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【注目度1位御礼!】『セレンティア・サ・ガ』~ゲーム世界のモブに転生したはずなのにどうしてもキャラと本編が逃がしてくれません~  作者: 波 七海
第三章 双龍戦争勃発

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第51話 領都ロンメル炎上

いつもお読み頂きありがとうございます!

「おい! 俺様がこのクソッタレを相手にしてる間に、一気に押し込んじまえ!!」


 ロストス王国の第1王子ゴスゲスの大音声が響き渡ると、それに応えるように周囲のゴブリンたちから大喊声だいかんせいが上がった。

 今まで散々とロンメル男爵に討ち取られ、士気は落ちて恐怖に身をすくませていたとは思えないほどだ。


 暗闇の中、焚かれている複数の篝火かがりびが、いくつもの影を作り出して大地で踊り狂っている。


 対峙する2人の猛者。

 この街の領主――ロンメル男爵。

 ロストスの王子――ゴスゲス。


 両者の周りからは人間もゴブリンも姿を消しており、少し離れた場所から剣撃の音が聞こえてくるのみ。それも全て戦いに巻き込まれるのを恐れるが故。


「さて()るとしようかねぇ! てめぇをぶち殺せば終わるんだろぉ!!」


 ロンメル男爵が槍を構える間もなく、直進してくるが――速い。


 自信が溢れる態度も頷けると言うものだ。


 だが――



「負けるものかよッ!」



 ヒュッと言う呼気と共に無数の突きがゴスゲスを襲う。

 槍の最大の長所であるリーチを活かして戦うのは基本中の基本。


 その自信と実力が本物なのか見せてもらおう――


 馬鹿正直に真正面から突進してくる辺り、根っからのバトル狂なのだろうが、ロンメル男爵には通用しない。

 放たれた刺突は、まるで幻影が見えるかのように鋭さ。

 狙いも正確無比で、ゴスゲスの戦斧を握る右手、左膝、頭部、心臓、左肩とあらゆる箇所を攻撃し続ける。


 その豪雨のように打ち付ける連撃にゴスゲスは防戦一方に回っている。

 何とかして戦斧バトルアクスで弾いていると言ったところだ。


 ロンメル男爵は計算している。

 刺突にも威力に強弱を、そして緩急を付けており、それが相手の翻弄へと繋がっていた。


「(頃合いだ……喰らえ!)」


 今まで以上に強く左足を踏み出すと思いきり重心を乗せて、出力を上げた刺突を放つ。

 叩きつけた左足からの衝撃で地面にヒビが入るほど。

 その攻撃は重い心臓への一突きとなって肉薄するが、何とか戦斧の両刃に当ててギリギリ喰い止めるゴスゲス。


 だが槍の勢いを殺し切れずに上体が浮き上がる。



 好機――



 更に一歩踏み込んだロンメル男爵はくるりと一回転して、槍を横薙ぎに一閃させる。


 縦から横への急激な変化にゴスケスはついていけない。


「ぐげぇッ!」


 汚い叫び声を口から吐き出して、その巨体が空を飛ぶ。

 思いきり防壁の内側に叩きつけられ、積み重ねられた強化煉瓦が脆くも崩れ落ちた。

 

