回更新です。
ケルミナス伯爵家から不可思議な使いが来て1週間。
スターナ村はいつも通り平穏で、ガルヴィッシュ家も静穏だが忙しい日々を取り戻していた。
この日もテッドは日課であるリリスの稽古をつけていた。
最近になって村の中でも戦闘職を授かった子供たちにも戦闘訓練を施してやっているので彼にかかる負担も増えてしまったのだが嫌な顔など噯にも出さない。
速く強くなりたいリリスとしては複雑な思いだが、彼女の本音を言えばそれよりも父親を他の子供に取られたようで嫌なのだ。
「うーん。人も増えたし広場をでかくしたいところだな」
一応はガルヴィッシュ家の敷地内だが少々手狭になったことに頭を悩ませる。
家の隣に練兵場のようなものでも建てたらどうかと村長には相談しているのだが。とは言え広大なリラ麦畑が広がっているものの民家同士が離れていて空いている土地もあるので村合議会で検討すれば許可が下りるだろうとテッドは考えている。
「よっし! 素振りも終わったし地稽古するぞー! 俺は1人ずつ順番に相手してくからその間に2人1組で打ち合ってけ! 気合入れてけよー!」
地稽古は学んできた剣術の応用・実践を試しながら行う実戦形式の戦いである。
ほとんどはまだ小さな子供相手だが畑仕事を速く終わらせて訓練に参加しようとする者も増えてきた。
小さな村では子供も重要な働き手なのだ。
まぁそれが問題で村人から苦言を呈されることも出てきたのだが、同時に将来的にもっと獣を狩れると言うメリットもあるので積極的に送り出す者も多い。
テッドが対人稽古を開始して間もなく遠くから蹄の音を響かせて1騎の騎馬兵が近づいてくるのが視界に入った。
脳裏に先日、突然訪問して来たケルミナス伯爵家の使いのことが浮かぶ。
「厄介なことが起こらなきゃいいんだが……」
子供の相手を止めて近づいてくる騎馬兵を見ていると、案の定ガルヴィッシュ家の前で騎馬から降りた騎士が大声で言った。
「ガルヴィッシュ家のテッド殿とお見受けする! 私はロードス子爵家からの先触れである! 後1時間ほどで子爵家ご令嬢と騎士団が到着する! 受け入れの用意を求む!」
洗練された騎士の動きに練度の高さを実感する。
テッドはそれを見送りながら一体何事なのかと首を捻るが心当たりなどない。
それも態々ロードス子爵家ご令嬢まで、こんな村まで足を運ぶ意味も分からなかった。
「おーい。全員聞け! スマンが今日の稽古はこれまでとする! 家に帰って手伝いでもしとけ!」
それを聞いた子供たちからは「えー」だの「マジかよー」だの「仕事したくねー」だのと言った情けない声が上がる。
子供はチャンバラが好きだからな。
テッドは苦笑いすることしかできないがこればかりはしょうがない。
全員を帰してリリアナに歓迎の準備をするように伝えると自らも一張羅を取り出してきて着替え始めた。
リリスも就職の儀の時に奮発して買ったお祝いの正装に身を包んで準備している。
「あなた、騎士団が来るって本当なの? それにご令嬢までいらっしゃるなんて何かあったのかしら?」
「分からんなー。全く心当たりがなくて困惑してるよ。もしかしたら先日のようなことがあるかも知れん」
リリアナも戸惑いを隠しきれずに不安げな様子だ。
いつもの闊達で堂々とした態度とは明らかに異なっている。
「母さん、礼服着たよー」
「あら、似合ってるわ。ふふふ……お母さんの若い頃にそっくりよ」
「流石は俺の子だ!」
2人とも親馬鹿なのでリリスを礼賛する言葉が留まるところを知らない。
ちなみに本当ならガルヴィッシュ家の令嬢としてドレスでもと思ったのだが、リリスがスカートを嫌がったため軍服の正装に近いパリッとしたパンツスーツのような物にしたのだ。
「大部隊で来られてもお泊めする場所がないのが問題なのよね」
「まぁなぁ……ご令嬢には空いている部屋で休んで頂くとして騎士たちはどうしたもんか」
騎士団と表現したからにはそれなりの人数を連れてきていると考えてもよい。
すぐに帰る訳ではないだろうし、もちろん速く帰れと言う訳にもいかない。
