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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第四章 双龍戦争と世界大乱

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第8話 レヌ平原の戦い

お読み頂きありがとうございます!

 腰に佩いた剣をスラリと滑らかに抜き放ったセリアが、ゆっくりとゴブリンに近づいていく。


 彼女の周囲で爆音が鳴り響き始める。


 未だ土煙つちけむる戦場の中、巨躯を持つゴブリンが彼女の前に立ちはだかる。

 その体は2m近く胸板の厚さも、腕の太さも、丸太のような太腿も、とにかく何から何までセリアとは比べものにならない。



「ええい! 俺はそっちの男と勝負すると言ったのだ! 女は引っ込んでいろ!」


「彼と戦いたいなら、まず私を倒すことね。私の名はセリア・ド・ロードス。いざ尋常に勝負!」



 そんな罵声にもめげることなく、セリアは決然と言い放った。

 ロストス王の血を受け継ぐ者として、そのゴブリンは人間のように大きな誇りを持っていた。

 名乗られたからには名乗り返すのが筋だと考えて、止む無く口を開く。



「ふん。我が名はドボン。誇り高きゴブリン族の戦士! そこまで言うなら力を示せ!」


「望むところよ!」



 そう言うが速いか、セリアが地面を滑るかのように疾走し、ドボンの懐へと入り込む。あまりの突進力に目を見開くドボンだが、すぐに立ち直ると右手に持つ大剣を振り下ろした。


 ヒュッと言う風切音と共がセリアの耳元で呻り、その膂力に背筋が凍る。


 紙一重で躱したセリアが、右足で大地を思い切り踏みつけると剣を左から横薙ぎに払う。

 狙いは脇腹――


 セリアの研ぎ澄まされた一閃は、見事に軽装の鎧しか纏っていないドボンを薙ぎ斬った。

 レクスと共に剣王レイリアに師事していた彼女の面目躍如。

 この程度の装備など紙同然だ。


 低いうめき声を上げてその場から跳び退るドボンだが、それを逃すセリアではない。圧倒的な体格差を見れば、1度守勢に回れば追い込まれる可能性がある。

 とは言え、攻められても何とか対応できるように今まで鍛錬に励んできた訳だが。



「ぐぅ……この俺が押されるだとぉ!」


「はッ! はぁッ!」



 後退するドボンにひたすらくっ付いて至近距離から斬撃を繰り出す。

 その攻撃は流れるように軽やかな旋律を奏でる。

 レイリアの久遠流くおんりゅうの技、『連撃連鎖』。



「名のある人間かぁ! 殺して手柄としてやる!」



 そう叫びながらもドボンの呼吸は乱れ、大剣で弾き返すのが精一杯だ。

 どんどん細かい傷がむき出しの腕や脚に増えていき、あちこちから流血して動きが鈍っていく。



「落ちなさい!」



 自らに言い聞かせるようにセリアが叫ぶ。

 『暗黒騎士』の能力ファクタスを使う気などない。

 単純な剣の腕のみで相手を圧倒して、レクスの隣に並び立ちたいと言う強い想いがあった。


 だが――


 破れかぶれの攻撃。

 いやドボン自らの巨躯を利用した、攻撃を受ける前提の体当たりがセリアに迫る。


 常に動き続けてドボンを完全に翻弄していたセリアに、初めて動揺が走った。

 すんでのところで身を躱したはいいが、セリアはバランスを崩してしまう。



「しまっ……!」



 ドボンの左手がセリアの左肩を掴み、逃れようともがくも強い握力がそれを許さない。セリアの体は簡単に浮かび上がり、まともに呼吸すらできずに表情が苦しげに歪む。ようやくニヤリと下卑た笑みを浮かべて、ドボンが彼女の体を舐め回すようにねめつけた。



「捕まえたぞ……ひらひらと動き回りやがって」



 精神的な嫌悪感がセリアを襲うが、力では敵うはずもない。

 それ故の連撃だったのだ。

 セリアは一刻も早く首を斬り落とすべきだったと今更ながらに後悔した。



「貴様はなかなか強かったぞ。連れて帰って俺の子を産ませるとしよう」



 ロストス王は、自らの血を次代の子に残すことで強者を生み増やしてきた。

 当然、他のゴブリンも同様のことをしようと思えば可能と言う訳だ。


 おぞましい考えに体が震え、ドボンの濁った瞳が体を強張らせる。


 しかし――セリアの脳裏にレクスの姿が過り、強い殺意が頭をもたげる。



 ――この程度の相手になど負けてはいられない!



