第17話 標的
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本日は12時、18時の2回更新です。
今日も今日とて勉学に勤しむ。
毎日ちゃんと励んではいるのだが、何故だかレクスの評判はよろしくない。
転生したのが11歳の時でそれからまだ間もないのだからしょうがないと言えばしょうがない話だ。
どうやらそれまでは根暗・盆暗・陰暗のトリプルスリーだったのだから。
昼行燈や頓痴気、うつけなんて言われていた位なので以前のレクスは相当なレアキャラだったのだろう。
そんな訳で同級生のゼラルドとその一味がよくレクスにイチャモンを付けてきて、それを華麗にスルーすると言うことが頻繁に起こっていた。
因縁をつけられたのは魔法実習の授業であった。
「おうおう。うつけは今日も覇気ってもんがねぇなぁ!? しっかりやれや! テメーらもそう思うだろ?」
「そうッス、ゼラルドさん! オラッ何か言えよ!」
「こんな奴がいたら王立学園の名折れですよ!」
「今日も威厳に満ちてます、ゼラルドさん! それに比べて昼行燈ときたら!」
「うおッ……ゼラルドさんの覇気はすげぇ! 眩しい眩しすぎるぅ!」
だからやってんじゃねーか。
見ろよ。俺を見ろよ!
ゼラルドの難癖と取り巻きのヨイショは取り敢えず心の中でツッコミを入れつつスルーしておく。
魔法実習は日頃の鍛錬の成果が如実に現れる授業の1つだ。
魔力を素早く練成し、魔力を解放する場所に操作、そして太古の言語で魔法陣を正確かつ迅速に描写して詠唱・魔法名を言葉にする。
迅速さと正確さ、その精度が求められる。
レクスはこの手順に苦戦したことは一度もなかった。
転生して初めて魔法を扱った時でさえそうだったのだ。
これも一重に転生前のレクスがしっかりと授業を受けていたことを証明している。
「(以前の俺はやる気も覇気もなかったけど、真面目に授業を受けていたんだろうな……)」
真面目なだけではここまでの使い手にはならないのだが、レクスは理解していない。現在のレクスの実力が如何に高いか気付き始めた者はまだほんの一部であった。
「オイコラ! ゼラルドさんが聞いてるのに答えないってのかよ! レクスよう!」
せっかく集中しているのに耳元でうるさく喚いているのは金魚のフンこと、腰巾着のギンチャックである。額に青筋を浮かべて唾を飛ばす勢いで怒鳴っている。
「うるせーな。魔法でぶちころがすぞ。ギンチャック」
最初は大人の余裕を見せようと丁寧に接していたレクスであったが、こうも続くといい加減にしろと言いたくもなる。最近ではめっきり口さがのない言い方になってしまっていた。
「テメッ……最近調子に乗りやがってよぉ……ゼラルドさんが許さねーぞ! 死んだぞオラァ!」
「お前が直接こいよ……」
だいたい真面目に目標に向けて魔法をぶっ放しているところが見えないのだろうか。文句を聞き流しながらもレクスはいつも通りに魔法を放ち続ける。
「(まぁこれも修行か。口うるさい阿呆がいても集中できてるし結果オーライかな?)」
ゼラルドは平民ながらも大魔導士の職業を授かった英才だ。
性格はお察しだがチンピラ共にはカリスマ性があるらしい。
ちなみに大魔導士は暗黒導士には扱えない高位階の能力、『大魔法』を覚えることができる。
「ゼラルド。そろそろ本気を出せよ。このままだと才能の無駄遣いだぞ?」
「ああ!? 俺は本気を出すまでもねぇんだよ! 卒業試練の模擬戦でテメーをボコってやるから覚悟しとけ!」
小等部3年の卒業時には実力を試す模擬戦が行われるのが通例になっている。
わざわざそこで決着をつけようなんて案外律儀な性格をしているものだと感心する。
「こら~! レクスを虐めるな~!」
