第18話 蠢動
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本日は12時、18時の2回更新です。
王都にある貴族街のとある邸宅。
その一室の薄暗い部屋に十数名もの貴族たちが集まっていた。
「皆様、お集まりになられたようですな」
能面にも似た白い仮面をつけた人物が最初に口を開く。
漆黒のタキシードをビシッと着こなし、その体からは気力がみなぎっている。
何処かの貴族にでも使える執事だろうか。
威風堂々とした態度がとても様になっている。
力強い言葉に一瞬で主席者たちの視線が集まると同時に静まりかえり、静寂が部屋を支配した。
皆、次の言葉を待っているのだ。
「本日は我々が信頼に値する皆様方へ声を掛けさせて頂いた次第。ことがことですからな」
余程の重大事らしい。
態々、男が釘を刺しただけでなく雰囲気からもそれは察せられ、貴族たちは息を呑む。
「国家の一大事だと聞いて参った所存ですぞ。何でもお話くだされ」
「そ、そうでございます! 漆黒――」
「貴殿、それ以上申されるな」
貴族たちは信頼を勝ち得ようと口々に話し始め、場は騒がしくなりつつあった。
仮面の紳士は変わらぬ声色で彼らを宥めすかす。
「ええ、もちろん。理解しておりますとも。皆様が決して漏らさないことも」
決してお前らは疑っていない。
背信行為などあるはずがない。
それをしっかりと理解していると態々《わざわざ》口にして彼らの心を安堵させると声を潜めて言った。
「さて建国から約1300年……王国はかなり歪になってしまいました。盟主派と使徒派に分かれ相争うようになり、最早カルナック王家は使徒派の勢力を無視できぬでしょう。それもこれも全ては王家の傲慢が招いたこと。それにもかかわらず王家はまだ自らが孤立しつつあることに気付けていない。今や残っている盟主派はカルディア公爵家のみ。そして彼らは軽んじ過ぎた……それは皆様方も重々ご承知のはずでございましょう。我が主はこう考えられました。いっそ壊して創り直せば良いと。現在、大司教ガルダーム殿の一派が例の宝珠の捜索を行っておりますが未だ見つかってはおりません――」
「何と! その者は頼りになるでしょうか? 我々も捜索すべきではと愚考致しますが……」
「王立図書館の禁書室に手がかりがあるやも知れん」
「無理だ。もっと大きな……それこそ世界図書館にでも行かなくては」
世界図書館は古代人が造ったと言う伝承が残されており、アリュカオンの地に存在していると言う世界最大の叡智の眠る場所のことである。
口を挟んできた貴族たちに向かって仮面の紳士が口元で指1本立てて黙るように促すと続きを話し始めた。
「皆様、落ち着いて頂きたい。宝珠が見つからないのであれば、その間にできることをすれば良いのです」
「そ、それは……?」
「アウラナーガの血脈を止めること」
仮面の紳士が敢えて触れてこなかった部分に言及する。
アウラナーガとはもちろんカルナック王家に力を与えた黄金竜のことである。
これまでの会合では言葉を濁しながら、そして何かを匂わせながらの発言であった。
ここにきて言質を取らせるようなことをしたと言うことは意を決した。
そう受け取ってもらっても構わないと言うこと。
目の前で威圧する紳士の主の覚悟が窺える。
貴族たちが生唾を飲み込む音が聞こえてくる。
「宝珠に関してはガルダーム殿が責任を持って承ると仰っておられました。彼の一派は影に潜みどこにでも存在する。探し物など造作もないことでしょう」
「しかし……そのような大それたことができるのでしょうか?」
「宝珠を探すより困難なのでは……?」
「如何なる手段を使うのです?」
紳士の様子からは余裕が垣間見える。
しかし木端貴族に取っては重大事。
誰もがシャツを緊張性の汗で濡らしていることだろうことは想像に難くない。
「ジャグラート王国を動かします」
その一言だけでは理解できるはずもない。
貴族たちからは困惑の色が強く出ており、その意図を量りかねているようだ。
ただただ沈黙を貫き、次の言葉を待っている。
「彼の国に我が国の友好都市攻めさせます。そしてそれを口実にしてジャグラート懲罰戦争を仕掛けるのです。敵は強国。そして我が国の王は既に老いて戦場に立つのもままなりません……となれば王太子殿下が総大将となり国を挙げて侵攻することになりましょう」
ここまで言えばもう誰にでも分かる。
しかし当然、警備は厳しく彼らには暗殺などとても不可能なように思えた。
だがこの場にも少しは考えられる者がいたようで声を震わせながらも沈黙を破った。
「ま、まさか……他の方々とも話は付いているのですか!?」
仮面のせいで表情は読めないが、彼らはその沈黙を是と取る。
「彼の国は一部の家臣の暴走により滅亡するのです」
「しかし……ジャグラートは魔剣メイデンヴァルクスを扱える血脈を持つ国……言わば使徒の同志なのではありませんか?」
「そのようなことは些事に過ぎません。血などどうとでもなりましょう」
抑揚のない声で他人事のように話す紳士に貴族たちも沈黙せざるを得ない。
既に計画は後戻りできないところまで進みつつある。
それを知ってしまったからにはもう降りることなどできようはずもない。
この場にいる者たちは、これから起こるであろう未曾有の事態にどう対処するのか、嫌でも直視していかねばならない現実について考えることとなる。
斯くして会合は終了となり、貴族たちは蜘蛛の子を散らすように邸宅から出て行った。
彼らには影の者がついて回っている。
最早、一蓮托生。
乗った以上、降りることはできない。
それが例え泥船であったとしても。
「我が主よ……このクロノス、どのようになろうとも着いて参りましょうぞ」
紳士は仮面を外しながらそう言った。
その目に強い決意の色を湛えて。
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