第11話 ドレスデンの確執
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――ドレスデン連合王国
独立色が強い複数の王家が纏まって国家を形成している。
グラエキア王国北東部に位置し、両国は同盟関係にあった。
王都ドレスデンの王城では各王家が代表が集まり喧々諤々《けんけんがくがく》な議論が紛糾していた。
「王陛下、現在グラエキア王国内は混乱しておりますぞ。付け入るなら今でしょう」
「それにファドラ公爵家がロストス王国へ攻め込んでいますからな。東部はほぼ空と言うではありませんか」
領土的野心を持つ王家の者たちからすれば、版図を広げる絶好の機会が訪れた訳だ。
今は北方のベロムス帝國との摩擦もなく、広げる領土と言えば東に広がる大森林方面となる。
そちらには土精霊族の国、『ザウェリル』、古精霊族の国、『古アルヴヘイム』が存在しているが、深い森に阻まれて開拓は遅々として進んではいなかった。
「私は反対です、陛下。グラエキア王国とは婚姻関係にあります。不義を犯すは国家の恥です」
「ジークハルトの言う通りだ。彼の国には我が娘が嫁いでいる。そして間もなく子供が産まれる予定だ。このままでも十分に影響力を及ぼせるだろう」
12使徒の1人であり、古代竜の血に連なる者――ジークハルト・ソル・ガリオンの潔癖な反論に、現国王のリューディガー王が賛同の意を述べた。
この強い軍事力を持つ各王家を上手く取り纏めているのがリューディガー王だ。
彼の持つカリスマ性とドレスデン王家の軍事力、政策があってこそ国家の体を為していると言っても良い。
「ですが陛下、後継者はリーゼ王女に決まったようなもの。しかも母はダイダロス公爵の公女ですぞ! 今更、赤子が産まれても何の意味もないのでは?」
「いや、グラエキア王国はそのダイダロス公に対抗すべく、ローグ公が動いている。更にはアングレス教会も裏で暗躍しているようだしまだまだ荒れるぞ」
「その通りよ。我が国が大軍を擁してダイダロス公爵領に迫れば、大きな支援になるだろう。恐らくローグ公はファルサ姫の御子を担ぎ上げるだろうからな」
ドレスデン王家の王女ファルサは、グラエキア王国の故ヘイヴォルの継室として嫁いでいる。
彼女が生む予定の子を利用して、グラエキア王国内への影響力を強めようと考えているのが、リューディガー王である。
戦争は民を不幸にするだけで、出来得る限り避けるべきと言うのが彼の考え方であった。
「しかし、ファルサ様の御子がアウラナーガの血を色濃く受け継いでいるとは限りませぬ! それでは正統性が問われる。如何にローグ公であろうと口出しできぬはず!」
ジークハルトとしては血の強弱が、宝珠の力を引き出す鍵になることを十二分に理解しているため、継承順位を捻じ曲げるなど無理筋だと考えていた。
血が弱ければ問題外、例え強くても15歳のリーゼ王女と産まれたばかりの赤子では比較にならない。
「ジークハルト殿は若いせいか、考えが素直すぎる。ローグ公はカルナック王家の血脈など気にしておらんだろうよ。要は自家が繁栄できれば良いのだ」
「それをしようとすれば、他公爵家が黙っていないはず!」
「そこで我が国の出番と言う訳だ。ファルサ様の後ろ盾である我が国が支援するのだ。我々には介入する大義がある!」
強硬派の意見にもリューディガー王の言葉は苦々しい。
娘を思う気持ちもあるが、どうにも戦争を起こしたがっている王家が多いように感じて不気味に思っていた。
「だがな……赤子が産まれると言うのにグラエキアに侵攻などしようものなら、ファルサの立場が危うくなるのだ。最悪、追放されかねん」
百歩譲って戦争になるとしても、タイミングが重要になる。
少なくとも出産後でなければファルサとその赤子の身が危ういと、リューディガー王は考えている。
「陛下の仰る通りじゃ。王国主力は既にジャグラートから帰還しておる。ローグ公以外にカルナック、カルディア、ダイダロス、アドランの騎士団がおるのだぞ?」
