第20話 新魔法の解析となんとなく気付いたこと
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本日は12時、18時の2回更新です。
レクスの日課に新魔法の開発が加わり、猫の手も借りたいほどの忙しさになった。
まぁもし借りられたとしても独力で行わねばならないので意味はない。
と言うか冗談なので気にしないでもらいたいところだ。
学園の授業は小等部と言うこともあってか、さして難しいとは感じられない。
魔法を効率良く扱う魔法関連の授業は真面目に受けているが、その他はそれほど力を入れていない。新魔法のことを打ち明けてからミレアがよく部屋へ訪ねてくるようになったが興味があるのは良い傾向である。
この日もレイリアに剣の稽古をつけてもらい、見学に来ていたミレアと共に寮へと戻る。夕食と呼ぶには遅い食事をしてから新魔法について一緒にあれこれ取り組むことが多くなってきたため2人で食堂で食べることが増えてきた。
「おやおや、ミレアちゃんとレクス坊じゃないかい。今日も遅いねぇ。何をやってるのかは知らないけど頑張ってる子にはサービスしないとねぇ」
穏やかな口調でそう言うと食堂のおばちゃんは焼き肉大盛りをよそってくれた。
育ち盛りの上に激しい稽古の後なので非常に有り難いところだ。
「いつもありがとうございます」
「おばちゃん、ありがと~!」
「ええのええの。子供はしっかり食べな!」
ガラガラの食堂で適当な席に座るとレクスは猛烈な勢いで食べ始める。
それもこれもレイリアの地獄のような稽古のせいなのは言うまでもない。
ミレアは特に何もしていないのにガッツリと食べている。
体の線は細いが意外と大食いなのでレクスも最初に見た時は大いに驚いたのを覚えている。
食事が終わるとレクスの部屋で宿題を終わらせ、いよいよ新魔法の作成に入る。
ミレアにも教えておけば彼女もそのうち新魔法を生み出す可能性は十分に考えられるのでやっておいて損はないはず。
懸念点があるとしたら、せっかくの新魔法でも職業の熟練度が低くて魔法の位階が高ければ扱うことができないところか。
例えば第5位階の魔法を扱うには職業の熟練度も5以上でなければ使用することができない。
レクスはとてももない早口で話し始める。
魔法の話になるとついつい力が入ってしまうのだ。
「この部分が魔力出力を入れる変数だな。特に上限の設定がなければどれだけ魔力を注ぎ込んでもいいが効率は悪いな。設定値が決まっているならぴったりと魔力を使うべきだ。それには適切な魔力操作の技術がいるけどな。それに魔法変数の値が大きい場合は、1度で魔力が足りなくても繰り返し魔力を注ぐとこで条件を満たすことができる。そうできるように魔法陣の回路を組む感じな。まぁそれをすると魔法陣の展開から発動までに時間がかかるんだけど大きい魔法でも使えるメリットはあると思う。でもまぁそこは戦いの場合によりけりだろうな。んで、ここは魔法の個数なんかが描かれている。例えば第1位階の【火炎矢】なんかだとここの数値によって放たれる矢の数が変わる。矢の数を多くしたり、少なくしたりする代わりに強い出力のでかい矢を放つ時はさっき言った魔力変数の値も変更する必要がある」
魔法実習の授業時にレクスは魔力値などを変えながら色々と試している。
太古の言語は完全に解明されていないため教科書も不完全ではあるが、恐らく理論的には正しいはずだとレクスは考えている。
「ふ~ん……じゃあ【治癒】の魔法でも【聖亜治癒】並みの治癒力を出すことができるの?」
「まぁそう言うことになるな。実際にやってみるのが一番速いよ。百聞は一見に如かず。百見は一考に如かず。百考は一行に如かず。ってな。そう言うことだ」
「レクスがなんか難しいこと言ってる!」
「ふっふっふ……頭良さそうに見えるだろ?」
ミレアが目を見開いて驚いた様子を見せるがワザとらし過ぎてレクスから思わず笑みがこぼれる。
そして彼女といることに心地良さを感じている自分に気付かされる。
レクスが笑うとミレアも笑い、ミレアが笑うとレクスも笑う。
この世界に転生してまだ1か月半ほどしか一緒にいないはずなのに、もうずっと共にいるような奇妙な感覚にとらわれている。
「(温かい……転生前の世界よりずっと。もう俺が護るべきモノは数えきれないな……)」
本編が始まらなければいいのに。
そう願わざるを得ない。
好むと好まざるとにかかわらずレクスは必ずストーリーに巻き込まれていくのだろう。それは仕方ない――どうしようもないと言うことは理解したし、この世界に転生してから今まで生きてきて覚悟もできた。
だがそれによって――レクスが絡むことによって出さなくても良い犠牲が出るのではないかと考えると何ともやりきれない思いがある。
「(いっそのこと誰かに打ち明けてしまおうか……)」
そんなことを考えてはかぶりを振るのを繰り返す。
レクスの態度が余程奇妙に映ったのか、ミレアが呆れたような声で言った。
「レクス~何やってんの?」
ハッと我に返り隣に座っているミレアの方を向くと、いつもと同じニコニコとした笑顔を振りまく彼女の姿があった。何故だか、ばつが悪くなりスッと顔を背けるもミレアの顔が不思議そうな表情へと変わる。
よくもまぁこんなに表情がコロコロ変わるものだとレクスは感心してしまう。
「なんでもないぞ」
「なになに~。突然、辛気臭い顔しちゃって~。せっかく明るくなったんだからそんな顔しちゃ駄目だよ~」
「ん? 明るくなった? 俺が?」
「自覚なかったの? 皆そう言ってるよ~。おじさんもおばさんもそう言ってたしね~」
時々、変な顔をされるのはそう言うことだったのかと今更ながらに思い当たるレクス。
「んだよ! いつ俺のどこがどう変わったんだよ。何時何分何秒? 地球が何回回った時?」
「ぷぷぷ……何それ? せっかく大人びてたのに急に子供みたいこと言ってるし~。って言うか地球って何?」
「言葉の綾だ。後、そう言う時は『親父でん粉画鋲』って答えるのが正解だ。それに俺はいつも大人だぞ? ほ、本当だぞ?」
「ほら、俺って言った~。こないだまでは僕って言ってたじゃ~ん。って言うか意味分かんない」
知らないことが一杯だった。
改めて強く思い起こそうと意識してみるとそうだったような気がする。
自然と帝の素の部分が反映されているのだとレクスはようやく理解した。
「そうか。この世界でも俺は俺だったんだな……」
どうしてもレクスはどんな人物だったのだろうかと考え、レクスとして振る舞おうとしていたが別に無理をする必要などないのだ。
どこか肩の力がフッと抜けて軽くなったような気がした。
「また変なこと言ってる~」
「まぁそんなお年頃なんだよ。気にするな」
またミレアが笑う。
悲壮な覚悟など必要なかったのかも知れない。
何だか心が救われたような気がした。
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明日も12時、18時の2回更新です。