 周囲に響いていた爆音は治まっていた。



「何……を……勝手なことを!」



 首から肩を握り絞められながらも、セリアの口から憤怒と憎悪の声が漏れた。

 右手の剣を、何とか左手に持ち変えたセリアは逆手に握り返し、魔力を込めるとドボンの顔面に叩き付けるように突き刺した。



「ぐげえええええええ!!」



 激痛で絶叫を上げるドボンの力が緩み、セリアが自由の身になって大地に足を付けた。右目付近から鮮血がほとばしり、彼女の端整な顔に付着する。


 そう、セリアに足りていなかったのは『殺す』と言う覚悟。

 彼女が実戦を体験したのは堕ちた聖者ジャンヌの時だけだ。



「無理やりついてきたのに、こんなのじゃ足手まといにしかならない……私は戦争のことなんて理解してなかった」



 大剣を手離し、顔面を押さえて悶絶するドボンに、セリアは鋭いほどに練り上げられた魔力を剣に付与する。


 そして踏み出す。

 覚悟と共に。


 次の瞬間、セリアは巨躯のゴブリンの首を跳ね飛ばしていた。


 大きな音と砂埃を上げて大地に倒れ伏したドボンを、セリアはじっと見つめながら呟く。



「亜人と人間は相容あいいれない……。人間でも分かり合えない者がいるのだから」



 何だか物悲しい気持ちになったセリアが顔を上げると、レクスと目が合った。

 彼はセリアの戦いを邪魔する雑魚を一掃しながらもずっと見守っていたのだ。



「覚悟が決まったみたいだな。もう少し遅かったら俺がってたよ。……でもあまり無理しないで欲しい」



 セリアに歩み寄ったレクスは、彼女の頭を優しく撫でる。

 ようやく彼女は元来の少女らしい、はにかんだ笑顔を見せた。



 ―――



「1体も逃すなッ! 全てを殺せッ! ゴブリン共は殲滅だッ!」



 ロンメル男爵は自軍を鼓舞しながら、キンゴストス軍の本隊に奇襲を掛けていた。

 何故か、中軍が大混乱に陥り、あちこちで爆発が起きていたからだ。

 敵本隊から後詰が送られたのを見て、好機と判断したロンメル男爵の英断である。


 だが、状況が把握できずおかしいとは思っていた。

 敵軍と真っ向からぶつかっているのはユベール率いる雷光騎士団トール・リッターのはず。

 となると中軍で暴れているのは誰なのか?


 そう思ったロンメル男爵だったが、せっかく大混乱に陥っているのなら無視して、本隊の総大将のキンゴストスを強襲すれば良いとの結論に至ったのだ。

 単に原因不明の場所に攻め入って、自軍が巻き込まれたくないと言う考えもある。



「1人も生かすなッ! キンゴストスを探せッ!」



 ゴブリンにもちゃんと個性は存在している。

 はぐれの魔物であれば、似たり寄ったりの顔付きだが、事、ロストス王国では個々人で特徴があるのだ。


 ロンメル男爵はただただ槍を振るうのみ。

 振り回して薙ぎ倒し、【連続突き】で一息に複数のゴブリンを地獄に落として行く。



「オラオラオラオラ! 恨み晴らさでおくべきかッ!」



 早期に決着を付けて、一刻も早くティダーン城へ向わなければならない。

 とにかく妻子を助ける!

