第19話 やりたいこと、やるべきこと
いつもお読み頂きありがとうございます。
本日は12時、18時の2回更新です。
「今日も1日ありがとうございましたぁ!」
毎日恒例のレイリアによるしごきが終わり息も絶え絶えになりながらもレクスが叫ぶように礼をする。その後もいつも通りだ。そのまま仰向けに倒れ込んで大きく呼吸しながら息を整える。
「大分、形になってきたな。やっぱり筋が良いよ。レクスは」
一方のレイリアはまったく疲れた様子がない。
これが今の2人の歴然とした差。
レクスは現在、騎士で修行しており熟練度もレベル2に上がっている。
このまま暗黒騎士の条件を満たすまで頑張ろうかなと考えているところだ。
転職条件は魔剣士レベル8、暗黒導士レベル8で職業変更可能となる。
ちなみに暗黒導士の熟練度はレベル6になっている。
ようやく呼吸が楽になったレクスは立ち上がるとレイリアにもう1度礼をして練兵場を出る。早いもので修行を開始して1か月近くも経過しているので第三騎士団の騎士たちともめっきり仲良くなって向こうも気軽に話し掛けてくるようになった。
有能な味方は多い方が良い。
最近では兵舎に備え付けられている浴場に入る許可を得ることができたのも大きな楽しみの1つになっている。寮にはもちろん風呂などないし、そもそも平民は湯につかると言う文化はないらしい。
元日本人としては有り難過ぎて涙が出る。
騎士たちに挨拶をしながら駐屯場から出て寮へと戻る道すがらレクスはしみじみと街の風景を眺めて思う。整然と整備された道路に沿って街灯が設置されており、暖かい魔法の光が灯っている。
――美しい
探求者ギルドや飲食店区画からは風に乗って喧騒が聞こえてくるが学園の周辺は静かなものだ。集中してやりたいこと、やるべきことに取り組むことができる。
「(やるべきことは多い。今はまだゲーム本編が始まっていない頃なんだろう。確かトリガーになるのは第一王子が死んでからだったはず。国内、いや国内だけじゃなく世界が荒れるのは確実。スターナ村にも戦禍が及ぶ状況も想定しておかないといけないだろうし。となれば少しでも強くなっておくことは必須事項と言える)」
レクスの脳裏に護りたい人、護るべき人の顔が浮かぶ。
「(取り敢えずはフリーイベントと思しきものを探して色々人脈を作る。それには王都の、王国の事情についてよく知らないといけない。流石に探求者ギルドでは無理だし……できればお偉いさんに伝手ができればいいんだけど……スターナ村は確かロードス子爵家の領地だったっけ。後は……やりたいこと。できるかどうかは分からないけど新魔法の開発だな。せっかく太古の言語を理解しているんだからやって損はないはず。何より火力が欲しい。後は……何だろ。魔物といっぱい戦いたいな。位階と熟練度も上がりやすいはずだし。ま、城下から出られるか知らんけど)」
あれこれ考えている内に寮へとたどり着いてしまった。
師匠のレイリアに稽古をつけてもらうようになってからは帰りが少し遅くなるので自ずと晩御飯の時間も遅くなる。食堂自体は遅くまでやっているので問題ないが、レクスが向かう頃には閑散としている状態だ。
カウンターに向かい食事を受け取るが、正直バリエーションは少ないのでついつい日本の食卓事情と比較してしまう。硬いパンと根菜と燻製肉のスープ、後はラッキーなことに野苺と青瓜が手に入ったらしくデザート付きだ。
有り難く食事を頂くとすぐに自分の部屋へ足を向ける。
どんな魔法陣を描いてみようかなとルンルン気分で新魔法のことを考えていると足取りが軽い。
自然と笑みが浮かんでくるのが良く分かる。
妄想の海に沈みながら部屋の前に近づくと人影の存在に気付く。
思わず警戒してしまったが、それは杞憂に終わった。
心細そうに佇んでいたのはミレアであったのだ。
「あれ? ミレア、何してんの?」
「レクス? も~やっと帰ってきたの~?」
暗いので表情はよく分からないが声色からホッとしているのが伝わってくる。
「明日の宿題を見てもらおうと思ったの」
「何だ、そんなことか」
「そんなことってひど~い」
ミレアが泣きそうな声で批難してくるが恐らく宿題は口実なのかも知れない。
最近、構ってやっていなかったせいもあるだろう。
たまに第三騎士団での稽古を見るために着いて来るが、それ以外は教室で話す程度だ。
彼女は彼女で友達と遊んでいるのだが、レクスがいない寂しさも抱いていた。
仕方ないので部屋に入れて電灯をつけると室内をじんわりと暖かい光が照らす。
「まぁ座れって。で何が分からないんだ?」
「世界史だよ~」
