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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 双龍戦争勃発

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第57話 神殿騎士団の暗躍

いつもお読み頂きありがとうございます!

「情報の通りだ。見つけたぞ」


 声を上げたのはジークフリート・ヴォルスンガ。

 アングレス教会の神殿騎士団団長を務めし者。


 彼の左手には漆黒の石が乗せられている。

 そしてそれを覗き込むように見ているのは4名の神殿騎士たち。

 何処から見ても単なる黒い石にしか見えないため、全員が怪訝な表情を作っているが、ジークフリートに気にする様子などない。



「団長閣下、本当にこれが『災厄の種シードオブディザスター』なのでしょうか?」



 副団長のラファエルが疑問をぶつけるも、ジークフリートの表情に変化はない。

 ただ念のために、同行させた女性に底冷えするほどに冷たい口調で命令する。



「ああ、おい。マリリーズよ。一応、確認しろ」


「……はい」



 マリリーズはジークフリートの掌に置かれている石を見て、顔色を変え少しばかり項垂れると間違いないことを告げた。

 幸いにも地下迷宮内部は暗く、彼女の顔色が変わったことにも、黒い瞳が曇ったことにも誰も気づかない。


 神殿騎士に無理やり連行されてからと言うもの、彼女はずっとあちこちに連れ回され、まるで道具のように使われていた。同行させられる手前、見た目だけは良く手入れされており、長い金髪は美しく、白い肌には染み1つない。

 衣装も一般的な白い神官服を身に纏っている。



「ふむ。これが……団長閣下の魂に宿っているのですね?」


「そう言うことだ。まぁ魔神デヴィルの力を得るまでの間に合わせだがな。それに我々に共感する者に力を与えることもできる」



 ラファエルは何度見ても不思議だとばかりに、女性のような仕草で可愛らしく首を傾げている。

 ある日突然、災厄の種シードオブディザスターを取り込んだと聞かされたものの、ジークフリートに全く変化が見られないため、いまいち理解できないのだ。



「ですけど今の団長は魔人まじんなんですよね? 単純に強くなったと言うことでしょうか?」


 そう聞いたのはウィドシス3姉妹の三女、ヘイミル。

 甘ったれな性格で、ジークフリートのカリスマ性に魅了されて盲目的なまでに信望している内の1人だ。

 そこへ長女のハイメが、駄目な妹を叱り飛ばすように突っ込む。



「バカね、あんた。団長と模擬戦してないの? 私は手も足もでなかったわ」


「なによ、姉さんが弱いだけかも知れないじゃない! あたしはその漆黒力ってヤツも感じ取れないし、よく分かんないんだから!」



 すぐさま言い返すヘイミルとハイメの茶色の目が、お互いに向けられて視線が絡まり合い空中でぶつかり合う。厳しい長女と甘ったれな三女の日常的な光景に、次女のハーマがうんざりした表情をしながらも仲裁に入りつつ話題を変える。



「まぁまぁ……でもわざわざ、イグニス公爵領の地下迷宮まで足を運んだ甲斐がありましたね」


「そうだな。これもアングレス教会様様だ。あの権威だけは侮れん……」



 武力もあり、信頼もある神殿騎士団とは言え、あくまでアングレス教会の権威があってこその存在だ。

 腐っても教皇グリンジャⅦ世の力はまだまだ警戒すべきなのだ。



「自由行動が可能な内に何としても見つけたいところです」



 ラファエルも思うところがあるようで、急ぐ気持ちはジークフリートと同じである。違う命令を受ければ、行動制限がついて目的達成の日が遠のくのは必至。



「ああ、今度こそ『深淵なる真実(アビス・トゥルー)』を手に入れるぞ! 大長老衆筆頭、傲慢のスペルビアも探している。なんとしても先んじるのだ。勝つのは我々よ!」



 ジークフリートの叱咤激励が飛ぶ。

 一斉に他の4名が返事をする中、彼はその碧眼をマリリーズへと向けると眉を吊り上げ厳しい口調で罵倒する。



「おい、理解しているのか? 貴様のような異常者がセレンティア大陸に存在すると言うだけで怖気おじげが走る。何故、貴様ら異物が紛れ込んだのか……絶対なる漆黒神様は何をお考えなのだ……とは言え今は貴様らの力の根源を探る力を利用させてもらおうか」


「……はい」



 まるで汚物でも見るかのような冷徹な視線を向けられたマリリーズは全身を震わせて縮こまることしかできずにいる。


 彼女に課されているのは、力の根源を探り、『深淵なる真実(アビス・トゥルー)』、『神の想い出(ロギア・メメント)』、『災厄の種シードオブディザスター』、『宿星の種(シードオブフェイト)』を探すこと。


 そして自身の同胞を探すことだ。

 気を遣われるのは外出時に神聖さを演出させることくらいのもので、それ以外の時は拷問にも似た暴力と罵詈雑言を浴びせられている。



「それで、俺にはもう何も感じられんが、この場所にはもう何もないと考えて良いのだな?」


「……はい」


「チッ……異端者め。まともな返事もできんのか。行くぞ!」



 そう吐き捨てるように言ったジークフリートはウィドシス3姉妹と共に、地上へ向けて来た道を引き返し始めた。


 中々動こうとしないマリリーズ。


「ほら、マリリーズ……早く行かないとまた怒鳴られてしまうよ……頑張ろう。世界が理不尽でもとにかく歩み続けるしかないんだから……」


 そんな彼女にラファエルだけは優しい声を掛けていた。

 何処か物悲しい表情で、諦めたような声色をしている。

 それでも動こうとしない彼女の手を取ったラファエルは、強引に引っ張って歩き始めた。




 ◆ ◆ ◆




 地下迷宮から無事に脱出したジークフリートたちは、イグニス公爵邸を訪れた。


 アングレス教会として礼をしなければならない。

 あくまで教会の武力たる神殿騎士団なのだ。


 世界の各地に存在する地下迷宮であるが、どこでも好き勝手に入れる訳ではない。開放されている場所も存在するが、迷宮内で発見されるアイテムは貴重な物が多いため、制限している領主は多い。