見るに見かねたミレアが手を振り上げて駆け寄ってきた。
無視してもいいとは言っているんだが必ず喧嘩――一方的だが――を止めようとやってくる。
彼女も良い性格をしている。
レクスはもちろんそんな彼女に好感を抱いている。
が、分かりやすいヤツがもう1人いたりする。
ゼラルドである。
「い、い、い、虐めてねーし……そもそもミレアは関係ねーし……」
「あるもん! レクスは幼馴染だし大切な人なんだからねッ! それに凄いんだから!」
ゼラルドがピシリと固まって動かなくなった。
どうせ何か盛大な勘違いをしているに決まっている。
レクスは自然に顔が綻ぶのが分かる。
流石の癒し枠だ。
「ちょちょちょ、ゼラルドさん! お気を確かにぃ!」
周囲の一味が反応のなくなったゼラルドに対して騒ぎ出す。
ちょうどその時、授業の終了を告げる鐘が鳴った。
「さーて飯、飯。ミレア、食堂行くぞ」
「あ~ん。待ってよ~!」
こうしてレクスの日常は流れていく。
※※※
「何だか面白い生徒がいるようだね」
王立学園小等部魔導科の科長室で外を眺めながらテレジア・コルノートが独り言を呟いていた。
いや独り言ではない。
彼女が話し掛けたのは使役している精霊獣である。
「そーなのかー」
「そうなのよ」
虎型精霊獣のギャルの興味なさげな返答にテレジアは苦笑を漏らす。
「何? 私の目利きじゃ不満かな?」
「そんなことないのだー。どんな奴なのだー?」
「小等部3年のレクス・ガルヴィッシュと言う生徒だね。以前と明らかに魔力の位相と魂の色が異なっている」
「そーなのかー」
テレジアが感知したのは今まで感じたことのない魔力の波動であった。
彼女が持つ技能の1つに【位相感知】と言うものがある。
魔力にしろ剣技にしろ発動時に発せられる波動には個性が反映される。
魔法のみならず能力全般を使用した時に感知できるのがこの技能だ。
「教師たちから聞いた話なんだけどね。彼ってば急にやる気を出したみたいで以前とは全く別人のようになったって皆驚いていたよ」
「そーなのかー。一体何があったのかー?」
「それが分からないんだよね。こんなことは初めてだから私も戸惑ってるよ」
「そーなのかー。調べるのかー?」
ギャルの問い掛けにテレジアが首肯する。
「精霊神様から近いうちに悪いことが起こるって聞いたし、才能のある生徒のことを調べておいて損はないからね」
テレジアの職業は精霊術士。
職業変更の条件も判明しておらず、就職の儀で見つかった者もほとんど存在しないためこの世界ではレアな部類に入る。
精霊神は古代神の従属神の1柱に過ぎないのだが精霊信仰は多くの信者がいるのでその神格は比較的高い。グラエキア王国は基本的に古代竜信仰だが同時に精霊神を崇拝している者も多いのだ。
「悪いことが起こるのかー? いつなのかー? 情報はあるのかー?」
「ないんだな。それが」
彼女は自嘲気味に笑う。
精霊神にも分からないと言うことは絡んでくるのはそれ以上の存在による厄災と言える。準貴族の地位にある宮廷魔導士の名に連なる者の1人として国王に進言したいところだが確度の低い段階で実行するのは憚られる。
今は地方に手駒を送り込んで大小にかかわらず様々な情報を収集させている状況。
「レクス・ガルヴィッシュは公爵家の子女たちとも年齢が近い。もしかすると厄災に関わってくる存在になるかも知れないからね」
「確かにそーなのだー」
「そんな訳でギャルにも彼の監視をお願いしたいの」
「そーなのかー」
テレジアも動くつもりだ。同じく宮廷魔導士の筆頭であり姉弟子でもあるヒナノ・プロキオンにも相談せねばなるまい。
レクスを標的とする者は増えていく。
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