そうしている内に1時間などあっと言う間に過ぎていく、頃合いを見計らって3人は門の前で一行の到着を待った。
やがてロードス子爵家が誇る騎士団が整然と隊列を組み、ゆっくりと現れた。
一糸乱れぬその姿からはどこか威容と迫力が感じられる。
「あれが白嶺騎士団か……」
テッドの口からは無意識の内に呟きが漏れていた。
先頭の厳めしい顔付きのガッシリした体躯を持つ男が下馬すると隣にいた見目麗しい少女もそれに倣う。
「急な訪問にもかかわらず出迎えて頂き感謝致す! 私はドミニク・ミラージ。白嶺騎士団の団長を任されている者だ。よろしくお頼み申し上げる」
高々小さな村の1つにしか過ぎないのに言葉遣いには丁寧さと敬意が感じられてテッドは密かに安堵していた。それにしても騎士団長が足を運ぶとは驚きだ。
ドミニクは先を続ける。
「こちらはロードス子爵家ご令嬢であらせられるセリア様である。此度は当主のディオン閣下の名代としてまかりこした次第」
紹介された小さな令嬢セリアはその長くウェーブがかった金髪を風に靡かせて前に出る。その碧眼は宝石のように輝き、大きな瞳は見る者を吸い込んでしまいそうなほどだ。長い睫、スラリと高い鼻、整った顔立ち、何処を見ても誰もが羨むほどの美少女である。
「本日は名代として参りました。ロードス子爵家が第一子、セリア・ド・ロードスと申します。ガルヴィッシュ家が聖騎士を授かったと聞いて祝いの品をお持ちしたのです。すぐに来れなくてごめんなさいね」
男顔負けの軍服式の礼服に身を包んでおり、カーテシーではなく敬礼を行う。
人目を惹きつける凛とした態度にリリスはセリアから目を離せない。
「め、滅相もない! 態々このようなところまでご足労頂き感謝の言葉もございません。狭苦しい家ですが中へお入りください」
「ありがとう。まずはリリスさんに祝いの品を受け取ってもらいたいの」
その言葉にドミニクを始めとした騎士たちがセリアの背後に整列し全員が左手を心臓の辺りに添えて敬礼のポーズを取った。
「スターナ村を護るガルヴィッシュ家、テッドの子、リリス! 天より聖騎士を授かったことは真に嘉すべきことと言えましょう。今後も驕ることなく正を為し邪を払い王国の安寧に尽力するように! 当主に代わりここに慶祝の品を与えます」
リリスは戸惑いつつ両親の方をチラチラと窺ってからセリアの前に進み出ると両手で差し出された宝剣を受け取った。
7歳の女の子が儀礼に通じているはずもなく、何処かたどたどしい受け取り方であったが、セリアは全く気にする素振りはない。
むしろ可愛い妹を見るかのような微笑ましげにそれを見つめていた。
「しばらくの間、滞在させて頂きたい。よろしいか?」
いきなり100人ほどの騎士に来られても泊まる場所の確保は難しいのだが嫌と言う訳にもいかない。
野営の場所をどうしようかとテッドは頭を悩ませるのであった。
「はい。構いませんが、見ての通り敷地が狭いもので隣の空き地を使って頂ければと思います。もちろんセリア様にはお部屋の方を用意させて頂きますので」
「それは有り難い。もしよかったら我々にできることがあれば言って欲しい」
「恐れ入ります」
テッドとドミニクがそんな会話を交わしている一方で、セリアはリリスに積極的に話し掛けていた。
「リリスちゃんは剣の稽古はしているの?」
「ひゃ、ひゃい……」
セリアとしてはできるだけ気さくに気遣いながら話し掛けたのだがリリスは初めての経験に緊張していた。
いきなり噛みまくり俯いてしまうリリス。
「緊張しないでいいのよ? 私たちは齢が4つしか離れていないんだし。ね?」
「は、はい……」
「よかったら私と剣で戦ってみない?」
「えッいいんですか!? わたしなんかと。わたしまだ下手っぴで……」
「もちろん! 貴女の手を見れば分かるわ。頑張って剣を振っているのがね」
セリアはそう言うと、弾けるようなとぴっきりの笑顔を見せた。
それにリリスは心が解かされていくような気がして何だか嬉しかった。
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