 体重とかなりの重さを持つ槍の遠心力が乗った薙ぎ払いだ。

 自分の体重も相まって叩きつけられただけで、かなりのダメージがあるはず。

 ゴスケスの頭に強化煉瓦が落ちてきてガクリと首を垂れる。

 何と滑稽な光景であろうか。

 思わず笑いが込み上げるロンメル男爵だったが、確実に仕留めるべきところ。

 距離は開いてしまったものの、そこに問題などない。



「【刺突・極(しとつのきわみ)】!!」



 槍術家の能力ファクタスの発動。

 出し惜しみなどして負ける訳にはいかないのだ。

 遠距離からも届く超高速の刺突――右手に籠る力が一条の光の槍となり、槍そのものが伸びていくようにゴスケスの心臓へと吸い込まれていく。



「(ったッ!!)」



 勝利を確信して口元が吊り上がるロンメル男爵。


 その時、ふら付いていたゴスケスの巨躯がゆらりと揺れてバランスを崩した。


 ゴスケスの胸を貫いて死に至らしめると思われた刺突は、戦斧に弾かれて軌道を変え、その左肩を大きく破壊した。


 勝敗の天秤が大きく揺れる。

 ロンメル男爵の口からは無意識の内に舌打ちが吐いて出る。


 運が向こうに傾いた。

 そう思わされるほどに胸が騒ぎ出す。

 ロンメル男爵の傭兵時代の直感がこれはマズいと警鐘を鳴らし始める。


 不穏な状況になる前に倒す。

 すぐに能力を行使しようとするロンメル男爵であったが、激痛が気付けになったのか、ゴスケスが頭を振りながら歩き出した。



「てめぇぇぇぇ! よくも俺様の大事な妖斧ようふを破壊しやがったなッ!!」



 怒りのあまり激昂して猛り叫ぶゴスケスの表情は、狂喜の歪みから狂気のそれへと変わっていく。お陰で痛みを忘れているのか、壊れた得物を投げ捨てると、しっかりとした足取りで近づいて来る。


 両の拳は強く握りしめられており、そこからは強い怒りが見て取れた。



「(素手で戦う気か……? 1度傾いた天秤を再びこちらへ戻すのは難しい……すぐに殺すべき!)」


 

 ぐだぐだと考えている暇などない。

 強者であると言え、相手はゴブリン。


 ゴスケスが一歩、また一歩と近づいて来るが、ロンメル男爵が見るのは足運びとタイミング――ここ!



「【五月雨突さみだれづき】!」



 文字通り五月雨のように断続的に続く突きが、ゴスケスの体へ降り注ぐ。


 しかし――違和感。



「ガッ……!?」



 手応えのなさが脳裏に過った直感に従って動こうとするも、遅かった。

 遅すぎた。


 ロンメル男爵は気が付けば近くの家に叩きつけられていた。

 あまりの衝撃で壁に亀裂が入るほど。


 息がつまって呼吸ができずに困惑するロンメル男爵だが、攻撃を受けたことを確信してすぐさま態勢を立て直すべく槍を構えようとする。


 ズキリ――


 脇腹に鈍い痛みが走った。

 ロンメル男爵はすぐに肋骨が逝ったことを理解する。

 痛みは集中力を奪い、それは能力の発動にも差しつかえるようになることを意味する。


 ジワリと焦燥が募り、背中を汗が伝うが、こんなところで負ける訳にはいかない。

 護るべき領民と部下たちがいる限り戦わねばならないのだ。

 そんな想いで顔を上げて前を向くロンメル男爵であったが、目の前には既にゴスケスが迫っていた。


「くそッ……」


 脇腹の痛みに耐えながら回避しようとするが、襲い来る拳の連撃から身を躱すことはできない。


 1発1発が重い。

 壁を背にしてロンメル男爵は一方的に殴られ続ける。



「ハァッハァ!! ようやく捉えたぜぇ!! 槍なんか懐に入っちまえばこっちのモンよ!!」



 縮こまるようにして防御態勢を取るロンメル男爵だが、ダメージが確実に体力を奪っていく。その巨躯から繰り出される膂力は凄まじく、筋肉質で体が大きい方のロンメル男爵でも防ぎ切れるものではなかった。カウンターを喰らわせたいところだが、大味な性格なように見えて中々にコンパクトな攻撃をしてくるため隙がない。