「ああ、あれか……見せてみ」
どうやらこの世界の成り立ちと暦の関係の箇所のようだ。
この世界『セレンティア』を創造したのは古代神である。
古代神は1日に1度、従属神を創造し7日目を休息の日としたとされる。
つまり月曜日に当たるのがルーナ、火曜日がマールス、水曜日がメルクリウス、木曜日がユーピテル、金曜日がウェヌス、土曜日がサートゥルヌス、日曜日がソールとなっている。
更に古代神と漆黒神との壮絶な争いの末、12つに引き裂かれた古代神の思念からも従属神が生まれた。彼らは漆黒神を封印した月を支配し、1月がガーネット、2月がアメジスト、3月がブラッドストーン、4月がモルガナイト、5月がジェイダイト、6月がアレキサンドライト、7月がルビー、8月がペリドット、9月がサファイア、10月がオパール、11月がトパーズ、12月がタンザナイトと伝えられている。月を司る従属神は12星神と伝えられてる。
これらは後世に古代竜の12使徒と関連付けられ、使徒が持つ宝珠は12宝珠と呼ばれることとなった。
また一般には知られていないが13番目の宝珠も存在し、それは漆黒の宝珠と呼ばれ漆黒竜ガルムフィーネの力を宿すとされている。
と言うのが設定上の話。
実際は日本のゲーム企業が日本向けに作ったものなのでゲーム内の世界観も地球基準日本仕様になっていると思われる。
暦も1年365日、1か月は30日か31日、1週間が7日間と言うのが真相だ。
それを教えるとミレアの表情がパァッと明るいものに変わった。
「ありがと~。こんなの覚えられないよ~」
「いやキミ、魔法陣も太古の言語もそこそこ覚えとるやんけ」とツッコミたい衝動に駆られるが何とか踏みとどまる。
「いや、これで分かったか?」
「うん! 大丈夫!」
「んじゃ、俺は新魔法を作るから」
「え~そうなの~……ってちょっとちょっと! 新魔法って何!?」
普段のミレアからは想像もできないほどのキレッキレのツッコミにレクスは目を剥いて驚く。普段のおっとりとした言動からは程遠い。
「いや、太古の言語は大体分かるから作ってみようかと……」
「作ってみようかと……じゃなーい! 聞いてないよッ!?」
「いや、言ってないし……」
「言ってよ!」
夜はテンション上がるんだよな。
分かるよ。
レクスはうんうんと頷きながらもスルーすることにして虚空に魔力で魔法陣を描き始めた。
「この部分が魔法名……で効果と挙動、動作原理はここだよな……」
あれこれと悩みながら描いている内に魔法陣が消失していく。
魔法を使う際は一瞬で魔法陣を展開できないと発動できないのだ。
「この乱数が魔力係数か……調節しながら出力を確認していくしかないな。詠唱はここだけどどうするか」
「今更だけど太古の言語って凄いカクカクしてるよね」
そりゃ漢字とカタカナだからな。
それに更に見にくく変形されているからパッと見では全然分からない。
一見すればアニメに出てくるような解読不能な魔法陣にしか思えないのだ。
「魔法陣って詠唱は必ず書かなきゃいけないの?」
「必ず書かなきゃいけないって訳でもないんだけど書いた方がいいのは確かだな。まぁ能力に『無詠唱』ってのがあるからそれを習得していれば詠唱しなくてもいいっちゃいいんだけどね。ちなみに『無詠唱』を取ってない状態で魔法を放った場合は威力が落ちるぞ。それでも魔法陣自体には記述箇所は必ずあるみたい」
魔法は詠唱なしでも使用できるが威力が格段に落ちると徹底解説ブックには記載されていた。ただし能力の『無詠唱』は別で詠唱がなくても本来の威力を発揮するらしい。つまり裏設定なのでこの世界ではあまり解明が進んでいない可能性が高い。
「ほぇ~。やっぱりレクスって頭がいいね~」
心の底から感心している様子で目がキラキラと輝いている。
褒め言葉に全く嫌味がないのがミレアの良いところだ。
それ故に心地良い。
「へへ……見直したか?」
「すごいのはもう知ってるもん!」
作ろうとしているのは今のところ、弾丸のようなものを複数撃ち出す魔法を想定している。貫通力と破壊力に特化した魔法を作りたい。魔法名はともかく詠唱部分は古代神や漆黒神由来の力の根源や概念を歴史から紐解いて理解していくしかない。
しっかりとした理論構築ができていないと詠唱は意味を為さないからだ。
何はともあれ、やりたいこと、やるべきことが段々と見えてきたと実感する。
この日、レクスの部屋の灯りは中々消えることはなかった。
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