 もしも領内で見つかろうものなら、かなりの経済効果とアイテムによる利益が期待できる。


 ちなみに何故、地下迷宮などと言うものが存在し、アイテムが眠っているのかは未だ解明されていない大きな謎である。


 イグニス公爵領に存在する地下迷宮に入れるのは、許可された探求者のみ。

 ジークフリートたちが入れたのはアングレス教会の権威のお陰と言う訳だ。


 邸宅に入った一行は、留守居役の女将軍、アニエス・ベーオムへ挨拶するべく壮麗な廊下を歩いていた。公爵邸だけあって、何処どこ彼処かしこも金が掛かっているのが見て取れる。


 驕り腐った連中。

 過去の遺物。

 世界を救いし偉人であるのは先人であって現在の使徒ではない。

 それがジークフリートの考えだ。

 使徒を見れば彼を苛立たせるのはこの思想のせい。



「それにしても地下迷宮でアレは見つかるものなのでしょうか?」


「いや、俺は必ずしもそうだとは考えていない」



 ハイメの単純な疑問に答えるジークフリート。

 もちろんアレとは『深淵なる真実(アビス・トゥルー)』のことだ。



「そうですよね、団長。まだ見つかった例ってないんですよねぇ?」


「……俺は異端者共の中に眠っている可能性を疑っている」



 ヘイミルの質問は核心を突いたもの。

 自身の見解をジークフリートは正直に伝えた。


 廊下の角を左に曲がった先が、ベーオム将軍の部屋だ。

 後は礼を言って帰還するのみ。

 そう思った矢先に、背後から一行に向けて声が掛けられる。



「おや? これはヴォルスンガ団長ではないか。迷宮の件は終わったのかな?」



 ビクリと肩を震わせてジークフリートが誰にも聞こえないような小声で独り言ちる。



「驚かせおって……使徒の威を借る若造が……」


「ん? どうかしたのか? ヴォルスンガ殿。その様子だともしや残念な結果にでも終わったと言うことか」



 笑みを作り振り返ったジークフリートの目の前には、燃えるような長い赤髪と瞳を持つ女性の姿。イグニスの火を象徴する赤を基調とした甲冑を身に纏い、好戦的な笑みを浮かべるは、28歳の若き女傑アニエス・ベーオム将軍である。



「そう……その通り残念な結果に終わってしまった。今から貴公の部屋へ伺おうとしていたところなのだ」


「ほう。わざわざご丁寧に痛み入る。イグニス領まで来て成果なしとは、アングレス教会としても残念だろうな」



 一応、入手した物は検められるが、一般人でアレを理解できる者などいない。アニエスの言葉にどこか棘のようなものを感じるのは、ジークフリートの気のせいだろうか?


 となれば、差しさわりのないことを言っておけば良い。



「このようなことなどよくある話。もう慣れているから問題はないですな」


「そうか。ならば良いのだが、先程チラリと異端者……とか何とか聞こえたような気がしてな? そんな物騒な名前が出るなど、ただごとではなかろう?」



 ヘイミルが分かりやすくビクリと体を震わせて反応する。

 ジークフリートはそれを感じて、内心で彼女を罵るが、動じる訳にもいかない。

 異端者を取り締まるのも神殿騎士の仕事なので問題はない。



「ふふふ……聞こえておりましたか。たまにいるのですよ。異端者と言う者は小賢しくも何処にでも潜んでいる」


「ふはははは! 心配あるまいよ。このイグニスでそのような不逞の輩など存在せん」



 豪快に笑い飛ばすアニエスだが、その目は笑っていない。

 ジークフリート以外の面々は頭を少し下げて何も口を挟むことはない。



「そうでしたな。使徒たるお方の領内にいるとは考えてもおりません。気に為されぬよう……それでは部屋を訪ねる必要もなくなった。将軍には世話になり感謝している。イグニス公にアングレス教会が礼を言っていたとお伝え下さい」


「承知した。しかしもっとゆっくりしていけば良いと思うのだがな。貴殿らもあちこちに赴いておるようではないか」


「いえ、お気持ちだけは頂いておきましょう。我々には次の任務がありますからな。それではおいとまさせて頂く」



 神殿騎士団の動きが把握されているのか、ただの労いなのか判断できないが、普段通りに振る舞うことが肝要。当たり障りのない挨拶を述べたジークフリートに、アニエスが定型通りの返礼をする。



「そうか。残念だが引き止めるのも悪い。貴殿らの安全を古代竜ガスティーガルズに祈っておこうか」


「それは光栄なこと。イグニスの古代竜の加護を得れば、最早無事は約束されたようなもの。では」



 そう言ってジークフリートは5名を引き連れてそそくさとその場を後にした。

 相変わらず不愉快な女だと思いながら。




 ――その場に残ったアニエスは。


 去りゆく神殿騎士団の背中を、いつまでもジッと見つめていた。

 そして――眉間に皺を寄せてぼそりと吐き捨てた。


「食えん狸が……。古代竜の威を借るアングレス教会と神殿騎士団はいつか必ず潰してくれん」

ありがとうございました!

次回、王家の影が情報を求めて動いている。そしてレクスは東部戦線へ。

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