その懸念に同調する者もいる。
ドレスデン連合王国が総力を上げて侵攻しても、使徒の軍との戦いは厳しいものになるだろうとの考えからだ。
「水面下ではダイダロス公爵家とローグ公爵家の派閥争いが激化しているようだ。カルナック王家は混乱治まらず。カルディア公は静観するだろう」
「セドリック殿下、あの書状をお見せしては如何ですかな?」
「良いのか、ヘアーツよ?」
フェリア王家当主のヘアーツが、リューディガー王が嫡男のセドリックに意味ありげに促した。
芝居がかった態度でセドリックが書状を取り出すと、各王家の者へ広げて見せる。
「これを見ろ。既にローグ公からの支援要請を受けておる。それにイグニス公、アドラン公は彼に付いたようだぞ?」
「なんと……殿下、これは本当の話なのじゃな?」
「領都ダイダロスに圧力を掛けてくれと言うことか……ファドラ公爵領とその寄り子貴族領は切り取り自由だと? ロストス王国も好きにして構わんとは……」
「グラエキア王国の東部は肥沃な土地が広がっている。魅力的な提案だろう」
強硬派は勢いづき、非戦派も心が揺らぎ始めているようだ。
それほど領土を広げたいと考える王家が多いと言うことだ。
「殿下、それは本当の盟約でしょうか? グラエキア王国の混乱が収束して反故にされれば、強力な使徒の軍が押し寄せるのです」
「ほう……俺の言うことが信じられんと言うのか」
「無礼だぞ! ジークハルト殿!」
セドリックは心外とばかりに目を細め、ヘアーツは語気を荒げて怒鳴りつけた。
とは言え、ファドラ公爵家の第1公女を妻に娶っているジークハルトとしては、ファドラの地が侵されることなど座視できないことだ。
そもそも戦争自体に反対だと言う理由もある。
「セドリックよ、勝手に書状をやり取りしたのか? 家臣が無許可で他国と連絡を取り合うのは許しておらんぞ」
「俺は王子です! 家臣ではない!」
リューディガー王の怒りを含んだ低い声色の言葉にも、セドリックは怯まなかった。
普段から温厚な賢王が見せた、静かな怒りに周囲の者が思わず息を呑む。
「殿下、使徒は傲慢な者。強大な古代竜の力を継承するが故の肥大したプライドがございます。事実、様々な国難にありながらも6使徒が建国した国家であり、その武力は1国で対抗できるものではありません!」
「ジークハルト殿、口を慎むが良かろう。見えておらんのか? 自らの意思を強引に貫こうとするのは、その使徒たる貴殿の傲慢と取られかねんぞ?」
ハッとしたジークハルトが周囲を見回すと、各王家の者たちからの無言の視線が突き刺さっていた。だが全員が全員、開戦したい訳ではないらしく、目を伏せたり、瞑目したりと迷っている者も少なからず存在するようだ。
「貴殿らは本気でグラエキア王国へ侵攻する気なのか!? 正気の沙汰とは思えんぞ!」
愕然として言い返すジークハルトに、ヘアーツは厭らしい笑みを浮かべるばかりだ。
「もう良い。私は現時点では戦争などする気はない。少なくとも収穫期を迎えるミル麦の不作は確実。民に負担は掛けられん。下手をすればラタ麦の収穫量にも影響が出かねんからな」
取り敢えず、リューディガー王に開戦の意思はない。
それが確認できただけでも大きな収穫だ。
そう判断したジークハルトは、会議がお開きとなる中、こっそりと安堵のため息を吐いた。
―――
会議も終了し、セドリックは私室にて強硬派の急先鋒であるヘアーツと話していた。
「ヘアーツよ、工作は進んでおるな?」
「はい、殿下。元々領土的野心を持つ王家ばかりなのです。多くの者が乗って来るでしょう」
問われたヘアーツは自信を崩すこともなく平然と言ってのけた。
答えに満足したセドリックだが、父親の言動を思い出して首を横に振りながらぼやく。
「それにしても父上には困ったものだ。機を見るに敏でなければならんと言うのに。これほどの好機を見逃してどうすると言うのか」
「開戦派が大多数を占めれば、如何に賢王リューディガー陛下と言えどどうすることもできぬでしょう」