 その考えだけでロンメル男爵の頭の中は埋め尽くされていた。


 そこへ幸運が舞い降りる。

 愚かにも勝負を挑んできた巨躯のゴブリンの脳天を叩き割った彼は、偶然にも第2王子キンゴストスを発見した。

 頭頂部から背中にかけて黒いたてがみがあり、派手な銀色の鎧を纏っている。

 ロストス王家に連なる者の覇気も僅かに感じられるし、領都で戦った第1王子のゴスゲスとも何処となく雰囲気が似ている。


 周囲には近衛らしき兵が付き従っていることからも総大将であると見て間違いないだろう。



「【烈光突き】」



 超高速の刺突が放たれ、槍が倍以上に伸びたかのようにキンゴストスへと迫る。

 ロンメル男爵の先制攻撃に気が付いたゴブリンの1体が、彼を護るようにして立ちはだかるも、防ぐことすらできずに心臓を貫かれてその身を大地に横たえた。



「そこのッ! キンゴストスだな? その首もらったッ!」



 周囲のゴブリンが銀鎧のゴブリンを護ろうと、周囲を固めるのを見て確信したロンメル男爵。

 そして一方のゴブリンたちからは動揺の色が見えた。



「【ドリル突き】!!」



 ロンメル男爵が『槍術』の能力ファクタスを行使した瞬間、ドリルと化した槍が4体のゴブリンを巻き込こんでバラバラの肉片へと変える。



「クソがぁ! 撤退だッ!」


「キンゴストス様! 撤退すればお味方は総崩れとなります! 踏み止まり下さい!」


「阿呆がッ! 俺が死ねばそれまでだろうがッ! 俺はこんなところで死んで良い者ではないのだッ!」



 確かに撤退すれば軍は崩壊するだろう。

 しかし、これ以上粘っても被害が拡大するだけなのも事実。

 尤も、キンゴストスは自分が助かりたい一心で言っているようだが。



「安心しろ。一撃であの世へ旅立たせてやる。喜んで死ね!」



 そう吠えたロンメル男爵が槍を強く握りしめて走る。

 敵兵はほとんどが剣を持っている。


 刺突からの薙ぎ払いで数体を転ばせて、躍り掛かってきたゴブリンの腕を槍の穂先で斬り落とす。

 取り乱す者から寸分の狙いも外すことなく、心臓を一突き。

 リーチの差を活かして流れるような動作で、次々とゴブリンたちを葬っていく。

 


「ひぃぃぃ! お、おい! アウグスタ! 何をやっているッ! 俺を護れ!」



 腰を抜かしかけながらも、傲慢な命令を下すが周囲にはほとんど誰もいない。

 だが、キンゴストスの恐怖と焦りの声の先には気配を消して佇む1人の女。

 人間だ――



「ここでお前が死ねば王子は晴れて自由の身と言う訳ね……」



 不穏なことを口走る女だったが、意外なことにキンゴストスは怯えてはいるが余裕の態度で言い放つ。



「はん! 俺が生きて戻らねばティダーンで王子が死ぬぞ! いい加減に理解しろや!」


「ちッ……止む無しか……消えろ!」



 女がそう吐き捨てると、キンゴストスは一目散にティダーン方面へと逃亡を開始した。本来ならば直ちに追うべきところ。


 だがロンメル男爵は動かなかった、いや動けなかった。


 他に類を見ないほどの覇気を纏う女を前にして。

 突き刺さるような視線に射竦められて、ロンメル男爵は身じろぎ1つできずにいた。



「悪いが死んでもらおうか。こちらにも事情があるのでな」


「貴様……ゴブリンに味方するとは何者だ……?」



 一方的な死の宣告を受けて何とか声を絞り出したものの、ロンメル男爵は未だかつてないほどの戦慄を抱いた。

 そして死の臭いを嗅いだような気がした。



「私の名はアウグスタ・ダルストレーム。ヴァール帝國に攻め滅ぼされたクロアス王国の人間だ」



 言葉に殺気を込めてアウグスタは、揺るぎない態度で言い放った。

 ロンメル男爵はここに至ってようやく、その名を思い出す。

 かすれた声が口から零れた。



「何だと……もしや……剣神アウグスタ……か?」

ありがとうございました!

次回はティダーン攻略戦です。

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