「(ゴブリンがッ……こんなにも強いだと……? どうなっている……)」



 薄れゆく意識の中でその胸に色々な想いが湧きあがってきた。

 紛争を収めるために共に戦ってきた部下たち。

 国境の護り手として務める自分に温かい態度で接してくれる領民たち。

 昨年からの凶作にもかかわらず、重くなった税に文句も言わずに納めてくれた。

 何としても守らねばない。

 そして西へ行かせないためにも。


 片手でロンメル男爵の首を掴んで持ち上げるゴスケス。


 ロンメル男爵の腫れ上がった目から薄らと見えたのは、やはり狂喜の表情――おぞましいほどの。



「残念だったなぁ! ゴブリンだと思って侮ったか? 今どんな気持ちだ? ぐげげげげ!」



 首を絞められていては何も言い返すこともできない。

 憎まれ口の1つでも叩いてやりたいところなのだが。


「(だ……落ち……)」


 意識が途切れ掛けたその時、大きな声と共に喊声が上がる。



「おりゃああああああ!! 全員かかれ! 閣下を救い出せぇ!!」



 聞き覚えのある声――


 ゴスケスに襲い掛かったのは、老年の名誉騎士団長レイモンと騎士の生き残り――旧知の間柄だ。

 レイモンは今よりもずっと若い頃からの付き合いで、師とも言える存在である。


 捨て身の攻勢に流石のゴスケスも怯んだようで、ロンメル男爵を盾にしようとするが、騎士たちに剣で斬り裂かれた痛みでそれも叶わない。

 自由になった彼を確保したレイモンは、矢継ぎ早に指示を飛ばす。



「そのゴブリンを何としても喰い止めろ! 西門から突破して脱出するぞい!!」


「……レイモンか……いかん、領民を逃がせ……」


 指示を聞いたロンメル男爵としては、当然のように難色を示した。

 息も絶え絶えになりながらも苦しげに告げた。


「……!! 閣下、ご安心あれ。既に逃がしております。各門は破られており各所で騎士団が踏ん張っておりますぞい」


「そうか……貴様が言うのなら……」


 信頼できる――

 そう言おうとして言葉に詰まるロンメル男爵。

 薄目で見えた領都は赤色に染まっており、黒煙が立ち昇っていた。


「お前ら! 騎士団の意地を見せよ! 何としても押さえ込め!」


 レイモンが再び激励の声を飛ばすと、騎士たちから次々と威勢の良い返事が返ってきた。


「お任せあれ! ゴブリンなんざ敵じゃないです!」


「とにかく閣下をお願いします!」


「ここは任せて撤退を! お早く!」


 それを聞いて満足げに頷いたレイモンと騎士たちがロンメル男爵と槍を抱えて西門へ向かった。


「な、おい……あのゴブリンを抑えられるのは俺だけだ……戻れ……」


「そのようなご命令は聞けませんな。その状態では戦えませんぞい!」


 そんなことを言われても戦った自分だからこそ、分かることがあるのだ。

 あれはただのゴブリンではない。

 ロンメル男爵はそう考えて、もがき始める。



「俺だけが退けるかッ! 守らねばならんのだッ! 何としてもなッ! うぐ……」



 怒鳴り散らしたせいで、傷んだ体中が悲鳴を上げる。



「冷静になれ。王国は空。今は1人でも強者が、戦力が必要なのだ」



 レイモンの口調がガラリと変わり、強くロンメル男爵を諌めた。 

 それでも抵抗しようとする彼を抑え込み、レイモンたちは多数の犠牲を出しながらも西門を突破。


 ロンメル男爵は無理やり引きずられるようにして、西方へと逃れたのである。


 領都ロンメル、ここに陥落。


 炎上する街からは火の粉が舞って煙が立ち昇り、闇夜の空を赤く染めた。

ありがとうございました!

次回、ファドラ公爵家が動き出す。

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― 新着の感想 ―
欲深い連中が権力闘争や簒奪の計画等で国を乱している最中に外からの干渉や侵略で国が滅ぶとかありえる話だよな。 真面目に国を護っている真っ当な貴族や騎士・兵士達からしたら迷惑極まりないわ。
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