「しかしジークハルトが煩いぞ」
セドリックの唯一の懸念は使徒として、若いながらに発言力を持つジークハルトの存在だけだ。
「関係ないでしょうな。幾ら使徒の1人とは言え、この国の全てを敵にすることの危険性は理解しているでしょう」
「そうか……ならば良い。では工作は任せたぞ。それと貴殿が一番ロンメル領メリッサに近いのだ。軍備を整えておけ」
それを聞いて軽く頷いたヘアーツは、余裕の笑みを浮かべて退出した。
入れ替わりに入室して来た者が1人。
見た目は騎士のような風貌をしているが、帯剣はしていない。
煌めく金髪を腰の辺りまで伸ばした見目麗しい女性だ。
小麦色の肌をしている辺り、周辺地域の出身ではないのだろうが、セドリックは特に気にすることはない。
「リーリヤか……どうした。何か問題があったか?」
「はい。先程の会議ですが――」
「覗いておったのか。相変わらずだな」
1年ほど前にセドリックに仕官してきたリーリヤだが、意外と役に立つので今では傍に置いている。
それに美しい。
故に劣情を禁じ得ない。
セドリックは彼女と既に関係を持っていた。
「殿下、多数派工作などしている場合ではございません。直ちに出兵すべきかと」
「そうしたいのは山々だがな。そうもいかんだろう?」
魔法で会議を盗み見ていたようだが、いきなりの意見具申にセドリックは少々戸惑った。今までも色々な発案をしてきたリーリヤなので、特に疑問はないとは言え、ここまで断言することなどなかったからだ。
「ユベールの軍はロストス王国の半ばほどまで侵攻しております。ロストス王国とヴァール帝國と組んでファドラを潰すべきです」
「組むだと? そんなことが可能なのか? それに父上を説得せねばならん」
「ロストス王国は追い詰められております。必ず乗ってきましょう。ヴァール帝國は滅ぼしたクロアス王国の後継ぎを始末したいはず。彼らはロストスの地におりますので利害は一致します。事態は切迫しております。リューディガー王陛下には速やかにご退場頂きましょう」
「な、何ッ……!? 父上を除けと?」
何気ない口調でとんでもないことを言ってのけたリーリヤに、セドリックは目を剥いて問い質した。
そこまで急ぐ理由は何なのだ?
そうは思うが、ロストス王国などグラエキア王国の東部を切り取った後で滅ぼせば良い。それに事あるごとに小言を言ってくる父に、うんざりしているのも事実。
「この乱世に惰弱な王など必要ないのです。即断即決できる殿下のような存在が求められている。会議で各王家が戦争を望んでおります。殿下は必ずや支持を得るでしょう」
「ジークハルトが何と言うか……あ奴め、使徒であり、父上の信頼が厚いのをいいことに好き勝手抜かしよる」
そうなのだ。
実の息子を差し置いて、ジークハルトが父の寵愛を受けていることにセドリックは我慢がならなかった。
最近では親子の仲も険悪化の一途をたどっている。
「彼奴は忠義心に縛られております。殿下が王になればそれに従いましょう。何も殿下が手を下す必要はございません。わたくしにお任せ下さい」
「むむむ……そう上手くいくか? それにロストスはともかくヴァール帝國はどうする?」
「既に手の者が入っております。全てはわたくしが差配致します」
悩むセドリックにリーリヤが唐突にしなだれかかる。
胸に顔を埋めてくる美女を好き放題できるのだ。
下卑た笑みが自然と浮かぶと言うもの。
何かあってもリーリヤが勝手にやったことにすれば良い。
グラエキア王国東部とロストス王国領を得て、豊かな東の地を開拓し強大な王国を作る。
そしてそれを纏める王となるのだ。
考えただけで笑いが止まらない。
だが今はそんなことは良い。
セドリックはリーリヤをベッドに押し倒すと、激しく睦み合った。
止まっていたドレスデン連合王国の歴史が動き始める。
ありがとうございました!
次回、ドレスデン連合王国が動き出す……
※ドレスデン連合王国はカルナック王家の宝珠が失われたことを知りません。




